- Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309467016
感想・レビュー・書評
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1830年のプーシキン「葬儀屋」から1939年のナボコフ「博物館を訪ねて」まで、100年に渡るロシアの怪談を年代順に収録。プーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、チェーホフと、ロシアの文豪の錚々たる面々が名前を連ねていて、ロシア人どんだけ怪談好きかよと。かといって全体的にそれほど暗鬱な雰囲気はなく、意外にもちょっとユーモラスな部分もあったりして味わい深い。
プーシキン「葬儀屋」は埋葬した歴代死者が、ザゴスキン「思いがけない客」のほうは悪魔が、自宅にやってきてわいわいやり出してホーンテッドマンションみたいな状態に。ドストエフスキー「ボボーク」は、墓地で転寝してたら墓石の下の死者たちのトークが聞こえてきちゃった男の話で、シニカルだけどコミカル。いずれもそんなにキャー怖い!っていうテンションの話ではないのがいい。
ゴーゴリ「ヴィイ」は翻訳がちょっと古いのが難点だけど、学生さんが自分を使役しようとした魔女を運よく退治してしまったばかりに復讐される話で、最後に召喚されるヴィイという瞼が床まで垂れ下がっているというオバケのラスボスみたいなやつが不気味ながらも、ホラーというよりはちょっとドタバタコメディ的テイストもあるような気がしなくもない。60年代にロシアで映画化もされているそうで、その邦題が「妖婆死棺の呪い」(https://booklog.jp/item/1/B00006RTTT)だというのにちょっとウケる。昭和のトンデモ邦題あるある。
個人的には吸血鬼ものがやっぱり好きなのでA・K・トルストイ(※あのトルストイとは別人)の「吸血鬼の家族」がとても面白かった。仕事でセルビアのある村に立ち寄った男性を泊めてくれた一家の父親が、盗賊退治に出かけて戻ってきたら吸血鬼になっている(このへんの経緯はちょっと謎)吸血鬼の本場東欧では吸血鬼は寂しいのでまず家族から仲間に引き入れようとすると言い伝えがあり、その伝承通り父親は家族を襲おうとする。主人公はまだ犠牲者が少ないうちに仕事の都合でそこを立ち去り半年後に戻ってくると、一家は全滅したと聞かされる。しかし家に立ち寄ると彼が密かに想いを寄せていた娘が残っていて二人は語らうも、実は・・・。終盤、馬で逃げる主人公を吸血鬼たちが追いかけてきて(馬より速く走れる!)なんと子供の吸血鬼を投げつけてくるという攻撃をしかけてくるにいたっては、怖いを通り越してちょっと笑ってしまった。エンタメ性抜群。
チェーホフ「黒衣の僧」は、黒衣の僧の幻覚と対話しちゃう男性の話だけど、幻覚だけで片づけられない色んな解釈ができる気がする。狂気の状態のほうが彼は幸せだったんだな。ドログープ「光と影」は素直で優等生の子供が優しいお母さんと暮らしているだけなのに、ある日突然子供が影絵遊び(※指の組み合わせでシルエットがキツネになるとかああいうの)に夢中になり、それが発端で「影」に憑りつかれてしまう。幽霊も吸血鬼も出てこないのに怖い。ブリューソフ「防衛」は既読だったので再読(https://booklog.jp/item/1/4560072051)死してなお妻を守る夫の幽霊の話。
だんだん時代が新しくなっていくので、グリーン「魔のレコード」になると現代的な犯罪も絡んできたり、友人に頼まれて博物館を訪れた男がなぜか迷路のような空間に迷い込んで出てきたら別のロシアだったナボコフ「博物館を訪ねて」にいたっては、ちょっとSF味すら感じた。編者のセンスかもしれないけれど、あまり嫌な気持ちになる種類の怖さがなく、なんというか、ロシアの怪談は趣味がいいな、という印象を受けました。
※収録
葬儀屋(プーシキン)/思いがけない客(ザゴスキン)/ヴィイ(ゴーゴリ)/幽霊(オドエフスキー)/吸血鬼の家族(A・K・トルストイ)/不思議な話(ツルゲーネフ)/ボボーク(ドストエフスキー)/黒衣の僧(チェーホフ)/光と影(ドログープ)/防衛(ブリューソフ)/魔のレコード(グリーン)/ベネジクトフ(チャヤーノフ)/博物館を訪ねて(ナボコフ) -
