天皇と軍隊の近代史 (けいそうブックス)

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326248506

作品紹介・あらすじ

天皇の譲位による改元という経験をへた今、近代における天皇の位置と役割をどう考えるのか。軍隊との関係を通して歴史を見つめる。

『戦争の論理』(2005年)以降に発表された論文のなかから読みやすさと読み応えを兼ね備えた論考を選び、昭和期における天皇と軍隊の相克を論じた書き下ろしの総論とともに収録。明快な論理と筆致で事実を照らし、歴史を捉える新たな視角を提示する論文集。近代日本の政軍関係の特質を析出し、国家の意思決定の背景を説き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 論文集に総論を後で加筆した体裁のためか、加藤陽子さんの他の著作に比べると少々読みにくい。

    戦争責任を特定の個人に帰するのはナンセンスと思いつつも、敢えて、先を見通す力に欠ける指導者名を挙げると、松岡洋右、近衛文麿の二人が両巨頭か。東條英機など、忠心溢れる悩める役人、的人物で、生まれる場所と時代が違えば、大変立派な生涯を送ったことだろう。一方で、先の二人は、いつとどこに生まれても、その大言壮語によって、きっと周りに迷惑掛けまくりの人生を送ったことだろう。

    昭和天皇を悪く書いた本に読みあたったことは未だない。優秀かそうでないかの次元を超えた、敬愛されるべき存在なのだろう。P312. 1945年8月10日の御前会議における天皇御発言を巡る4人のメモの微妙な違いが、それぞれの立場や本音を反映していて面白かった。軍人が、軍批判の箇所を書き残さず、はまあ当然として、無辜の国民のため、と世界平和のため、のどちらが心に残ったか。世界平和の言葉は、木戸幸一日記にはなく、参謀本部第一部長宮崎周一の日記にはある、という意外性が深い。

  •  書名とはしがきから予想した天皇と軍の関係は、本書の中ではさほど割合が多くない。この時代の軍の概略は知っているつもりだったが、詳細な各論が少なくなく、「わかりやすい」をテーマとしたけいそうブックスにしては、自分には難しく感じた。
     その中で、自分が興味を持った天皇と軍の関係。明治期の西南戦争後、徴兵制軍隊と天皇との直結関係を山縣有朋が構想し、また陸軍省も政治勢力と軍隊の結託阻止、私兵化阻止を目指したという。軍人勅諭もその一環だ。しかし満州事変では、著者(と著者が引用している三谷太一郎もか)は「天皇の指揮権=統帥権が軍エリート自身によって解体された事件」と位置づける。同時期、海軍軍令部の権限が急速に拡大されることに対し、統帥権の主体である当の天皇が不信を抱いていた。ただ、1940〜41年頃には、対英米開戦を懸念するあまり天皇は積極的に戦争指導を行うようになっていく。
     興味深いのが、戦争末期には南原繁等の終戦工作グループも、米ソフト・ピース派も、天皇の価値を高く保ち、天皇を利用した終戦を考えていたことである。結果的に、武装解除も含めた天皇の「聖断」により戦争は終わった。天皇の戦争責任論と表裏一体かもしれないが、このような天皇の位置づけもあったというわけだ。
     他の気づきの点は、日清戦争は、最新研究では開戦時には積極的な開戦の決意はなく、まだ日清共同での朝鮮内政改革を考えていた点。すなわち、朝鮮を清から独立させ、文明の国日本により進歩させるための戦争、というイメージは後付けだったこと。日露戦争は、朝鮮への排他的支配を狙う日本とそれを認めないロシアとの間の、朝鮮を契機とした戦争だったこと。また、宣戦布告なき日中戦争では、陸軍のみが外交を主導したとのイメージとは異なり、政府、軍部とも政戦両略の一致を目指していたこと。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/784311

  • 筆者による論説集。

  • 天皇制の「建前」と建前を教育していく過程で「ドグマ」と化していく問題は、大学入試のときの論説問題を思い出した。

  • 以下、引用

    先に、敗戦時における久野収の失望を見たが、戦禍に疲弊し、食糧や物資の欠乏に困窮していた国民にとって、混乱の中で多くの物資を担いで復員してきた兵隊の姿は、軍隊に対する国民の最後の信頼を徹底的に失わせるに十分であった。軍と国民の決定的な乖離が、この軍保
    有物資の処分という形で噴出したのである。復員する兵員に軍保有資材を配分してしまおうとの決定が、末端での混乱からくる、散発的な軍記弛緩の結果、なしくずし的になされたのではなかった点に注意を要する。処分の根本方針は、まさに、政府中枢の、鈴木貫太郎内閣最後の閣議決定で決められたものであった。その方針を閣議に請議したのは、内閣綜合計画局長官池田純久であった。池田は、敗戦が確定した後、官(軍)保有物資をちほうこうきょうなどへの移管、あるいは、民間への保有転換を行なうことで、連合国(すなわちアメリカ)への物資引き渡しを逃れようと図った。

  • 事実と主観をまぜ、事実の説明を主観で行っている。
    興味があまりない分野であるというのと、読むのに凄いストレスだったので途中で終了。
    https://seisenudoku.seesaa.net/article/477892375.html

  • 理解するには、知識不足でした。
    興味だけでは、理解出来無い。
    日本近代史について、相当の知識が必要と思う。
    教科書程度では、太刀打ちできなかった。

  • 書き下ろしや論考などを集めた本で、全体を通じて明治維新以降の日本の軍、政府、元老、天皇といった組織あるいは人々がどのような考え・思想を持ち、どのような役割を果たして日本としての意思決定がなされてきたのかが丁寧に論述されている。
    「幕府論」、昭和の軍と天皇の緊張関係、満州に費やした費用と人命についてリットンが内田康哉外相に述べた言葉、ドイツと山東鉄道を巡る議論、日本の政軍関係と大本営、日本軍の武装解除と「戦後犯罪」などなど、興味深いテーマがいろいろ。

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著者プロフィール

東京大学大学院人文社会系研究科教授

「2023年 『「戦前歴史学」のアリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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