- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309410067
作品紹介・あらすじ
世界に外も中もないのよ。この世は一つしかないでしょ-二〇歳の知寿が居候することになったのは、二匹の猫が住む、七一歳・吟子さんの家。駅のホームが見える小さな平屋で共同生活を始めた知寿は、キオスクで働き、恋をし、時には吟子さんの恋にあてられ、少しずつ成長していく。第一三六回芥川賞受賞作。短篇「出発」を併録。
感想・レビュー・書評
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20歳の知寿と71歳の吟子さんが一緒に暮らした、春夏秋冬。
淡々とつづられる日常がやけに心地良く感じられた。しみじみとした余韻の残る読了感。
吟子さんのキャラが良い。
知寿、藤田、吟子さん、ホースケさんの4人で花火をするシーンが印象的。
知寿と母親のやりとりは、ちょっと切ない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読み始めて面白くなるまでが早いです。作家が20代前半で書いた芥川賞受賞作ですが、技術が巧みです。
高校を卒業しても進学を拒み、就職するわけでもない主人公。
親に依存して生きてきた子ども時代からいきなり社会に放り出されるように自立するのではなく、親戚のおばあさんの家に居候しながら自然と自立へと、誰に促されることもなく自分自身でその道をたどっていく。そういう物語です。はっきりと端的に明文化できるような成長ではない部分を描いた、自立の入り口までの成長物語。
以下、ネタバレありますので、ご注意を。
こういう物語を読むと、自立にはある種の慎重さや段階を踏んでいく過程がほんとうならば必要なんだろうなあと思えてきます。大きな段差のある階段の一段を、「ふんっ」と力を込めながら踏みあがっていくような力業の自立が難しい人はかなりいると思います。新卒で入った会社を3か月で、半年で、一年でといったふうに辞めてしまうのも、そういう力業で人生を歩んでいくのが無理だったりするからかもしれません。本作の主人公は、階段ではなくスロープ状の、傾斜のなだらかめの坂道を歩むようにして自立への段階を踏んでいるように読み受けられます。とはいえ、喩えるなら重力に反して高いところへ歩んでいくのですから、やっぱりショックを受けたり深く落ち込んだりしていきながら、成長していきます。
執筆時の著者の年齢と主人公や彼女をとりまく人たちの年齢が近い人たちについては、よい部分よりもとくに憎たらしかったり自分勝手だったりする部分がよく書けていると思いました。それでいて、70歳を過ぎた居候先のおばあさんの喋る内容がときに含蓄のあるものがあり、それをやんわりとした口調でつつんだものとして出してくる。そこは、主人公の母親について描いている部分もそうなのです。日常のなにげない場面で、年頃の娘との親子関係の特別な緊張感もあるのですが、そんなぐっと構えていない気持ちでいる母親のなんでもない様子に、その人物としての年齢的に育まれているだろう芯がきちんと捉えられている。つまりは、作者の力量だ、と感じられるところなのです。たとえば、
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「世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ」(p162)
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というセリフを、居候先のおばあさんである吟子さんに喋らせているように。
また、主人公にはちょっとした盗癖があります。たとえばこれも、本作で描かれている彼女の恋愛姿勢において、自分からは彼氏に求めずにいるようなところがあり、それゆえに彼氏は居心地がよい反面、彼女との関係に見いだせるものがわからなくなってしまうのですけれども、そんな彼女の外面としての「あまり求めない」姿勢の裏返しとして、その意識の奥底では「求めたい」「欲しい」という渇望が強くあるがため、飴玉だとかを盗んでしまう行動として出てくるのではないのかなあ、と思いました。
若い時分に経済的に自立してひとり暮らしを始める。そういう人生が僕にはなかったので、そうだなあ、と寂しい気持ちにもなりました。表題にあるように、自立が果たせたならそこには「ひとり日和」と呼べるようなものがあるんですよね。
表題作のほかに、25ページほどの短編「出発」も収録されています。こちらは新宿の話で、「ひとり日和」のように、モラトリアムの期間を過ごすようなのとは違い、社会のただなかで生きている若い男の話。こちらもよかったです。キーパーソンとなる同年代くらいの女性が出てきて、彼女はいわゆるケバい恰好でサンドウィッチマンをやっていたりする。そういった、住む世界が違う人たちをそれぞれに、その人たちの立ち位置で描けている点が、僕にとって、この作家から特に心を奪われたところでした。世界って、同じ場所にいろいろな人たちが交錯していてもそれぞれの人たちの住む世界は違って、レイヤー構造になっている。そういったことが、この短編から再確認できました。
