平場の月 (光文社文庫)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334792657

感想・レビュー・書評

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  • 50を過ぎた男女の恋愛。元同級生の再会。
    気分は青春で、読んでいる方が恥ずかしくなるくらい2人だけの世界。

    でも身体は…もう若くない。
    知らないうちに深刻な病に侵されている。
    検査で大腸がんが発覚する。

    この小説は、須藤葉子が死んだことを、同窓の安西から青砥健将が聞かされるところからはじまる。
    はじめから悲しい結末はわかっている。

    偶然の再会から、結末に至るまで、ストーリーなのだが、淡々と描かれる。
    語り口は乾いていて、御涙頂戴とか、綺麗事とか、ご都合主義は一切なく、リアルだ。

    須藤の決断も、青砥の約束も、やりきれないし、若い人にしてみればもやもやしたものだけが残るだろう。
    正しいとか正しくないとか関係なく、やり過ごすことを経験している40代半ば以上の人に響く小説なのだろう。

    映画化されるそうだ。
    僕は小説では泣かなかった。
    見に行くかは微妙だけど、映画館では泣いてしまう気がする。

  • 予想に反して中年のラブストーリーだった。
    文章や言葉選びが独特で、「いったい何を言ってるの?」と文章が宙に浮いたり、佐藤錦、オリンピックやメトロポリタンなど唐突に固有名詞が現れ、知らない人には戸惑われると思う。しかし、話はどんどん読者を作中に引き摺り込み、最後は冒頭の章を忘れて、「須藤よ、生きていてくれ」と懇願さえしてしまった。市井によくある人生のひとつなのだろうが、心に永遠に残りそうな小説だった。

  • 地元の中学時代の同級生。
    そう…50年生きてきた。
    男女には、それぞれ背負ってきた過去もあり、危うくて、静かな世界が縷々と流れる。
    生きる哀しみを感じる。
    穏やかでいて、切なくもあり、でも生きている。
    それは、ゆるゆると続いていくのだろうと感じられる50を過ぎた者たちの現実。

  • 2018年初版。恋愛小説。ただ、ティーンエイジャーの恋愛ではなく適齢期の男女の恋愛でもない。恋愛には適齢期はないのかも知れませんが。主人公の二人は中学の同級生、35年ぶりに再会をします。50代の恋愛です。二人とも決して充実した生活や悠々自適の生活を送っているわけではありません。世間の片隅で慎ましやかに生きている二人です。50年の人生の中で、親の問題を抱えて離婚の経験もある二人です。若くなく世間を知っているが故に、一気に距離を詰めることなく焦ったくなります。お互いにお互いを必要なのに素直になれない、うまく立ち回れない。特に女は、辛い経験から必要以上に自分を責めて素直になれない。男が最初に彼女に対したイメージ「太い」。読み進めていく中で、どうして彼女がそんなイメージを持つようになったのかが分かって悲しくなります。著者が私と同年代だからなのか、物語に出てくるものに馴染みがあります。心地良くもあります。とにかく不器用な二人が悲しいです。

  • 中学校までの同級生だった青砥と須藤は、時を経て50歳を過ぎてから再会します。
    会わないでいた年月は長く、その間に、ふたりは苦労や失敗や過ちも重ねながら大人になっていました。
    辛酸をなめた過去を他人に知られたくないという気持ちと、誰かには話したい、聞いてもらいたいという気持ち、両方が存在しています。
    再会して間もない頃のふたりは、お互いの存在を優しく照らす月明かりに包まれているように思えました。
    何気ない会話を交わしたり、一緒に飲みに行ったり、買い物をしたりする様子は、ささやかだけど尊くて幸せな時間を感じさせます。
    文中で「好きなような、好きとは言い切れないような、弾力のある好意を抱いている。昔、駄菓子屋で売っていた、短いストローでふくらます、虹色の風船みたいな好意がふたりのあいだで呼吸していた」と表現されている、ひと山超えた大人の穏やかな関係です。
    でも、山を一つ乗り越えると、また次の山が現れます。
    次々と現れる山を最後まで超えていくのが人生なんだろうなと思いました。
    青砥も須藤も、いくつになっても熱い思いを抱え、コントロールできず、妥協できず、それが切なかったです。
    文中の言葉ですが「(胸の)もっとも柔らかな一点めがけて手を伸ばし、ずっと掴んで放さない」この世にひとりしかいない人を求める姿が強く胸に刺さりました。
    平場の人生を生きるふたりがきれいごとなく、ありのままに描かれ、まるで本当にどこかに存在しているのではないかという気持ちになりました。

  • 結婚歴のある50歳過ぎの男と女。
    再会後お互いの存在を意識するなか、ある出来事がそれぞれの存在を更に深めていく。

    書評に「大人の恋」「恋愛小説」と書かれているが、私は2人の距離感が心地よく書かれていることに感動した。
    他人との距離は遠すぎず、近すぎず、自分に心地よく感じる距離感が長く付き合えると感じている。
    これが恋愛感情になり、しかも若いとお互いの距離のバランスが保てなくなり失敗したり、、

