最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309208442

感想・レビュー・書評

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  • 韓国パンデミックSF小説集。
    「最後のライオニ」がよかった。人類が感染症で絶滅し、見捨てられたロボットたちの惑星。その探査を依頼された主人公。一見弱々しい存在だが、貫く強さ。
    「死んだ鯨から来た人々」もよかった。わたしたちは全ての生き物を絶滅させてしまうのか…真の共生関係とは。
    他者とのかかわりを考えさせられる作品集だった。

  • 最後のライオニ(仮) :キム・チョヨプ,デュナ,チョン・ソヨン,キム・イファン,ペ・ミョンフン,イ・ジョンサン|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309208442/

  • 先日『中国・アメリカ謎SF』を読み、変な話が好きなわたしは、なかなかグッときたのだった。そして、今回、韓国のSFにも同じくらいグッときた。

    現実世界では、まさにCOVID-19のパンデミック下だが、SF作家はどのようにパンデミックを描くのだろうか。現実に重ねるのか、重ねないのか。描くのはディストピアか、ユートピアか。色々と予想をしながら読み始めた。

    各短編のあらすじは省くが、ほとんどの作品に共通していたのが「パンデミックになったとしても、変わらない基礎の部分、人間の根底にあるもの」だ。
    感染症の蔓延は、街の景色を変え、人との付き合い方を変えた。そんな中、変わらなかったものはなんだろうか。
    わたしたちが小説を読む理由は、きっと、それが描かれているからだろう。

    先ほど「ほとんど」と言ったのは、一つの作品だけ例外があったからだ。解説で「言語遊戯小説」と名付けられていたその作品では、カタカナや「っ」(ちいさい「つ」)がなく、非常に読みにくい。その理由がわかると一転して、にやけてしまう。
    わたしはそんな作品が大好きだ。


    第一章|黙示録
    最後のライオニ/キム・チョヨプ
    死んだ鯨から来た人々/デュナ

    第二章|感染症
    ミジョンの未定の箱/チョン・ソヨン
    あの箱/キム・イファン

    第三章|ニューノーマル
    チャカタパの熱望で/ペ・ミョンフン
    虫の竜巻/イ・ジョンサン


    p155
    とにかく私は、せせと破裂音を飛ばしていたあの時代の人々の口元が気になて仕方なかた。

  • 現実がSFを超えた日。
    空に飛行機は無く、劇場から人は去り、朝夕の通勤ラッシュが陰をひそめた日。
    医療体制は麻痺し、他人は全て感染源に思え、執拗に鼻と口を塞いだ日。
    病人は隔離され、死者は遺灰すら戻ってこなくなった日……。
    そんな現実のなかで作家たちはSF小説を描く。

    「最後のライオニ」
    本当にパンデミックから世界を救うのは、勇敢で死を恐れない者ではなく、恐れを抱き又は抱く人に共感できる者。

    「死んだ鯨から来た人々」
    〈共生〉ということ。
    人類はちゃんと他の地球生命と共生できているだろうか。

    「ミジョンの未定の箱」
    2020〜22年の3年間、本当はどんなことをして、なにを得て無くしていたんだろう……もう過ぎ去って……。

    「あの箱」
    誰もがアクリル板で仕切られていた。
    抗体というアクリル板も。

    「チャカタバの熱望で」
    過度な潔癖が笑い話となる日。

    「虫の竜巻」
    どんなに科学が進歩しても、変わらないこと。

    でも「コロナ前から在宅ワークだったけど?」って、作家稼業もタイヘン。

  • パンデミックをテーマにした韓国人作家によるSF短編集。パンデミック“後”の未来を描く6編は、どれもあり得るその後の未来のカケラを表出している。「死んだ鯨から来た人々」、「チャカタパの熱望で」が印象的。

  • 表題作が特に好きで、たて続けに2回読んでしまった。キム・チョヨプは短篇集『わたしたちが光の速さで進めないなら』も好きだった。何で好きなんだろうと考えるに、特段に抜きんでた能力があるわけでもないひとたちが正面から何かに取り組んで帰ってくる話が多いからなんだろうと思う。帰ってこないこともあるけれど。ヒーローがオラオラ!って大成功する音量の大きい話よりも心にしみる。自分が、心にしみるかどうかが大事な時期にあるので。

    チョン・ソヨンの「ミジョンの未定の箱」が身を切られるような痛切な話だった。個人に大きな喪失があったときに社会も壊れていたら、人は虫みたいに摺りつぶされてしまう。

    第三章のふたつの話は生理的にわかるところがあって、つまりもうあまり親しくない人とマスクなしで話したくないような気がすること。これはコロナが収まってマスクしなくてよくなったら、しばらくは抵抗を感じていてもそのうちに元に戻れるんだろうか。ぜんぜん想像できない。

  • 文系でも(だからこそ?)読めてしまう韓国SF短編集。それは、設定の奇抜さや斬新さをひけらかすためのSFではなく、人の抱える孤独と喪失感を際立たせるための舞台として描かれているから。

    最も驚いたのは、「チャカタパの熱望で」。
    文体そのものをSFにしてしまう発想に、こんな表現の方法があったのか!と膝を打つ。韓国作家の攻めの姿勢に、改めて感服。

    他にも表題の「最後のライオニ」も印象的。
    競争社会に馴染めず弱い存在として劣等感を抱いて生きてきた主人公と、見捨てられたロボットとの切ない物語。他書「わたしたちが光の速さで進めないなら」でもそうだが、孤独だけど瑞々しさを感じる文体が好み。

    最後の作品「虫の竜巻」では、個人的に以下の描写を書き留めたい↓

    『自分は母を傷つけるために生まれたのではと思った。』
    『ときには外部とのつながりを遮断し、完全にひとりになったほうがいい。果てのない寂しさから逃れるために。内面に向かえば、ひとりであるという事実は寂しいことではなく、むしろ心休まることに思えてくる。』

    闇落ち状態時の自分の心象を言語化してくれて、何だかありがたいと思った。

  • https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/68-e1dvllt 韓国SF小説集は、新鋭から巨匠まで、コロナに直面した作家した作家たちが新しい世界、新しい未来を描いています 同じテーマでも作家によって描くものが違っていておもしろいです(共通するところもありますが)。全体的な特徴としてはウイルスの恐怖をより強烈に感じさせ、哀しさがある印象でした。さらに原著が出版された2020年の韓国社会の延長にある小説が多く、SF小説集ではありますが多様な読み方、楽しみ方ができる一冊です。

  • 初めて日本語に翻訳された作家も2人、とうことで、層が厚いなー。ぺ・ミョンフン『チャカタパの熱望で』が特に◎。

  • 短編だけど映像化してほしい。
    手塚治虫のSF世界のよう。
    クローン人間の出来損ないと機械ロボットたちとの友情。
    鯨という個が集まって島のような生命体の上に住む人間たちの話。

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著者プロフィール

1993年生まれ。浦項工科大学で生化学修士号を取得。在学中の2017年、第2回韓国科学文学賞中短編部門にて「館内紛失」で大賞、「わたしたちが光の速さで進めないなら」で佳作を受賞。

「2021年 『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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