「日本型格差社会」からの脱却 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334045500

感想・レビュー・書評

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  • 日本でデフレによる経済低迷から起きる少子高齢化と所得格差や、綻び始めている年金制度による世代間格差など、詳細なグラフによって分析されていて勉強になりました。特に、第一章の年金制度の綻びに関しては、非常に深刻な状況を知ることが出来ました。また、他国と比較して所得が極端に大きい人々から十分に税を取ることもうまくできておらず、日本の税のシステムでは所得再配分が出来ていないことも分かりました。最終章では、年金の世代間格差を是正するためのこれからの年金制度についても触れられています。

  • 日銀副総裁も務めた岩田氏の本。
    長期デフレが根本にあり、そういった意味で他国とは異なる「日本型格差」といえる特徴的な格差に関して論じていて興味深かった。
    MMTとは一線を画していて非常に現実的な議論を進めている点は好感が持てた。
    ただ、気になったのは日本は配当課税に関して他国と比べて恵まれているとかかれていたが、アメリカと比較すると違うように思えた。

  • 日銀内部の人の著者が語る、
    格差社会とデフレの原因。

    丁寧に説明を積み重ねていてわかりやすいが、
    対立する主張の氏を徹底的に叩くスタイルなのが
    やや気になった。

    国のためのことなんだから、いがみあってないで
    主張すべきところは主張し、協力できるところは協力して
    やってほしいと、一市民は願うのだけど。

  • ジニ係数では測れない貧困は、相対的貧困=所得の中央値の半分以下の世帯、人。絶対的貧困ではないが、大多数と同じことはできない。日本はアメリカに次いで2位の国になった。ひとり親世帯では約半数。
    正規と非正規の分断
    年金の世代間格差

    資本所得課税で所得の再分配を強化する。
    正規と非正規の区別をなくす。雇用契約の流動化。
    職業訓練制度の充実
    公的補助はバウチャー制度にして、消費者に分配。
    負の所得税方式の給付付き累進課税制度
    年金を積立方式にして、その間の債務を年金清算事業団とする。

    アベノミクスの最大の功績は雇用の改善。
    従属人口指数は、2030年に50%を超える。2050年には70%を超える。

    非正規の増加は規制緩和のせいではない。マクロ経済のデフレ要因による。
    雇用を守ることは企業の責任ではなく、国の責任にする。セーフティーネットと職業訓練の充実。
    ドーマー条件が満たされれば赤字は一定に保てる。
    日本は、資本所得を優遇しすぎているので、高額所得者の重税感は薄い。

    生活保護制度には問題がある。
    年金の世代間格差は、親の面倒を見なくてよいので存在しない、という議論があるが幻想。
    労働生産性は、景気に左右される。暇を持て余している店員の生産性は、景気が悪ければ低く算定される。
    真の労働生産性を量る方法としてソロー残差という手法。
    技術進歩率は不景気でも変わらないが、労働生産性は低く出る。
    アメリカの消費者物価上昇率は平均的に2%で安定している。
    不景気のときは、シュンペーターの創造的破壊は起きない。
    正規社員も賃上げ抑制を求めている。経営が安定するため。
    大企業の労働生産性は景気に左右される。中小企業は雇用調整がしやすいため、あまりかわらない。

    1人当たり実質GDPを引き上げないと、現役の所得が減り、高齢者を支えることはできない。
    最低賃金引上げが生産性に向上するか否かははっきりしない。一気に上げると失業が増える。韓国の例。
    正攻法は、保護政策の縮小撤廃。

    正規と非正規の固定化も格差の原因。
    最終目標は雇用契約の自由化。

    生活保護制度が邪魔をしている。給付付き税額控除方式に改める。ベーシックインカムでは限界がある。負の所得税は生活保護になる。

    年金は積立金を取り崩しているから、賦課方式プラス積立金取り崩し方式になっている。そのうち積立金が枯渇して、今の給付水準を守れない。
    積立方式に移行。年金清算事業団の財源を相続税にする。

