動物記

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309023731

感想・レビュー・書評

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  • 『スケさんやカクさんや風車の弥七さんや疾風のお絹さんが、身を粉にして働いて、お膳立てをすべて作ってから、最後に出てきて、ワンフレーズいうだけですよ〜
    せめて、印籠ぐらい、自分で持てよ〜』

    『「もう二度と、あんなことはしない」と夫は約束した。チーターさんは「あんなこと」とは「キャバクラで遊ぶこと」だと当然思った。それに対して夫の考える「あんなこと」とは、「キャバクラ遊びを妻に見つかること」だった。』

    『世界を保存するために、もっとも必要なものは…言葉なのです。』

    『この次、電話をかけてくるなら、アンジョリーナ・ジョリーみたいな声の女がいい、と俺は思った。待てよ。アンジョリーナ・ジョリーって、どんな声だ?』

    「あんたたちが攻めてるわけ?」
    「正確にいうと、銀河連邦が、天体1262121を攻めるのよ」
    「理由は?」
    「決まってるでしょ。環境汚染、汚職、不倫、甘いものの食べすぎ、美容整形、派遣社員への差別、ニート、鯨の絶滅、こんなものを放っておいて、宇宙全体に広がったら、宇宙そのものの破滅よ」

    『「寒いね」と話しかければ「南極より寒いね冷房効きすぎ」と答える友のいるあたたかさ』

    『みなさん、どうか耳をかたむけてください。わたしのことばにではなく、みなさんの、内側にあって、燃え盛るものの発することばに。』

    「君も美しい、僕も美しい僕も美しい、君も美しい美しいものだらけの世界」

    『だいたい、それを決めるのは、わたしではない。わたしは死んでゆく身にすぎず、わたしの死に方を決めるのは、おそらく、残った人間の仕事なのだから。』

    『最後の場所は、それほど暑くも寒くもない、木陰が望ましい。家族は不要だ。周りに、人間は要らない。もう十分に人間には会った。そして、誰ひとり理解できなかったような気がするのである。』

  • 『動物の謝肉祭』
     森閑した森が舞台。森やから森閑は当たり前や。
     スポットライトが照射され、まず現れたのは水戸黄門御一行、に扮した動物たち。続いて、うっかり八兵衛のいたちさん、狂走族の動物たち(森に住んでる)、動物園の動物たち、キリンとサルのカップルが登場。それぞれTVショーや健康診断、幼稚園に入れようか問題、痴話喧嘩を繰り広げる。終わり方雑でびっくり面白かった。

    『家庭の事情』
     不妊に悩むパンダさん。夫のキャバクラ狂いに悩むチーターさん。子育てに非協力的な夫をもつカンガルーさん。日本のそこら中に落ちている問題に、動物たちが真剣に悩んでいる。

    『そして、いつの日にか』
     人間が滅亡した後、言葉を持ち、人間の文明を継承したのは犬だった。クタバッテシメイというペンネームで浮雲を発表した柴犬のタツノスケくんは、最期を迎えようとしていた(怒られんで)。「言葉の中に、すべては、保存されます。だから、わたしは、言葉を作ろうと思ったのです。だが、そもそも、言葉のない世界に住んでいたわたしたちにとって、言葉を身につけることは……苦痛でした。」

    『宇宙戦争』
     着信音「運命」が鳴る。何度も。出ると、「宇宙戦争がはじまったよ」と言う。そして、知らぬ間に巻き込まれつつある。秘密戦隊の隊員だという者がいて、しょくぱんまんやQ-13号に姿を変える。カオスだー。

    『変身』
     ある朝、不安な夢から目を覚ますと、オオアリクイは、自分が檻の中で、不格好な人間に変わっているのに気がついた。
     ある朝、不安な夢から目を覚ますと、ビクーニャは(以下同)
     ある朝、不安な夢から目を覚ますと、ヒトコブラクダは(以下同)
     元オオアリクイと、元ビクーニャと、元ヒトコブラクダの人間が一同に会す。それぞれの種族の優れた点を主張する。

    『文章教室1』
     「刑務所」(動物園)の動物たちにタンカ(短歌)を教える。
    −「えっシロクマなのに黄色っぽいじゃん、変なの」っていわれて猛烈にヘコむ
    −「寒いね」と話しかければ「南極より寒いね冷房効きすぎ」と答える友のいるあたたかさ
    −つよく生きろというの檻の中でもつよく 生きていないようなおとなたちが
     動物園の動物の中にも、今昔や時代性がある。

    『文章教室2』
     次は短歌ではなくまとまった「文章」の批評です。
     アフリカゾウの鼻についてのエッセイ、寿命が1時間のユスリカの遺書、5億年も生きるベニクラゲの文章。それぞれの死生観がおもしろい。

    『文章教室3』
     文章教室の先生がある「陰謀」に巻き込まれちゃった。「巧妙に書かれた暗号」を読み解きます。こどもたちは知っている。あらゆる生きものがことばを持っていることを。

    『動物記』
     最後の一作は私小説のような、エッセイのようなもの。動物との思い出、生と死の境目の話。動物との関わりは浅くない人生を歩まれているようだけど、なにかを育てるには向いていないと自分を評している。

     私は猫と暮らしている。毎日遊んで一緒に寝ているけれど、彼らの考えていることはとんとわからない。「お腹すいた」ぐらいかな、明確にわかるの。人間と動物の違いはと聞かれれば、やっぱり言葉を持っているか否かと答えるだろう。猫には否定、苦悩、死などの抽象概念がない。
     じゃあ言葉を持てば人間と猫も変わりない生物になるのか、と言われればそれもわからないけれど。本著では、出てくる動物の殆どが言葉を持ち、巧みに操る。そして、人間のような悩みを持つ。
     ファンタジーといえばそうだし、ツッコミどころも満載だったけど、一笑できないなにかがあった。

  • テーマはそのものズバリ動物。しかし通読してわかるように、著者は動物にそれほど関心がない。しかし人間の子供や老人はより動物に近いと、著者自身いつか感づいたのだろう、人間としての弱者について語るために、動物について考えている。その思考の跡が見えてスリリングだった。

  • 寿命があって、その中でことばを持って生活し表現しているのは人間だけだと考えず、動物・虫にも、それぞれの寿命と生活様式からなる表現があるはず。それを人間のことばに置き換えてみた、というファンタジーの要素もあり、そんな設定はわたしには考えつかない!というワンダーの要素もありとても面白く読みました。文章教室3では、ことばを話しだすころから中3までは、生きものにはみんなことばがある、いいたいことがある、という想定で文章を書くことができる能力があるようです。残念ながら年齢を重ねると磨かれるどころか消え失せる能力のようですが。でも、源一郎さんにはそういった表現者たちを発見する能力がありました。

  • 廊下の片隅にいるウサギ。

著者プロフィール

作家・元明治学院大学教授

「2020年 『弱さの研究ー弱さで読み解くコロナの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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