北の夕鶴2/3の殺人 (光文社文庫 し 5-5)

著者 :
  • 光文社
3.55
  • (31)
  • (68)
  • (93)
  • (8)
  • (5)
本棚登録 : 612
感想 : 60
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334707682

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 内容は純本格、文体はハードボイルド調と、実に島田荘司氏らしい仕上りになっている。

    今回の目玉は2つ。
    まずは吉敷物とは思えぬほどの超絶技巧を凝らした大トリックの殺人。
    とは云え、トリックの内容は後の御手洗物を読んでいる身にとっては十分予想のつくもの。ただそれを吉敷が解くというのが珍しい。
    2点目はやや没個性的だった吉敷の個性、存在感がいつにも増して顕著だったこと。
    通子の存在が不屈の精神を幾度となく蘇らせ、熱い魂と言葉を持った存在にまで押し上げている。

  • 列車ミステリーと思い手に取った作品でした。列車といえば密室殺人かなと、ちょっとドキドキしながらページをめくっていくと・・・ちょっと違った視点から責めていく密室殺人事件でした。でも、ハラハラドキドキはありました。
    また、伝奇ミステリーも含んだ怪しいムードも感じました。

    トリックが現実的ではないという声を良く聞きますが、そういうミステリーも良いのではないでしょうか。小説の中のお話なのですから、その世界にどっぷりつかって、その世界で吉敷刑事と事件の真相を探っていけば面白いと思います。

  • 島田荘司全集より。主人公の吉敷刑事の分かれた妻が殺人容疑者となり失踪する。彼女を助けるために逮捕状が出される前に事件を解決しようと必死に奔走する熱いハードボイルドなんだけど、、、
    その事件というのが、トライスター状の三棟のマンションの密室内に突然2つの死体が出てきたというとんでもない代物。さらに、夜鳴き岩に、空洞の鎧武者!お腹一杯の内容。
    終盤、主人公が満身創痍になり、事件を解明するのですが、その真相に作中の登場人物に「お前正気か?」みたいな扱いを受けますが、読者は皆そう思うでしょう。トンデモないトリックです。
    相変わらず作者ご本人の裏話も面白く、カッパノベルスに頼まれて御手洗物で考えていたトリックを使ってしまったとか、分数をつけた方が売れるからとのことだったけど、2/3の意味はよく分からないとか、マイクハマーがカーの世界に飛び込んだ小説とか、唸る逸話がたっぷり。
    欲を言えば、別れた奥さんの逃亡の動機とかが、もう少し捻れているとよかったかなぁ。トラベルミステリの要素はゼロに等しいですし、ホントに歪な名作かと。

  • 吉敷竹史と加納通子のロマンス、義経伝説や夜鳴き石、鎧武者、心霊写真などのホラー要素がサスペンス的な展開と巧く融合しており、最後まで読者を飽きさせません。
    そして、何といっても奇想天外で豪快なトリックが炸裂しています。トラベルミステリーだと思っていたので、良い意味で裏切られました。物理トリックの傑作だと思います。

  • 本格推理小説。
    マンションの2号棟と3号棟の、それぞれ5階で目撃された女性2人が、1号棟の5階の部屋で死体となって発見された。1号棟の出入口に住み込んでいる管理人は、2人の女性は絶対に通らなかったと主張する。しかし、1号棟の出入口はそこひとつだけだった……。

    〔★5つで満点。☆は1/2点〕
    トラベル度   ★★★☆
    奇想天外度  ★★★★☆
    サスペンス度  ★★★★
    固ゆで度    ★★★☆
    恋愛度     ★★★☆
    伝奇的怪奇度 ★★★
    猟奇趣味度   ★
    現実感      ★
    文章の巧みさ  ★★★
    満足感      ★★★★☆