  •  リフレ派の代表で元日銀副総裁、黒田日銀総裁の異次元の金融緩和を指導した人なので、そのことについてコメントを期待して読みました。ですが、そのことについてはほとんど触れられていませんでした。
     デフレこそ不況の原因であり、これを根絶しないと日本経済の成長はないというのがリフレ派の理論です。そしてデフレを引き起こしたのは日銀の金融政策が間違っていたからなのだ、というリフレ派の理論的核心については凄い自信なのですが、黒田日銀総裁がその論理を使ったのだから、どうして効果があまり出ていないのか説明が欲しいところです。
     もう一つ「MMT」についても語って欲しかったのですが、岩田教授はMMT論者じゃないことがよく分かりました。給付付き税額控除制度の導入やら新相続税や資産所得課税について積極的です。
     リフレ派理論を実際に政策として実行した結果についての考証があればもっと良かったのですが、とても面白い本でした。

  • 日銀副総裁を歴任し、上智大名誉教授でもある金融の専門家による、日本経済復活のための提言を述べた本。現状分析が的確で、加えてマクロ経済学、日本の経済政策の推移に詳しく、経験上日本の政治・行政の特性をもよく把握しているため、実現可能性の高い提言がなされている。アトキンソン氏のように、現状を諸外国とのデータと比較することによって、ある程度原因を特定できるのかもしれないが、日本経済の現状に至る経緯や特殊性までは理解していないために、提言内容に本質的なズレが生じている。極めて論理的で説得力がある。ところどころ野党やメディアを揶揄する表現は下品にも感じるが、面白く読めた。

