東欧怪談集 (河出文庫 ぬ 1-2)

制作 : 沼野 充義 
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 243
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467245

感想・レビュー・書評

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  • またまた、『翻訳文学試食会』で紹介されていた作品(#43『夢』)があったため、購入して読了。

    「怪談」でまとめるのは少々無理がある気がするが、マケドニア語、セルビア語、イディッシュ語など、日本語で読めること自体に価値がある作品が並んでおり、一読の価値があることに間違いはない。

    作品としては、『夢』は少し読みづらく、『不吉なマドンナ』、『不思議通り』あたりが、怪談としてしっかり楽しめたように思う。作品に納らめられた国の中では、ポーランド、チェコ、ハンガリーのみ訪れたことがあるが、再訪する機会があれば、行く前にもう一度読んだうえ、夜の暗闇を歩いてみたい。

  • 英国の古典怪奇小説とも、ドイツのそれとも違う独特の暗鬱さがある。複雑で往々にして悲劇を伴う歴史背景が色濃く出ているからだろうし、冷戦時代の“(ソ連に実質支配された)東側諸国”―という記憶と印象が自分にもあるからだろう、か。

  • 河出文庫の各国怪談アンソロジーシリーズ、今月は東欧が復刊!!かなり幅広い範囲での採収となっており、国ごとに分類されていて親切。なかなか翻訳されない東欧作家(解説によると初訳が大半らしい)をまとめて読める、新たに知れるという点だけでも素晴らしい1冊。

    全体的には、怪談としては定番の幽霊ものが多かったですが(「トラルバの騎士分団長の物語」「シャモタ氏の恋人」「生まれそこなった命」「出会い」「一万二千頭の牛」等)、シチュエーションは様々で、どれも楽しめました。

    「吸血鬼」というタイトルのものが2作収録されていますが、どちらも内容的にはこちらがイメージする、墓から蘇って美女の生き血を啜る…的なものとは違い、ヤン・ネルダの吸血鬼は、不吉な死神くらいのニュアンス、アンドレエフスキの吸血鬼は、悪戯好きの亡霊が妻の元から去らないくらいの内容でした。以下印象に残ったものをいくつか。

    異色だったのはムロージェック「笑うでぶ」タイトルからして身も蓋もない感じですが、内容もこのまんま、次々と「笑うでぶ」が登場してどんどん増えていくシュールな展開で、笑いと恐怖は紙一重だなと。コワコフスキ「こぶ」は、ある男にできた瘤が、どんどん巨大化して本体の人間そっくりになりやがて…というちょっとSF味もある話。

    イラーセク「ファウストの館」はタイトル通り、ファウストが悪魔に連れ去られたという曰くのある館に住みついた大学生がやっぱり悪魔に魅入られてしまう。ルヴォヴィツ「不吉なマドンナ」は、呪われた絵画もの。

    フリジェシュ「ドーディ」は、大人には見えない“悪い子”に見込まれてしまった子供ドーディが、自分の大切なものを次々悪い子のために差し出していき最後は…悪魔や幽霊というより死の具現化だったのだろうか、子供が可哀想なのは辛い。

    アイザック・シンガー「バビロンの男」は、不幸な魔法使いの話で、これまたなんだか可哀想。パヴィチ「ルカレヴィチ、エフロシニア」は『ハザール事典』の一編で、これが一番吸血鬼ぽかった。『ハザール事典』はずっと読もうか迷っていたのだけど(分厚いし、2冊あるし)やっぱり読みたいかも。ダニロ・キシュはこの中で唯一既読の作品だった(https://booklog.jp/item/1/4488070779

    ミハエスク「夢」は怪談というより人間の心理ドラマとして読み応えがありました。溺愛していた美しい妻と、戦争で生き別れてしまった富裕な男が、妻と同じ名の踊子の噂を聞き、もしそれが妻であったら…と再会を夢想し、夢オチを繰り返す。しかし現実に現れたのは…。体を売り生き延びてきた身持ち悪くとも美しいままの妻か、貞節を守るあまり美貌を失った妻か、揺れ動く男の複雑な心理が幻想的に味付けされている。


