夢も見ずに眠った。

著者 :
  • 河出書房新社
3.55
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本棚登録 : 528
感想 : 79
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309027715

感想・レビュー・書評

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  • 高之と沙和子の12年間が静かに描かれている。二人の関係は形を変えていくけど、空気感は同じ。男女で、こういう関わり方で続いていくのもいいかもと思った。
    旅先の描写で日本各地が登場するけど、訪れた場所もたくさん。
    なかなかマニアックな名物料理もあったりして、密かに嬉しくなった。

  • 銀行勤めの沙和子と安定した職を持たない鬱を抱える高之との出会いから別れ、再会の物語。旅行、転勤、転居に伴う様々な土地の風土、歴史、人々との出会いが優しく綴られる。特に江差へのドライブの場面では友人の弟航太の心根の優しさに心を温められる。物語を通して、指を温める程の小さな炎を灯し続ける二人の静かな愛情関係に、もどかしさを感じながらも、あるがままの成り行きに納得した。

  • 小さな違和感、とか、かすかな嫌悪感、とか、分かり合えなさ、とかそういうことをのみこめるかどうか、なんだろな、夫婦って。
    で、夫婦を卒業したあとの、関係。元友達、元夫婦、あるいは現友達、そんな微妙な距離だからこそ作れる関係もあるわけで。
    絲山さんの小説は土地とヒトの関係、というか、その土地の「空気」とか「温度」とか「湿度」とか「風」とか、もっと言えば「雰囲気」みたいなものが大きく関わってくる。
    そこから離れない者、流れていく者、流れてくる者、の違和感みたいなものがじわじわと染み出してくる感じ。
    今回、夫婦という一番小さな対人関係の単位について、色々と考えさせられたなぁ。なんていうのかな、感情の深度って、コントロールするのが難しいよね。
    『海の仙人』や『ばかもの』や『薄情』やそのほかたくさんの小説に出てくる主人公たちの、べたつかない、もたれあわない、けれどお互いに必要としあう関係、というのは一般的な「夫婦」という形では成り立ちにくいものなのかもしれない。
    土地に縛られない、気分屋というか気楽な人、のように見える高さんが鬱になり、生真面目で融通のきかない沙和子の方がバリキャリとして外へと自由に飛び出していく、一見逆なんじゃないか、と思える人生こそが、二人の行き辛さのポイントだったり。
    それにしても、最後、いいなぁ。なんとなく絲山さんにはめずらしくからりとした初夏の空のような光景。ちょっと泣いちゃったけど、いいなぁ。

  • 妻・佐和子の北海道への転勤が決まったとき、夫・高之は、仕事がやっと見つかったばかりでした。
    結局、佐和子は単身赴任し、高之は佐和子の両親と敷地内同居を続けます。
    しかし、次第になにかがズレていく高之と佐和子。
    さらに高之がうつ病を患ってしまい・・・。

    旅先の細かな描写が多いのですが、地理にものすごく弱いわたしには、文章から情景がイメージしきれず、読み進めるのに時間がかかりました。
    小説なのに、要所要所に情景の挿し絵か写真がほしいな、とまで思ってしまいました。
    日本列島の地理に明るくない方は、地図を片手に読まれることをオススメします。
    そうした理由で、本当に読むのに時間がかかり、もやっとした後味が残ってしまったため、☆2つにしました。
    ただ、旅行好きであちこち行かれている方は、むしろなじみの記述が出てきて楽しめるのかもしれません。

    高之のうつ病のはなしは、それほどたくさんは書かれていません。
    高之のうつは、佐和子の異動と同じように、2人の人生の向かう方向が少しずつズレていく、ターニングポイントにすぎません。

    いったんは人生が交わり、夫婦となっても、人生は様々なきっかけで角度をかえて曲がっていくものなんだなと思いました。

    夫婦といえど夫と妻という2人の人間であることには変わりがなく、たとえ一緒に寄り添っていても、自分の人生はじぶんの足で歩むしかないのです。

    だからこそ、夫婦一緒に寄りそっめ歩める時間は、宝箱を探し当てるよりも奇跡的な時間であり、宝物のような時間なのだなと、しみじみ思いました。

  • 感想としては、可もなく不可もなく。とくに盛り上がりもなく

    面白くて読むのが止まらないほどではないが、つまらなくもない。
    旅が好きなので、旅気分で読めるところはとても良かった。銀行勤めの沙和子と定職を持たない高之。どちらが幸せで、とかそういう価値観が無意味であり、本人が生きていると思える充実感が真の幸せなのではないかと、思わせられた、

