絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか: 空間の絵本学

  • 勁草書房
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本棚登録 : 399
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326852000

作品紹介・あらすじ

絵本で動物たちは次々に出会い、列を作り、塔になり、袋に入り込む。名作を参照し、「空間構成のプロセス」という観点から考察する。

絵本という空間はどのように構成されていくのか。動物たちが塔になり、クライマックスでの崩壊を経て、元の状態へと戻る均衡回復の物語は、積み木の重なりが崩壊するのと同じ知覚体験をもたらす。「空間構成のプロセス」の観点から、絵本特有のパターンを読み解き、絵本が読者にいかなる体験を生みだすのか、人間学をもとに考察する。

感想・レビュー・書評

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  • 絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているのか - 株式会社 勁草書房
    https://www.keisoshobo.co.jp/book/b620102.html

  • 世界で長く愛される絵本には共通した構造がありその一つに「次々と動物が現れ、一列に並ぶ」があります。なぜ子どもはこの構造を喜んで読むのか。本書ではその問いを探ります。そもそもなぜ動物なのか?次々と現れるのはなぜ? 興味深い考察でした。

    わたしが1番好きな絵本のひとつにウクライナ民謡の「てぶくろ」がありますが再読すると多様な民族を受け入れ、理解してきた人間の普遍的な思いと歴史が見えてきます。

  • 最初、タイトルが問いになっている本を見逃せなくなってきた(笑)

    文学論の本は読んできたけれど、絵本論は初めて。
    文字とイラストレーションが融合する絵本の「面白さ」に迫っていく一冊。

    「つまり絵本の『主人公』は、小説の主人公のような行為主体ではなく、そのため経験によって成長などしないのです」

    「子どもにとって重要なのは、『主人公』が元の場所に帰ってくることだけではなく、世界のバランスが元の状態にもどることなのです」

    「関係が積み重なる絵本は、この『そしてね』とつながっていく幼児の語りに対応しているのです。そのおかげで、幼児は絵本を理解することができます」

    「結論を先取りして述べるなら、動物は子どもにとって『人間になること(人間化)』(発達)の『手段』であると同時に、『人間を超えること(脱人間化)』(生成)を可能とする『他者』であるからです。つまり、子どもは動物と出会うことによって人間になるとともに、人間を超えた存在になることができるのです」

    「同じ絵本を何度も何度も聞きたがる子どもの心理は、均衡回復が完全である安心感によるのです。それというのも、そこには本来の意味での終わりがないからです」

  • 定番とも言える絵本を分析して、いくつかのパターンにたどり着く。言われてみれば、そうだねそうだねとうなずける事だが、それを体系的にまとめあげているところがスゴイ。

  • 絵本をその空間構成によって考察しているのが興味深い。
    均衡回復型かそうでないか、積み木型か入れ子型かなど、整理されてみるとなるほどと納得の絵本の世界。
    大人がストーリーを知ってしまったら終了の世界と何度でも繰り返し読む子どもの世界の違いなどもうまく説明され、絵本の特徴のページをめくることで多様な動物たちを登場させるなど、面白かったです。

  • Youtubeで紹介されていたので読んで見ました。

    空間構成という視点で絵本を考察しており、絵本の分類は非常に興味深いものでした。

    均衡回復がキーワードになっており、子どもが好きな遊びを考えるとなるほど!と思わせられる考察がたくさんありました。

  • NDC 726
    「絵本で動物たちは次々に出会い、列を作り、塔になり、袋に入り込む。名作を参照し、「空間構成のプロセス」という観点から考察する。

    絵本という空間はどのように構成されていくのか。動物たちが塔になり、クライマックスでの崩壊を経て、元の状態へと戻る均衡回復の物語は、積み木の重なりが崩壊するのと同じ知覚体験をもたらす。「空間構成のプロセス」の観点から、絵本特有のパターンを読み解き、絵本が読者にいかなる体験を生みだすのか、人間学をもとに考察する。」

