腹を空かせた勇者ども

著者 :
  • 河出書房新社
3.92
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本棚登録 : 990
感想 : 99
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031064

感想・レビュー・書評

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  • らしくない笑
    なんと清々しい青春小説なんだろう!
    まさか、金原さんの小説を読んでこんな気分になるとは。
    読後感が、「心が洗われた」って感じなんです。

    タイトルが雄々しくて猛々しくて、また身体(や心)に傷をたくさん負った方々の戦いの記なのだろう、その荒波の中で「生」を感じるんだろう、と勝手に想像しつつAmazonでポチッとした新作。

    その期待は、見事に裏切られました(いい意味で)。
    とにかく主人公レナレナが圧倒的にポジティブで陽キャ。
    真っ当な勇者の成長物語なんです。

    もちろん、理屈だか、屁理屈だかわからないような、しかしスジの通った、時には小難しい論理展開なんかは、健在。
    特に主人公と母親のめんどくさい会話は微笑ましく、その部分を読めば紛れもなく金原さんの作品であることを感じる。

    娘さんがレナレナのモデルで、レナレナの母親が金原さん本人をモデルにしているのかな。

    この作品、すごく好きだな。
    初めて金原さんの作品を自分の娘(レナレナと同じくらいの齢)に読ませたいと思ったかも。

    でも、身体的にはあまり痛くないから1点減点。

    ♪Complicated/Avril Lavigne (2002)

  • 本の雑誌2023年間ベスト10第2位。
    著者の作品は「アンソーシャルディスタンス」に次いで2作目。
    金原ひとみさんの描く文章は『生もの』であり『今』が詰め込まれていて、今作は都会の私立中学生の「今」が描かれています。
    私は一昔前に「新人類」と言われた世代なのですが、本作で活字で表現されている『今』という生ものに対してはアレルギーがある様で、言葉や思考が翻訳小説を読んでいるかの如く感情移入が出来ませんでした。
    さらにはページぎっしりに詰め込まれた余白の無い会話のレイアウトにも辟易してしまいました。
    しかしながら著書は20年、30年後のタイムカプセルとして『コロナ禍の今』が瞬間冷凍の如く詰め込まれていると思います。

  • 金原ひとみさんが考える10年後(前編)――長く夫婦でいたとしても、積みあがっていくのは……【夫婦のカタチ】 – STORY [ストーリィ] オフィシャルサイト(2022.10.01)
    https://storyweb.jp/lifestyle/241479/

    beco+81(@beco_plus81) | Instagram
    https://www.instagram.com/beco_plus81/

    腹を空かせた勇者ども :金原 ひとみ|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309031064/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      若い世代 考えること学ぶ [評] 横尾和博(文芸評論家)
      <書評>腹を空(す)かせた勇者ども:北海道新聞デジタル
      https://www...
      若い世代 考えること学ぶ [評] 横尾和博(文芸評論家)
      <書評>腹を空(す)かせた勇者ども:北海道新聞デジタル
      https://www.hokkaido-np.co.jp/article/875203/
      2023/07/10
  • 知恵と勇気の爽快青春長編。
    皆が違って複雑で、困難がデフォルトの今を見つめる。幼くタフで、浅はかだけど賢明な、育ち盛りの少女たち…
    ポジティブでパワフル。子供だけでは解決できない問題もたくさんあるけど彼ら達のやり方で受け入れ乗り越えていく。

  • 今を精一杯生きるレナレナやその仲間たちには好感が持てた。

    ただ、上から目線で偉そうに物事を捉えてながらも、不倫を悪いこととは思ってない母親には嫌気がさす。

    「まじ」で「まじ」が多すぎた。

  • ぶっ飛んだ話なんだけど、テンポが良くてあっという間に先に進んでる。若いということは、こういうことか、こんなんだったっけ?と思いつつ(笑)