    「正規社員と非正規社員の生涯所得の差は、大卒の場合は億円単位になる」p4
    「日本の自称リベラル派(立憲民主党や国民民主党、社民党など)と共産党及び自称リベラル・マスメディア、さらには自称リベラル評論家・ジャーナリストは、小泉純一郎政権時代(2001年〜2006年)の新自由主義による労働者派遣の規制緩和が非正規社員を増加させたと主張してやまない。しかし、非正規社員比率が20%台に上昇したのは1990年であり、それ以降も上昇し続け、特に大きく上昇した期間は1997年から2002年である。この期間は、消費者物価の上昇率が低下し、1997年の消費増税の影響もあって、1998年半ばからデフレになった時期である」p4
    「デフレが深刻になると、正規社員どころか派遣労働者にもなれず、失業してしまう」p6
    「日本の所得税再配分政策は高齢者に対する社会保障に偏っており、税による所得再配分効果が極めて弱い。そのため、若い世代を中心に現役世代間の所得再配分後の格差改善効果が小さい」p9
    「公的補助は供給者ではなく、消費者を対象にすべきである。教育や保育などの分野での利用券制度の導入がその例である(著者の主張の1つ)」p13
    「テレビで中継される国会の予算委員会で、著者は予算をめぐる議論を聞いたことがない。どうやら、予算委員会とは名ばかりで、予算を審議する委員会ではなく、政府のスキャンダルを追求する委員会のようである」p29
    「日本は1960年以降、石油ショックの影響を受けた1974年にマイナス0.5%となった以外は、マイナス成長を経験したことがなかった。それが、1993年以降は、93年、98年、99年、08年、09年と5回もマイナス成長を記録することになった」p31
    「GDPデフレーターで見ると、1994年第4四半期から2013年第3四半期までの、ほぼ19年間、デフレである」P33
    「デフレになると、設備投資の有利性が低下する。それは、企業は資金を借り入れて、設備に投資し、その設備を使って製品を生産するが、その製品を売る頃には、製品価格が低下しているため、利益が確保できないからである。借金した企業は借金の返済に追われ、収益の低下に苦しむことになる。設備投資は経済成長のエンジンであるから、このエンジンに故障が起きると、生産は落ち込み、経済成長は鈍化してしまう」P33
    「就職氷河期に就職時期を迎えた人は、大卒でいえば、1970年から1980年くらいの生まれの人たちである。2021年現在でいえば、40代から51歳くらいまでの人が就職氷河期世代である」P34
    「デフレは貨幣的現象である。デフレが貨幣的現象であるという意味は、貨幣需要に対して貨幣供給が不足(貨幣の超過需要)する期間が長引いたり、各経済主体が中央銀行の金融政策の方針から、今後も中央銀行は「貨幣の超過需要を解消する気がない」と予想したりするようになると、経済はディスインフレを経てデフレ(持続的物価下落)に陥るということである」P35
    「日銀はバブル崩壊後にマネーストック増加率を急速に引き上げるどころか、バブルをつぶし、すでにつぶれているバブルをもっとつぶせとばかりに、マネーストック増加率を急速に引き下げ、1992年には、とうとう0.6%まで落としたのである。このように、マネーストック増加率が急低下すると、経験的に見て、まず実質成長率が低下し、その後、名目成長率が低下し、次に物価(GDPの場合の物価はGDPデフレーター)が下落する。1990年代の日本のケースも同じ経過をたどった」p43
    「デフレから完全に脱却できていない状況で、彼ら(若者たち)が貯蓄に励めば励むほど消費が落ち込むため、GDPが伸びず、したがって彼らの所得も伸びない。その伸びない所得に対して、貯蓄率を上げても貯蓄は増えない。これは、ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)が述べた「合成の誤謬」(個々人が貯蓄を増やそうとすると、経済全体では逆に、貯蓄総額が減少してしまうこと)の罠にはまってしまうということである。さらに、現行の社会保障制度には、世代間の不公平を増大する効果がある」p72
    「男性については、退職金を含めないケースで、大学卒の正規社員の生涯所得(学校を卒業してから直ちに就職し、60歳で退職するまでフルタイムの正規社員で同一企業に働き続け、退職金を含めないケース)は2.9憶円になるが(退職金を含めると3.3憶円)、大卒の非正規社員は1.6憶で、1.3憶円の差がつく」p76
    「21か国中、日本の所得再配分後のジニ指数は4位で、おそらく、多くの国民が想像しているよりも、日本は不平等な国である」p103
