快楽の館 (河出文庫 ロ 2-1)

  • 河出書房新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463186

感想・レビュー・書評

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  • またまた,ロブ=グリエの作品。1960年代前後に翻訳されたロブ=グリエに決まった訳者がいたわけでもないようで,私が読んだものもほとんどが別々の訳者によるものなので,どうか分からないが,そんなに私の好む文体ではないが,なんとなく古書店で見かけると買ってしまう。
    ということで,手元にある彼の作品としては最後になります。いかにも怪しげなタイトルになっていますが,原題を直訳すれば『淫売宿』といった具合だと訳者解説に書かれているので,このタイトルはあくまでも訳者の解釈を含んだもの。でも,確かに作品の中心的な舞台となる「青い館」は売春も斡旋しているようなことを仄めかしてはいるがそれだけではない,人々をひきつける何かがある場所である。この館にはレディ・アーヴィなる女主人がいて,そのパトロンというか,エドゥアール・マヌレという老人がいるという設定。一応「ぼく」という一人称の語り手がいるが,本文は全て一人称で書かれているわけではなく,事態の進行を報告する第三者的語り手も並存している。でも,この「ぼく」自体はレディ・アーヴィとちょっとしたやり取りがあるだけで,基本的には傍観者だといえる。
    訳者解説には作者自身の言葉が引用され,『去年マリエンバートで』のような映画のために書かれたシナリオとは違って,本作は映像的なものを描いたものではないとされている。でも,私はこの不可思議な物語をいかにもフランス映画的なものとして読んだ。本作には分かりやすいストーリーはない。といっても,滅茶苦茶なのではなくきちんとした設定は存在する。その「青い館」では毎晩のように怪しげなパーティが開催されている。そして,そこに「ぼく」がいて,その状況を事細かに説明しているのだ。しかし,実際の出来事かと思って読んでいると,それはこの館で頻繁に開催される余興であり,演劇なのだという。そして,その一方ではその館の常連たちが,その演劇に出演している女優たちをお金を払って抱くという取引もなされている。そして,そんな客の一人としてラルフ・ジョンソンという「アメリカ人」も登場する。
    そうそう,書き忘れたが舞台は香港で,しかし登場するのは欧米人が中心で,登場する中国系の女性と日本人女性はこの館に勤める侍女だけである。香港に九竜,マカオなど,アジアにありながら当時は欧米諸国の植民地であった場所が舞台。そして,後半ではそのマヌレという老人が殺害される,あるいは自殺するという事件が起こり,その顛末がいく人かの人物を中心に論じられる。しかし,実際にその老人が死んだのかどうなのか,それは劇の上でのことなのか,そして死んだとしたらその死因は。自殺なのか,他殺だとしたら誰がどんな目的で殺したのか,絶対的な回答は作品中に用意されていない。まあ,ともかく多様な解釈が可能である作品であるといえると同時に,そもそも確実なことなどなにもないのだという哲学なのかもしれない。私たちのいる現実界はそうであるのに,私たちは確実な根拠を知りたくて小説を読むのかもしれない。人間のアイデンティティの確実さ,物事の確実さが,陳腐な小説には揃っている。そんな小説のあり方に抵抗しようというのが,こういう小説家の試みなのかもしれない。

  • 英国領香港の娼婦も提供する青い館で起こる夜会、娼婦を身請けする為の男の金策、億万長者の死、この主に3つの出来事の情景がクドい程の反復、同じ情景でも登場人物その他諸要素の不調和、夢の様な辻褄のあわなさで展開する。世界観を読者に「押しつける」伝統的小説ではなく、プロットの一貫性や心理描写が抜け落ちた、実験的な「言語の冒険」、ヌーヴォー・ロマン小説。こういう小説は原書で読める様になりたいと切に願う。

  • 快楽の館
    今日はロブ=グリエの「快楽の館」を読んでいます。どれが図でどれが地なのかさっぱりわかりません…困ったことです(笑)。
    こんなヌーボーな小説をパラパラめくって楽しめるのは、そこここに張り巡らされたエロティシズムのせいなのだろうけれど、こうした場面のみならず、主客もころころ変わる構成そのものが、エロティシズムというものの重要な要素なのだろうか?わかったようなわからないような…
    (2010 07/16)

     そのリズムはあまりにも強烈なので、どんなに強暴な、どんなに唐突な惨劇も、ほんの一瞬にしろリズムを中断することはできず、せいぜい拍子を変えることぐらいしかできない。とはいえ、事故はいたるところで続々と起こっている・・・(p60)
    うーん、またお得意の「小説作品全体を暗示する文章」論ですか?ロブ=グリエは「私は拍子くらいしか変えてません」とでも言うのだろうけど、どうだろうね、拍子だけで全く違う感じ。
    (2010 07/17)