    年齢を重ねていくと過去に経験した結婚や恋愛は胸の中、目の前にあるのは親の介護生活。
    50歳すぎに見えている人生は最終章に向かう時間。
    おそらくこの2人も過去や未来が見え、相手や自分のことを想いながら接している、そんな会話や態度に好感がもてた。

    コロナ禍で人と接する時間がなくなった今、私は友人と、どうでもいい話しで笑い合いたいと思うようになった。
    そんな会話の積み重ねがうまくいく距離感になり信頼や幸せの時間になっていたと感じた。(もちろんこれだけではないが)
    きっとこの2人のどうでもいい会話も、いい距離感を保ちながらお互いの存在を深めていった時間になったのでは、、
    一生のうち、このちょうどいい距離感が保てる人に出会うことは、そうそうない。
    2人が幸せな時間を過ごせたことは間違いない。

  • 「この本よかったよ〜」と気軽に簡単に言えない…
    そんな読後感(*_*)

    私はとにかくひたすら本を読む
    現実逃避、空想好き、読みながら映像を浮かべてキャスティングをし、物語に入り込む…

    読後すぐ現実に戻って来れない
    まるで平場に佇み月を見てるようだ(u_u)

    とにかくリアルな内容である。
    私も50を過ぎ死を考える…頻繁に(*´-`)

    作者のインタビューを読んで、更にこの作品の深さに感服しましたm(_ _)m

    何もしがらみが無いならば恋愛に突き進めばいいじゃない?と思った人もいるだろう。
    そんな訳に行かないのが50代なのです。

    各章のタイトルになっている須藤の言葉
    寄りかかりたいけど、それを良しとしない彼女の気持ちがとにかく辛い…わかりすぎて辛い(T ^ T)

    50を過ぎたら是非読んで欲しいです。

    映画化決定らしいけど…
    私の脳内再生はずっと深津絵里一択です笑
    石田ゆり子さんと言う方もいますがヤメテね
    セレブなマチネになっちゃうから♪(´ε` )笑

  • もし病気になったのが自分だったら、須藤のように強く生きられただろうかー。

    しかし、健康だったら難なく飛び込んで行けたであろう青砥のもとへ病気になった須藤が頑なに行かなかったことは、そんな気持ちになるだろうなと想像はできる。
    でもやっぱりどこかで甘えてしまう気がするから、青砥を愛していながらも突き放した須藤はすごく強い。本当はもっとずっと一緒に居たかっただろう。
    最後まで、青砥に検査結果を言わなかったところに青砥への深い愛を感じる。
    青砥の須藤に対する愛は大きかったけど、須藤の青砥に対する愛は、もっともっと遥かに大きかった。
    青砥と須藤を近くで見守っているような書き方で、場面場面に引き込まれてすぐ読み終えました。
    優しく愛を感じるお話でした。

  • 自分も50代になったこともあり、とても身近でリアルな感じを受けた。

    物語の冒頭で須藤が亡くなることはわかっており、これから語られる恋が悲しい結末を迎えることはわかっている。

    わかっているだけに、2人が束の間お互いを尊重し過ごす時間がとても愛しく感じる。

    若い2人ならもっと生の感情をぶつけ合ったりするのだろうが、50を迎え過去の恋愛経験から抑えるところは抑え、がむしゃらには行けない。

    もどかしいとも感じるが、自分を顧みると同じようにしか出来ないだろうなあとも思う。

    死別という悲しい物語ではあるが、大人になり限られた時間ではあったが今までの分を取り返すぐらい輝いた時間を過ごせた幸せな物語とも読める。

  • 山本周五郎賞受賞。

    帯に「これが大人のリアルな恋愛小説」とある。この「大人のリアル」というのが、主人公の青砥健将とヒロイン・須藤葉子は中学時代はそれぞれに輝いていたのに、現在はパッとせず(しかも須藤はわりと自業自得とも言える)、さらに須藤の闘病生活が始まる。周囲にいるのは噂好きのぬるっとした感じの昔からの友人や認知症の母親。リアルすぎる。

    青砥は、過去の須藤に引っ張られる感じで現在の須藤に惹かれていて、須藤も過去の自分の決意を変えることができない。50代という年齢による感情と立ち振る舞い、2人の関係がなかなか進展しない、進展した、と思ったら後退する。本当にリアルで頭がクラクラした。

    恋愛小説、というより恋愛を含めた人生の小説、かなぁ。

    中学三年の告白の
    「友だちからでいいので付き合ってください。」
    「いやです」
    のやり取りにはクスっとした。中学とか高校とか懐かしい。

    巻末の中江有里さんの解説が良かった。2人が片方の人生の最後にもう一度会えたのは本当に幸運。神様からのプレゼントのよう。

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著者プロフィール

1960 年生まれ。北海道出身。04 年「肝、焼ける」で第72 回小説現代新人賞、09 年「田村はまだか」で第30 回吉川英治文学新人賞、19 年「平場の月」で第35 回山本周五郎賞受賞。

「2021年 『ぼくは朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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