アイルランド幻想 (光文社文庫 ト 1-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334761578

作品紹介・あらすじ

盲目の人気作曲家は療養のため故郷アイルランドの邸に移り住む。その庭には古代遺跡の名残とされる石柱が立っていた。夜ごと彼の耳に悲嘆と苦悩に満ちた不思議な合唱が聞こえるようになり…(第1話「石柱」)-霧の海に育まれた豊かな神話・伝承と、イギリスの度重なる苛烈な植民政策に抗した農・漁民の怒りと嘆きを、ピーター・トレメインは、哀しみの幻想小説集として昇華させた。アイリッシュ・ホラー初紹介。

感想・レビュー・書評

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  • 修道女フィデルマの著者。
    巻末に、特別に日本での刊行に寄せて著者の後記があります。
    あくまでも、読み物(エンターテイメント)として楽しんで欲しいと書かれていますが、訳者あとがきにある通り、アイリッシュホラー=恐怖話の域を越え、怒りを秘めた慟哭の物語たちです。

    世界史で、じゃがいも飢饉、アイルランド人の米国移民を教わりました、でも、私は何も知らなかった、理解していなかったです。これほど凄惨なものだったとは。

    全ての行いは、自らに帰る。

  • 前に読んだかも知れないが、図書館から借りてきた。
    フェデルマもので有名な作者。フェデルマは何話か読んだけれど忘れちゃった。
    アイルランドの風土に根ざす土俗的な幻想物語、かな。好みのジャンルです。幻想物語はこうでなくちゃ。
    しかしかなり怖いし後味悪く救いのない話が多いので、声を大にして好きだとは言えないのが少し残念。

  • アイルランド人がキリスト教を信仰するようになると、古代の神々は丘へ追いやられ妖精となってしまった。
    豊かな自然と数々の伝説の中で、人間は奇異な存在に見える。しかしまた、過酷な時代に生きた人々の魂は、その土地そのもののように叫び続けている。
    哀しみの歴史とともに紡がれる幻想的なホラー。
    思いのほか怖くて身震いする。超自然的なものへの恐れは、自分の罪への恐れと似ているのかもしれない。

  • 一週間程前のスコットランド独立投票の影響だと思う。

    ふとケルトの話が読みたくなって、スコットランドではないが、手元にある唯一のケルト小説『アイルランド幻想』を開いてみた。
    それは、全11話からなる短編集で、神話や伝承をベースにしたアイリッシュ・ホラーである。

    ケルト音楽が大好きで、これまでコンサートやらリバーダンスに足を運び、その時も感じた霧の中を歩くようなどこか不気味で暗く妖しげな雰囲気と、しかし底辺にある何者にも屈するものかという強い思いが様々な描き方によって、それはリアルに表現されている。


    視覚的な怖さじゃなく、そのひんやりとした独特の空気感が気に入って、夏の名残りを感じながらも秋の気配が深まるこの季節に数話づつ読み進めていたのだが、ここらで一気に読みたくなった。

    だが、それでも一日に読める量は2~3話程度まで。 しかも通しでは読めなかった。

    長編ではないのであるから、頁数でいうならばすぐに読めてしまうはずだ。
    しかし、一話一話それぞれにインパクトが強く、頭の中のイメージを鮮明に描こうとすればするほど背後に異様な空気の流れを感じ寒くなる。


    和訳も自然で見事であるから、

    「私は枕から体を起こし、首をそちらに傾けて、耳をすませた。 
    描写しがたい音だった。
    遠くから聞こえてくる歌声を思わせる。 
    苦悶する魂がすすり泣いているかのような、声を忍ばせた哀悼歌の合唱のような、不思議な音だった。
    (『石柱』P16)」

    とあれば、本当に何処からか哀愁に満ちたすすり泣きが聞こえてきそうで身震いする。


    「私がまだ戸口に立っていたとき、夕暮れの薄明かりをつらぬくように、この世のものとは思えない泣き声が、聞こえてきた。
    次第に音量を強めてゆく甲高い軋るような悲鳴であった。
    一度、二度、さらに三度と、血も凍るような叫びは響き渡った。
    (『髪白きもの』P151)」


    「一瞬、彼はそのまま、根が生えたかのようにその場に立ち尽くしていた。
    全身の血管の中で、血が氷と化した。
    だが次の瞬間、恐ろしさと息の詰まる暗黒に突き動かされて、大声で恐怖の絶叫を上げながら、錆びついている鉄の扉に全身で突進した。
    古びた鉄の扉を、素手で乱打し続けた。 助けをもとめて、叫び続けた。
    (『妖術師』P313)」


    そして、幾度となく登場する<大飢饉(じゃがいも飢饉)>と、イングランドによる非人道的な植民地支配。

    それら現実にあった歴史が、アイルランドという風土特有の物悲しさを一層濃くし、そこかしこから滲み出る悲哀をより強くした。

    教科書めいた歴史書よりも、ずっと真実を伝えている気がする。


    何度も何度も背筋をぞくぞくさせながら、そしてやはりこの独特のひんやりした空気感が好きだなと思う。

  • ケルトの伝承や伝説をもとに描かれたゴシックホラー集。アイルランドの歴史や伝承をもとに語られる民話の背景に霧深い幻想の国アイルランドの悲哀に満ちた歴史が語られ、おぼろげにしか知らなかったゲール民族の歩んできた悲惨な過去を知る事が出来る作品。

  •  怪談としても恐いのだけれど、アイルランドの歴史と組み合わせると、これ位の呪いでも掛けないとやってらんないよね、という気がして来る。
     いや、人間の恐ろしさに対抗するには、この程度の呪いでは足りないかも知れない。
     11の短編集で、そのどれもが救いのない話。でも救いのある話になどなりようがないと納得出来るというか。
     読んでいる最中は恐いと思っているけど、読後はどの話も哀しみを強く感じた。

  • 内容はいわずもがな、特筆すべきは翻訳という壁を感じさせない読みやすさ!夢中で読めた。海外文学が苦手な方にもおすすめ。

  • 「修道女フィデルマ」で知った、古代アイルランドの世界。
    古代アイルランドの伝説伝承が、現代に結び付き描かれた怪異譚の数々。
    国は違えど、雰囲気は日本の古典的な怪談と似ているような・・・。
    歴史的背景の複雑さがある分、暗さと重さには、かなり違いがあるかなぁ。
    「幻想」というよりは、かなり「ホラー」な世界でした・・・。

  • 全11話の読みきり短編集。 おどろおどろしさは無いがやはりホラー、ラストでさり気なく読者をゾッとさせる事は忘れない。 アイルランドの神話や伝承を盛り込んだアイリッシュホラーはケルト学者ならでは。

  • アイリッシュ・ホラー…ゴシックホラー傑作集。
    11の短編集ですが、ほとんどの話の主人公がアイルランド人の迷信深さなどを疑って破滅するような話です。

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