星詠師の記憶 (光文社文庫)

著者 :
  • 光文社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334792565

感想・レビュー・書評

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  • 未来が見える弟と見えない兄が作った星詠会そこで未来を見る事を研究していた2人が実はお互いに無いものを羨望しそれが殺人にまで行き着く。未来を使った見立て殺人の発想は新しく予想外でした

  • 阿津川辰海さん2作目。
    ザ・特殊設定ミステリ。

    この手の設定だと海外ミステリの場合、どちらかというとSFに寄る話が多い気がするのだけれど、日本の場合本格だったりパズラー要素強めだったりするんだよなぁというのが印象強く残る一冊。

    石神赤司は、紫水晶に未来予知を投影できる異能の持ち主だった。
    幼い頃に父が出張先からお土産に買ってきたミカサギ村の紫水晶に魅入り、寝床に就くときも肌身離さぬ日々を過ごしていたところ、あるとき見覚えのある顔の映像が水晶の中に刻まれていることに気付く。
    後に、それは自分を殺そうとしている父の顔であることを身をもって知る。。。

    トラウマとも成りかねない修羅場を乗り越え、兄の青砥、事件後の身元引受先の祖母の知人である紫香楽と共にその異能を活用すべく〈星詠会〉の大星詠師として身を尽くす道を歩むが、時を経て殺人事件の被害者に。
    容疑者は息子の真維那だが、動かぬ証拠も裏腹に冤罪の臭いが。

    この事件の真相究明に挑むのは、とある経緯から休職中に生まれ故郷に静養に訪れていた獅堂。
    話を聞いていくうちに、現在(2002年)の事件の前に1976年に近親者の青砥と紫香楽が事故死を遂げていることがわかる。
    調査を進めるほどに、双方の関連性が色濃くなって行く。。。

    一歩距離を置いて読むと、色々と突っ込みどころはあるものの、逆に前のめりで読むと用意周到な伏線と回収の業が光る。
    解説、斜線堂有紀さんの『楽園とは探偵の不在なり』のインスパイア作品ともなったこととの本書。

    あぁ、わかる。何か雰囲気似ている。
    その読書遍歴だけに、ちょっとロジック志向な感じはするけど楽しめました。

    稀に見るネタバレ全開な解説は、読了前に読む人には注意だけれど、このぐらい踏み込んだ話をしてくれた方が読後の頭を整理できる。

    • fukayanegiさん
      111108さん、こんばんわ。
      コメントありがとうございます!

      話の内容自体は全くもって関係ないので、どちらから読んでも問題ないですよー。...
      111108さん、こんばんわ。
      コメントありがとうございます!

      話の内容自体は全くもって関係ないので、どちらから読んでも問題ないですよー。
      斜線堂さんがこの作品が好きで触発されたのと、編集さんから声が掛かったので『楽園とは〜』の特殊設定ミステリに挑んだという話が解説にあり、特殊設定を上手く活かした論理展開が、″似てる″と思ったところです。
      特殊設定は出だしを上手く受け入れられないと、なかなか先に進めないですよねーw
      2024/01/14
    • 111108さん
      fukayanegiさん、お返事ありがとうございます!

      どっちからでもOKなんですね。では積んである斜線堂さんの方から行こうかと思います。...
      fukayanegiさん、お返事ありがとうございます!

      どっちからでもOKなんですね。では積んである斜線堂さんの方から行こうかと思います。
      実はこれではないのですが阿津川さんの長編も積んであり‥出だしをえいっと勢いで突破しちゃえばいいのでしょうね
      2024/01/14
    • fukayanegiさん
      111108さん

      特殊設定苦手そうですね。
      え、何それちょっとついてけない、と思っちゃいますもんね。
      積読解消ファイトです!
      111108さん

      特殊設定苦手そうですね。
      え、何それちょっとついてけない、と思っちゃいますもんね。
      積読解消ファイトです!
      2024/01/15
  • 特殊設定ミステリって、「何でもあり」にならないために、「普通の」のミステリより、緻密に論理的に、世界の境界条件を定めなくてはならないので、非常に難しいんだなって、改めて。
    最近何かと話題なジャンルだけど、一方で、ラノベ的とか、お花畑とかってバカにした評を聞いたことあるけど、まずは本書を読んでみてからにほしい。

