黒幕 鬼役(二十八) (光文社文庫 さ 26-38 光文社時代小説文庫)
- 光文社 (2019年12月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334779450
感想・レビュー・書評
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将軍の毒味役である御膳奉行・矢背蔵人介には、幕臣随一といわれる田宮流抜刀術の達人であり、幕臣の不正を断つ暗殺役という裏の顔がある。
此度は、幕臣・御側御用取次の宇郷対馬守が、津軽藩留守居役らによる蝦夷地の俵物の抜け荷にと、柳川藩の藩主を我が孫にと…裏で動き、巨額の利益を得ている…。
【苦肉の毒】
毒味の最中に矢背蔵人介は、蒸し鮑(あわび)に微量の烏頭(うず)の毒が入っていたのに気が付く。犯人は、御膳所同心・内間源六あるが、乱心したとして3日後に刑場で斬首される。
蔵人介は、源六を調べていくと…、誰かに導かれて行くように北前船の難破事件に行き当たる。それに係わった者は、津軽藩の留守居役と御用商人・菱川屋で、蝦夷地の俵物の抜け荷を行い、それに手を貸すのは幕臣・目付支配無役世話役で鍾馗流・犬山軍兵衛であった。これら3人を蔵人介は、成敗するが。なお黒幕とおぼしき幕閣重臣の正体はいまだ…。
【おしどり】
久留里藩剣術指南役であった浪人・俵田三左衛門は、12年前に妻・須美を殺された仇を探して旅をしている。
此度、甥の敬次郎は、御前試合で勝利したが、負けた中老・貝須賀大膳の息子・忠弥に騙されて殺される。敬次郎の父・佐久間敬吾は、息子は暴漢に襲われて死んだと隠蔽するが。
矢背蔵人介は、12年前も同じことが起こった事実を明らかにする。それは、忠弥が須美を凌辱して首を絞めて殺したのを、須美の実兄・佐久間敬吾と貝須賀大膳が隠蔽したものである。三左衛門は、妻・須美と甥・敬次郎の仇を…、蔵人介も城中で大膳を…。
【柊(ひいらぎ)侍】
築後国柳川藩の江戸留守居役・菰野(こもの)作兵衛は、江戸城の蘇鉄之間に1人で立てこもった。前代未聞の行動に打って出た、このまま行けば柳川藩が減封(げんぽう)か、悪くすれば改易になりかねない。作兵衛は、藩主・立花鑑備(あきのぶ)16才の命を守るため苦肉の策に出たのである。
立花家一門の立花鑑胤(あきたね)18才を藩主とする一派が、鑑備の命を狙っている。鑑胤は、幕臣・御側御用取次の宇郷対馬守の実孫である。宇郷は、孫を藩主とし柳川藩を…として動いている。矢背蔵人介は、鑑備を助けるため…。
【豆知識】
「北前船」とは、江戸時代から明治時代にかけて日本海海運で活躍した、主に買積みの北国廻船(かいせん)の名称。買積み廻船とは商品を預かって運送をするのではなく、航行する船主自体が商品を買い、それを売買することで利益を上げる廻船のことを指す。
当初は近江商人が主導権を握っていたが、後に船主が主体となって貿易を行うようになる。上りでは対馬海流に抗して、北陸以北の日本海沿岸諸港から下関を経由して瀬戸内海の大坂に向かう航路(下りはこの逆)及び、この航路を行きかう船のことである。西廻り航路(西廻海運)の通称でも知られ、航路は後に蝦夷地(北海道・樺太)にまで延長された。
「目付支配無益世話役」とは、徳川幕府の旗本衆約5,205人と御家人衆約17,399人(1722年)の全てが、番方や役方の諸役職に就いて実務を遂行すれば問題が無いのですが、病弱などで役職に就けない者が発生します。
これらの「無役」の者のうち、家禄3千石以上の旗本は「若年寄」配下の「寄合肝煎り」の下の組織「寄合」に属して再び役職に就ける様に運動し、「肝煎り役」は若年寄りにその人物の性格や才芸を見極めて推薦します。
家禄3千石以下の旗本・御家人は「老中」配下の「小普請組支配(旗本)」と「小普請組(御家人)」に属して、組頭の下にあって諸願い・諸届け・諸伺いを提出して、いつか役職に就けるように運動しています。
この小普請に入れない家禄が最も低い御家人衆(黒鍬者で12俵一人扶持)の五役(中間・小人・黒鍬者・駕籠者・掃除者)が無役になれば、「目付支配無役」として別扱いになり、彼らが目付配下の「目付支配無役世話役」の下に属して、役が廻って来るようにかねてから世話役に面識を得ておくことに躍起になって上役・先輩への進物を欠かさず、挨拶を忘れなかった。
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黒幕 ー 鬼役シリーズの28作目
2019.12発行。字の大きさは…中。2019.10.09読了。★★★☆☆
苦肉の毒、おしどり、柊侍、の短編3話。
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2022.09.11修正詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2019年12月光文社時代小説文庫刊。書き下ろし。シリーズ28。3つの連作短編。ワンパターン化している。新たな動きがほしいところ。
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鬼役28巻目。変わらず面白い!