    日本も外国のようなこんな家族が増えていくのか、まあこんな家族の姿もありなのかしらん。

  • 「この世に小説が存在していることを知らないような愛しい陽キャの小説を書きました。これまで書いてきた主人公たちとは、共に生涯苦しむ覚悟を持ってきました。でも本書の主人公には、私たちを置いて勝手に幸せになってもらいたい、そう思っています。」

    金原ひとみさんのこのコメントを読んでから、ずーっと発売を心待ちにしていた。
    金原ひとみさんが描く“この世に小説が存在していることを知らないような愛しい陽キャの小説”、そんなの絶対に面白いに決まっているし、面白かった。てか今年の一番でたかも。
    中学でバスケに熱中する陽キャのレナレナは、絶賛公然不倫中の文化的ママ、そして自分からは一生遠い存在な気がするちょっと間の抜けたパパとの3人家族。
    全員が相容れないながらも協同して営む生活に、私はすごく好感をもった。
    なんといっても感情先行型で語彙の乏しい若者言葉を駆使するレナレナと、母親であるユリの雄弁な大人の語り口で織り成される会話の応酬がコントのようで愉快極まる。

    ユリは理性的思考を持ち合わせながら罪悪感を抱かずに不倫する金原ひとみ小説らしいタイプの女性で、娘の玲奈に対しても「恋愛っていうのはこの世に於いて最も批評が及ばない範疇のもの。善し悪しを判断するなんてもってのほか、誰かが誰かの恋愛に感想を漏らすだけで滑稽。それを知っているだけで、きっとあなたの知性は十パーセントくらい向上するだろうね」と手厳しい。
    これぐらい娘に対して大人の余裕で毅然と振る舞えたら、と思わずにはいられない、私にとってはすごく憧れで魅力的な母親。

    中学生から高校生へとめまぐるしく成長していくレナレナの日常は忙しなく、友情に恋愛にと悩みは尽きない。
    幼くタフで、浅はかだけど一生懸命。毎日泣いたり笑ったり、大人にとっては「青春のすべてをそこに置いてきた!」って感じのまっただなかを全力で生きている。
    学生生活を「硫酸の中に放り込まれたよう」と形容するユリとは破滅的に分かり合えないながらも、その分かり合えなさすらどこまでも愛おしく、言葉を尽くしながら仲良くできるのが娘なんだな、と思わせてくれた。それが母と娘の関係性なんだなと。
    14歳はとにかくお腹が空くのだ。お腹をいっぱいにしてあげるのがせめてもの母親の努め。お腹を空かせて帰ってくる娘に、今日もおいしいご飯をつくろう。
    そしていつかこの本を読んで感想を交わし合える日が来るといいとも思うし、一生読まないままでただただその潑剌さで幸せになってほしいとも、もうどちらでも私は嬉しい。

  • あの金原ひとみの目を通して描く女子中学生、ってそりゃもうどんだけ濃く激しい嵐のような毎日なんだろうと思いつつページをめくる。
    めくる。めくる。めくってもめくってもそこにめくるめく嵐のような情動はこない。書き手も読み手も小説によって傷つき合うような不穏さもない。前作くらいから金原小説を読んでも血を流さなくていいときもあるな、とふと。でもそのおかげでちょっと手に取りやすくなった気もする。

