自然主義の臨界

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326153787

作品紹介・あらすじ

自然主義は普遍化可能なプログラムか?生命科学の周辺で、その微妙なよどみに立ち会う。

感想・レビュー・書評

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  • 「自然主義」とは、自然科学的方法論をあらゆる領域に及ぼそうとする世界観のことを意味する。本書は、自然科学的な見方を適用することが難しい領域に自然主義が踏み込んでいったときに、なかば不可避的に異質なものが混入してしまうケースを考察している。

    第1論文では、日本主義的科学の代表的論客であり、東条内閣の下で文部大臣を務めた橋田邦彦の学問が論じられる。橋田は、禅の発想に依拠して無我の境地で自己を対象の内に没却させる「行の科学」の必要を叫んだ。著者はこうした橋田の考えが、欧米の生物学でも一定の影響力を持っていた全体論的な発想とも響きあう側面があったことを科学史的に裏づけながらも、当時の時代状況の中でみずからの言葉が単なる科学の領域を超えて政治的な「倍音」を響かせてしまうことを、むしろ積極的に引き受けていった経緯を明らかにしている。

    第2論文では、摂食障害が単なる医学的な問題にとどまるものではなく、文化的・社会的な領域にも深く関わっていることが論じられる。第3論文では、19世紀に成立した生物の発生についてのヘッケルの学説が、他の思いがけない言説空間にまで影響を及ぼしていったことを、フィレンツィの精神分析学や三木成夫の生命観、さらには夢野久作の『ドグラ・マグラ』などのテクストの内に読み取ろうとしている。

    このように、本書では科学史の資料と文学テクストが並列して扱われている。だが、本書は自然科学の一義的な見方を「脱構築」するポスト・モダンの発想にはいささかも与するものではない。著者は、デリダやドゥルーズなど、フランスで華々しい活躍を見せたスターたちには非共感的である(ただし著者は、自身がフーコーの系譜学からは影響を受けたことを認めている)。こうした著者の姿勢は、本書に収録されている第7論文「ジャック・ブーヴレス」に明らかである。著者は、フランス本国でポスト・モダンの思想家たちに対して呵責のない批判を放ったブーヴレスの、「思想の任務は誘惑ではない」という朴訥な主張を、共感的に紹介している。

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著者プロフィール

東京大学大学院教育学研究科教授

「2016年 『談 no.106』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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