日本語の宿命 なぜ日本人は社会科学を理解できないのか (光文社新書 617)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334037208

作品紹介・あらすじ

欧米諸国よりも遅れて近代化の道を歩み始めた日本は、舶来の文化や文明を急速に輸入することを迫られた。だからこそ、日本語には、多くの外来語や翻訳語が存在するのである。それは、今日の日本語にとって、宿命とも言うべき事態であろう。ただし、単に外来語や翻訳語を採り入れることは、それらを正しく理解することと同じではない。われわれは、「民主主義」や「市民」の意味を正しく理解してきたのであろうか。「個人主義」や「共和国」といった事柄を、本当に知っているのであろうか。本書が取り上げるのは、そういった問題である。

感想・レビュー・書評

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  • 関心が高いテーマだったので、大変興味深く読みました。

    文字を発明できなかった日本人は、漢字を輸入した際に、抽象語の殆どを漢語に任せてしまいました。当然、真に理解などできません。

    日本語の二重の悲劇は、西洋の概念を翻訳する時に、同じく外来語の漢語に訳すしか方法がなかった事です。

    民主主義など、「日本では中身の理解を伴わず、具体的な”やり方”すなわち形式や手続きだけが一人歩きするようになった」と本書は述べていますが、概念が理解できないから具体的な方法を知りたがるのか、もともと概念に興味が無い民族なのか。どっちなんでしょうね。

  • 西洋のシステムを移植するということと翻訳とは同時であり、その瞬間に誤解は始まっている。そして、私たちは本著者のように何度も何度も鏡を見てはselfreflectionを健気にも続けるのだ。漱石先生が胃痛とともに持ち帰ったコンプレックスは反芻され、「日本」の「近代」との居心地の悪い同床異夢はやがて「宿命」として自覚されるということになる。このコンプレックスは丸山昌男などに典型的に見られるが、図式は今も変わっていないということだろう。反対に西欧人の方が、日本のシステムに新しい成熟の形を見るということが時折あるというのに。ともかく、西洋に「個人」「民主主義」「共和国」への「正しい」理解と「正しい」構築があるのだというのは、もう、ちょっと、いただけない文脈である。まあ、こうやって、いつもいつも、せこせこせこせこ鑑み、顧み、省みしているのが、「慎んで怠ることない」日本人の姿勢を表しているとも言える。

  • 惜しい。
    着眼点は良く、取り上げる言葉も社会学者としての専門性と一般人の興味がちょうど重なる領域のものが選ばれていて、そこから日本人の思考の流れの癖のようなもの、そして議論の方向性のようなものに関する考察が提示されるものと期待した。
    しかし、内容はほとんどが語義の解説に割かれ、備忘録に集めたメモを集約しただけのものになった。
    惜しい。特に「民主主義」のところを深堀りできていれば極めて有益な日本語論、日本人論に発展できただろうに。
    著者が社会学者であるだけに残念。ここまで気づけていながら…
    新書ではなく、単行本での大幅増補を求む。

  • 日本語の特殊性が日本人の社会科学の理解を妨げている、という論。明治期に西洋思想を輸入した先人たちは、その言葉を翻訳し、漢字を当てて新たな「和製漢語」を数多く作った。「哲学」などはその最たるものだろう。そのおかげで日本人は「自国の言葉で他国の思想を学ぶ」ことができるようになった。そのメリットは大きかったけれども代償もあったということだろう。

    日本語話者にとっては「民主主義」や「市民」、「共和国」、「個人主義」などの熟語を“使える”が故に、その意味を深く考え、理解することが難しい。漢字が持つ表意性によって、なんとなく意味が分かったような気になってしまうためだろう。