    なにかと食べ物に手を伸ばしてしまう育ち盛りの中学二年生玲奈。玲奈の母親は夫公認の不倫中。
    この母親のキャラがちょっと一緒には暮らしたくない感じの面倒くささ。
    バリキャリで家事もしっかりこなす。彼氏の家に泊まりに行くときは夜のご飯と一緒に娘の翌日のお弁当迄しこんでいく。家もきちんと整っているし、全くもって完全無欠の母親なのだけど、思想というか、ポリシーというか、哲学というかがちょっと面倒臭いのだ。14歳の中学二年生なんて言うこともやることも、それほど大した考えがあるわけじゃないだろうに、娘の言動ひとつひとつに対して「理由」や「意味」を求め、それに対して自分の「信念」や「正しさ」を説明していく。
    そんなに「正しさ」に忠実なくせになぜ「不倫」などするのか。しかも娘に隠そうともせずに。
    その辺りの不安定な強さに娘の玲奈の心も影響を受けていく。
    この母親に共感できるところと共感できないところ、その両方に読んでいる自分の心も揺れる。
    そんな母親のもとで、中学二年生という不安定な時期を過ごす玲奈。
    部活に青春をかけたり、友だちと帰り道で買い食いしたり、ゲームに没頭したり、そんな当たり前の普通の毎日が、当たり前の毎日だけじゃないことを突きつけてくる。
    コロナによる変化、今まで知らなかった差別による変化、友だちの恋愛事情、受け入れていたはずの母の不倫への気持ちの変化…大人になるって、面倒臭い。14歳が体験するたくさんの面倒臭い大人への階段。記憶の片隅にあるそんな面倒くささとの闘いを思い出しながら読んだ。
    リアル14歳に、これから14歳になる、あるいは14歳を通り過ぎた誰かに読んで欲しい一冊。
    ただ、タイトルでちょっと損してる気も。初見で手に取る人を選ぶのでは…(戦争モノ、とかスポ根モノとかと思って読んで欲しい世代に届かない可能性もありやなしや)

  • なかなか複雑な家庭環境に、友達もいろいろあって、目まぐるしく思考も感情も変わっていく中学生の日常。
    鉄砲玉みたいな行動力全開の玲奈がまぶしい!

    玲奈の両親が腹立たしくて、でも共感する部分もあり、めちゃくちゃ感情を揺さぶられました。
    大人だからといって万人に正しいと思ってもらえる選択をするとは限らないし、人の感情はある意味どれも仕方なくて、みんな、自分の生き方を生きて、他人の感情はなんとか受け入れていくしかないんだよな…。

    複雑な感情を抱えるのが苦手と言いながらも、他人の論理にちゃんと向き合っている玲奈。
    いろんな感情にぶつかっては一生懸命前に進もうとする姿が愛おしくて頼もしくて、元気をもらいました!


    母親ユリの押し付けがましい論理にはかなり憤りを感じたんだけど、『文藝』に載ってた金原ひとみさんと伊藤比呂美さんの対談で、金原さんがユリの教育?をけっこう理想の接し方ぽく話しておられたので驚いた。玲奈は娘さんのキャラからきているようだから、自分もユリみたいな母親だったらもっと伸ばしてあげられると思うのだろうか。
    私は、都合のいい理屈で子供をコントロールしようとしているとしか思えないけど…。

  • 10代の玲奈を主人公にした連作集。4編のうち真ん中の2編は雑誌「文藝」掲載時に読んでいたけど、このシリーズはホント好きだから続けてほしい。金原さんは近作の『デクリネゾン』でも、中学生の娘に対する眩しい光を仰ぎ見るような感覚を巧みに描いていたけれど、これは視点をぐるっと回転させて、その娘からいかにも金原さんの作品らしい母親や父親(おまけ、金原瑞人さんがモデルなのかなと思わせる、昔バンドをやってたおじいちゃんがちらっと出てくるところも好き)に注ぐまなざし、親や友人との関係を通して、いろいろ考え成長していくさまがほんとに眩しく描かれていて、胸がいっぱいになる。ラストの学園祭のバンドなんかも、映画みたいだったし(関係ないけど、うちの子もベースなんだよ、乳酸たまってんのかな?)。個人的に昨年のベストワンだった『ミーツ・ザ・ワールド』も、珍しく金原さん自身とは違うタイプの若い主人公を描いていたものだったけど、そうやって未来に希望を託しつつ若い人に寄り添い応援する、われらが鬱の代表である金原さんがそんなふうに変化・進化しているのがたまらなく嬉しく、そのことが私に希望をくれる。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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