このシリーズはドイツ、フランスも読んだが、個人的にはこのロシアの怪談集が一番バラエティに富んでおり、興味深く読めた。ゴーゴリの「ヴィィ」で主人公が三日三晩、教会でひとり魔物との攻防を繰り広げるシーンは緊迫感を持って読んだし、トルストイの「吸血鬼の家族」で、吸血鬼の目を欺いて馬に飛び乗り、主人公が命からがら逃げ出すシーンは手に汗を握りながらページをめくった。影絵遊びをきっかけに狂っていく親子を描いた「光と影」、定番の因果応報ものとも言える「魔のレコード」等も怪談特有の後味の悪さはあるが、個人的には好きな話。
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怖くはないけど、ロシアの名だたる文豪たちのちょっとマイナー寄りな作品がたくさんはいっているのでお得感がある。
ダントツで好きだったのはチェーホフ『黒衣の僧』。
チェーホフの幸せなところから絶望に転がり落ちる容赦ない描写が好きな私はこれもとても好きだった。
狂気と正気の違いとは?狂っていたとしてもそれで幸せだったのなら変に介入するべきではなかったのでは?というように考えさせるところは、同じ作者の『六号病棟』にも通ずるところはあるのかなと思った。
幻覚と対話する様は少し『カラマーゾフの兄弟』のイワンを思い出した。
終わりかたもバッドエンドにみえるけど、本人的には幸せだったのかもしれず、私はそういうオチは好きだなぁ。
あとは『思いがけない客』、『吸血鬼の家族』あたりも好き。 -
ヴィイは、エクソシストの向こうをはった小品。西洋の正統的なホラー。
所々、アラビアンナイトのようなメタ構造を持って作品が出てくるのは作家の趣味? -
思ったよりおもしろくなかったな…
怪談らしい怪談はA・K・トルストイの吸血鬼の家族くらいかなあ。 -
プーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、チェーホフ、ナボコフ等々大作家の幻想・怪奇短編が一括で読めて大変にお値打ちなアンソロジー、計13編。客を呼ぶのが大好きな貴族がある夜コサックたちをもてなすが、次第に怪しげな雰囲気になるザゴスキンの「思いがけない客」(1834)や、墓の下から賑やかなお喋りが聞こえてくる、ドストエフスキー「ボボーク」(1873)は物の怪も死者もやたらとテンション高くて何だか楽しい。他には吸血鬼もののツボをしっかり押さえた、A・K・トルストイ「吸血鬼の家族」(1840頃)が面白/怖かった。
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『アメリカ』と同時に復刊されたロシアの怪談集。
米露という文化的な背景がかなり異なる国のアンソロジーを読み比べると、何を怖いと感じるかは、非常にお国柄が出るものだと思う。このシリーズ……と言っていいのか、『〜怪談集』は、日本や中国、英国、ラテンアメリカなど、様々な国や地域が選ばれているが、これがアフリカや南洋諸島になったらどうなるのだろう。気になる。 -
プーシキン、ゴーゴリ、トルストイ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、チェーホフ…と収録作品の作家陣が豪華。そして文豪の書く『怪談』が面白くない訳がない。
本書を読む前は、「ロシアの怪談話」と言えば土着の民話みたいな作品か?と思っていましたが、蓋を開けてみたら大半はゴシック・ロマンスっぽい方向の作品でしたね。
影絵に囚われる母子を描いたソログープの『光と影』が良い作品のシナリオ運び(怪談ならではの小説上の演出と言えば良いのか)で気に入りました。
この本、気になっているのですが、
既読作が多いようで、
買おうかどうしようか迷ったままです。
ソログ...
この本、気になっているのですが、
既読作が多いようで、
買おうかどうしようか迷ったままです。
ソログープも入っているのですか
そうですか……(うううむ)。
「光と影」は、
故・中井英夫が絶賛していたのがきっかけで
読みました。
人の心がジワジワ壊れ、
狂気が伝染するのが恐ろしく、
しかも淡々とした調子に背筋が冷たくなり……。
あ、また再読したくなってきました(笑)。
流石に博識でいらっしゃいますね!私はこの本で初めてソログープという作家を知りました。
ええ、本当に良...
流石に博識でいらっしゃいますね!私はこの本で初めてソログープという作家を知りました。
ええ、本当に良かったです!
はっきり言うと、この作品がなかったら、読んだあとこの本は処分していたと思います。そうですか、きょむくも(勝手な略)の中井英夫氏推薦でしたか。ちなみに翻訳は貝澤哉さんという人です。
透明感のある端正な訳文でした♪