    「日本の相対的貧困率は、先進国の中でも高いほうに分類され、現役世代の貧困率は上昇傾向にあり、見逃すことのできない問題である」p116
    「(生活保護から脱出しない)稼働能力がある人たちが母子家庭よりも、被保護世帯から抜け出そうとせずに、被保護世帯として滞留しているのである。これは、生活保護制度に問題があることを示唆している」p118
    「(年金保険料未納者)未納理由記入欄に「老後は生活保護を受けるつもりだから」という理由の選択肢はないが、著者の知人の中には、その理由で未納の人がいる。実際に、厚生労働省『被保護者調査』(2018)によれば、生活保護を受けている高齢者の35%は無年金者である」p121
    「(現在の賦課方式年金)「賦課方式の年金」は、人口が増加し、成長率が高い経済であれば持続可能であるが、少子化が進み、成長率の低い経済では、老後にある程度安心して暮らせる年金を保障することはできない。ここにも、少子化と低成長をもたらした長期デフレの弊害が見られるのである」p125
    「子どもが現役時代に支払う保険料は大きく上昇した。例えば、現在の年金受給者が、1960年度の現役時代に支払った保険料率はわずか3.5%で、70年度でも6.2%にすぎなかった。現在の厚生年金のいわゆる「100年安心プラン」では、保険料率は2017年の18.3%で固定されることになっている。しかし鈴木亘(2012)は「100年安心プラン」が前提にしている条件を満たすためには、2035年度までに、保険料率を24.8%まで引き上げなければならないと試算している。1960年頃の現役世代が支払った保険料率の7倍の保険料率である」p127
    「借金をして設備に投資しする企業や消費者ローンを組む人は、貸し手である債権者よりも支出性向が高い。ところが、フィッシャー(1933)が述べているように、デフレはこういう支出性向の高い企業や消費者の借金の実質的負担を重くするという罰を加えることにより、そうした企業や消費者の支出を減少させ、その結果、デフレを促進してしまうのである」p184
    「アトキンソン氏が理解すべきことは、デフレは一企業の行動によって起きるのではなく、したがって一企業の努力によって止めることはできないということ、およびデフレ下では、借金してIT投資などを増やし、生産性を上げることは、借金の実質負担が重すぎてできない、ということである。それに対してアトキンソン氏は、「金利は十分下がっており、借金の負担は軽くなっている」と反論するであろう。フリードマンがこういう主張をする人たちに、いつも注意していたように、名目金利が低いことは、金融が緩和されて負担が軽くなっていることを意味しない。デフレが続くとデフレ予想が強まるため、予想インフレ率がマイナスになる。その結果、名目金利は低下するのである。しかし、名目金利からマイナスの予想インフレ率を差し引いた予想実質金利は上昇する。これが、デフレ下では、借金の実質的負担が重くなるという意味である」p185
    「 ①1990年代以降、日本で実現した労働生産性が低下した原因は、長期にわたってデフレが続き、総需要が不足したことで、実現した実質GDPが潜在GDP(潜在GDPとは、工場、労働者がMAXの生産を行った際の最大GDPをいう)よりも低い状態が続いたためであり、②景気の影響を取り除いた真の労働生産性が低下したわけではなかったことを理解されたであろう」p188
    「雇用環境が労働者にとって有利な売り手市場、企業側から見れば、人手不足になれば、企業は賃金の上昇に直面することになるため、労働生産性を向上させる政策をとらざるを得なくなる。2018年から2019年にかけての日本経済は、「量的・質的金融緩和」の効果により、労働市場は売り手市場になり、企業にとっては人手不足が大きな問題になった。日本経済が人手不足経済になったのは、1980年代後半を最後に、およそ30年ぶりのことである」p189
    「企業が生産性向上に本気で取り組むようにするための最善の手段は、積極的な財政政策と緩和的な金融政策とにより総需要を拡大させ、それによって徹底的に人手不足を進めることである。徹底的な人手不足経済では、賃金を上げられない企業は、他の生産性の高い企業に買収されるか、買収する企業が現れなければ、廃業か倒産のいずれかを選択せざるを得なくなる」p191
    「需要不足による倒産は、失業者を増大させるだけで、企業の新陳代謝を進めないが、人手不足による廃業・倒産は、廃業・倒産した企業から効率的な企業への労働と賃金の移動を引き起こし、企業の新陳代謝を進める。その結果、真の意味での労働生産性が向上するのである」p191
    「安倍首相が国会答弁で何回か述べているように、「私の妻が働きに出ると、妻の実質賃金は私よりも低いため、私の妻の実質賃金を合計して2で割って、平均実質賃金を算出すると、低下します。しかし、安倍家の実質賃金合計額は増加しているのです」p192
