- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334046200
感想・レビュー・書評
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とても丁寧な作品評論でした。蘊蓄を垂れ流し、同時に害悪をも垂れ流した「萩尾望都と竹宮惠子」(中川右介)とは雲泥の差でした。著者は萩尾望都を「時代の精神を伝える」作家だと大きく評価しています。図書館にリクエストして借りたんだけど、買うことにしました。
細い新書だけど、黒い背表紙の上はビッシリ密にカラフルな付箋紙がモヒカンの様に聳え立っています。
私にとって、萩尾望都を正式に意識したのは、大学に入って漫画批評誌『ぱふ 特集萩尾望都』(1980)を読み、橋本治の評論を知ってからでした(『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』)。大人になっても漫画を卒業しないどころか、男であるのに少女漫画を読んでいる。その後ろめたさを払拭できたのは、「漫画を評論する」という雑誌が登場したからです。これで男たちは、好きな少女漫画を語る「自由」(それでもしばらくマイナーな立ち位置でしたが)を得たのでした。そして「それを可能にしたのが萩尾作品の「深さ」です」(109p)。
著者は私と同年代ですが、手塚治虫や宮崎駿は、社会に大きな影響を与えた作家ではあるが、その価値観は一時代前のものだと断じます。「この半世紀の現実や私たちの気持ち、新たな理想への模索を代弁してくれるのは誰か」それが萩尾望都だと著者はいうのです(4p)。最初、それは少し言い過ぎでは?と思っていたのですが、本書を読み終えて、私は萩尾望都を読み損なっていたことに気がつきました。
どこにも隙のない表現、SF作家が大いに唸るSFマインド、自由への渇望、多様性への希求、ジェンダー漫画の嚆矢、未来を人はやり直せるか?という課題、家族との葛藤、東日本大地震‥‥。もう一度読み直さなくてはいけない。同時に未読の萩尾望都を紐解かなくてはいけない。今しきりにそう思っています。
橋本治の萩尾望都論の首木から、この本は私を解放してくれました。また、大泉生活の顛末を受けて、竹宮惠子を的確に批判し、「24年組」の幻想を明確に批判したのも、スッキリする想いでした。本書は、以後の萩尾望都論の外せない道標となるでしょう。
第二期「ポーの一族」の位置付けも、私は少し勘違いしていたのかも知れません。確かに、そもそも「ポーの一族」は、時系列が行ったり来たりする構造でした。「ユニコーン」が現代を描いたからと言って、それは直ぐにシリーズを終わらすことを意味しない。著者の言うように、出来るだけ長く書き綴られることを私も希望したい。
knkt0922さんの紹介で刊行をいち早く知った。ありがとうございました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
萩尾望都氏は、まぎれもなくマンガ界の巨匠である。なにしろこうやって「作家論」の本が出ているのだから。
実は先日、「11人いる! 復刻版」を読んだばかり。昔読んだ時と比べると、かなり違った印象を受けた。自分を取り巻く環境や社会の変化もあるかもしれない。また、それだけの「深さ」がある作品なのだろう。
本書の「あとがき」にこうある。「まだ読んでいない萩尾作品がある人は幸いです。こういう本を書いておいてなんですが、皆さんもまずは他人の言葉など気にせず、読んで感じて味わって、自分の感覚で楽しんで下さい」と。未読の作品に限らず、既読の作品でも読み返せば、また違ったものが見えてくるかもしれない。 -
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kuma0504さん
レヴュー愉しみにしています!
猫には珍しく「一度きりの大泉の話」の単行本を買ってしまったのに辛くて放置中。。。kuma0504さん
レヴュー愉しみにしています!
猫には珍しく「一度きりの大泉の話」の単行本を買ってしまったのに辛くて放置中。。。2022/09/05 -
猫丸さん、おはよう御座います♪
うん確かに辛いところあるけれども、事実関係は既にいろんな人が書いているからそんなにショック受けないかも。
...猫丸さん、おはよう御座います♪
うん確かに辛いところあるけれども、事実関係は既にいろんな人が書いているからそんなにショック受けないかも。
萩尾望都も書きながら、はからずも70年代初頭の少女漫画の雰囲気を証言していて、貴重な話も聞けると思います。2022/09/05 -
2022/09/11
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萩尾望都の主に作品への尊敬と憧憬と筆者も含めての受けた人々の感動を作品解説としてまとめた物。
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萩尾賛美より竹宮批判のインパクトの方が強いかな。
(歴史の歪曲に対する感受性の強さなんだろうけど)
しかし、著者のはしゃぎ振りには、ちょっと引く。 -
[図書館]
読了:2022/10/18
最初「ユーリのサイフリートへの敗北」とか書いているところが目に入り、わー、やっぱり男性視点だとこう見えちゃうのかー、と思ったが、萩尾作品への愛は伝わった。めちゃめちゃ竹宮惠子嫌いやなと。
「1949年生まれは(中略)戦後教育で育った人たちですが、学校で受けた教育と社会実態の乖離が大きく、特に女性の戸惑いと軋轢は酷かったろうと察せられます。戦前に教育を受けた親世代との「世代の断絶」が深刻だったことでも知られています。」
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ふむ
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『11人いる!』のフロル、好きでした。
いろいろ読み返したくなりました。