私戦 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411736

作品紹介・あらすじ

一九六八年、暴力団員を射殺し、静岡県・寸又峡温泉の旅館で一三名を人質にして篭城した劇場型犯罪・金嬉老事件。ある刑事が発した民族差別発言への謝罪を求めたが、マスコミはこの事実を無視し、犯人を「ライフル魔」と煽ることに終始した。全ての人間が人間らしく生きることを希求し続けたジャーナリストが、差別と抑圧の中から、哀しき犯罪者の声を拾い上げる。犯罪ノンフィクションの昭和遺産。

感想・レビュー・書評

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  • 頭のねじがどっかへ行ってしまったような、ヘイト・スピーチを
    繰り広げる連中がいる。こんな人たちを見ていると、日本は
    お隣の半島を植民地としていた時代に戻ったのかと錯覚する。

    ひとりの男が殺人を犯した。キャバレーで暴力団員を射殺し、
    その足で山間のひっそりとした温泉地の旅館に向かい、経営者
    家族と宿泊客を人質に立て篭もった。

    彼の名前を冠して金嬉老事件と呼ばれる一連の出来事は、
    1969年に起きた。暴力団員を射殺するきっかけとなったのは
    手形の話がこじれたことだが、事件の根深いところにあったのは
    差別問題だった。

    金嬉老。日本生まれの朝鮮人(本書の記述に準ずる)。そう、日本が
    植民地とし、日本人よりも劣った民族として見下して来た人々だ。

    幼い頃から金は差別に晒されて育って来た。実父を4歳で亡くし、
    継父は朝鮮人だと理由で半端仕事しか得られない。金自身も
    少年院で苦労して自動車の整備士免許を取得するも、やはり
    その民族が問題にされ、更生しようにも就職さえままならない。

    そうして、通りがかりに遭遇したもめ事の際に刑事が口にした
    朝鮮人を愚弄する言葉。

    いかに日本人が、在日朝鮮人・韓国人を差別して来たか。その
    差別によって、彼ら民族が辛酸を舐めて来たか。旅館に立て
    篭もった金嬉老は、それを日本中に、日本人に訴えたかった。

    しかし、マスコミが彼に貼ったレッテルは「凶悪なライフル魔」。
    金が訴えたかったことは、警察とマスコミによって冷酷な殺人犯
    による監禁事件とされてしまった。

    本書は金嬉老の生い立ち、彼に関わった人たちの背景、事件の
    経過を丁寧に追い、私たち日本人が目を背けて来た在日差別
    を浮き彫りにしている。

    激烈な筆ではない。しかし、著者の、差別に問題に対する憤りが
    ビシビシと伝わって来る。

    名前を日本名に変えるkとを強要され、日本語を話すことを要求
    され、国籍が違うという理由だけで就職も結婚もままならない。
    私たち日本人は、そういう仕打ちをして来た歴史から目を背け
    ていやしないか。

    先日、横浜市の中学校で歴史の副読本が回収されたとの
    ニュースがあった。関東大震災の際に、朝鮮人が虐殺された
    との記述が問題になったそうだ。

    何が問題か。事実ではないか。この国は、いつまで歴史から
    国民の目を逸らせようとするのか。私たち日本人こそ、蛮族
    なのではないか。

  • この事件を社会の歪みから生まれた副産物と捉え、日本社会全体で考えていく姿勢を継続させていければよかった。

    ヘイトスピーチが横行する現在、日本社会の底辺に流れる差別意識はより巧妙に表面化することなく存在する。

  • 【恩讐の表れ】ヤクザを射殺し,旅館に立て籠もった金嬉老。「ライフル魔」と報じられる中で,彼が自分の命と引き換えに,世の中に対して訴えたかったこととはいったい何だったのか......。一つの事件から差別や抑圧といった大きな問題を抉り取ることを試みたノンフィクション。著者は,『誘拐』や『不当逮捕』といった優れた作品で知られる本田靖春。


    骨太な作風で知られる本田氏ですが,本著は氏の内面が色濃く滲み出た一作だと感じました。権力の内面化を潔しとしない姿勢はもちろんのこと,弱者を押さえつける強者に対しての凄まじい抵抗感が全編を貫いていました。

    〜差別の中での成育を余儀なくされた彼は,一つの極限に身を置いてなお,周囲の思惑に心配りをするのである。〜

    簡単に読み進められる本ではないですが☆5つ

  • 金嬉老事件の扱ったノンフィクション作品だが、著者の主張が作品中に繰り返されており、事件そのものやその背景を書きたかったのではなく、主張をしたいがための材料として扱った感が強い。
    こういう体のノンフィクション作品は、ノンフィクションだから客観性があると思わせて、実は偏った見方で書かれているきらいがあるので個人的に好まない。

  • やっと読み終わった。
    在日朝鮮人差別のはなし。

  • 1968年に発生した暴力団員射殺・温泉旅館篭城事件を描いた時代を感じるノンフィクション。

    著者の『誘拐』や『疵 ー花形敬とその時代』に比べると、いささか面白さに欠けるノンフィクションだった。これは、取り上げたテーマと構成のまずさ故なのか。

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著者プロフィール

1933年、旧朝鮮・京城生。55年、読売新聞社に入社。71年に退社し、フリーのノンフィクション作家に。著書に『誘拐』『不当逮捕』『私戦』『我、拗ね者として生涯を閉ず』等。2004年、死亡。

「2019年 『複眼で見よ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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