ロード・ジム (河出文庫 コ 9-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467283

感想・レビュー・書評

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  • ノルウェイの森の永沢が敬愛する作家の一人として挙げていたジョゼフ・コンラッド。漠然とした興味で手に取ったのが本作。既訳が何個か出ているが柴田訳を見つけるまでに何度も挫折。最初から柴田訳を見つけておけばよかった。。
    訳文を読んだだけで原文のコンラッドの英語の硬質そうな感じが伝わってくる。感情の描写では一読しただけでは理解に苦しむ部分も多く、なかなか噛み砕けなかったが風景の描写自体はかなり克明というかリアルで海原を進む船の様子がはっきりとイメージできた。
    爆笑問題の太田が本作を「線路に倒れた人を助ける勇気がないのが人間だが自問自答を続けることで助けられるようになるのも人間なのだと教えてくれる作品」と評していたがこんなに正確な書評はない。ジムが作中で何度も私のうちの一人と形容されているように沈みゆく船から飛び降りる行為は立ち止まって考えると誰にも批判できない行動である。
    難解な文と分量の多さで敬遠されることもある本作だが読む人の倫理観を揺さぶり、当事者意識を持たせるようなリアルな作品にするにはここまで長くなるのも必要なんだと思う。

  • 乗客を残し沈没船から船長含む数人とともに逃げたイギリス人航海士のジム。自分の行いの自責と羞恥に耐え忍び、噂を逃れてスマトラの辺境の地へ。そこで村人らとコミュニティを築き指導者となる。周りは彼をこう呼ぶ。ジム閣下(ロード・ジム)と。
    語り手の友人マーロウを通して描かれる、ある男の生涯。

    この小説を一文で要約すれば「失った名誉の回復」だろう。だが、読めばどことなくつらい。そのつらさは、懐古を滲ませて古き良き英国紳士の規範の喪失と回復を描いたからではない。抽象度を上げれば、人間なら誰しもが経験する自分の理想と現実の乖離。その空隙を埋めよう、折り合いをつけようと自分の人生と格闘する虚しさと哀しさゆえだ。

    ジムの生の営みを通した普遍性。ジムは語り部の友人のマーロウであり、作品内その他の人物の全員であり、さらに読者である私で、あなたでもある。ジムの生涯を通して自分の直視したくない過去・ぱっとしない現在・見通せない未来を読んでいる。これほど身につらい読書があるだろうか。翻訳も素晴らしいが、この先再読できるかどうか・・。

  • 『ノルウェイの森 上』

  • 雑誌BRUTUSの村上春樹特集で、本人が選んだ51冊のブックガイドの中でまだ未読だったものの1冊。コンラッドの名作『闇の奥』は読んでいたのだが、同じ語り手マーロウが登場する他作品ある、というのはそもそも知らなかった。

    コンラッドの作品は、基本的に植民地支配がテーマであり、本書ではインドネシアのスマトラ島が舞台となる。主人公は、多くのイスラム教巡礼者を乗せた客船が沈没寸前となったことから客船を見捨ててボートで逃げ出したイギリス人航海士のジムという男である。彼が自らの名誉を回復せんがごとく、スマトラ島の未開の地を開拓し、現地人のリーダーとしてコミュニティを作っていく・・・というのが大まかなあらすじである。

    ジムは、航海士という職業でありながら、沈没寸前の客船を見捨てて逃げたことで失った自身の名誉を、とにかく取り戻そうと悪戦苦闘する。本書は一見、職業倫理の問題のようにも見えるが(航海士という職業でありながらジムは乗客を見捨てたのだから)、本書が読者の旨をえぐるのはむしろジム自身の行動が、「”こうありたい”と思う理想の自分に対して、現実の姿が追い付いていないというギャップ」を埋めるためになされているように見える点である。職業倫理の問題であればそのテーマが普遍的なものであるとはいいがたい。しかし、理想の自分に対する現実の自分のギャップであれば、これはどんな人間でも一度は考えたことがある深みを持つことになる。

    そうした点で極めて特殊な造形の人物を描きつつも、その実態は普遍性を持つという文学作品のお手本のような作品だと思い、個人的にいろいろと考えさせられてしまった。

    もちろん柴田先生の翻訳も素晴らしい。

  • 2021/04/03 朝日新聞

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著者プロフィール

1857年ロシア領ポーランド生まれ。商船員として世界を航海したのち、1895年作家デビュー。99年『闇の奥』を発表。本書のほか、『密偵』『西欧人の眼に』など、現代にも通じる傑作を数多く遺した。

「2021年 『ロード・ジム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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