    大股反復横跳び
    おはようございます(笑)。
    先週から読んでいる「快楽の館」があまり早くは進まないです。というのも、早く読むとなにがなんだかわからなくなる為。機転がきく読者はそういうものを嗅ぎ取りながら読み進めるのでしょうけど、自分の場合…
    とにかく、この小説は微妙なズラしを含有した反復で、最初から最後まで成り立っているので、進んでいるのか戻っているのか…えーっと、それでも少しずつは進んでいるみたい…てな感じで、ありまして…
    んでも、120ページを過ぎた辺りから、昨日読んでいたところ辺りから、だんだん筋の進みが大きく反復しながら、大きく進んでいくようになってきた。回転する双曲線の上を歩いているような…
    とにかく文庫で200ページ弱の小説を、今日で5日目なのだから、ゆっくりペースです。
    明日には終わる…と思います。はい。たぶん…
    (2010 07/19)

    暑いけど「快楽の館」読了
    おはようございます(笑)。
    今朝「快楽の館」を読み終えました。なんだかプルーストとセルバンテスをごたまぜにしたような…一人の男の想像から全てができているという点では前者、いろんな似たような場面がわけわからなくなるくらい繰り返されている点では後者…とにかく…暑いです…それは今(笑)。
    落ち着いたらも少し何か書くかもしれません。
    いまはこれで…

     現実の生身の女を抱きしめたいという青年の妄執は、<もの>と断絶し、そのために人間相互の関係さえ不確かになってしまった現代人の不安そのもの、つまり虚無の空漠のなかで確固とした実体を熱望して身もだえている現代人の妄執そのものだろうから。(p203 解説)
    (2010 07/20)

  • 映画が公開されるので重版されそうな気配もあるのだが、品切れっぽいので買っておいた『快楽の館』。
    『快楽』と言いつつ寧ろ主眼は香港〜マカオのサイバーパンク的世界なんじゃ……? という辺りがロブ=グリエなのだろうか。エロティシズムより妙なエネルギーを感じる……やっぱり巻末解説にあった『実は夢』というのが本当のところだったりして?

  • ポルノグラフィーのようなタイトルと表紙なのだが、内実はヌーヴォーロマンの旗手ロブ=グリエの小説そのものである。物語の半ば以降は、やや散漫になるのだが、それまではひたすらに眼の小説である。すなわち、徹底して眼前の光景や人物の細部にいたるまでを舐めるがごとく眺め尽くすのだ。相手からの情動は伝わらないし、そもそもそれを必要とさえしていない。ここでのエロティシズムは、「見る」ことにおいてのみ、その機能を発露させるのだ。かといって、見る対象は禁じられたものではなく、パーティで踊る女たちやショーの女たちなのである。

  • 読書会じゃなかったら読みきれなかったかも。今はもうすっかり廃れ果てたヴィラブルーの栄華をほこった最期の日の話。同じ場面の連続をキーワードを拾いながら読む。これはなかなか大変でした。でも、読んでよかった。abさんごぽいなーと思いました。

  • ◇起きていること自体は単純なもの。
    ◇小説に限らず映画、絵画すべて「お話のある芸術」には当てはまることだが、「何を伝えるか」同様に「何を伝えないか」が作品を決定する。
    ◇読者を翻弄する。
    ◇スポットのあたらない箇所、カメラの向けられない箇所、言及されない箇所をずっしりと袋に詰め込み背負ったまま、繰り返す。
    ◇繰り返し、ズレていく。食い違っていく。
    ◇すさまじく客観的な描写だが、スポットをどこに置くか、取捨選択においては極めて主観的。
    ◇そんな酩酊状態に叩き込まれる、語り手からの「だがそんなことはどうでもいいではないか?」
    ◇そしてローレンの眼のなかにはなにもない。

    ◇わけがわからないなりに「体験」だった。

  • 12/22
    解釈の多様性、麻薬を飲んでいるかのような読書体験。

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著者プロフィール

Alain Robbe-Grillet(1922-2008)
フランスのブレストに生まれる。国立経済研究所に勤めたのち、バナナなどの熱帯果実を研究する農業技師としてフランス領植民地を転々とするが、熱帯病で帰国の船上で執筆した『消しゴム』により、作家としてデビュー。ジョルジュ・バタイユやロラン・バルトらの積極的な支持を受けながら、創作活動と並行して評論集『新しい小説のために』を発表し、ヌーヴォー・ロマンの旗手として活躍。代表作は、他に『嫉妬』『迷路のなかで』『ニューヨーク革命計画』『ジン──ずれた舗石のあいだの赤い穴』ほか。また、『去年マリエンバートで』のシナリオを手がけて以降は映画にも関心を寄せ、『不滅の女』『ヨーロッパ横断特急』『噓をつく男』『エデン、その後』『快楽の漸進的横滑り』『囚われの美女』など9本を自ら監督している。2004年、アカデミー・フランセーズの会員に選出される。2008年、心臓発作によりカーンで死去。

「2023年 『弑逆者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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