殺人鬼がもう一人

著者 :
  • 光文社
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感想 : 90
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334912611

感想・レビュー・書評

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  • 最初の話を読み終わったときは、この悪徳警官砂井三琴が、なんだかんだとありながらも、ちょいちょい上前をはねながら、いろいろ事件を淡々と解決していくのかなと思った。ところがとんでもない。話はだんだんきな臭くなっていき、人の嫌な部分をどんどん見せてくる。こんな気持ち、自分にもあるよな?うわあ、なんだかすごいよ、若竹七海さん、さすがだわ。最後に、「殺人鬼がもう一人」という題が効いてくる。

  • 20年ほど前の連続殺人事件〈ハッピーデー・キラー〉をのぞけば、大きな事件事故はなし。
    警察官が定時に帰れるという、基本のどかなはずな辛夷ヶ丘の実体とは?

    連作短編集。

    警視庁の姥捨て山とも流刑地ともいわれ、職業倫理が欠如した警察官。
    すっかり古び、自己の利益しか考えない住人たち。

    犯罪に手を染めることにまったく躊躇しない人間ばかりで、ブラックユーモアにあふれたシュールな作品。
    まっとうな人間が皆無で、狂気が渦巻く感じ。

    警察一家同士の結婚式のドタバタをえがいた「黒い袖」は、比較的明るめでたのしかった。

    『このミステリーがすごい! 2020年版』国内12位。

  • 東京郊外、高齢化が進む一見のんびりとした辛夷ヶ丘市。事件らしい事件もない辛夷ヶ丘署は、トラブルを起こした訳あり警察官のふきだまり。
    たまに事件が起きると人手が足りなくなり…


    うわわ、久々のブラック若竹!
    コミカルだけれど、読後感はイヤミス級の破壊力。

    人畜無害に見える辛夷ヶ丘の住民たちは、あっけらかんと悪事を働くし、一応メインキャラクターである生活安全課の警察官・砂井三琴は、ある意味間違いなく有能で、事件捜査にからんで“すてきな不労所得”を得ている。
    ちょっとだけ片目をつぶって、関係者に便宜を図ってやって、ちょっと美味しい思いをして…なんて程度ではとどまらず、エスカレートするとんでもない悪徳ぶり、いやはや参りました。

    お口直しに、若竹さんのチャーミングなコージーミステリが読みたくなった。

  • 東京郊外の長閑な町だった辛夷ヶ丘。最近地主の老婆相手の路上強盗や市長選に絡みそうな殺人等きな臭い事件が次々起こる。これを生活安全課の砂井が解決していく短編集なのだけど市民は善良なふりして腹黒いし、砂井も相方と一緒に事件にかこつけて裏金を着服したりする悪徳警官。だから事件の解決も正義に基づくというよりは落とし処に収める感じ。これがなかなかブラック。黒いの好きとしてはにやり。伏線の回収具合は相変わらず見事です。三作目~五作目は砂井主体じゃない話で妹の結婚式当日に次から次へと起こる騒動「黒い袖」や本家の久しぶりの葬儀の際に一癖も二癖もある親戚が集まる「葬儀の裏で」この二つが黒い中にも小気味良くて良かった。ただ砂井が一話と最終話でなんか感じ変わっていて違和感。

  • 架空の警察署・辛夷ヶ丘警察署の生活安全課・砂井三琴を中心とした連作短編集。
    三琴目線で描かれる前半と、その他の関係者目線で描かれ、三琴が絡む展開となる後半に分かれる。
    いずれの作品も若竹ワールド満載で、最初は善人だと思っていた人物も、実は全員悪者と言う、何とも読後感が悪い作品が満載。
    登場人物も全員悪者で、ここまで徹底していると、読んでいて清々しいぐらい。

