物語 古代ギリシア人の歴史 (光文社新書)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334032609

作品紹介・あらすじ

従来の古代ギリシア史研究は、文献史学や美術史を出発点とするものが多かった。しかし考古学的手法で迫ると、まったく違った古代ギリシアの人々の姿が見えてくるという。自分の足で遺跡や遺構を訪ね歩き、発掘にもたずさわる新進気鋭のギリシア考古学者が見た、記録に残らない古代ギリシア史。そこには従来の清廉なギリシア市民のイメージとは異なる、人間臭いドラマがあった-。古代ギリシアに生きていた有名・無名の人物7人が、問わず語りに紡ぎ出す物語を通して読む、新しいギリシア古代史の世界。

感想・レビュー・書評

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  • あたかも古代ギリシア人のナマの声を聞いているような錯覚を覚えてしまう7本の歴史小説の短編と、その分かりやすい解説がそれぞれに付いていて、とても読みやすく内容も充実している。「ユートピア史観を問い直す」という副題が何か難しそうな感じで、いきなり「記号としてのギリシア」で始まるのでここで敬遠してしまう人がいるかもしれないが、読んでみれば著者の主張は実に明快で分かりやすい。最初に簡単な古代ギリシアの歴史について、年表や地図などとともに簡単なイントロダクションもあって、初心者に親切な本。それよりもこの本の中核を成す7本の短編は、どれも小説家ではない著者が執筆したもので、本格的な短編小説とは呼べないかもしれないが、それなりに起承転結がまとまっており、その直後の「解説」で、どの部分が著者の創作部分でどの部分が文献に基づいているのか、なぜ著者はそのようなストーリー展開にしたのか、歴史学ではどのように議論されているか、といった専門家ならではの解説がある点が興味深いし、読者に考える余地を残してくれるし、ストーリーとともに簡単な歴史を覚えることができた。上記の『世界歴史の旅 ギリシア』とは対照的な本である。
     個人的には「ナイルを遡ったギリシア人」、「『ぺプロスの少女』の物語」、「『姦通事件』の二つの顔」が特に面白かった。

  • 一言でいって著者は天才ですね。
    私のようにギリシア史にそう思い入れもない者をも夢中にさせてしまうくらい面白かったです。
    7つの物語のうち・・
    第2章の「民主政治をつくるために抜かれた剣」
          ペプロスの少女の物語
    第6章の「姦通事件」の二つの顔
          エウフィレトスとその妻の物語

    が特に面白かったです。
    どちらも女性が語り手になっているからでしょうか。

    何千年かの時とギリシアという遠い地・・
    での出来事であっても人々の日々の暮らしと家族を思う気持ちは現代と同じように存在していたことが解りました。
    まさに時空を超えたという感じでした。

    とりわけ第6章は衝撃的でした。以前読んだ「古代ギリシアの女たち」桜井万里子 著 の中で・・姦通より強姦のほうが罪が軽いという全く女性の人格や感情を無視した法律に驚きとともに怒りさえ覚えましたが・・

    そのことを裏付けるような話でした。
    いかに女性の立場が低かったか思い知らされました。
    でもそんな中にも淡い恋心があったり若者に好意を抱くという人間らしさが上手に描かれているのもよかったです。

    また、著者の風景描写の素晴らしさ・・例えば・・
    『後ろの山の端から太陽が昇ってくると、目の前の海がぐんぐん輝きをまし、深い紺色から晴れやかな碧に、そして光がこぼれるような青緑色へ。』
    『爽やかな早朝のエーゲ海をわたる風も、なんともいえず香しい。』など

    私は行ったこともない所ですがまるでそこに立っているように思えました。
    それはそこで何年か暮らしたことがある人にしかできない表現だと思いました。

    また前にも感じましたが歴史を語る人はすごいですね。
    解説では想像部分と史実をちゃんと区分して、それでいて物語として面白く融合させて書いているところなど読者からの誤解がないようにしっかりと説明されていました。

    トゥキュディスの言葉をわかりやすく・・
    「人間が人間である限り、過去に起こった事件と同じような事件はまた起こるはずだ。それを考えれば、過去の事柄の叙述そのものは、おもしろくあっても私たちの役には立たない。しかし、私たちがそれに理由を添えるときに、歴史は有益なものとなる。私たちは過去の同じような状況を現在に移して考えることで、未来に起ころうとすることを予知するのであり、あるときには、それで危険を回避し、また別のときには、過去の出来事を想起することで勇気をもって苦難に立ち向かうことができるのだ。」

    と述べていました。
    ここまで読んだら人間が歴史を学ぶのは必須のような気がしてきました。

  • 2009/7/19 チェック済み

  • (資料用)
    ギリシャ神話以外のものが読みたくて購入。おもに一般市民の語り口調で書かれる文章は読みやすくて、生活の様子とかを想像(妄想)するのが楽しい。ちらっと出てくるパンアテナイア祭とかもっと知りたかった…!

  • 未読

  • 若手のギリシア考古学者による、新機軸の古代ギリシア紹介本。有名・無名の7人の人物を語り手として設定し、基本文献にとどまらず近時研究が進んできた法廷弁論資料なども用いて、その人物を巡る事件を物語るという構成。古代ギリシアの社会の雰囲気を同時代人の目線で物語ることにより、より生き生きとした形で読者に訴求していこうという試みは評価できる。物語構成の必要上とはいいつつときとして著者の仮説がやや大胆にすぎる点や、物語の運びが多少ぎこちない等の点は、著者の意欲を汲んで目をつぶるべきだろう。

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著者プロフィール

名古屋大学大学院人文学研究科教授
1962年 神奈川県生まれ
1992年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学
1993年 東京大学博士(文学)
名古屋大学文学部助教授を経て2005年より現職
主な著書
『図説 ギリシア ─ エーゲ海文明の歴史を訪ねて』(河出書房新社)
『ギリシアの考古学』(同成社)
『ギリシアを知る事典』(共著、東京堂出版)
『世界歴史の旅 ─ ギリシア』(編著、山川出版社)
『物語 古代ギリシア人の歴史 ─ ユートピア史観を問い直す』(光文社新書)
『古代ギリシア遺跡事典』(共著、東京堂出版)
『世界各国史 ─ ギリシア史』(共著、山川出版社)
『古代ギリシア ─ 地中海への展開』(京都大学学術出版会)
『ナイル世界のヘレニズム ─ エジプトとギリシアの遭遇』(名古屋大学出版会)

「2020年 『ギリシア案内記 2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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