海の上の美容室 (光文社文庫 な 49-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334790714

感想・レビュー・書評

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  • 美容師の三品明(みしなあかり)は、職場で自分の居場所を失って自ら退職、その勢いで登録した求人サイトからの連絡で導かれた新しい職場は…クルーズ船。
    横浜からベトナムまでを往復する〈ぎんが丸〉の美容室スタッフとして働き始めた明だが、これまでの職場とは勤務リズムも客の求めるメニューも、客たちとの距離も違っていて…。

    コロナ禍の今でなければもっと楽しく読めたとは思うのだけど…。
    忙しい時もあるが、基本的にのんびりした勤務時間で、暇な時は美容室を閉めて船内を探険したり、他のスタッフが入れないパブリックスペースも割と自由に使える。かなり厚待遇だ。

    美容室が暇というのも言われてみればそれもそうで、クルーズ船内で髪を切ろうという発想がない。ただパーティーやイベントがよく行われていてフォーマルスタイルでないと入れないパーティーもある。となれば、セットや着付けなどの需要が多い。また客だけでなく、イベントなどに出演する人々のセットもある。陸の美容室との違いは興味深い。

    美容師は明一人だが、隣のエステスペースを切り盛りする吾郎は美容師免許と理容師免許両方を持っている強者で、着付けも早く正確で実に心強い。
    看護師の夢やパーサーの美絵など、スタッフたちも親しみやすくすぐに仲良くなれている。

    それまでの職場の行き詰まりからは一転、弛すぎる環境なのだが、第一話では何だか訳アリらしい家族と関わるうちに子どもたちが行方不明になるというスリリングな展開となる。
    クルーズ船という閉鎖空間で半月も共に過ごしていれば、客とスタッフの仲にも距離が近付く場合がある。

    第二話は戦時中台湾に住んでいたという老婦人と共に彼女がかつて過ごした地区を訪ねる中で出会った奇跡、第二話は〈ぎんが丸〉にずっと暮らしているマダムとエンターテイナーとの熟成した関係を明は見つめる。

    それぞれ良い話だった。家族の話は子どもたちの健気な反抗がいじらしく、老婦人の話は戦時中や終戦直後にはこんな混乱と悲劇がたくさんあったのだろうと思ったし、マダムとエンターテイナーとの話は長い年月それぞれが抱えたものや人生があっての今の関係という感じで良かった。

    ただ肝心の美容師としてのお仕事が脇に追いやられている感じで少し物足りなかった。
    子どもたちを探したり老婦人の奇跡に一役買ったり、明の活躍もあるのだが、せっかく美容師という設定なのだから様々なトラブルや客たちの悩みを美容師としての腕を使って解決するという展開ならもっと良かった。

  • クルーズ船って言ったら、どーしてもコロナってイメージしかなくって…
    自分が乗ったことのある船は、フェリーくらい。
    豪華客船、いつか乗ってみたい!

    職場が陸から海の上へと変わり、環境も変わって
    仕事もうまくいく主人公がよかった。
    乗客のそれぞれのストーリーで面白かった。

  • 憧れはするけど行ったことある人にもお目にかかったことのない長期クルーズ船の旅。美容師としてクルーズ船に乗る三品明。双子の小学生と船内かくれんぼ、親しくなった婦人と寄港地台湾で思い出巡りから思わぬ再会に涙、クルーズ船のゲスト歌手と船に住むマダムの思い出と絆。読んでると一生に一度はクルーズ船の旅を体験してみたくなりました。

  • 読んでいるとクルーズ船に乗ってみたくなります。
    お客としても乗ってみたいけど、スタッフとして働くのも魅力がありそう。
    クルーズ船の話に戦争の話が絡んでくるとは思わなかった。こういう風に、生き別れたり、家族は死んだって思っていたら・・・ってことはそれなりにあったんだろうね。
    マイク森川のウィッグ事情、そういう事だったのか。。。
    マダムもその事は知っているみたいだし、幼馴染の夫を見送り、親友もいずれ・・・マダムがクルーズ船に乗り続けるのって、部屋を出ればすぐに誰かとおしゃべりできるからなのかも。

  • お仕事小説である。
    それも、珍しい船上美容室に勤める事になった主人公 三品明。
    職場で、後輩に出し抜かれて、身の置き所の無くなった明が、「ぎんが丸」に乗船し、美容室「リバーヒップ」に。

    7月28日 横浜から高雄、ダナン、ハロン湾、香港、那覇、横浜への乗船である。

    そして、3話の話で、高雄の話は、今だから、書ける話であろう。
    皆、後数年経てば、生存者も限られて来る。
    戦争のドサクサで、兄妹は、死亡したと、どちらも思っていたのだが、偶然に、生存している事がわかり、会えた事に、凄く、良かった!と、思ってしまった。
    我が主人も 釣りが好きで、台湾の人達とも同好会を通じて、知り合った人たちは、良いお年の方々は、日本語が、堪能であり、字も達筆であった。
    戦争がなければ、・・・家族が離れる事も無かったと、思ってしまった話であったが、つい泣けてきてしまった。
    第三章の「マダムに恋した男」も、主人公の明よりも、マドンナ的存在のマダムとマイク氏の遠い昔の話が、とても素敵な話だった。
    この後、マダムは、下船するのだろうか?
    そして、マイク氏の病気は、完治できるのだろうか?と、少し心配になった終わり方である。

    エピローグは、少し身内感のある人物だけの登場で、終わってしまっている感が、強い。

    昔、クイーンエリザベスⅡが、神戸に来た時に、乗船したけど、乗組員たちは、忙しそうで、余裕などなかったように思われる。

    そして、コロナのような状態になった時、クルーズ船も、怖い様な気がしたので、楽しい優雅な乗船風景が、綺麗に書かれ過ぎの感もあるような気がした。

  • 後輩に追い越されて失意のうちに勤め先を辞めた美容師の転職先は豪華客船のエステサロン。

    新しい職場最初のクルーズで触れ合った仲間のクルーや乗客達とのハートウォーミングなエピソードで綴る連作。

    人間ドラマにウルっと来ちゃいます。
    ウルっと来ちゃうと同時に、皆さんあまりに良くできたいい人揃いで、ハイソな世界の住人はちょっと違うなーと感心したりする。

    それと、何て言うか、これって美容室あんまり関係無くない?

  • 読み終わる前から、続編読みたいーっ!と思いながら。

    高雄パートでは号泣。

    続編続編!

    待っています。

  • 心温まる物語でした

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著者プロフィール

児童文学作家、小説作家。
東京都生まれ。著書に『猫手長屋事件簿』シリーズ、『幕末五七五! 』(白泉社まねき猫文庫)、『名探偵!? ニャンロック・ホームズ』シリーズ(集英社)、『ゲストハウス八百万へようこそ』(双葉文庫)などがある。

「2018年 『新・歴史人物伝 豊臣秀吉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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