夏至祭 (河出文庫 な 7-8 BUNGEI Collection)
- 河出書房新社 (1994年5月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309404158
感想・レビュー・書評
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青、紫、黒、黄色...イロトリドリの中で一際強く輝く大きな玻璃玉のような睛の色。その光を眺めていると深い微睡みに落ちていく。羅針盤はいつでも君を示す。浴衣、風鈴、林檎飴。そこはファンタスティック。振り向けばアクチュアリー。これ以上踏み込めば鮮やかな赤が流れ滴る。だから酔わないように、醒めないうちに。兎、猫...私が選んだのは蝶の羽根モチーフ。メッキが剥がれぬように、飛べなくなる前に。蜂蜜をひと舐め甘味が苦味に変わるころ、私は覚醒する。カランコロン。ああ、夢を見ていたようです。
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半夏生の晩に開かれる集会には祖父の形見の時計と羅針盤が導いてくれる。夏至をはさむ、朔月から朔月までのひと月に時計の針が止まるのは、「現在」と「過去」と「どこか」を繋げるから。
少年の持つ時計の作用か、読み終わった日翌日の私は始業を告げるベルが終業のベルに聞こえるほど、時間の感覚があやふやな一日を過ごした。そんな日は、レモネードに浮かべた輪切りのレモンと月が入れ替わっても驚かないんじゃないかと思う。
この頃の長野さんの文体が大好きです。玻璃、洋燈、夜天、紅玉。輝輝とした言葉たちを抱きしめるつもりで読んだ。
《2014.08.06》 -
夢と現実の境目が曖昧になるファンタジー。
ただ美しく、幻想的な世界観に浸れる。
黒蜜糖の自由奔放で子供っぽい振る舞いがかわいらしくてとても好き。物語に出てくる食べものが全部おいしそう。
寂しくない終わり方なのに、夢は夢のままなところが本当に好き。最初から最後までずっと宝石のように綺麗。
来年、夏至になったら
黒蜜糖と銀色にまた逢いに行こうと思う。 -
長野先生いわく「野ばら」の初期形らしいので、登場人物の名前がまんまです。
でも中身は、薄暗い神秘的なときの長野まゆみだ…
誰が生きてるんだかしんでんだか分からんときの… -
空家であるはずの屋敷に棲む、黒蜜糖と銀色という不思議なふたりの美しい少年と主人公・月彦との数日間。
読みながら、あぁ、これこれ……と思う。
束の間、幻想的な世界に浸ることができた。 -
2021/11/12
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長野まゆみさんの中編ファンタジー小説の佳品です。主人公の青年・月彦と母と祖母、近く取り壊される予定の空き家に住む二人の美少年、甘い食べ物が大好物の黒蜜糖と厳格な性格の銀色。祖父の形見の羅針盤付きの何故か夏になると止まる時計、夏至祭、路面電車、ストーリーはごく単純で短くあっさりとした話ですが、細部の情景がイマジネーションを刺激して鮮やかに脳裏に浮かび、ラストの優しく心に沁みるような真相が読後永遠に記憶に刻まれそうな気がしましたね。棠梨(ずみ)、睛(め・ひとみ)、楊桃(やまもも)等々の漢字も風情がありますね。
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面白かったです。
銀色と黒蜜糖、月彦にまた会えて嬉しいです。
「野ばら」を読んでいるので、銀色と黒蜜糖が白猫と黒猫と知っている読書でしたが、ふたりが性格の違う猫っぽくて可愛いです。
半夏生の集会も綺麗で賑かで素敵でした。 -
ずっと積読になっていた一冊。
たぶん10年ぐらい前に購入してる一冊。
不思議な世界と
綺麗な言葉と
夏の夜にぴったりの本。
本の醍醐味の、紙質と文字の印刷がすごく良い味を出していました。
腕時計が落ちていたら
それは
不思議な世界を繋ぐ羅針盤かも。 -
上質な文体で幼い少年たちの幻想譚である。羅針盤が象徴的である。宮沢賢治の童話の影響も感じられた。夏至祭のようにはかなく、終わりがとても良かった。著者の別の作品を読みたい。