    と、非常に興味深い内容なのだが、言葉の差異の羅列ばかりで「これは」と思う内容を読み取れなかったのが残念。

  • この本はすごい!!!!日本の国語教師は全員読むべきだ。
    ・野球のストライクと労働のストライキは英語は同じだが、日本語になると全然違ってしまう。
    ・動画とは、日本では昔アニメのことだった。
    ・日本で外来語を翻訳する際につくった造語が独り歩きし、元の意味とは違う独自の意味を帯びるようになっていく。
    ・『全訳 漢辞海』
    ・『現代に生きる 幕末・明治初期漢語辞典』
    ・コミュニティーとササイエティの違い。
    ・フランス語では、炊き出しの場所もマクドナルドもレストランと呼ばれる。
    ・「小説」は坪内逍遥による造語。ノベルは「新話」とでも。


    ・2012年4月29日。フランス大統領選挙にのぞんだオロンド候補は、一方の手にフランス国旗、もう片方に欧州旗を持ち「私がナショナリズムに対置するのは愛国心である」と主張した。
    →ナショナリズムと愛国心は異なる!
    フランス語の場合、愛国心の対象はnationではなくpatrie(祖国)である。フランス国歌でも、要するに自分たちの国家体制を転覆する運動が祖国の名の下で遂行された。祖国を愛するゆえに君主を処刑したのだ。ただし元来のナショナリズムもまた、フランス革命を契機にヨーロッパに広まったもので、基本的には左派的な系列に属するものだった。その背後には、君主への忠誠から、国家や国民といった集合体への忠誠心という価値転換があった。しかし19世紀末ごろから、ナショナリズムの意味が変化していく。民主制や共和制といった価値ではなく、民族の伝統や血統を重視する思想となっていった。これが今日まで続く右派的なナショナリズム。
    一方愛国心は祖国を愛することであり、君主崇拝でもないし、現行の国家体制を支持することでもない。自国民の優越性を掲げることでもない。郷土愛に近い。ちなみにフランス人は愛国者を自称するが、フランス国歌を歌ってみろというとたいてい1番で終わってしまう。
    ・riverとrivalは関係がある。川をめぐって争う人というのが原義だから。
    ・首都と資本はcapital。何の関係があるか。両者とも中央集中という共通性がある。
    ・明治時代、学歴主義という言葉は、藩閥主義に対抗する良い意味を持っていた。
    ・共和国という表現が、フランスのジャコバン派による恐怖政治を連想させたので、ドイツでは代わりに法治国家という表現が用いられるようになった。
    ・漢語の「民主」は民の主、つまり君主を指す表現。
    ・民主はギリシャ語由来で、共和国はラテン語由来という違いがある。共和国とは「みんなのもの」という意味で、君主政体でもその国がみんなのものなら共和国と呼べる。たとえば皇帝ナポレオンと刻まれた硬貨の裏面にはフランス共和国と刻まれている。
    ・NGOは非政府組織とするなら、宗教団体も暴力団も入るのか?NPOはアメリカ起源、NGOは欧州起源。NPOはコミュニティ型で、NGOはソサイエティ型。
    ・日本国憲法中の「恵沢」とは神の恵みのこと。
    ・インディビジュアルとは、全体を前提とした個であって、全体から切り離した個ではない。

  • まぁソコソコ勉強になった

  • 社会、市民、民主主義、権利…といった用語は翻訳語だが、日本語や漢語の語感にひきずられることで、原語のニュアンスから離れ理解が難しくなってしまう、という話。確かにそうだなと思う。

  • 民主主義の目的は、選挙や多数決を国民間の闘争と化し、同じ祖国を持つ人間を多数派と少数派、ひいては勝者と敗者に分断することではないのである。

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著者プロフィール

1961年大阪市生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程中退(教育社会学)。京都大学教育学部助手を経て現在帝塚山学院大学教授(社会学)。主な専攻分野は、社会学理論、現代社会論、民主主義研究。主な著書に『禁断の思考:社会学という非常識な世界』(八千代出版)、『民主主義という錯覚』(PHP研究所)、『社会主義の誤解を解く』『日本語の宿命』『日本とフランス 二つの民主主義』(以上、光文社新書)、『政治家・橋下徹に成果なし。』(牧野出版)、『ブラック・デモクラシー』(共著、晶文社)など。

「2017年 『「文明の衝突」はなぜ起きたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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