マウントドレイゴ卿/パーティの前に (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334752286

作品紹介・あらすじ

家柄と知性、すべてに恵まれた外務大臣は、自分が見た恥ずべき夢を格下のライバルに知られていると悩んだ末に…「マウントドレイゴ卿」。南方駐在員の夫を亡くして帰国した長女が明かした夫の秘密とは…「パーティの前に」。人間の不可解さを浮き彫りにする珠玉の6編。

感想・レビュー・書評

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  • 有能だが高慢な外交官の、取り憑かれたかのような連夜の悪夢がもたらしたものは。常識的な婦人と地味で鈍重な婦人といった対比が最後には、自分のいいたいことやりたいことをいって魅惑するものと常識にとらわれてくすんだ様子へといれかわったり。すべてうちあけてくれなければ困るという親族一同の強要が、聞かなければよかったへと墜落していくさま。謹厳で傲慢な宣教師が、悔い改めさせると意気込んだその先には。頑迷な判事と地味な近隣の夫妻という関係が、最後には。そして有能なメイドと自らを常識人と信じる紳士の関係性の変化と表面的には凪いだ波のようなメイドの本心は。登場人物たちは、目まぐるしく印象を変え。一面的なものから多面的に。すべてを語らず、謎を残したまま、あるいは読み手にゆだねて、と。個人的には古典から文学的滋味をちゅうちゅうしたいという思いと、あまりに時代背景が違いすぎると普遍にたどりつきがたい思いとがあいなかばして。◆「そうねえ、真実を前にしても気づかないからかしら」p.55◆「イングランドの何がわかろう、イングランドしか知らぬ者に、だよ」p.103◆罪の意識を吹き込むのがもっとも苦労した点でしょうかp.192◆人生というのは面白い。最高しか受けつけないと言えば、その最高が転がり込む。p.256

  • 人間の心理的暗部を炙り出す短編集
    美徳と背徳、高貴と下劣
    相反する概念が同居する人間観が胸に迫る
    閉鎖した深層に読者を誘い込み
    放置する展開も作者の悪戯心が垣間見れた
    時に主体を隠した挑戦的な翻訳は
    作品を俯瞰的な解釈へと誘った

  • 訳者が「ミステリー」と称する物語の求心力が各編にあり、読みながら自然と先を急く気持ちになった。それでいて最終的にはおおむね予想できる結末へと落ち着くのだが、不思議と肩透かしを食った気持ちにはならない。「ミステリー」を追いかけているうちに、いつのまにかモームの描き出す人間模様のおかしさへと興味の力点が移ってしまうのだ。出色なのはやはり表題2作だが、解説によってガラッと読み方が変わる「ほりだしもの」にも新訳の醍醐味を感じた。

  • 巻末の解説の冒頭に「数あるモームの短編から,『ミステリ』をキーワードに六編を選び一冊にまとめたのが本書である。」とあるが,いずれも不思議な味わいのある話である.
    とにかく訳が良くって読みやすい.いや,他社の文庫も別に訳が悪いわけではないが,本書は古典の格調は残しつつ,カビ臭が一切感じられない.実は6編のうちの2編は他社版で読んだことがあるのだが,読み比べてみようと思う.
    一番のお気に入りの短編はスーパーメイドを描いた「掘り出しもの」である.

  • ジェインの進行と謎
    光文社古典新訳文庫のモーム短編集から冒頭のジェインを昨夜読んだ。この短編集では広い意味での謎解き作品を集めたと訳者木村氏が書いている通り、この短編もなんでジェインがいきなり義姉を出し抜いて変身したのかがさっぱりわからない。そんなこと気にせずに台詞の素早さを堪能すればいいだけ…劇作家として成功したモームはそう考えているのかも。そこでもう一点、この作品一応「私」が語り手として登場するのだが、「私」がその場から退場してからも、本来なら見ることのできないその後の経過が事細かに書いてある(後で伝聞したとかいう説明も無し)。視点が曖昧…というか舞台の天井に貼り付いている感じ。ここでも劇的。「私」も単なる一登場人物なのだ。
    (2017 05/02)

