現代思想のパフォーマンス (光文社新書)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334032777

作品紹介・あらすじ

本書の目的は、現代思想の概説ではなく、現代思想をツールとして使いこなす技法を実演(パフォーマンス)することである。この一冊には、現代思想に貢献した六人の思想家について、案内編と解説編と実践編が含まれている。

感想・レビュー・書評

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  • ・現代思想のパフォーマンス

    P326
    フロイトの例によれば、「母親の不在」という幼児にとっては極めて根源的な喪失経験に動機づけられて、幼児は記号操作の習得のやむなきにいたる。
    母親と想像的に癒合していた幼児にとって、母親との離別の苦痛は耐えがたい。幼児にとって想像的他者の不在が「名づけえぬもの」であるかぎり、それがもたらす喪失感は世界の崩壊に等しい。
    しかし、「母の不在」を言い表す記号を幼児が獲得し、その記号が他者に認知され、理解されるようになると、「母の不在」という経験のもたらす苦痛は緩和される。苦痛は、苦痛そのものであることをやめて、苦痛の記号になるからである。「母が存在しない」と幼児が宣言するとき、「母の不在」は「母の不在」というなまなましい事実であることをやめて、「母の不在という物語」に書き換えられる。

    このパートは一見すると難しいが、よく読むと、非常に普遍的なことが書いてある。私たちが記号操作をするのは、経験に一定の距離を置くためであり、経験に一定の距離を置くことは、苦痛の緩和をもたらす。
    簡単な例でいれば、例えば、会社をクビになったとすると、そのことを誰にも話さなければ、それはなまなましい経験であり、ただの苦痛である。しかし、それをひとたび友人に相談するなり、Twitterに書いてみると、それは記号となり、物語に書き換えられる。
    オードリーのオールナイトニッポンを10数年続ける若林正恭さんも、一種のラジオ脳が、人生を救うとなにかに書いていた気がする。何か、テレビでよくない事があっても、ラジオがあるから、面白おかしく物語にすることができる。ラジオによって救われた困難や苦痛があると。

    幼児の記号獲得という原初的なお話でこそあるが、私は、多くの不快や苛立ちは、記号の欠乏によるものであるという一種のポリシーがある。なにかイライラしているとき、イライラしやすいときは、記号を摂取する。つまり、本を読むのである。それも、文学や哲学など、私が今まで分節化を試みたことのない概念や言語化を試みたことのない言葉が書かれた書籍を、じっくりと数行読む。そうすると、純粋な言語の摂取という体験がフラストレーションを減少させることはままあるのである。どうしても納得いかないときは、自分でも言葉にしてみる。苦しいことがあってもそうである。
    我々が記号を使う理由が、経験と一定の距離を置くためであるとすれば、それはもちろん日常にもいかせるはずであり、生かされるべきであろう。

  • [フェルディナン・ド・ソシュール]
    フェルディナン・ド・ソシュールのシンフィニアン(意味するもの)、シンフィニア(意味されるもの)およびシーニュの考え方はよく理解できた。ただ、「イヌの音響」と「イヌ」で説明するよりは、『寝ながら学べる構造主義』に出てきた「みかんの皮(シンフィニア)」と「将棋の歩(シンフィア)」の例えの方が私には分かりやすかった。

    1.人間に固有の言語能力: ランガージュ
    2.共同体で使われる国語体: ラング
    3.それぞれの話者が発話するときの音声の連続: パロール

    「ことばはモノの名前ではない」という基本的な考え方は応用がたくさん利きそうだ。

    [ロラン・バルト]
    言いたい事は伝えられない。「書く」行為により言いたいことがせき止められる。言う気の無いことが紛れ込む。
    自然と思いこんでいるものが、実は仮想された「制度」である。

    エクリチュール:社会的な集団が正しい言葉の使い方として集団的に承認したもの。
    (例)
    ぼく-おれ
    まま-おふくろ
    「おれ」「おふくろ」と発することにより、その集団特有の資質を受け継ぐ

    ソシオレクト:一度は選択されるが、ただちに惰性化するエクリチュール

    [ミッシェル・フーコー]

