南風吹く (光文社文庫 も 23-2)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334790516

感想・レビュー・書評

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  • 前に読んだ「春や春」が良かったので、姉妹編のようなこちらにも行ってみた。

    舞台は瀬戸内海に浮かぶ小島の分校。
    愛媛県では小学生の時から俳句の授業があるというのは知っていたが、本の中では中学校の卒業記念品に歳時記をもらっていた。なかなかだな。

    「春や春」と異なりメンバー集めの妙や俳句の奥深さに触れるのはほどほどで、サクサクと句戦の積み重ねに入る。
    その分前作にあった俳句についての驚きや発見は少ないが、代わりにダイレクトに俳句鑑賞の面白さに溢れていた。
    P.248にディベートの要点が書いてあったのも助けになった。
    ・兼題は生かされているか。
    ・無駄な言葉がないか。
    ・鑑賞者として、句のイメージをどれだけ豊かにふくらませられるか。

    島で生まれ育った4人に、松山の親と離れて島で暮らす1人が入ったチーム。
    俳句の面白さに嵌っていくとともに進路や家庭の事情の中で揺れる心情がそれぞれの句に迸る。

    球技部での夢破れ、俳句甲子園出場のメンバー探しを手伝う内にそのまま引きずり込まれた航太。
    「今ここがおれのポジション南風吹く」
    家業の和菓子屋を継ぎたくても狭い島での商売ではその行く末は甘くなく、そんな訳で進路に悶々とする彼の、それでもこの島で生きていることへの感情を言い切る前向きさが際立つ。

    俳句甲子園への出場に熱意を燃やす日向子。
    「雨の香の胸をこぼるる日焼かな」
    自信家のように見えて、その実自分にできることを証明したくて自らを鼓舞し続ける彼女の、いつもは見せない大人っぽく女らしさが溢れた句にドキッとする。

    文才豊かにもかかわらず最後までメンバーになることを拒んだ恵一。
    「しあわせな試行錯誤や水の秋」
    いけ好かないと思っていた俳句甲子園を内側から知らなければ本当の批判はできないとメンバーになった彼。進路のことでも漁師の親と諍う彼の、揺れる思いの丈が詰まった句。

    由緒ある神社の神職の跡取りで情報通の和彦。
    「草笛よ法螺のごとくに海を行け」
    永く続く神社が故にそれを継ぐことが既定となった将来を受け入れながら、小さな世界に閉じ籠ることなく人との繋がりを広げる彼が詠んだ句は、海のせいで本土と隔てられ不便な暮らしを強いられている島の子らの屈託を洗い流すような力強さ。

    文芸部で短歌好きな京。
    「掌にもがく蝉や言葉だけの故郷」
    ちょっとした行き違いとその年頃特有の頑なさで母親と折り合いを欠き家を出て島の親戚のところで暮らす彼女の切ない思い出。
    そんな彼女への兄からの答礼句がなんとも素敵。説明のできない興奮に包まれていたのは五木分校の5人だけではない。
    「泣きやまぬ妹と居る蝉時雨」

    P.307に藤ヶ丘女子高が登場。そこから進んだ敗者復活戦の兼題を見て「春や春」と同じ大会を別の高校の話で読んでいたこと気がついた(遅いって)。
    色々な学校が入り乱れ、小さなエピソードでも出場校それぞれにドラマがあることを思わせる作りがとても良かった。

  • 『春や春』に続く俳句甲子園の話し。
    地方大会を勝ち抜いた高校生達が、松山市で行われる全国大会に出場。そして、それぞれが詠んだ俳句で戦い優勝を目指す。
    とても爽やかな青春ストーリー。
    そして、前作と同様に俳句で戦う様子が、読んでいてとても面白かった。

