シェヘラザードの憂愁

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309205120

作品紹介・あらすじ

現代アラブ世界を代表するノーベル文学賞作家が描く珠玉の物語。奇想天外で不思議なファンタジーと現代的な人間の苦悩を巧みに織り込んだ豊壌な世界。

感想・レビュー・書評

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  • スティーヴン・ミルハウザーの『シンバッド第八の航海』(「バーナム博物館」白水Uブックス 所収)を思い浮かべている。

    『千一夜』の世界
    外国学図書館 新着資料の紹介 - これまでの「今週の1冊」 | 大阪大学附属図書館
    https://www.library.osaka-u.ac.jp/gaikoku/newbook/201604arabiannights/

    シェヘラザードの憂愁 :ナギーブ・マフフーズ,塙 治夫|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309205120

  • サブタイトルの「アラビアン・ナイト後日譚」が示すとおり、シェヘラザードが千夜一夜物語を語り終えた後の物語。
    残虐無道だったスルタン・シャハリヤールの変化やシェヘラザードの苦悩の他、市井に生きる荷担ぎや床屋、水運びと言った人々及び総督や警察長官などの上流階級の人間が各章の主人公であり、イフリートの囁きの下人生を狂わせて行く様が描かれる。
    訳者があとがきで、「本書は娯楽読み物ではなく、著者マフムーズが『アラビアン・ナイト』の素材を大胆に換骨奪胎し、独特の味付けをたっぷり施した純文学」であるとわざわざ断っている通り、確かに甘いファンタジー読み物のつもりで向かうと、期待を裏切られることになる。
    むしろ、誘惑に陥りやすい人間の暗黒面が次々に描写されるわけだが、そこでアラビアン・ナイトの幻想的な雰囲気がオブラートの役割を果たすこととなるのである。
    『悪魔アスモデ』や『七悪魔の旅』を面白く読んだ人は、手に取ってみてもよいかも。

    それにしても登場人物の名前が、日本人的には似かよりすぎてて把握できませんがな・・・・・ガク。
    アラビア語の「アル」は英語の定冠詞の「the」に相当するそうですが、そのせいなんでしょうか・・・・うーんうーん★

  • (2013.12.13読了)(2013.12.07購入)
    副題「アラビアン・ナイト後日譚」
    Eテレの100分de名著で「アラビアンナイト」が取り上げられたのですが、前嶋・池田訳ですでに読んでいるので、「アラビアン・ナイト後日譚」と副題がついているこの本を借りてきて読みました。
    千一夜が過ぎた後のスルタン・シャハリヤールの統治する都市の物語になっています。
    シェヘラザードの父で宰相のダンダーンや妹のドゥンヤザードも登場します。
    でも主役は、ジン族(妖霊)に属するイフリートに操られる街の人たちです。
    千一夜物語の世界そのものですが、ストーリーは、千一夜物語より手が込んでいます。
    どういうわけ海外文学は、人名がなかなかぴんと来ず、なかなか動きがつかめません。
    とくにこの本は、次から次と別の人物が登場してくるのでなおさらです。
    それでも、千一夜物語の奇想天外でどこかユーモアのただよう世界は十分味わうことができます。
    「アラビアンナイト」をなんらかの形ですでに読んでいる方にお勧めです。
    著者は1988年のノーベル文学賞受賞者です。エジプト人で、2006年に94歳で亡くなっています。

    【目次】
    《物語》の翌朝―新しい夜明けとスルタン陛下の決断
    悩めるスルタン妃―シェヘラザード
    神秘主義者シェイフの信条
    シンドバードの決心―プリンス喫茶店
    妖霊に操られたサナアーン・アルジャマーリー
    呪われた警察長官―ジャマサ・アルブルティー
    生まれ変わりの奇跡―荷担ぎのアブドッラー
    夢の中の愛―ヌールッディンとドゥンヤザード
    強欲な床屋ウジュルの野心
    魔女の奸計―アニース・アルジャリース
    墓から甦った美しき女奴隷―クート・アルクルーブ
    犠牲にされた美青年―ほくろのアラディン
    偽裁判で明かされた真実―二人のスルタン
    隠れみのの帽子―悪魔の虜になった青年の転落
    「ソロモンの指輪」の悪戯―靴直しのマアルーフ
    冒険旅行から帰還したシンドバード
    悲嘆者たち―スルタンの放浪と目覚め
    訳者あとがき

    ●正しい信仰(341頁)
    「お前が六つの障害を超えるまでは、正しい信仰者の域にたどりつかないことを知りなさい。第一に安楽の扉を閉じ、難儀の扉を開くこと、第二に栄誉の扉を閉じ、卑賤の扉を開くこと、第三に休息の扉を閉じ、努力の扉を開くこと、第四に眠りの扉を閉じ、目覚めの扉を開くこと、第五に富裕の扉を閉じ、貧乏の扉を開くこと、第六に希望の扉を閉じ、死の準備の扉を開くことだ」