    「トラベル・ミステリ度」は3.5点。
    土地の歴史など旅情感を煽る描写は少ない。初めての人が読んだら間違いなく度肝を抜かれるトリック。ただし、他の作品でも使われていたトリックのため、「奇想天外度」は、0.5点マイナス。今回は再読で、記憶に残っていたため、「サスペンス度」は低かった。だが、初めて読んだときは結構緊迫感があり、盛り上がった。「ハードボイルド度」が高い。北方ハードボイルド作品を思い出した。犯人の闇討ちに遭い、満身創痍となった主人公・吉敷竹史が、倒れても倒れても立ち上がり、意識が遠のきそうになっても気力を奮い立たせる姿に、ハードボイルド小説が描くところの「男の何か」を感じさせた。ただし、主人公の心理をその行動を描くことによって読者に伝える手法ではなく、ストレートに感情表現させるところが多い。ハードボイルドタッチと言った方がいいかもしれない。
    本書では、吉敷が5年前に別れた妻・通子と再会する。当然「恋愛度」は高まった。離婚の原因にもなった、通子の過去も明らかにされる。それも含めて通子のすべてを受け入れようとする吉敷の感情が迸る。読んでいてちょっと恥ずかしくもあったが、吉敷が吹っ切れたところで清々しくもあった。
    源義経の北行伝説が事件になぞらえて語られる。鎧武者も現れる。しかし、恐怖感も怪奇感も薄かった。女性読者なら怖いか? 伝奇的怪奇度は3点。
    島田さんは「猟奇趣味度」の高い作家だが、異常趣味やグロテスクな犯罪はない。
    「現実感」に関しては、文芸評論家・権田萬治さんに、解説で先手を打たれている。

    「この作品のトリックを現実的でないと批判する人がいるが、それは先刻作者が承知していることで、無意味な批判なのである」

    作者が承知している通り、この作品のトリックは現実的ではない。「文章の巧みさ」は、いまひとつ。巧いとは言えないと思う。「満足感」は、本格ミステリ好きならきっと高いはず。そうじゃない方には最低の評価をされるかも。少なくとも、純文学方向寄りな方は読んではいけない。大人な方に勧めることも気が引ける。

    この作品は2時間もののテレビドラマで見たことがある。この映像化は失敗だったと思う。ちなみに、吉敷竹史を鹿賀丈史、加納通子を余貴美子が演じていた。配役もピンと来なかった。  

  • 北の夕鶴2/3の殺人
    190808読了。
    今年73冊目今月3冊目。

    #読了
    #島田荘司
    #北の夕鶴 2/3の殺人

    各所で勧められていた作品。

    妻を巡ってトラベルミステリと思わせておいて、壮大トリックとハードボイルド。

    「妻に逃げられた男の気持ち」を想像してみた。

    そりゃ命賭けるよ。
    容易に想像できた。

    満身創痍にも程があるけど、まさにハードボイルドだな。

  • 数々の不可能的、超常的な謎が、ひとつのトリックによってたちまち、氷解し伏線へと変貌を遂げる。まさにトリック小説の理想形だと思います。
    吉敷と前妻のストーリーもまったく余分とは感じず、むしろ引き込まれるくらいでした。

  • 10年以上ぶり、
    御手洗潔シリーズ以外では初めての島田荘司作品。
    久しぶりの本格ミステリにハードボイルドの要素までふんだんに盛り込まれ心が躍る。
    大胆かつ大掛かりなトリックにワクワクせずにはいられない。
    早く先に進みたい気持ちを抑えつつ慎重に読み込み大まかなトリックも自力で解けたため非常に満足。

  • 刑事の吉敷のもとに、別れた元妻・通子から突然電話がかかってくる。どうやら様子がおかしい。そして翌日、通子の乗っていた列車から、女性の死体が見つかる。
    その後、通子の住む北海道まで追いかけて行くのだが、そこでも奇怪な事件が待ち受けている。
    これは2時間サスペンスにぴったりな内容。トリックあり、伏線ありの本格推理モノだ。こういうの父親がよく読む。実は島田荘司の信者である伊坂幸太郎のオススメ本ということで読んでみたのだ。妙な飾りもなく、純粋に推理が楽しめて面白かった。

  • 伊坂幸太郎のエッセイに取り上げられていたので、読みました。
    吉敷竹史シリーズの前の作品は読んでいます。

    別れた妻・通子(みちこ)に何か異変が?
    5年ぶりに電話があったが、遠慮がちに切れてしまった。
    かって忙しさに紛れて、全くほったらかしだったことを後悔しているのだったが…
    今、放っては置けないと決意。
    警視庁捜査一課の吉敷は、上野駅へ。
    発車直後の「ゆうづる九号」の窓辺でこちらを見る彼女の姿を見たと思った。
    ところが、翌日、通子のカーディガンを着た遺体が発見された!
    吉敷は単身、捜索の旅に出る。
    青森、盛岡、釧路と、怪我を負いながら雪の中で奮闘することに。

    離婚は突然妻に言い出されたもの。
    回想の中での通子の様子も。
    この刑事は、とても穏やかで優しい淡々としたイメージだったのですが…人生の変わる大事件。
    かなりとんでもない展開に。
    うは~さすが、島田さん!

著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

島田荘司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×