    パーティーの前に幸せな二人
    昨日未明から昨夜にかけて、モーム短編集から「パーティーの前に」と「幸せな二人」の二編を読んだ。前者はボルネオ北サバ州舞台でこの時期はイギリスから委託された会社の駐在員が現地裁判権も行使していた。そんな駐在員が有能なんだけど飲んだくれで、何度も裏切られた妻が殺してしまう…という筋。それがイギリスに妻が戻ってきて、病死とか自殺とか言われていたその死の真実を語るのが、パーティーの前だった、というのがポイント…でも、もしここで殺してなければどうなっていただろう、と考えると…あとは打ち明けられた父親は法曹界の人間みたいなんだよな…
    「幸せな二人」は、リヴィエラの別荘生活を背景にした、とある資産家女性殺害事件の話。解説にある通り、もしその女性と後のグレイグ夫人(当時は処女と認定された)が同性愛関係だったら、ルンドンの説は間違っていることになるけど、それでなくとも読者には状況証拠がいろいろ。夜逃げしたグレイグ夫妻がこれまでの費用を残していったこと(それを記述していること)、ルンドンという判事?が女性に対して古い価値観をちらつかせるなどしていること、それから小説の構造上の証拠なんだけど、別荘生活の女友達の空想したグレイグ夫妻の愛の物語が虚構であるなら、ルンドン判事?の事件推理も対照に虚構ではないだろうか。
    でも同性愛説が正しいとすれば、タイトルの「幸せな二人」とは…
    (夫妻になってからは子供もできてるけど)
    (2017 05/06)

    「雨」と「掘り出し物」とその後
    昨日はモーム短編集から「雨」と「掘り出し物」。これであとは解説だけ。前者も実は再読もの。後者はほんとは残しておくはずだったのですが…
    「雨」はデヴィッドソンに最後に何が起こったのか、「わかったのである」と唐突に書かれて終わっているけど、読者としてはわからないまま突き落とされた感じ(傾向はわかるけど、何故かは謎)。
    「掘り出し物」は短編集冒頭の「ジェイン」と似た語り口のスピード短編。これに挟まれるようにいわゆる謎解き短編が並ぶのは…たぶん狙ったのだろう。
    「雨」の語りで気になるのはどこの視点だろうということ。第三者的語りなんだけど、誰の内面にも入り込み、そして出ていく。この当時(1921年)には既に語りに重きを置く作品が結構出てきていると思われるだけに…他の謎解き系作品とも見比べたいなあ。
    あとはその謎解き系作品のその後…そのあとどうなったのか、気になるなあ…特に「パーティーの前に」と「雨」…
    (2017 05/09)

    最大の謎
    モーム短編集の解説を昨夜読んだ。モーム作品の翻訳家としても知られる中野好夫氏は正反対の性格を併せ持つ(持ってしまう)人間そのものを最大の謎であると「サマセット・モーム研究」という本で述べている、とか。
    この短編集にはそうした側面が強く出た作品が並んでいる…それともモーム作品のほとんどがそうしたものなのかな。
    (2017 05/10)

  • 初サマセット・モームです。
    訳が硬くなくとても読みやすかったです。会話のテンポも良くすいすいと読み進められました。
    『人間の不可解さを浮き彫りにする』と説明があるように登場人物の意外な面に驚かされる本でした。
    表題作でもある『パーティの前に』は目の前で舞台が繰り広げられているような感じで良かったです。

  • 正直、名作とか、古典の香りを感じることはなかった。普通。

    不気味ではあっても、それこそ上には上がいくらでもいる。
    不思議な話にしても惹きつける力があまりない。

    メイドとか、お茶、植民地、体裁、外聞を気にする気質はイギリスだなぁとは思う。

  • 『ジェイン』『パーティーの前に』は素晴らしく面白かった。『パーティー』は、寸劇にピッタリ!って思った。

    どの作品もオチが良かった。
    読者の予想の範囲内で、しかも上手くオチていた。
    素敵なオチのいい例でしたね。

    『月と六ペンス』読んでみたい。

  • 1月

  • ミステリィっぽい短編が6篇入ってるんですが、どれも面白かったです。退屈する間などなく、グイグイ引き込まれますね。

    特に表題になってる「パーティの前に」は極上ッ!

    赤道直下ボルネオの駐在員でアル中の男と、その妻の話。 

    僕もご多分にもれず酒は好きなのですが…適量守ろうっと。我が身を省みつつ、本気でオススメの短編ですッ

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