土屋隆夫の代表作的な位置付けの長編作品。幻想的な童話に即して事件が展開される。ジャンルとしては,本格ミステリに属する作品であり,凶器の消失や,警察に送付される謎の手紙の存在などの謎が示される。
刑務所から仮釈放されたばかりの須賀俊二が,従姉妹のピアノ講師の家で殺害される。木曾刑事は,死体の第一発見者であるピアノ講師の木崎江津子が,買い物に行く際に着ていたショールを掛けている位置から,死体の存在を知っていたと疑い,逮捕する。
物語を通じて,容疑者として現れるのは木崎江津子ただ一人。凶器,在などが謎として提示される。
いくつかのトリックが用意されている。まず,凶器の消失については郵便を利用したというトリック。凶器のナイフを入れた封書を暴力団宛てに郵送したというもの。
警察には,映画館で隣に座った人から指紋を取り,子どもを利用して送付させるというトリック。血がついたナイフをあらかじめ公園に置いておくというトリックも用意されている。
指紋の採取に使った男から脅迫をされたので,殺害するという展開は,やや御都合主義であるが,殺害のトリックに,とおりすがりの人を利用して電話を掛けさせるというものも使っている。
全体的に見て,トリックは陳腐。しかも,警察の捜査により打開的に暴かれていくので,一気に真相が分かるというカタルシスもなく,淡々と捜査がされるという印象しかない。動機など,物語全体の小説としての装飾はそれなりなのだろうが,全体の描写が古臭く,残念ながら,今読んで面白いと感じるデキではない。評価としては★2かな。
推理小説はトリック次第では,むしろ古典的な作品の方が面白いこともあるのだが,日本のミステリは,その時代を描きすぎており,時代を経るとあまり面白く感じないものが多いような気がする。