  • キャリアウーマンの佐和子、非正規雇用の自由人の高之。
    お互いを尊重して、時にぶつかりながらもそこには明らかな親愛の情が存在していました。
    佐和子の北海道転勤、高之の鬱発症によって次第にすれ違っていく気持ち。
    離れて暮らしている事でお互いの事がだんだん分からなくなってくる。不在に慣れる事で一緒に居る必要性が薄れてくる。一緒に居ない寂しさを押し込める事で心が壊れる。自分のふがいなさで心に空洞が出来る。離れている事で相手の変化に違和感を覚える。
    少し考えただけでも色々な心の動きがありますが、どれもこれも分かるし思い当たる事柄も有る。
    佐和子と高之もお互いを大事に思っている気持ちは本当なのに、男女、夫婦という点においては確固とした生活感が無くおままごとの延長のような雰囲気があります。
    これは離れて生活をしている事もあり、そもそも結婚生活というものよりも個々の生活や自己実現や居心地の良さを優先した事による、実生活との乖離が感じられます。
    心の揺れを細かに書く事で、二人が望んでいる関係性というものが少しずつ見えてきます。
    大きく心を揺さぶられるというよりも、さざなみのように波立った波紋が最後に大きく揺れて、結果的に心に何かを残した小説でした。
    不惑を超えた男女が読むと特に何かを思い出すような小説かもしれません。

  • 絲山秋子さんの小説はいつもそうだけど、ずっと読んでいたいと思う。静かに人生を受け入れることの高貴さに憧れながら。美しい文章に心奪われながら。一行も読み逃したくないと思う。ふとしたところで泣きそうになるけど、いつも泣く準備ができていないところでその感情が襲ってくるので、驚いてしまう。うれしい、驚き。知らない地名はとても興味深く、知ってる地名は親しみがわく。不思議な縁も感じてしまう。人と人が離れるとき。または歩み寄るとき。そうだよな、と思う。その瞬間を見失いたくないよな、と思う。今回もまた、私にとって絶対外れのない、絲山作品。

  • 大好き絲山ワールド。
    ホロリとするところ数カ所。

    いっさいのものは終わる。続かない。でも生きている。

    1日1日が一度きりの完結するエピソードなのだった。

  • 大学の同級生で当時からの付き合いだけど、30半ばになって結婚した一組の男女。妻は就職難でも銀行に入って懸命に働き、夫は不器用な人でもないのに学校の事務員の仕事を何となく辞めてフリーター生活。そんな人生のスピードが合わない二人が結婚し、でもやっぱり合わなくて、でも別れても仲がよくて…という20数年を描く。

    絲山秋子は作家になる前大手メーカーの営業として全国を転勤し、その赴任地のなかで特に気に入った群馬に定住し、当時も今も大の車好き、というのは読者ならよく知るところ。
    本作は、著者のそうした日本各地の街々への関心や特色を摑む力、地理や道への理解を活かし、主人公たちの人生とともに、二人が住んだり旅行したりする土地が詳細に描かれる。
    正直言ってその土地の描写が多過ぎ、もっと必要な部分が描き込まれていないと感じる部分もある。お互いが実の親には葛藤を抱えていながら、相手の親とは不思議なくらい仲がよかったり慕ったりしているところとか、もう少し掘り下げるというか放置しないで書き継いでもよかったのにな、と思ってしまう。

    しかしこれは結婚している間も単身赴任で別居生活が長く、それゆえ旅行をすることで人生を共有している、という関係性を描いた作品なので、旅先について詳しく書くのは当然といえば当然なのかもしれない。全体的にやや甘めな展開ではあるものの、夫のうつ病の描き方などとてもリアルなところは健在。これまで著者と同じバブル世代を主人公とすることが多かったように思うが、今回は10歳ほど下の不景気世代を主人公にし、それでも時代感覚がズレることなく的確。
    やはり絲山作品はいい、と思うので星少しおまけ。

  • 高さん、わかる‼︎やっぱり、好き‼︎
    絲山作品の男子。

    コノ夫婦関係の描写。
    アタシ的に絶妙‼︎で、わかる‼︎

    2020年の現在、新型コロナの今、読了。
    2022を描いて頂けて…。

    『抵抗』について。
    〜自分のことが嫌いになるきっかけを、予想外のハプニングによって与えられることに「抵抗」が生まれるのだ。〜

    地方の書き方が上手くって、東京の表現が面白い。
    晴れの国の岡山、大きな窓の琵琶湖、街のトーンが揃っている江差、夕暮れの函館山、そして、エの右下を削ったような松江とトロッコおろち。
    熊谷と、中延。
    また、旅行した気分にもなり。
    出掛けたくもなりまする。

    より戻せばいーのにぃ‼︎
    第三者は、言えるよね。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

絲山秋子の作品

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