    ※収録
    ●ポーランド
    『サラゴサ手稿』第53日トラルバの騎士分団長の物語(ヤン・ポトツキ)/不思議通り(フランチシェク・ミランドラ)/シャモタ氏の恋人(ステファン・グラビンスキ)/笑うでぶ(スワヴォーミル・ムロージェック)/こぶ(レシェク・コワコフスキ)/蠅(ヨネカワ・カズミ)
    ●チェコ
    吸血鬼(ヤン・ネルダ)/ファウストの館(アロイス・イラーセク)/足あと(カレル・チャペック)/不吉なマドンナ(イジ―・カラーセク・ゼ・ルヴォヴィツ)/生まれそこなった命(エダ・クリセオヴァー)
    ●スロヴァキア
    出会い(フランチシェク・シヴァントネル)/静寂(ヤーン・レンチョ)/この世の終わり(ヨゼフ・プシカーシ)
    ●ハンガリー
    ドーディ(カリンティ・フリジェシュ)/蛙(チャート・ゲーザ)/骨と骨髄(タマーシ・アーロン)
    ●ユダヤ
    ゴーレム伝説(イツホク・レイブシュ・ペレツ)/バビロンの男(イツホク・パシヴァス-アイザック・シンガー)
    ●セルビア
    象牙の女(イヴォ・アンドリッチ)/『ハザール事典』より ルカレヴィチ、エフロシニア(ミロラド・パヴィチ)/『死者の百科事典』より 見知らぬ人の鏡(ダニロ・キシュ)
    ●マケドニア
    吸血鬼(ペトレ・М・アンドレエフスキ)
    ●ルーマニア
    一万二千頭の牛(ミルチャ・エリアーデ)/夢(ジプ・I・ミハエスク)
    ●ロシア
    東スラヴ人の歌(リュドミラ・ペトルシェフスカヤ)

  • 装丁が変わるだけみたい。ツマラナイ(祝復刊と言うべきか?)、、、

    東欧怪談集 :沼野 充義|河出書房新社
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309467245/
    旧版
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309461366/

    沼野充義(Numano Mitsuyoshi) ameqlist 翻訳作品集成(Japanese Translation List)
    http://ameqlist.com/japan_na/numano.htm#kawadea02

  •  ロシアのウクライナ侵攻が話題となってた3月に東欧の怪談集とはどのようなものかと気になり、手に取った。だが、なんだかんだあって読了するのに半年近くも経ってしまった。 
     まず、河出文庫からは他にも世界の怪談集シリーズとして、アメリカ怪談集やイギリス怪談集が出版されている。これらの怪談集は一つの国を題材に扱っているので、比較的時系列や地域別などによって分類できそうである。しかし、東欧怪談集はよくよく考えるとポーランドやチェコ、ウクライナなど様々な国と民族が入り乱れている地域で、厳密な「東欧」は政治的、文化的に見るかで厳密な地域が変動するだろうし、本書でもそれを指摘している。
     よって、どのような怪談スタイルが傾向として東欧にあるのかと気になったが、読了した感想はよくわからないである。例えば、「こぶ」や「蠅」は怪談というよりも一種の寓話のようであった。その一方で「サラゴサ手稿」や「ファウストの館」は落ちがしっかりとした形式的なホラー小説であった。なので、当然と言えば当然であるが渾然としたアンソロジーで、その点も本書の最後に沼野氏が指摘している。
     このような構成を意図してかあるいは意図せざるとも結果的に取る本書では、東欧という曖昧な地域が持つ独特な雰囲気の中に足を踏み入れたような感覚に陥る。そして、終始鬱蒼として頭が釈然としない状態で読み終えた。
     また、東欧で使われているマイナーな言語を翻訳した作品が多く、その点でも文学的に価値ある作品であるだろう。

  • 怪談集という名前だが、怪談テイストの本といったところである。

  • 河出文庫グランドフェアで六冊選んだうちの一冊。

  • なぜだかわからないが、昔から東欧のおしゃれさに惹かれていて、それなのに国名とか全然覚えられなく今に至る。私の生まれた場所はダム建設の影響により出没した湿気の多い土地で、あの辺りのどよーんとした国土に空気感が似ているような、勝手に親近感を覚えていたのですが、今回、この非常によくまとまった短編集を手に取りましたが、そうですねー、行儀が良すぎて、個々のはっちゃけた感じが足りない気がして、ちょっと飽きました。まあオムニバスってそんなもんですよね。

  • <閲覧スタッフより>
    怖いのは怪異そのものではなく、怪異を求めてしまう人間なのかもしれない。美しい情景と凄惨な結末のコントラストが退屈している脳に刺激を与えます。
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    所在記号:908.3||トウ
    資料番号:10256016
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  • 東欧の様々な国の作家による比較的近代の短編アンソロジー。
    東欧、といえばドラキュラだが、そういうクラシックな妖怪は出てこない。
    私の中の東欧のイメージからかどの国の話も沈痛な陰のある空気が流れていた。その空気にどっぷり浸って暗い世界をあちこち探険して帰ってきた、今はそんな気持ちだ。

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