    「労働時間の短縮化(長時間労働を強いる企業で働かなくても職が見つかるようになったこと、ブラック企業が雇用条件の改善に努めたこと、短時間だけ働きたい女性と高齢者の就業が増えたことなど)を考慮すると、実質時給で比較することが適切になる」p193
    「(賃金の上方硬直性)正規社員の賃金をいったん上げると、企業経営が悪化しても下げられないことが、経営が改善しても賃金を引き上げることを困難にしているのである」p194
    「(コロナショック)現金・預金を大量にため込んだ企業こそ、このショックを乗り越えるために有利な立場にいる」p196
    「企業はその置かれた経済環境に合理的に対応する」p198
    「小規模企業は減少傾向にあるが、それでも2016年時点で日本全体の企業数の84.9%を占めており、これに中規模企業を加えると、全体の99.7%を占めている。つまり、大企業は0.3%しか存在しない」p200
    「(最低賃金の引き上げは若年層やパートの雇用を減少させる)これは、若年層やパートは労働生産性が低いため、最低賃金を引き上げると、その賃金が彼らの生産性を上回ってしまうため、雇う側に損失が発生するからであろう」p213
    「アトキンソン氏が主張する、最低賃金の引き上げは労働生産性を高めるという点を裏づける実証研究はほとんどない。日本では「最低賃金は労働生産性を引き上げない」という森川正之(2019)のアトキンソン説を否定する研究しかない状況である」p215
    「実際に、これまで何十年もの間、至れり尽くせりの中小企業保護政策を採用してきたにもかかわらず、中小企業の労働生産性は大企業の4割程度であるから、中小企業保護政策は労働生産性の向上にはまったく役に立っていないどころか、その向上を阻害してきた可能性が高い」p216
    「中小企業には、交際費等として800万円までの損金算入が認められている。ここでの交際費等とは、交際費や接待費などで、その法人の得意先や仕入れ先などの事業の関係者への接待、供応、慰安、贈答などに要する費用のことをいう。交際費等のうち、飲食その他これに類する行為のために要する費用は接待飲食費といい、損金算入できる。つまり、取引先と飲み食いする費用は、所得から控除され、税金を払わなくてもよいということで、取引先と飲んで、騒いで、遊ぶことを税制が奨励しているのである。ここには、中小企業の生産性を引き上げようとする精神はまったく見られない。これら「供応」「慰安」「贈答」を税制上優遇すると知って、驚かれる読者も多いのではないだろうか」p218
    「中小企業に赤字企業が多い理由の1つは、交際費に代表される費用控除の優遇措置と節税対策であると考えられる。節税対策の代表的なものは、給与所得控除の活用である。配偶者や家族を雇い給与を支払って、青色申告すれば、給与はすべて費用で落とせる。15歳以上の子供であれば、一定の条件を満たせば、専従者(家族従業員)として扱われ、専従者控除が費用として認められる。これらの活用により、法人税を支払わずに済むように、利益をゼロまたは損失を出したことにし、社長を含めて給与を分散すれば、給与所得の限界税率が下がるため、給与所得税も節税できる。配偶者や専従者が実際にどれだけ働いているのかの実態を、税務署が把握することは困難であるため、こうしたことが生ずる」p220
    「経営者の高齢化と後継者不足のため、生産性の高い企業が廃業してしまい、企業の貴重な経営資源が失われるのであれば、それは地域金融機関の怠慢のせいである。地域の企業情報を把握して、仕事をするのが地域金融機関の役割である」p228
    「とくに問題であるのは、派遣社員は同じ職場で3年を超えて働き続けることができないという「派遣3年ルール」である。このルールは派遣社員の雇用を不安定にするだけでなく、彼らのスキルアップを阻害している。このルールの存在理由を理解することは困難である。唯一考えられる理由は、正規社員の地位を獲得している労働者が「非正規社員のスキルがアップして、彼らにとって代わられる(これを常用代替という)ことを防ぐ」ことであろう。実際に、著者が勤務していた大学では、正規社員はまったく仕事をせず(事務室で、ひとりで歌を唱いながらダンスをしていた)、もっぱら正規社員よりもはるかに低い賃金の非正規社員が仕事をこなしていた。ところがある日、急にその非正規社員が雇用契約を一方的に破棄された。労働法を知らない著者はこの解雇の意味が分からず、びっくりした」p237
