スタッキング可能

著者 :
  • 河出書房新社
3.17
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本棚登録 : 1411
感想 : 199
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309021508

作品紹介・あらすじ

日本社会を皮肉に照射する表題作「スタッキング可能」をはじめ、雑誌掲載時より話題の「もうすぐ結婚する女」など、たくらみに満ちた松田青子初の単行本が、多くの推薦者により贈り出される!

感想・レビュー・書評

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  • 今年の初めに「なんかすごいらしい」と耳にしていながらも、読むのがのびのびになっていた本。

    表題作の『スタッキング可能』、最初から飛ばしている。匿名希望のお仕事女子・男子の姿は、ざっくりと類型化されて小説のネタ化され、リズミカルに展開されている。安易な類型化だという向きもあるだろうけれど、正直な話、仕事場というのは(一応ではあっても)そこで必要な一定の能力を備えた人間が採用されるわけだし、能力だけでなくて採用側の「好みのタイプ」も反映されたりするので、外見や思考が似たような人物になる。そこをうまく突いた構成だと思う。しかもこの類型化は職場全体でなくて、個人Aが個人Bを見るときにも「キャラ」「担当」という形で起こる。そういう立ち位置を押し付けられるストレスが内にたまっていくさまを描く細やかさや乾いた毒は、津村記久子さんの作品に通じるものがあると思った。しかも、お仕事女子の読むコージーミステリって、そういう位置づけだったのか!

    『ウォータープルーフ嘘ばっかり!』も、噂にたがわずリズミカルでアグレッシブでイタくて可笑しい作品なのだけれど、個人的には、『マーガレットは植える』の、淡々と植えていく動作の不思議さがまがまがしさにじわじわぞわぞわ変わっていく様子と、その下に隠れた繊細さ(これはもちろん『スタッキング可能』にもある)が胸にきた。こういう、機械的、あるいは記号的に人物や動作を処理していきながら、要所要所でその下の生身がこぼれて見えたり、「ひょっとしてそういうことか…」と脳内で行間をとらえられた(と思った)ときのやるせなさというのは、『もうすぐ結婚する女』でも強烈に感じた。これらの作品はどれもミランダ・ジュライの小説になぞらえて評されることが多いらしいけど、私はどちらかというとリディア・デイヴィスに似ていると感じる。

    何もかもきちんと説明して収束してくれるミステリのように、親切な小説ではないけれど、芯のところはストロングな現代の女子小説だと思う。ちふれの今後ますますのご発展を、心からお祈り申し上げます~。

  • Twitter文学賞国内1位。作家は35歳の女性、美人である。一言でいうと「アラサー女性の生態をリアルに捉えた」となろう。OLが昼休みに男の品定めや合コン話をし、女同士の嫉妬があり、女をお飾りにしか思っていない同僚やわけのわからない上司がいる。ファッションブランドやSNSに関する固有名詞をふんだんに散りばめて「リアル感」を強調する。しかし今のアラサー女性でマイミクはないんじゃない?そういうのが詰めが甘い。
    皮肉が効いていて面白くはあるが、「レベルが低いOLの生態を、ジェンダーの観点から切り取ってみました」という「知的な作家」の上から目線が透けて見えて、やけに作為的に感じた。そして、そのトーンで1冊やり続けられると、鼻につく。2013年出版なのにもう新しさを感じないし、作品の寿命が短かそうだ。

  • 松田青子さん、はじめて。
    読みやすくて軽快で。楽しく読めた。

    最初の話はアルファベットがたくさん出てきて、登場人物を追うのが大変だった。内容があんまり入ってきてるような来ないような…。
    うんっと、フェミニズムの話だった…?
    もう一度読み直したい。

  • まず『スタッキング可能』というタイトルが素晴らしい。会社員達をABCD…と名付け入れ替えたり合わせたりして読めるし、会社にカテゴライズされスタッキングされているようにも、様々に個性があり悩みながらも自制してスタッキングされている姿にも読める気がした。
    『ウォータープルーフ嘘ばっかり』シリーズはとにかく面白かった。文体も内容も大好き!
    『マーガレットは植える』実はマーガレットハウエルだったんですね…。本当にシャレが効いている。内容も仕事や日々の出来事に当てはめて読めてとても共感できた。
    『もうすぐ結婚する女』このお話も人物の名前を独特なやり方で表現していて効果的だった。仕事、結婚、気になる細々した出来事をセンスよくユーモアたっぷり仕上げてくれて一冊まるごと面白かった。

  • 「わたし」とはだれかという問題に今更ながら真摯に取り組んでいるの?どうなの?
    でもとにかく面白いのだ。
    全部が全部OL的視点。
    OL的視点ってちょっとしたエロさみたいのがあるからなんか読んでてドキドキする。
    できれば「マーガレットは植える」みたいな作品をもうちょっと読みたいけど。

  • 期待の新人!と複数のメディアで絶賛されていたし、著者美人さんだしで期待して読みました。
    言葉遊びがふんだんに取り入れられ、芥川賞作品ぽい雰囲気を醸し出しつつ、働く女子の共感をさそう作品でした・・・