    「現実」への疑い 私達の「現実」は過去の積み重ね
    系譜学 例、地層...古い地層の上にある。
    歴史学:つぎつぎと起こる事象をつないで、その連続性を明らかにする学問
    系譜学:歴史学がなぜ、どのようにして「歴史=連続体」と考えるに至ったか、そのプロセスを歴史的な観点から明らかにする学問
    「系譜学は起源の探究に反対する学問」
    「人間を知らない間にあやつり。支配・被支配の対象に変えてしまう目に見えない力の働き。
    ベンタムの一望監視施設
    "権力の内面化" "現実の服従は、虚構の関係から機械的に生まれる"
    真理とは...論駁できない種類の誤謬。真理は権力のメカニズムから生まれる。

    [レヴィ=ストロース]

    返礼
    サルトルー>カミュ批判(1952)
    レヴィ=ストロースのサルトル批判
    交換と譲渡
    あいさつ:返報性の原理

    [ジャック・ラカン]

    精神分析フロイト
    鏡像段階論
    難解?

    [エドワード・サイード]
    パレスチナ、オリエンタリズム

  • 133||Na3

  • 「寝ながら学べる構造主義」の原型かな。

    やっぱり内田さんの書いている部分がすばらしく、
    僕には面白かった。

    ただ、難波江さんのフーコーの部分も面白く、
    権力・監視とは何であるか、という勉強になりました。

    それからエドワード・サイードも入っており、
    僕にとっては、大江健三郎経由で知ったので、
    新鮮な感じを受けました。

  • 内田さんは色々読んでるけど、難波江さんのところも面白い。

  • たしかに「わかりやすい」のかもしれないけど、哲学や言語学を学んでる学生向けの本だった。(それを知らずに、仕事や生活に直結して使える知識かと思って読んだら、ん???ってなった。笑)
    ソシュールやレヴィ=ストロースの生い立ちや主張についての簡単な解説と、その理論を用いて読書や事象を解説する本。読んでてふーんと思ったけど、自分がその思想を使って考えられるようになったかといえば全然そんなことない。

    「家族」の話の中で、男の子がなぜか伯父さんに惹かれる話は、やっぱそうだよね〜って思った。

  • ー わたしたちが文章を書くとき、しばしば「言いたいこと」は言葉にならず、逆にそんな考えを自分が持っていると思いもしなかった言葉が頁を埋めていくことがある。「言いたいこと」と「書かれたこと」が過不足なくきちんと対応するということは原理的に起こらない。わたしたちはつねに「言い足りない」か「言いすぎる」かどちらかなのである。

    こういうことが起きるのは、おそらく「書く」という行為が、あらかじめ頭のなかにできあがっている抽象的な「言いたいこと」を「言葉に変換する」という単純な行程なのではなく、「言いたいこと」がせき止められ、「言う気のなかったこと」が紛れこんでくる不随意なシステムだからである。 ー

    ソシュール、バルト、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカン、サイードを“実践”する作品。

    懐かしいなぁ〜。学生の頃はよく読んでたなぁ〜。

    結局、彼らの研究はよく分からなかったけど、「多様な世界の解釈の可能性」が「この世界の在り方の多様性」を規定するのであって、何が正しくて何が間違っているのかという議論も大事であるが、それ以前に自分の世界の切り方に対して自覚的・反省的であれ、という当たり前のことを学んだのであり、いかに悪しき相対主義に陥らずに、かといって絶対主義的なドグマに囚われないようにするか、その方法論に意識的であることが大事なんだと認識するに至ったことはよく覚えてるな。

  • 借り物

  • ソシュール、バルト、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカン、サイードの6人の思想についての簡単な解説と、その思想をじっさいに用いて小説や映画を読み解いた本です。ソシュールの章では『不思議の国のアリス』、バルトの章では『エイリアン』、フーコーの章では『カッコーの巣の上で』、レヴィ=ストロースの章では『お早よう』、ラカンの章では『異邦人』、そしてサイードの章では『エム・バタフライ』が、それぞれ取り上げられています。

    バルト、レヴィ=ストロース、ラカンの章を内田樹が担当しているのですが、その解説のこなれ具合はさすがです。もう一人の執筆者である難波江和英の文章も、けっして読みにくいということはなく、むしろコンパクトで簡明な解説になっていると思うのですが、内田の文章は本当にそれぞれの思想を自家薬籠中のものとして、見事に使いこなしているという印象です。

  • ソシュール、バルト、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカン、サイードの6人の思想を紹介。「案内編」「解説編」は参考になった。「実践編」はどれも今ひとつ。バルトの本を読もうと思った。あとレヴィ=ストロースの解説がわかりやすかった。

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