- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334751869
作品紹介・あらすじ
妻の不貞に気づいた貴族の起こす猟奇的な事件を描いた表題作、黄金に取り憑かれた男の生涯を追う「ファチーノ・カーネ」、旅先で意気投合した男の遺品を恋人に届ける「ことづて」など、創作の才が横溢する短編集。ひとつひとつの物語が光源となって人間社会を照らし出す。
感想・レビュー・書評
-
多数の作品から成る『人間喜劇』より厳選された
短編4編+評論「書籍業の現状について」を収録。
「早過ぎた埋葬」(!)系の表題作が猟奇的だが、
それにしても、この時代(19世紀前半)のヨーロッパでは
上流階級の人々が配偶者に隠れて若い恋人とあれやこれや……は
普通のことだったんだろうかと首を傾げる。
きっと珍しくはなかったんだろうな――と思っていたら、
巻末の年譜にバルザック自身の「あれやこれや」が記されていて
笑ってしまった。
未亡人を口説いている最中に
家事を引き受けてくれたメイドさんのような女性と「できちゃって」
いただとか、やりたい放題。
人生の経験値が高ければ、それだけ
様々な人物造形を緻密に行えるテクニックが身に着くだろうけれど、
いやはや何とも(笑)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「グランド・ブルテーシュ奇譚」妻の不貞に対する夫の仕打ちが怖すぎる。
-
19世紀フランスの作家バルザック(1799-1850)の短編4編と評論1編。大都市パリの喧噪と汚濁に塗れながら、もはや「回帰すべき田園」も無ければそこで幻想されていた「人間の本来性」なるものも喪失してしまっていることを痛切に認識し、近代社会という暴力的に運動する機構のなかで落魄した群衆の匿名的な情念と生理の有象無象それ自体のうちに何か美的なものを見出す新たな美意識を、ボードレール(1821-1867)に先駆けて描いている。この現代的な美意識にあっては、ギリシア以来古典的な「真-善-美」の三位一体が解体されている。
「英雄や発明家、街の物知りや、ごろつき、悪人、有徳の士や背徳者。だれもが貧困に押しつぶされ、困窮に窒息し、酒におぼれ、強烈なリキュールで精神を鈍磨している。・・・。この悲しみの町で、どれほどの冒険が敗北を喫し、どれほどのドラマが忘れ去られてしまうのか、あなたには想像もつかないにちがいない。そこには、おそろしいできごとや、すばらしいことが、いくらでもあるのだ! 想像力だけでは、そこに隠されている真実にまでは届かず、また、だれも彼らの中に入りこんで真実を発見できはしない。悲劇にせよ喜劇にせよ、こうした驚嘆すべきシーン、いわば偶然が生み出した傑作を見いだすにはどん底にまで降りていく必要があるのだ」(「ファチーノ・カーネ」1836年) -
「人間喜劇」から4編を選んで編まれた短編集。訳はラブレーの宮下さん。
とにかく表題作が良いんだけど、どれを読んでもバルザックはやっぱりいいなとしみじみと感じていた。バルザックの皮肉はよい。 -
4つの短篇と、書籍業に関する短い評論を収録。表題作が良かった。今は廃墟となった貴族の屋敷グランド・ブルテーシュ館には封印された忌まわしい過去が……。秘密を解明するためならば当時の女中の情人にだってなる、と好奇心が抑えられない<わたし>、詮索好きな宿屋のおかみ、滑稽な雰囲気の公証人など、ユーモアを感じさせる人々の描写が、ドロドロとして陰惨な事件の真相を効果的に引き立てる。あと、今回は巻末の年譜が読み物としても面白かった。バルザックの旺盛なエネルギーと、めまぐるしくて濃すぎる生涯の一端がうかがえる。
-
むんわりと「おとなのれいあいルール」を語る?お呼ばれして、ふんわりスフレケーキを
お紅茶と共に頂く。
↑別に否定してませんよ。自分としては賞味期限の最初から存在しない、のけぞるような酸味の漬物と、開封後一年以上経過してる日本酒出された方が安心する。