    ・・・が、わたしてきにはちっとも面白くなかった。
    斬新でシャレと皮肉が効いた小劇場のマニアックな芝居にハマれる才覚が私にはないのです。
    そんな私からみると、この作品はストーリーがないし、言葉遊びは読みにくくて自己満足なだけに感じました。
    そして、女子の共感をさそうはずのエピソードが、あるある!と思えない。
    男性からちゃん付けで呼ばれてそんなに不快に思うの?とか、料理を取り分けることにそんなに抵抗ある?とかね。
    いちいち人の発言や行動に突っかかりすぎる様子が逆に不憫に感じるほどでした。

    うっとおしい作品。
    もう読むことはないですね。

  • 久しぶりにどストライクな面白さのつまった本に出会ってしまった。
    本屋で目につき、なんとなく手にとったが大当たり。
    皮肉を描くのがうますぎる。そしてこのリズム。ぐんぐん読んでしまう。ん? と疑問が生まれ数頁戻り、理解しまたリズム良く頁をめくる。
    久しぶりに読書というものを楽しんだ。面白い。皮肉り方とか最高。じわじわくる面白さがたまらない。
    Amazonレビューでこの本を面白くない、つまらない、意味分からないというレビューが多々あったけど、まどろっこしさはあるが、面白くないところがないくらい個人的にはどツボにはまった。
    わたしはこの本を面白いと思うひとと仲良くなれるし、そうでないひととはなにも分かち合えないんだろうな、とまで思った。
    このユーモアセンスにすっかり魅了されてしまった。読み切るのが惜しくて時間かけて読んだほど。
    スタッキング可能もウォータープルーフ嘘ばっかりもマーガレットは植えるももうすぐ結婚する女も全部面白かった。この著者の作品、もっと読みたいです。
    本谷有希子さん、西加奈子さんの毒が好きなひとは楽しめるかも。それよりもずっと読みづらい感じではあるが。

  • 我慢して最後まで読んでみたが、結局、?

  • 本筋とはズレてしまうけれど、表題作の『スタッキング可能』が初出2012年であることに驚いた。2018年くらいなら驚かなかったと思う。
    第四波フェミニズム(SNSを中心に広がったフェミニズム)的な批評性やシニシズムが、10年近く前にすでにこんなにまとまった形で表現されていたとは。これってかなり特殊なことではないか。初めて読んだのだけど、松田青子さんは一体どういう来し方の人なのだろう。

    以下は、ほんとそうだよ!と叫びそうになった部分。

    おかしいよね、私たち。毎月一週間も自分の下半身から血が流れているのをなんでもないみたいな顔して、いつもと変わりませんみたいな澄ました顔してオフィスで働いている。一回よく考えてみようよ。みてよ。ほら、おおごとだよ。一大事だよ。だってずっと血が出続けてるんだよ? コピーとったり、電話に出たり、大事な会議に出ながら、同時に血が流れてる。血を流している女がオフィスには点在している。血を流している女は週ごとに変わる。多分オフィスで誰からも血が流れていない日なんて一日だってないだろう。シュールすぎる。オフィス単位で考えた時、会社単位で思い浮かべた時、私、すごくシュールな気持ちになる。なんで私このシュールに巻き込まれてるんだろう。なんで私このシュールの一部なんだろう。意味がわからない。家でだらだらしてるのが、血をだらだら流しているときの正しい態度なんじゃないの。そのほうが確実にシュール度は減るんじゃないの。ねえ、私たち、隠せてるのかな、本当に、ちゃんと隠せてるのかなあ、いろんなこと。なんで隠さないといけないんだろうね。こんな皆こそこそトイレにポーチ隠してさ。なんだろうね、この感じ。連帯感もなく、一体感もなく、ただオフィスで個々に血を流している。


    「50年前の女たちは、血を流しながら働いていたんだって」「うそでしょ、人権無さすぎ」みたいに回顧される未来はくるだろうか。

  • 「小説版 韓国・フェミニズム・日本」所収の「桑原さんの赤色」が良かったので読んでみた。
    なんとも言えない不思議な感じの(でも現実にありそうないやーな感じの)表題作「スタッキング可能」、コント風味でテンポ良くクスッと笑える「ウォータープルーフ嘘ばっかり!/嘘ばっかりじゃない!」が良かった。

    『何があっても目の前に出てきたシーザーサラダを取り分けないと決めた。/そうしない女がいることを体現してやると心に決めた。』(スタッキング可能)
    『女性が団体を結成したら、それはもうあまねくすべて「ちふれ」です!』『ヒートテック着ています!』『マスカラのボトルにも透明性を!』(ウォータープルーフ嘘ばっかり!/嘘ばっかりじゃない!)

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著者プロフィール

作家、翻訳家。著書に、小説『スタッキング可能』『英子の森』(河出書房新社)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)など。2019年、『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)収録の短篇「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞候補に。訳書に、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ『AM/PM』(いずれも河出書房新社)など。

「2020年 『彼女の体とその他の断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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