葡萄と郷愁 (光文社文庫 み 21-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334733858

感想・レビュー・書評

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  • 自分の将来を左右するような、降ってわいた幸運。
    運命に身を任せ、それに飛び込むのか、それとも…?
    人生の岐路で迷う二人の女性が、決断に至るまでの心の動きを細やかに描く。
    彼女らの迷いはすごく分かる。
    幸福度が大きく見える道ほど、
    予期せぬ落とし穴があるんじゃないかと考えてしまうものだ。
    どちらの道を選んでも、
    最終的にあの選択は正しかったと思える生き方にすればいい。
    人生は他でもなく自分で作るものだから。

  • 同じ時に日本の東京とハンガリーのブタペストで、将来に大きく関わる電話を待つ女性の物語。日本では外交官の夢を達成した男からの求婚に迷っている女性。ハンガリーでは自由な国アメリカの富豪の養子話。日本の女性には深い関係の幼馴染がいての話だけに共感する部分が見つけられずに終わった。

  • 優柔不断な私には読んでいて気持ちが悪くなるぐらい、共感ができる作品だった。

  • 宮本輝の作品は今回初めて読んだけど、期待を裏切らない作品だった。他の著書も読んでみたい。

    当時の最先端だったんだろうな、というような読みやすくも洗練された文章が素敵。じんわり感じさせる幸福感も素敵。
    しみじみした作品を読みたいという気分だったのでどんぴしゃだった。

  •  時計は常に動いている。
     僕らを乗せた動く歩道は何度も枝分かれし、十分に悩む間も無く、右か左か決断しなければならないのだ。
     時に後ろを振り返れば、選ばなかった道の先は遠く霞み、選んできた道だけが一本の筋となり、枝分かれだらけの未来よりも確かな輪郭で横たわる。時に宝物のように、時に呪いのように。
     すべての過去は、かつて未来だった。 過去の宝物を愛でている間にも、過去の呪いに苦しむ間にも、歩道は動き、明日が昨日になり、新しい宝物や呪いが生まれる。
     時計は止まらない。 だからこそ、そのことを希望だと思って生きていきたいのだ。

  • 舞台は東京とハンガリー・ブダペスト。
    外交官の試験に通ってロンドンで研修を受けている先輩からの結婚を申し込まれている純子。
    アメリカ富豪の未亡人から養女にならないかと誘われているアーギ。
    1985年10月17日。二人はそれぞれの決断を前に悩む。
    そこに、彼女たちの「縁」ある人々が関わり、大きな影響を与えていく。しかし、決断するのは本人。
    二人の感情の変化、葛藤、人々との繋がりを巧みに描く宮本輝の世界。

  • 国籍の違う、全く関わりのない二人の女性のシンデレラストーリーに焦点をあてた作品。

    純子が抱き続けていた、マスカットを手にキラキラとしていた男を忘れられない、という気持ち、とても分かるなあ。過去にばかり目を向けて、現実や未来をなかなか受け入れることが出来ない女の性質。

    選択の違いはあるかもしれないが、それぞれの幸福があるのは間違いないだろう。

  • ふーむ。
    実によみにくい 小説である。
    二人の 揺れ動く心を持つ オンナ のストーリーが
    パラレルにすすむが それが 全く別の世界のままである。
    なぜ 日本とハンガリーを 舞台にしているのか
    という意味は ほとんど質問しても意味がない。
    宮本輝が そうしたかったから と言うべきかな。

    ハンガリー 資源がない国。名字の順番が日本と同じ。
    そういう意味では、共通性がある。
    ハンガリーから見る 西側。その中心であるアメリカ。
    日本,イギリス。ハンガリー、アメリカ。
    対比されているようで,全くの羅列的な感じがある。

    テーマはオンナの決断
    それは,電話で やってくる 何らかの圧力。
    それにどう答えるのか 揺れ動く。
    ある意味では 日本人は ほとんど ハンガリーのことを
    知らない。それが故に 引き込まれない何かが異質として
    存在している。

    純子は、マスカットと孝介にまつわる思い出がある。
    その思い出を大切にしたいと思いながら、
    しかし、揺れ動くのである。
    どうもその揺れ動き方が、純真ではなく 
    計算されたオンナのずるさがあって
    みょうに、嫌なオンナに見える。
    多分,純子自身も 自分を嫌なオンナだと思っているのだろう。

    恋するオトコと結婚するオトコは違うのだ。
    そんな風にもうけとることができる。
    その計算だかさに、辟易とする。
    そして,深く考えるわけでなく セックスしたりする。
    いやー。この手のオンナは嫌いだね。

    村井が なぜ純子を好きなのか そのことも、
    理屈では 表現できない つながりを もたせる。
    純子は ただ 『はい。』と言えばいいのだ。
    それで、丸くまとまるのだろうか。
    『外交官夫人』って,そんなに格好いいものだろうか。
    シンボライズされているはずなのに,それが成功していない。

    モロッコ旅行から帰ってきたばかりの先輩の岡部晋太郎に、
    偶然出会うことで、純子の中に変化が起こる。
    その変化は 岡部にも大きな影響を与える。
    人を好きになる ということは 言葉で説明できないものだ。
    そして,説明できないと理解することで,何かが変化する。

    ハンガリーの物語は ドナウの旅人にリンクする。
    アーギは アメリカの富豪に養子になることを要望される。
    アーギの女友達 アンドレアは自殺した。
    そのアンドレアが 日記を書いていて,父親は共産党の幹部だった。
    父親は なぜ アンドレアが 自殺したのか 知りたかった。
    そして,その日記は アンドレアの作り話だった。

    パラレルではなく ハンガリーだけで 一つの物語を
    つくれないので、純子の物語は 小説の増量剤である。
    それとも,アーギの物語は 小説のおやつである。

    宮本輝は 小説作りの
    テクニックにおぼれたのかもしれないね。

  • 将来外交官になる愛していない男性と結婚するか、弁護士になる夢を捨てた心から愛する恋人との関係を続けるかで揺れる日本人女性、純子。
    お金持ちのアメリカ老婦人の養子になるか、故郷ブダペストにとどまるか、二つの選択に悩むアーギ。
    二人の決断する期限は迫られていた-。

    このお話は、国籍の違う二人の女性が人生の重要な選択を迫られ、それを決断するまでの短い時間の心の揺れを描いた作品です。
    ほんの数時間の内に様々な人々と出会い、そして一度はこちらに決めたものの、また別の道が気になって・・・という迷いを繰り返す二人の女性。
    その思いが切実に伝わりました。
    二つの物語に出てくるのがタイトルにもなっている葡萄。
    二人の女性の故郷は葡萄産地で、お話の中で効果的に葡萄やワインが使われています。
    この葡萄こそが郷里の象徴であると共に、もう一つの選択を表しているのではないか?と勝手に思いました。

    人は人生において重要な選択を迫られる場面に幾度も遭遇する。
    その時、その内のどれを決定するかは結構些細な心の向きで決まったりする。
    そして、どの選択もどれが正しいかなんて選んだ時は分からない。
    何年も何十年も時を経て分かるもの。
    熟成されて出来不出来が分かるワインのように・・・。
    この本は長編ですが、それほど長いお話でもないし、他の宮本輝さんの本と比べるとカジュアルで読みやすい作品だと思います。

  • 宮本輝の作品にしてはストーリーがもう一つ・・。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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