  • 未笠木の山の紫水晶に映る未来を詠み取る人、星詠師。ファンタジックかスピリチュアルな話なのか?と思ったら、水晶の映像をデジタルデータ化するとか、星詠師の力のカギが目の虹彩の形にあることが解明されているとか、架空の設定ながら、科学的に綿密に組み立てられていて、SFさながらの面白さでした。その上で、技術的・心理的に仕組まれたトリックと罠に震撼しました。

  • 星詠師という架空の世界観ながら、読み進むうちに惹きこまれた。休暇中に独自に捜査を開始する獅堂刑事の実務的なキャラクターもよい。

  • ● 感想
     特殊設定モノのミステリ。未来の予知ができる水晶が存在し、水晶に殺害シーンが映っているという点が大きなポイントとなっている。
     未笠木村からとれる水晶に、側で眠ることで未来を映すことができる人物がいる。その特殊な能力を持った人を星読師という。最初の星読師であった石神赤司を息子である石神真維那が殺害した。そのような「未来」が映っている水晶が存在することから、石神真維那は、星詠会という組織の中で殺人犯として監禁されている。
     容疑者を逮捕する際に誤って射殺してしまったことから、謹慎として故郷の未笠木村に来ていた獅童刑事のもとに、「師匠を助けてほしい」といって、星詠師である香島という少年がやってくる。
     この世界では、水晶に映った映像から、どの程度未来か、どのような未来が映っているのかを確認するため、読唇術や映像の解析の技術が進んでいる。そのような技術を駆使した結果、石神真維那が石神赤司を殺害する場面が映っているとしか思えない。しかし、獅童は、その映像に違和感を見つける。それは、映像に映っている男は、二か月も前から真維那を避けていたのに、拳銃を突き付けられて始めて、自分がこれから殺されたことを理解したということはあり得ないという点。この点を手掛かりとして、水晶に映っている被害者は、石神赤司ではないと考える。
     ポイントなる人物は4人。1人目は、石神赤司。2人目は、その兄である青砥。青砥は、星詠師ではなかった。3人目は、紫香楽一成。星詠会のスポンサー的存在。そして赤司の妻、仁美。青砥と一成は、1989年頃に死亡していた。青砥は落盤事故。一成は自然死と思われていた。
     しかし、真相は、青砥が一成を殺害しており、水晶に映っていた場面は、青砥が一成を殺害する場面だったというもの。この真相を見つけるポイントして、赤司、青砥と真維那が似ていたこと、仁美は赤司の妻でありながら、青砥、一成とも通じていたこと、青砥と一成は、星詠師ではなかったが、星詠師と同じような予知ができるコンタクトレンズの開発に成功していたことだった。
     真維那、赤司、青砥がそっくりだったこと、仁美が赤司の妻でありながら、青砥と一成と通じていたことなどについては、細かい伏線が多数ある。
     獅童は、まず、水晶の映像は、青砥が赤司に殺害された場面と考えた。しかし、水晶の日時決定の決めてとなった皆既月食から、水晶の映像の場面の時間が分かり、それより後まで青砥が生きていたことが分かる。
     次に、偶然、一成が殺害されている場面が映った水晶や、星詠師になることができるコンタクトレンズが坑道で見つかったことから、事件が大きく進む。この点は、御都合主義感が否めない。
     特殊設定を利用したこの作品の面白いポイントは、未来を見ることができるようになった青砥が、ある時点より先の未来を全く見なくなったことから自分の死期を悟ったことである。また、水晶の映像を見ることで、青砥は自分が一成を殺害することは分かっていた。しかし、なぜ殺すのか、その動機が分かっていなかった。その動機が分かったシーンは、水晶に映っており、何度も水晶で見ていたコルクボードを二度見したこと。この「二度見」から、映っていた手紙が仁美から一成への手紙と知り、その手紙を見たことで仁美と一成が通じていたことを知って殺害に至ったということ。殺害することを知っていて後で動機が見つかるという展開である。
     そして、最大のポイントは、青砥が一成を殺害するシーンの水晶を作らせる。もうすぐ死ぬ人間に予知をさせれば高い確率で殺害場面が予知される。その予知を、赤司が将来の息子に殺害されている場面と誤解させるような仕掛けを散らばらせる。「売女(ばいた)」と同じ母音である「真維那(まいな)」という名前を息子に付けるのもその一環。それほど、青砥は、自分が手に入れることができなかった予知の力、学力、恋人等を手に入れた弟である赤司に嫉妬し、自分が早世するのに、その後も生きる赤司を憎んでいた。
     特殊設定モノであり、予知の仕組みはシンプルなのだが、予知の仕組みを利用したトリックが非常に入り組んでいる。正直、御都合主義と思う部分が多い。また、青砥が赤司をそれほどまでに憎んでいたという点は、さほど伏線がなく、やや唐突感がある。
     シンプルではなく、しっかり考えないと驚けない、「よくできているな」と感じる作品。面白くないわけではないが、そこまで高い評価ではない。ギリギリの★4としたい。