    目次
    1章 絵本はどのように作られているのか―空間構成のプロセスからとらえた絵本論
    2章 動物たちが一列で行進する絵本―積み木型絵本とは何か
    3章 動物たちがつぎつぎ呑み込まれる絵本―入れ子型絵本とは何か
    4章 動物たちが積み重なり合ったり呑み込まれたり―均衡回復の絵本体験
    5章 見えない関係が文字によって積み重なる絵本―積み木型絵本の拡張1
    6章 絵や文字ではなく関係が積み重なる絵本―積み木型絵本の拡張2
    7章 絵本作家が挑戦する積み重なる関係の絵本―絵本の新たな表現の可能性
    8章 絵本になぜいろいろな動物たちが登場するのか―均衡回復型絵本のなかの動物論
    9章 成長する主人公の絵本―均衡の回復されない絵本論
    10章 これでおしまい?―絵本世界の体験を生きる絵本世界論へ

    著者等紹介
    矢野智司[ヤノサトジ]
    現在、佛教大学教育学部教授、京都大学名誉教授。京都大学教育学研究科博士課程中退、教育学博士

    佐々木美砂[ササキミサ]
    高崎市立図書館図書館司書をへて現在は絵本研究者。梅花女子大学大学院文学研究科児童文学専攻修士課程修了

  • 電子ブックへのリンク:https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00081493
    ※学外から利用する場合は、リンク先にて「学認でログイン」をクリック→入学時に配布されたID/PWでログイン

  • 子どもたちだけでなく、大人も魅了される絵本の世界。その絵本には、しばしば、動物たちが一列に並んで歩いている様子が見られます。『もりのなか』や『ブレーメンの音楽隊』『ピヨピヨスーパーマーケット』など、縦だけでなく、時には立体的に連なる動物たち。動物たちの行進は、私たちにとってあまりにも見慣れている構図で、そこになにかしらの疑問は特に感じていないのではないしょうか。
     そんな絵本の構図こそが、絵本作家が作りだした他に類のない絵本世界を象徴する構図だと断言し、解説しているのが本書です。著者たちは、この構図が作りだしている絵本世界について考えることが、絵本がもたらす独自の体験を考えるための通路となり、このような絵本を必要としてきた「人間とは何か」を明らかにすることができ、絵本の力の謎に迫ることができると述べています。
     
     著者たちは、まず空間構成のプロセスから絵本を解体していきます。児童文学作家の瀬田貞二さんが『幼い子の文学』(中央公論新社, 1980)のなかで述べていた、「幼な子が喜ぶのは、行きて帰し物語」という物語の構造を元に、絵本の世界で起こる出来事を人間的な時間における経験ではなく、力学的で即物的な「空間のプロセス」としてとらえるための工夫だと説明します。そこから、動物たちが一列で行進する絵本、つぎつぎと飲み込まれる絵本など、動物たちが積み重なる絵本から、登場人物の関係の積み重ねにまで言及します。
     
     本書は、教育人間学の研究者で、絵本論・物語論を発表してきた矢野氏と、現場経験も踏まえて絵本学を研究してきた佐々木氏の共同研究の成果となる一冊です。
     絵本とは何か、絵本が人間形成にどんな影響があるのか、それぞれの研究者としての目をとおして論じられた内容によって、さらに絵本を知ることができます。
     ぜひ、その一端に触れてみてはどうでしょうか?
    (へろへろ隊員 やまだ)

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著者プロフィール

1954年神戸生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程中退。香川大学教育学部助教授をへて、1992年より京都大学教育学部助教授。2002年より京都大学大学院教育学研究科教授(臨床教育学講座)。博士(教育学)。専門は、教育人間学、臨床教育学。著書に『子どもという思想』『ソクラテスのダブル・バインド』『自己変容という物語』『動物絵本をめぐる冒険』『意味が躍動する生とは何か』『贈与と交換の教育学』『幼児理解の現象学』『大人が子どもにおくりとどける40の物語』などがある。

「2015年 『講座スピリチュアル学 第5巻 スピリチュアリティと教育』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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