    「積極的労働市場政策の考え方は、働くことを優先し、働かなければ健康保険も年金給付も受けられないという、スウェーデン型福祉国家の基本的な考え方に根差している。日本のように、妻が働かなくても夫が厚生年金や共済年金に加入していれば、保険料を支払わなくても基礎年金の給付を受けられるとか、年収が150万円以下であれば、厚生年金に加入しなくてもよいといった制度では、そもそも高齢福祉国家は成立しないのである。また、失業者に受動的に失業給付するよりも、彼らの就業能力を高めたほうが、本人にとっても社会にとっても望ましい」p249
    「日本の働き方の柔軟性を妨げているのは、実は日本の自称リベラル政党が正規社員だけで構成される日本労働組合連合会を支持団体にしているため、組合員ではない非正規社員と組合員である正規社員の均等な待遇に向けた活動ができないという点にある」p276
    「女性は結婚して子供を出産すると、会社勤務と子育ての両立が困難であるため、会社を辞める可能性が高い。これは会社に女性の採用を躊躇させる要因になる。また、女性が会社を途中で辞める可能性が高ければ、採用後に男性社員と同等のオン・ザ・ジョブ・トレーニングを受けて、昇進できる機会もほとんどなくなる。これらは、女性が出産を機に会社を辞める確率が高いという統計に基づく差別であるので、統計的差別と呼ばれる。この統計的差別の結果、男性と同等あるいはそれ以上に生産性が高い女性ほど、勤務意欲を失ってしまい、会社を辞めるケースが多い。これを、会社は結果的に生産性の高い女性よりも、低い女性を選択してしまうという意味で、「逆選択」という。実際に、生産性の高い女性がパートとして単純労働に従事しているケースは多い」p282
    「生産性の高い人にはその仕事を規制せずに大いに活躍してもらい、高い所得を稼いでもらわなければならない。注意すべき点は、公正な競争により決まる所得再配分前の格差の拡大は問題ないということである。超一流の経営者にはしっかり稼いでもらって、努力以外の要因で稼いだ分に課税して、格差を公正と考えられる水準まで縮小すればよいのである」p293
    「日本のように生産性の低い集団を保護するという集団的再配分政策を続けている限り、所得再配分前の1人当たり所得を引き上げることはできない。日本では、とかく、所得再配分前の格差を問題にする傾向があるが、大事なことは、再配分後にも残される格差を多数の国民が納得する水準にとどめることである」p294
    「いくら資本主義経済が自由を尊重するといっても、所得と資産を課税当局に正確に把握されない自由は存在しないのである」p301
    「(生活保護の水準が高い)夫婦2人・子1人で東京都区部に居住する場合の最低生活保護水準は月額約23万円、年額約276万円である。しかも、社会保険加入はほぼ免除され、医療費は全額補助される。働かずに、これだけの最低生活保障を受けられるなら、ワーキングプアよりも生活保護世帯になったほうがはるかに生活水準は上昇する」p320
    「生活保護制度の最大の問題は、生活保護受給者になるためには資産調査などの厳しい関門があるが、いったん受給者になったらやめられないという点にある。やめて、ワーキングプアになるよりも受給者であり続けるほうが、はるかに生活が楽だからである」p322
    「一般に欧米では土地の分割は都市計画決定事項であり、地主が勝手に土地を切り売りすることはできない。それは、土地の利用の仕方は街全体の景観に影響するという外部効果があるため、個人の自由をできる限り尊重する欧米資本主義経済でも、土地利用には厳しい制限が課せられているからである」p345
    「ケインズもフリードマンも一致しており、欧米ではデフレに陥らないように金融政策を運営することは常識である。デフレに陥らないためには、金融の「量的緩和」がもっとも有効であることも、経済学界では一致している。ところが、日本ではデフレ脱却を専門に考えるべきマクロ経済研究者の多数派が、日本銀行がデフレ脱却のために実施している「量的・質的金融緩和」に反対している状況である」p356

  • 【請求記号:332 イ】

  • 332-I
    小論文・進路コーナー

  • デフレ、デフレうるさい感は否めないが、格差や対策についての章は良い。

  • 東2法経図・6F開架:B1/10/1142/K

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著者プロフィール

学習院大学経済学部教授。金融論、経済政策専攻。主な著書に『金融入門』『経済学を学ぶ』『金融危機の経済学』など。

「2010年 『初歩から学ぶ金融の仕組み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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