    ● メモ
    ● 主人公は被疑者を射殺したことで1週間の謹慎に入った刑事である獅童
    ● 獅童が訪れた故郷の村で事件に巻き込まれる。
    ● 水晶に映し出された光景は必ず起こり、例外はないという特殊設定
    ● 石神青砥と石神赤司
    ● 1989年の予知を2018年の余地と信じ込ませるというトリック
    ● 香島→獅童に対し、師匠である石神真維那が星詠会という組織で、殺人犯として処置されようとしているので、助けてほしいと獅童に依頼をする。
    ● 石神真維那→星詠会の幹部。香島の師匠
    ● 石神赤司
    ● 紫香楽一成→紫香楽電気の社長。赤司と青砥の育ての親の一人
    ● 紫香楽淳也→紫香楽一成の息子。星詠会のトップ
    ● 千葉
    ● 石神仁美→赤司の妻。
    ● 過去の赤司が未笠木村の水晶に未来を映すことがある能力を知る。
    ● 星詠会には、未笠木村の水晶を使って未来を予知できる星詠師が15人いる。
    ● 水晶には真維那が赤司を殺害したと思われる場面が映っていた。時制を判断する決め手となったのは皆既月蝕
    ● 鶫→読唇術の専門家
    ● 手島→星詠師の一人
    ● 高峰→主任研究員
    ● 未来予知は変えられない。未来は収束する。
    ● 赤司が殺害された部屋に立ち入っていた中野というアルバイトは解雇されている。
    ● 真維那は、仁美が赤司とは別の男と作った子どもだという。
    ● 仁美は未来を詠む赤司に抵抗する意図で青砥と不倫をする。
    ● 青砥を事故に見せかけて赤司が殺害した?
    ● 水晶の映像。「真維那」が「売女(ばいた)」であれば。真維那の顔は、29年前の青砥と赤司にそっくり。
    ● 可能性としてはあり得る。皆既月食の問題もクリア可能
    ● 青砥は、予知をするためにコンタクトレンズを作っていた可能性がある。しかし、月蝕があった時間より後まで青砥は生きていた。
    ● 「俺たちは、自分の摑んだ推理が犯人に摑まされた偽物じゃないことを、何をもって確かめればいい?」(317頁)
    ● 獅童を襲っていたのは、獅童が射殺した被疑者の兄だった。星読会が、獅童を脅していたわけではなかった。
    ● コンタクトを利用すれば、能力のない者でも予知ができる。高峰は実験により、そのことを証明した。
    ● 2014年。小火があり、部屋を変えた際に、家具は同じモノをそろえた。その領収書には真維那の名前があった。
    ● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなったことを気にしており、自分が死ぬと考えていた。
    ● 香島は、坑道の中で青砥が使っていたコンタクトと水晶を見つける。そして、紫香楽一成が毒殺されていたことを知る。
    ● 獅童による捜査。赤司と青砥の母に別に子がいるか。いたが真維那には似ていない。
    ● アルバイトの中野は世界に1つの絨毯に紅茶をこぼしていた。
    ● 獅童による謎解き。この場面の一部を手島は予知で見ていた。
    ● この事件は、一本の幹から成り立っている。ある言葉、ある意図。そこから全てが派生している。この事件は、二度見と絨毯の設問と言ってもいい。
    ● 獅童はこれまでの非礼を謝罪。未笠村の水晶の力は本物。水晶の力を信頼するからこそ、真相に辿り着けた。
    ● 1989年の事件。大星詠師の間での事件を記録したものを水晶X、紫香楽一成に毒を盛る、犯人の目から見た光景を記録した水晶を水晶Yとする。この2つは同じ事件を映したものとすれば?
    ● これから死ぬことが確定している人間に予知をさせると、高確率で自分が殺される場面を映したものになる?
    ● 犯人は、犯人自身の予知で、毒を入れることを知っていた。
    ● 犯人は水晶Yで何度もコルクボードを見ていた。それでも実際の場面で二度見をした。それは手紙の意味を知ったから。仁美は一成からのフランス土産のレターセットを青砥に見せた。その手紙がコルクボードにあった。その手紙の意味を知った。
    ● 仁美は赤司の妻でありながら、青砥と、さらに紫香楽一成と通じていた。
    ● 青砥は予知を見た段階では、なぜ、一成を殺すか分からなかった。後から動機が追いついた。
    ● 青砥は、水晶Yを処分するために坑道に行き、事故死
    ● 青砥は、1989年2月22日以降の予知を見なくなっていた。青砥は、自分が一成を殺害した場面を映した水晶を、赤司が息子に殺害される場面だと誤解するように細工をした。
    ● 2018年の赤司殺しは、1989年の事件の見立て。青砥が考えた計画を実行したのは千葉。真維那という名前は青砥が考えていた。赤司はそのことを知った。
    ● 青砥は水晶に移っている場面を、息子が父に名を言われるのを拒絶している場面だと誤信させるように売女と読唇術で間違え得る真維那という名前を付けた。
    ● 石神青砥はこの見立て殺人のためだけに、自分の息子に「真維那」と名付けた。
    ● 4年前の小火騒ぎ。星詠会発足から1989年まで4年。4年前の小火騒ぎ。家具の経年劣化を一致させるために、小火騒ぎを起こした。これは千葉が行った。
    ● 千葉にライターを使わせるために、手を怪我したフリをしていた。千葉が使ったライターは一成から贈られたライターではなかった。物見櫓を燃やしたのも千葉。これも見立てのため。
    ● 千葉は青砥から、赤司が紫香楽一成を殺害したという手紙をもらっていた。
    ● 青砥は自分が早世し、赤司が全てを手に入れていることに嫉妬をし、禍の種をまいて死んだ。
    ● 千葉の自殺を獅童が止める。エピローグ。真維那が大星詠師になる。