    ☆関連図書(既読)
    「渡り鳥と秋」ナギーブ・マフフーズ著・青柳伸子訳、文芸社、2002.03.15
    「アラビアン・ナイト(1)」前嶋信次訳、東洋文庫、1966.07.10
    「アラビアン・ナイト(12)」前嶋信次訳、東洋文庫、1981.07.10
    「アラビアン・ナイト(別巻)」前嶋信次訳、東洋文庫、1985.03.08
    「アラビアン・ナイト(13)」池田修訳、東洋文庫、1985.09.10
    「アラビアン・ナイト(18)」池田修訳、東洋文庫、1992.06.10
    「アラビアン・ナイトの世界」前嶋信次著、平凡社ライブラリー、1995.09.15
    「アラビアン・ナイト99の謎」矢島文夫著、サンポウブックス、1978.03.03
    「アラビアンナイト」西尾哲夫著、NHK出版、2013.11.01
    (2013年12月13日・記)
    内容紹介(amazon)
    アラブ人作家として初めてノーベル文学賞を受賞した著者の晩年の代表的小説。『アラビアン・ナイト』が終わった翌日から始まる「続編」といえる作品。シンドバードやアラディンなども登場する奇想天外でファンタジックな物語。

  • アラビアンナイトの語り終わられた翌日から始める物語。アラビアの華麗で不可思議な雰囲気に浸って読むなら非常に面白い話だった。

    訳が現代的で、歯切れ良いが、その雰囲気を壊さないので読みやすいと思う。

    男たちが次々に主人公として交代する。

    どれだけ語り手が変わろうとも、アッラーへの深い信仰と裏腹の人間くさい望みや欲求にはかわりはないのだと教えるような物語が繰り広げられる。

    ただ、前話で善良だった者さえも、あっさりと罰されてしまったり、少し読者にはめまぐるしいかも。

    アラビアンナイトをきちんと読み直してみたくなった。アラブの詩などは、本当に香り高い美しいものが多数ある。もっと日本でも紹介されないものだろうか。

  • マフフーズは1988年ノーベル文学賞を受賞したエジプトの文豪。異色作家短篇集『エソルド座の怪人』に収録されていた「容疑者不明」という、どう読んでいいのかよくわからなかった不思議な味わいの短篇で知るだけなのだけれど。

    本書は、“アラビアン・ナイト後日譚”という副題が示すとおり、シェヘラザードが物語を語り終えた翌朝からのスルタンや市井の人々の物語。その設定を見ただけで、思わず手にとってしまったのだけれど、期待通りだった。
    アラビアン・ナイトの世界そのままに(作品全部を読んだことはないのだけれど)、不思議が日常に紛れ込んでいる世界。ジンが跋扈し、死の天使が人々のなかにまぎれて暮らし、生まれ変わりが起こったり、隠れみのの帽子で姿が見えなくなったり、ソロモンの指輪をめぐる騒動があったり。次から次へと様々な騒動が巻き起こるのでページをめくる手が止められない。

    そのめまぐるしいまでの物語のなかで語られるのは、シェヘラザードにより改心したスルタンの、無実の人々の血で汚れた過去とどう折り合いをつけるかという葛藤であり、スルタン配下の総督、警察長官らの汚職による腐敗、不正に苦しむ人々の生活である。それはまた、“理性と意志と魂を持つ”はずの人間の、欲深さや弱さやずるさ、時折現れる崇高さの物語でもある。


    それにしてもシンドバード。物語の冒頭で航海に出、アラビアン・ナイトそのままに七つの航海を経て(本人によれば)帰還する。スルタンにシンドバードが語った冒険は六つであり(アラビアン・ナイトでの第六の航海がぬけている)、アラビアン・ナイトでのただでは起きないという欲深さは影をひそめ、アッラーへの感謝と教訓に満ちたものとして語られるその冒険は、大まかな内容において、“異界から霊感を得”たシェヘラザードによって語られた冒険と呼応している。“そのすべては一つの源から発している”からだとシェヘラザードは言うのだが。このシンドバードの造形には深い意味がありそうな気もするのだけれど、それが何なのかは、よくわからない。

    ――Layali Alf Layla by Naguib Mahfouz

  • 中東というかムスリム文化がすきで、とうぜん千夜一夜物語も大半をおもしろくよんで、ラシュディとかナイポールとかパムクとか好きで、しかも「まんが日本昔話」とか柳田国男の「遠野物語」とか民俗学的おとぎ話とか、石川淳の「おとしばなし」「諸国畸人伝」とかおもしろいと思い、民話、神話、奇談を愛する、他文化アレルギーの少ない読書家に非常におすすめ!

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著者プロフィール

(Naguib Mahfouz)1911年、エジプト・カイロ生まれ。主な小説作品に、『ミダック横町』(1947、本書)、『蜃気楼』(1948)のほか、『張り出し窓の街(バイナル・カスライン)』(1956)、『欲望の裏通り』(1957)、『夜明け』(1957)の「カイロ三部作」、『渡り鳥と秋』(1962)などがある。1988年、ノーベル文学賞受賞。2006年逝去。

「2023年 『ミダック横町』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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