昭和2年に尾崎翠が映画プロダクションのシナリオ募集に応募するために書いた原案を、津原泰水がリメイク(?)した作品。
「瑠璃玉の耳輪」をした三姉妹を探して欲しいという依頼を受けた女探偵・明子が主人公。この明子さん、実は多重人格者の傾向(?)があり、探偵の得意技=変装どころか自己催眠で別人格になっちゃうという特技の持ち主。この明子さんだけでも暴走気味なのに、依頼人の黒いヴェールの貴婦人、阿片窟の娼婦、旅芸人一座の女ナイフ投げ師、その恋人だった隻眼の女軽業師、変態性欲の男(←この表現は尾崎翠の書いたままですって・笑)に薬漬けで監禁されている美少女、と、次々一癖もふた癖もあるキャラクターたちが登場します。
これを単純に現代版にしたらちょっと無理があっただろうけれど、そこは尾崎翠が書いた時代背景に忠実に設定したのが大正解。なにせ乱歩の時代の探偵小説なので、荒唐無稽なあまりのご都合主義も多々見受けられるんですが、それも含めてこういうジャンルを好きな人にはたまらない面白さ。ラストのアドバルーンで逃走しようとする場面とか、実際に映画化されていたらこれくらいのエンターテイメント性も必要(脚色)とされてたろうし、むしろこれを映像で見てみたい。退職間際の老刑事と女掏摸の友情とか、見世物小屋の芸人の師弟関係とか、随所で泣かせる要素もあったし。
尾崎翠の原案との差異点なんかは、著者のあとがきでざっくり把握できるんですが、やはり元のシナリオとの違いをいつか自分で読み比べてみたいですね。解説がわりに津原泰水の「尾崎翠フォーラム2011」の講演抄録が収録されてるんですが、八犬伝との共通点というのが意外ながら納得!八犬伝マニアとしては見逃せません。確かに「玉」を持った人物を集めてゆくくだり、全員集結したところで巨悪に立ち向かうところ、女装の美少年ならぬ男装の麗人が二人も登場するところなど、八犬伝のパロディとも読めるかも。