  • 被疑者を射殺してしまい、謹慎に入った刑事・獅堂は故郷の村を訪れた。そこで少年・香島から、拳銃による殺人事件で犯人と疑われる師を助けて欲しいと依頼される。その殺人の証拠映像は、なんと紫水晶の中に映っていて──。

    自分が未来で見る光景を紫水晶の中にランダムで無声映像記録できる能力を持つ「星詠師」。この特殊設定を存分に生かして構築されたミステリ。この能力を信じるが故に起きた事件は、その常識外の能力を獅堂が信じることでほどけていく。特殊設定を証拠として現実を圧倒的な論理で組み上げる終盤は鳥肌が立った。

    同じものを見ていても、人によって見え方は違う。理屈ではわかっていても、飲み込めない感情は埋まらない溝を作り出す。奈落に引きずり込まれるような情念の深さ。真相を暴くほど景色は黒く塗り替わっていく。論理も感情もそこまでするのかと言葉に出るほど濃密。阿津川先生の緻密な構成が楽しめる。事件の謎だけではなく、獅堂のドラマなども重ね合わせて回収してくれて、そこも上手い!って感じた。

  • 他の作品でもそうだが、ゲーム『逆転裁判』感が強く、キャラクターがそのままゲームに登場しそうなくらい、世界観が近い。
    逆転裁判のファンならば本作は絶対に面白いはずだ。

    さて、本作は「確実な未来予知」をテーマにした特殊設定ミステリ。
    その論理的な解決ももちろん面白いのだが、阿津川作品のすごいのは、独特の読み応えと読みやすさではないかと感じた。
    先述したゲーム的な世界観がわかりやすく、登場人物のキャラクターもあってとても読みやすい。
    その一方で、非常に論理的に作られており、理解するのには本来時間がかかるのだが、読みやすさのせいで全く苦にならない。
    久しぶりに読んでいて楽しい一冊だった。

  • 3.5

  • めちゃくちゃ面白かった!
    途中まで全く結末の想像がつかなかっただけに、解決パートに入ってからは、次々明かされる事実に、驚きの連続。
    緻密な設定すごい!

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著者プロフィール

1994年東京都生まれ。東京大学卒。2017年、新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』(光文社)でデビュー。以後、『星詠師の記憶』(光文社)、『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)、『透明人間は密室に潜む』(光文社)を刊行し、それぞれがミステリランキングの上位を席巻。’20年代の若手最注目ミステリ作家。

「2022年 『あなたへの挑戦状』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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