  • 事件も事故もない取り残された街。辛夷ヶ丘の警察官・砂井三琴。街はのどかだけれど、砂井は悪? ブラックでユーモアある連作短編ミステリ。
    今回は隠れた毒ばかり。砂井の悪さ加減が絶妙に描かれている、描き加減が上手い。怖いぞ、砂井! 圧倒的なものではなく、ユーモアの中にそろりとのぞかせる悪だ。また新しいシリーズの登場か? 砂井をまた見てみたい、悪具合をね。

  • 一見平和なベッドタウン辛夷ヶ丘を舞台にした連作集計6編。吹きだまりの辛夷ヶ丘署に左遷されて半年、“そういや、ここしばらくお目にかかってないな、素敵な不労所得”とのたまう生活安全課の砂井三琴をはじめ、警官でも、善良で無害そうな市民でも、誰もが貪欲で抜け目のない悪党。彼らがひょいひょいと善悪の境界を飛び越える姿はいっそ愉快だ。作者の得意技だが、それまで見えていた風景がある時点でガラッと一変する仕掛けは相変わらずお見事。コージー・ミステリの裏ヴァージョン的味わいがなかなかクセになるので、まだ続きを読みたい(2019)

  • 東京都内にある、しかし辺鄙な場所、辛夷ヶ丘。
    そこは、訳あり、難ありの警察官たちが集められる、いわば吹き溜まり。
    そこにいる、三白眼の大女、砂井三琴は、生活安全課の「捜査員」。
    彼女が主人公、と言いたいところだが、実のところ、彼女は特に何もしていない。
    大きな実績を上げたわけではない。
    謎はとくが、事件の鮮やかな解決で、士気を上げるでもなく、闇にひっそりと葬っただけ。
    なぜ彼女がここに飛ばされてきたのか、それは背景として描かれないのでわからない。
    また、そんなだから魅力的とも言い難い。
    おまけに事件の全てがなんだか嫌な感じが最後まで残る。
    確かに現実では、そうしたことは多々起こりうるだろう。
    行き詰ること、調べようがなくなること、人件費と見合わないからやめてしまうこと。
    でも、フィクションの中だからこそ、はっきりとした終わりである方が私の好みだ。
    もちろん、敢えてそうした終わりにする手法があるのは知っているけれど。
    完全に好みの問題なのだが。

    本書の怖いところは、(ステレオタイプかもしれないが)都会の無関心さと、田舎の過剰な監視制度の二つを併せ持った街が舞台であることだ。
    「丘の上の死神」は、革新と保守の構造が、「進む」「待つ」という面で逆転していくところが物語に不気味さを与えている。

    全体的に「隠す」ことが、メインの作りになっている。
    それが、得体の知れない、しかし自分のすぐ隣で起こっていそうな怪しさを醸し出している。

  • 同じ街で起こる事件の数々をいろんな人の視点でとか、主要な登場人物誰も素直に好きと言えない人たちなのとかすごく好みだった!聖人みたいな人がいないのがいいな。この作者の本初めて読んだけど、文も読みやすくて人におすすめしやすい。
    生活保安課の2人の背景をもう少し詳しくとか(最後の話で特に)思っちゃったな。でも1話完結という構成上仕方ないしボリューム的にもそれが良いのかも。

  • アンチヒロイン、ダークヒロインもの。若竹さん主人公で、最強、最恐かも。でも望みは年金をもらっての老後って、小市民過ぎ。砂井三琴が語り手でない話の方が、三琴の恐さが際立つ。清掃業者が受難の辛夷ヶ丘市。こういう市なら、さっさと合併されちゃいそうだけど。警察にも吹き溜まりは必要か。

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著者プロフィール

東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。1991年、『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。その他の著書に『心のなかの冷たい何か』『ヴィラ・マグノリアの殺人』『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』などがある。コージーミステリーの第一人者として、その作品は高く評価されている。上質な作品を創出する作家だけに、いままで作品は少ないが、受賞以降、もっと執筆を増やすと宣言。若竹作品の魅力にはまった読者の期待に応えられる実力派作家。今後ブレイクを期待出来るミステリ作家のひとり。

「2014年 『製造迷夢 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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