環境に拡がる心: 生態学的哲学の展望 (双書エニグマ 8)

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326199112

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  • アフォーダンスとは「動物のの関係において規定される環境の特性」(ギブソン『直接知覚論の根拠』)のことである。p13

    バフチンの理論は、私たちの発話に意味が、いかに相互参照的な対話の過程に依存し、対話という環境に埋め込まれたものであるかを明らかにしてくれる。バフチンによれば、いかなる発話もそれ以前の発話への応答という性格をもち、また次の応答を生み出してゆく作用をもつ。ここに見られるのは相互参照的なプロセスであり、行為者は個人的な心理作用に還元できない共同行為に参与している。p6

    心をコンピュータ・プログラムという比喩で理解しようとする人は、それを自覚していようがいまいが、「自分で自分の声を聞く」というデカルト的な枠組みで問題を立てているのである。そして
    、ここで同時に気づくべきは、この枠組みにおいては、命令と服従という社会的関係をモデルとして心身関係を理解していることである。ジェームス・ギブソンはこうしたデカルト的な心の概念に批判的であり、「感覚的信号や運動指令といった考えは、すべて誤りである。脳はメッセージを受信することもなければ、命令を出すこともない」という大胆な考えを提示した。p34

    ギブソンによれば、ある動物が他の動物にアフォードするものには、社会的な相互作用も含まれている。ある動物と他の動物の行動はアフォーダンスを与えあい、相互参照的な行動のループを形づくる。たとえば、性的、養育的、競争的、協調的な行動がそうであり、人間の会話もそうである(生態額的視覚論:147)。p93

    バフチンのテキスト論は、私たちの発話が他人から発せられた言葉という環境中のリソースへの応答であり、発話における私たちのメッセージや意図が他人の言葉によって媒介され導かれていること、したがって、発話が根源的な受動性に浸されていることを明確に指摘している。p125

    きわめて自由で打ち解けた会話においても、私たちは自分の発話を一定のジャンルに流し込んでいる。発話ジャンルは一定の形式をもって発話を組織しており、その形式のなかには、発話連鎖の長さ、構成の仕方、発話の終わり方も含まれている。この形式そのものが発話を完結させるひとつの要因となりうる。発話の連鎖を終了させるものは、人間の心理(意図)ばかりでなく、発話の内容や形式そのものも発話を終了させうるのである。ちょうど環境中の地形や部屋の配置のアフォーダンスが私たちの歩行をガイドするのである。p128

    このバフチンの言う多声性、すなわち、さまざまな他人の声の残響が異物のままとどまり、もともとの指示対象を保持したままに自分の声と衝突すること、これこそが思考に他ならない。したがって、思考とは本質的に政治的な活動である。というのも、それは多様な声のあいだの絶えざる交渉であり、対立であり、闘争であり、調停であり、和解や妥協だからである。p132

    環境がどのように設定されているか、あるいは場合によってはそれがいかなる社会的・政治的・文化的文脈を担っているかについては一顧だにせず、心とか内面とか主観とか呼ばれるものに関心を集中させることは、ウィナーの言う「社会の現実化、実際的業務を手がけた後の残余」しか扱わないことにならないだろうか。これはまさしく心理主義化された発想である。心理主義化とは、社会現象を社会からではなく、つねに個々人の性格や内面から理解しようとする傾向であり、共感や相手の気持ち、あるいは、自己実現を最重要視する傾向のことである。p155


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著者プロフィール

立教大学文学部教授。NPO法人 アーダコーダ副理事。
専門は、心の哲学・現象学・倫理学・応用倫理学。社会が内包する問題に哲学的見地から切り込む。
著書に『メルロ=ポンティの意味論』(2000年)、『道徳を問いなおす』(2011年)、『境界の現象学』(2014年)こども哲学についての著者に、『「こども哲学」で対話力と思考力を育てる』河出書房新社、『じぶんで考えじぶんで話せるこどもを育てる哲学レッスン』 河出書房新社、『問う方法・考える方法 「探究型の学習」のために』ちくまプリマー新書、『対話ではじめるこどもの哲学 道徳ってなに?』全4巻 童心社、共著『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ』 毎日新聞出版など多数。

「2023年 『こどもたちが考え、話し合うための絵本ガイドブック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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