野崎歓さんによる巻末の解説が、深く読み込んでいてこそで、なおかつわかりやすい筆致でした。「そうそう!」だとか「なるほど、そうだったか!」と頷きながら、深まる読後感とくっきりとしてくる読書感想の言葉なのでした。 -
20歳の知寿と71歳の吟子さんの物語。
若い知寿の成長物語で、おばあちゃんの吟子さんがあれこれ教えてくれたり時には説教されたりするのかな〜と思いきやちょっと違いました。
世のおばあちゃんに抱いている偏見なのですが、「面倒見」みたいなうっとうしい感じが全くなく、「ひとり」で毎日を過ごしているおばあちゃん。
この物語に出てくる人達はあまり他人に興味がなく、淡白だなと思いました。でもこれくらいだと楽だろうな〜 -
するする読めた。何かが劇的に変わるわけでもなくただ時間は過ぎていく。じゃあ何も変化はないのかというとそういうわけでもない。ぼんやりとそんなお話だった。
読後感は個人的に好きなタイプのものだった。電車の車窓に額をつけて家を眺めるシーンとか良かった。 -
芥川賞受賞作。
序盤から知寿への印象があまり良いとは思えない心理描写か続く。この主人公なんだか地味で暗くて…と思いながら読み進めて終盤には、ん?思ってたより違うかな?と思うな変化がある。
読了後に知寿に対する思いを改めようと思ったが、これは作者が意図的にこの変化を導いている、と気付く。
親戚のおばあさんの家にひとり住むとしたら、私ならこうする、こんなふうに感じる等考えながら楽しみました。 -
タイトルが示す通りの作品だと唸らされたのは、すべてがFになる以来かもしれません。
「ひとり日和」。
縁戚の老婆と暮らす21歳のうらわかき女性。
50歳以上歳の離れた二人の静かな生活が朴訥と描かれる本作ですが、2人で暮らしているのに、何だか「2人」と言うより「1人」と「1人」という印象を受けました。
劇的な展開で友情が芽生えるわけではなく、歩み寄っているような気配もないのに、何故か心地よい2人の関係性は最後まで付かず離れずの微妙な距離感を保ち続けます。
ウェットになり過ぎず、だけどドライなわけでもない不思議なアトモスフィア。
青山作品は数冊読んでいますが、もう少し色々読んでみて色を見つけたいなぁ。 -
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一人暮らしになった時に、実用本はあったけれど、小説のはじめて家にお招きした本はこの一冊でした。私も少しの間はこの本だけで過ごしていました。
...一人暮らしになった時に、実用本はあったけれど、小説のはじめて家にお招きした本はこの一冊でした。私も少しの間はこの本だけで過ごしていました。
"丹念"の言葉が響きながら生活していました、います、かな。
ごまみそさんは、なぜこの本を買おうと手に取ったのですか?
この本一冊だけでなく沢山読んでいるような感じがします。2021/03/11
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ひとり日和はぽつぽつとした連なりの中に芯がある感じ、出発はひとつの光景がぐっと来る感じが、魅力的。
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もみのきさん、こんばんは。
一人暮らしになった時にこの本が手元にあったら、さぞ心強かったことと思います。ん
"丹念"、素敵ですね。雑多な...もみのきさん、こんばんは。
一人暮らしになった時にこの本が手元にあったら、さぞ心強かったことと思います。ん
"丹念"、素敵ですね。雑多な日々に追われてついおざなりなってしまいますが、忘れたくない言葉です。
私がこの本を買おうと手に取ったのは、タイトルに惹かれたからでした。ちょうど当時付き合っていた方と別れた直後くらいで、ひとりが日和になるのかなと導かれるように手に取ったのを覚えています。
おっしゃる通り、沢山本は読んできています。実は元々別のアプリで読書記録管理をしていたのを、こちらに移行しようとしているところです。
もみのきさんも、選書からして只者ではないことを感じ取っています。2021/03/11 -
ごまみそさん、こんばんは。
御返事ありがとうございます。
手に取った経緯、本の感想も、なんだかじんわりして、素敵です。ごまみそさん、こんばんは。
御返事ありがとうございます。
手に取った経緯、本の感想も、なんだかじんわりして、素敵です。2021/03/12
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透明感あふれる、ひとりの女の子の日常。こんなにも鮮やかに、色濃く、繊細に描かれる作品はあまり見たことがない。
青山七恵さんは、京王線のフリーペーパーでのコラムを初めて見かけた以来、好きだった。
一見すると穏やかな日常。そのなかに、いろんな感情が紡ぎ出す現在とその行く先。私はどちらも見失うことなく、しっかりと見つめていたい。 -
サブカルっぽい日本映画の様な情景が浮かぶ小説でした。内容は淡白で読みやすく多くを語らないところがいいなぁと思いました。