時々自分が玉子の殻のような気がする。紛れもなく同じ玉子だけど、本体と混ざってはいけない。見つかったら排除される。
まあでもこの、提灯スカート履いて、うちわで風船ラリーしてるような団体に混じりたいと思わない。
どうだ、この俺のひねくれた否定の仕方。 -
読みやすい訳。どれも面白いけど、「マダム・フィルミアーニ」が個人的には一番好きです。
-
夫ある女が若い愛人が出来た。夫にばれそうになる。さあ、どうなる。
1800年代のフランス。なんだかんだ、まだまだ男尊女卑。
名誉を重んじる貴族の世界。
バルザックらしき若者が、田舎町グランド・ブルテーシュで、謎の封鎖された豪華な館を見つけます。
立ち入り禁止になっています。
年老いて亡くなった貴族の夫人の館。
遺言で、死後50年(だったかな)は、誰も入ってはいけない、と…。
その謎を、ヒトから聞いて知っていくミステリー。
話は遡ります。
地方貴族の美人な奥さんが居る訳です。これ、つまり年老いて死んだ館の貴族夫人の若かりし日。
奥さんですから旦那さんがいる訳です。
なんだけど、この奥さんが、スペイン人の貴族と不倫の恋に落ちます。
このスペイン人の若い男性っていうのが、捕虜なんですね。戦争の。
捕虜なんだけど、まあ、貴族の時代ですから、その地方でゆったりもてなされている。
脱走しなければ、名誉ある待遇な訳です。
そして、夫の目を盗んで屋敷で密会します。そこに夫が帰ってきます。逃げる暇がなくて、続きの小部屋に隠れます。
怪しんだ夫が部屋に入ってきます。緊張です。緊迫です。
夫は、小部屋に、間男がいる、と気づくわけです。
ところが、妻が、誰もいない、という。あたしを信じないの?という。そこを開けたら、信用してないってことね。終わりよあたしたち。みたいなことを言います。
さあどうする。
どうなる。
ネタバレになりますが、まあこの本を読もうという人はまず居ないでしょうから(笑)、書いちゃいます。
夫は開けません。
ただ、その場から一瞬も外さず、逃がしません。
そして、召使に命じて。
左官屋さんを呼びます。
妻が見ている前で、小部屋の入り口を煉瓦で埋めてしまうんです。
妻がいろいろ言います。でも、「誰もいないと言ったじゃないか」「…」。
そして、妻は倒れてしまいます。
夫は、看病せねば!…と…妻が嫌がるのに、ぴったり部屋に付き添います。
夫か、夫の意を受けた召使が、必ず、必ず、24時間、部屋にいます。
そして…2週間…それ以上…。
怖いですねえ…。
と、言うお話です。
「グランド・ブルテーシュ奇譚」
これは、表題になるだけあって、実に面白かったです。戦慄です。
バルザックさん、と言う人も、読んだつもりで読んだことが無かった(と思う)んですね。
特段理由なく、ふらっと購入して読んでみました。短編集。
時代背景とかの勉強をさほどせずに、「まあ、分からないことは飛ばせばいいや」というくらいの雑な読み方。
他に
「ことづて」
若き日のバルザックらしい青年。旅の空で意気投合した、これまた若き青年。
この青年には人妻の愛する人がいる。今から会いに行く。
だけど事故死してしまう。
その悲報を、仕方なく、その人妻に伝えに行く。
でも、行ったら当然夫もいる…
「ファチーノ・カーネ」
若き日のバルザックらしき青年が、老いて盲目のイタリア人から、身の上話を聞く。
運命の恋に翻弄されて、受難したイタリアの日々。隠された財宝…。
「マダム・フィルミアーニ」
未亡人のマダムと若き青年の恋愛。
名誉とモラルの為に財産を手放すことで、ふたりは愛を深める。
「書籍業の現状について」
エッセイと言うか、論考というか。
19世紀のイギリスやフランスの出版界。
芸術に理解の無い資本家に出版を握られてて問題だ、みたいな。
表題作以外は、さほど感心はしなかったんですけどね。
わりに、「年上の女性(人妻)と青年の情事」が好きなんだなあー、という(笑)。
こういうところから、「フランスっぽい」というイメージができるんだろうなあ、と思いました。 -
不思議な物語、残酷さに心を痛めさせられるけれどその不思議さに心が躍らされる。