謎解き印象派: 見方の極意 光と色彩の秘密 (河出文庫 に 10-2)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414546

感想・レビュー・書評

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  • 印象派画家たちにまつわるエピソード、その誕生秘話や絵の技法がわかりやすく丁寧にまとめられた解説本。

    モネ、ルノワール、マネ、ドガ。印象派の中心画家たちの絵も随所に掲載されており、ビジュアルでも楽しめる内容となっている。
    印象派ファンとしては、新しい発見もあり、為になる一冊でした。

    ・印象派たちは今でいう「インディーズ」という表現が面白かった。
    美術品の大口の発注をすることが可能な公的機関といえば国家。
    その国家から、官舎や劇場の装飾の仕事を得るための登竜門とされるのが「サロン展」だった。
    サロン展で入選できなかったモネ、ルノワールたちは画家たち同士で立ち上がり、展示を企画する。
    それが「印象派展」だ。
    その自主的な行動力から、印象派が生まれることになった。
    印象派展では、「下手」「下品」「下絵みたいだ」と世間の評判は散々だったけど、彼らの地道な努力により、次第に理解されるようになる。

    ・画材の発展も、印象派の飛躍にも関係していたようだ。
    使い捨てチューブ入り絵の具が出来たことで、画家たちは屋外制作に繰り出すようになった。

    ・モネとルノワール
    モネとルノワールの仲の良いこと!色んな本を読んだけど、この2人のエピソードを読むたび、微笑ましくなる。
    この2人は20歳頃で出会い、その付き合いは60年ほども続く。
    同士であり、盟友。互いにとって理解者であり、モチベーションにもなる存在だったんだろうなぁ。
    画塾で知り合ったモネとルノワール。(もう一人、バジールという裕福な友人もいて、ルノワール、モネの貧困を支えていたという)
    そこで教育方針に嫌気がさしていたモネ。
    画学生の基礎課程であるルーブル美術館での古典名画の模写よりも窓の外の景色を描いていたという。
    ルノワールと連れ立ちフォンテーヌブローの森に繰り出して風景画を描いていた。
    いつか、原田マハさんに、この2人を主人公にした物語を書いて欲しいと密かに思っている。

    ・モネとマネ
    彼らは当時も名前が似ていることでよく間違えられていたようだ。
    あるとき、後輩であるモネの出品作を彼の作品と間違えられてマネは激怒したという。
    数年経って、マネが好んでいた画家たちが集まる「カフェゲルボア」にようやくモネを誘った。
    そこでは、マネとドガは議論を繰り広げ。モネ、ルノワールは聞き役。セザンヌは無骨だけど確固たる信念で時折発言をしたという。
    「カフェゲルボア」での印象派たちの会話。想像するとワクワクするな。

    ・絵の対比
    印象派画家たちの画法の対比も記載されており、興味深かった。
    「マネは明暗の対比を強調したのに対し、モネは全体が明るく仕上げられている」
    「マネは写実主義の延長上にある」
    「ドガはモネより都会感覚がある」
    「水面模写について。モネはリゾート感覚。ルノワールはファッショナブル」

    ・モネとカンディンスキー。
    抽象画家のカンディンスキーは、「積みわら」(2枚目)の鮮やかな色彩に圧倒されたという。
    私は大学時代、カンディンスキーが結構好きだったので、この繋がりは嬉しく感じた。

    ・マネとルノワールが描いたモネ一家
    マネの援助でアルジャントゥイユに住んでたモネ一家。マネはカミーユと息子のジャンにモデルを依頼し、「庭のモネ一家(3枚目)」を描いた。
    後からきたルノワールも同じシーンを描いた。(4枚目)
    マネとルノワールの描いたモネ一家。
    それぞれ構図やタッチも個性があり、その違いが面白い。
    この2枚の絵、モネ一家の空気感も感じられるし、好きだな。

    やっぱり、私は印象派たちの感性が好きだな、と思った。
    モネは、
    「描かれた絵ではなく今、目の前で描かれつつある絵の美しさ」に惹かれたという。
    モネは、移りゆく自然の瞬間を捉えるのに晩年まで苦労したというが、その美への追求心は、連作を始め、彼の作品を見るとしっかりと伝わってくる。

  • 当時のフランス画壇から拒絶され、揶揄からその名がついた印象派。保守的な王立アカデミー(サロン)に対抗するなかで近代絵画の基礎を築くことになる印象派の画家たち。彼らの生い立ち、絵の特徴から絵画技法までをコンパクトにまとめた入門書。
    王への忠誠と神への信仰を表す歴史画や宗教画が主流だった西洋絵画は、フランス革命を経て生まれた近代において変貌を遂げ、この時代に花開いたのが印象派だった。過去の英雄や神話の神よりも、いま目の前にいる人間と自然を謳い上げた印象派の絵は幸福感に満ちている。
    極論だが、美術史を一言でまとめると「まなざし」の変遷であるといえる。フランス革命を境に近代が世界に行き渡るが、変わったのは制度や社会だけでなく人々の「まなざし」の在り様も変えたということが印象派の絵から分かる。
    私も好きです、印象派。お気に入りはモネの「黄昏 ヴェネツィア」。最近見てない。印象派の回顧展でもやってくれないかな。。

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著者プロフィール

多摩美術大学名誉教授・版画家

1952年生まれ。柳宗悦門下の版画家森義利に入門、徒弟制にて民芸手法の型絵染を修得、現代版画手法としての合羽刷として確立。日本版画協会展、国展で受賞(1977・78)、リュブリアナ国際版画ビエンナーレ五十周年展(2006)に招待出品。作品が雑誌「遊」(工作舎)に起用されたことを機に編集・デザインに活動の幅を拡げ、ジャパネスクというコンセプトを提唱。1992年国連地球サミット関連出版にロバート・ラウシェンバーグらと参画、2005年愛知万博企画委員。著書『絵画の読み方』(JICC)、『二時間のモナ・リザ』(河出書房新社)等で、今日の名画解読型の美術コンテンツの先鞭をつけ、「日曜美術館」等、美術番組の監修を多く手がける。著書多数、全集「名画への旅」、「アート・ジャパネスク」(共に講談社)を企画、共著にシリーズ「公共哲学」(東京大学出版会)がある。

「2024年 『柳宗悦の視線革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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