  • 言葉の意味やイメージがそれぞれの育った場所を感じさせ、おもしろかった。

  • 前作も面白く読めたが、こちらもよかった。高校生の熱力を感じられて、懐かしいような気恥ずかしいようなけれど、応援したくなるようだった。
    迷ったり、ぶつかったり、運動部だろうと文化部だろうと変わらない熱さがいい。小説以上に熱いだろう実際の俳句甲子園を見てみたいと思う。

  • 俳句甲子園を目指す高校生達の物語。

    「春や春」のスピンオフの物語で、そちらの方は読んでいないのですが、普通に楽しめました。

    なかなか俳句に触れあうことはなかったのですが、テレビ番組「プレバト」を機に身近に感じるようになりました。
    といっても17音だけで表現する難しさには圧倒されます。

    この作品でも多くの俳句が披露されていますが、よく思いつくなと感心してしまいました。全てを理解するのは難しかったのですが、雰囲気だけでも味わえましたし、一つの俳句で多方面の解釈があるため、色々楽しめました。
    話し合うからこそ、解釈のレパートリーが拡がり、どれも違う世界観が見えてくるので、俳句の奥深さを感じました。

    俳句に懸ける高校生達の熱き戦い、言葉の面白さ、日本語の美しさ、高校生達の進路、時に恋バナと爽やかに描かれていて、良い青春小説を読んだなという満足感がありました。

    俳句甲子園ということで、もちろん試合のシーンも描かれていますが、思ったよりもサクサク進むので、もう少し熱戦を描いてほしかったなと個人的に思いました。

    瀬戸内海での情景や高校生同士の掛け合いが瑞々しく、しっかりと前を向く姿に応援したくなりました。

    熱き高校生達の新たな分野の1ページを読んだ感覚があり、面白かったです。

  • 作品中に出る俳句がどれも俳句甲子園に実在しそうで面白く読んだ。

  • すごく面白かった。俳句、私好きかも。ことばって面白いなと思う。知らない人の作った俳句ほど想像の余地があっていいと思う。

  • 2020年7月29日購入。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00605560

    瀬戸内海に浮かぶ五木島。過疎が進み、航太の通う高校も再来年には廃校になる。家業の和菓子屋を継ぐことを父親に反対され、宙ぶらりんな日々を過ごしている航太を、俳句甲子園を目指す同級生の日向子が仲間に誘う。幼馴染の恵一や個性豊かな後輩たちをどうにか仲間に引き込んで、頭数は揃った。未来への希望も不安も、すべてを込めて、いざ言葉の戦場へ!(出版社HPより)

  • 俳句甲子園という競技(といっていい)に走る高校生の物語。島育ちという特殊な環境で将来を悩み、今を切り取る俳句にとりくむ高校生のまっすぐさよ。いい子だらけかもしれないけれど、家族とか将来とか普遍的な悩みがちりばめられててよい。ふだん批評とかキツくやるほうだけど俳句甲子園は自分が(高校生だとして)でるのは無理。詠むのもそうだけどとっさの批評で攻めたり守ったりって怖すぎる。

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著者プロフィール

1969年静岡県生まれ。日本画家・屏風作家。筑波大学大学院芸術研究科美術専攻日本画分野修了。渦巻きをモチーフにした屏風制作を行う傍ら、神社、寺院,協会への奉納絵画をライフワークとして続ける。 主な奉納・収蔵作品大徳寺聚光院伊東別院 墨筆による「千利休座像」軸一幅/駿河総社静岡浅間神社四曲一双屏風「神富士と山桜」。主な出版物 絵本『おかあさんはね、』(ポプラ社)/絵本『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)/絵本『サクラの絵本』(農文協)/詩画集『国褒めの歌巻一』(牧羊舎) 
自身の日本画制作に加え、寺社奉納絵画、絵本制作、コラム等の執筆、講演会等を行う。人と人、人と自然、人と宇宙が穏やかに調和する日本文化の特質を生かし、新しい世界に向けたパラダイムシフトを呼びかけている。静岡ユネスコ協会常任理事。

「2020年 『ジャポニスム ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森谷明子の作品

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