むしろさらに面白くなってきたのではないか
アクション多めだったような。
序盤からかなり面白かったし、柊の場面とラストがすごく儚げ。
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橘右近亡き後、物語が今ひとつピリッとしないので、この先読み進めるのはどうしようかと思っていました。
今回は良いのではないでしょうか。
蔵人介が自ら動き、だんだん年齢を重ねて深みが増してきたような。
この中の『おしどり』『柊侍』は、なかなか内容が良かったです。12巻の切腹を思い出します。
“までさま”なしのほうが、話しが締まると思うのは私だけでしょうか?
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流れが変わってきたと感じるのは私だけだろうか
橘亡き後、後継は何処にいったのであろう -
第二八弾
ある犯罪を示唆するために公方の食事に軽い毒を、下っ端は直ぐに解るが背後にいる幕閣は
次はおしどり夫婦に仕掛けられた犯罪を暴き、犯罪を暴き散って行く無骨者 -
将軍の毒見役が幕臣一の剣客で仕置人のような位置づけという設定の定期的に読みたくなる時代もの娯楽作品。悪はひたすら悪く、清く正しく生きようとする人が理不尽な目に会い最後に主人公にばっさりやられる、というお決まりのパターンの繰り返しなのだがたまにこういうの読みたくなるんだよね。得に勧めはしませんがけっこう面白いよ。
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忠義者のお話が続きましたね。
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27巻では、土地に絡んだ賄賂についてだったが、今回は、御用船の難破で、大儲けしている船主 菱川屋利平。
難破したと見せかけて、御近世の俵物をかすめ取っていたのだ。
どこぞの国が、現在しているような、「瀬取り」という手法で、俵物を売りつけ、高麗ニンジンなどの高価な薬種や玳瑁などのし好品へと、、、、
この事を、公にして、悪を正したいと願う思い、殿の料理にほんの僅かの毒を盛る。
蔵人介は、その毒を口に食らうが、何事も無く、指示を出して、其の後の料理を食すのだが、、、、
毒を盛った者は、、、、内間源六。
しかしこの事を闇に放り込もうとしている裏の者。
源六の兄 征木源五も、壮絶な覚悟で、望む。
もう、裏で糸を引いている者が、憎く思えてしまう。
そして、志乃を慕う橘右近も亡くなり、またもや、志乃を敬う俵田三左衛門なる人物をも悲しい結末に、、
三左衛門を慕う甥っ子の佐久間敬二郎も、、、悪の餌食になってしまう。
悲しさと、やるせなさが、、、、一度に襲って来る。
志乃さんと、昔話に花をもっと咲かせてもいいのではないだろうか?と、つい思ってしまった。
原尻監物もおはぎの方も、、、成敗される。
最後の蔵人介の胸にまな板を入れている所が、ホッとした瞬間でもある。
薦野作兵衛の籠城で、悪者たちの企てが狂ったが、侍の矜持として、宇郷も闇丸も蔵人介の刃に倒れる。
作兵衛は、忠義者なのに、切腹しないといけないのが、、、悲しい。
沢山の良い人が、裏の者の上司によって抹殺され、成敗しても、その責任を取らねばならぬ、忠義者、正直者迄、処罰される。
一命をかけての、武士の矜持というわれたら、どうしようも無いのだが、、、やはり、無念!
柊の古木は棘の記憶を失うのだろうか?