- Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334913038
感想・レビュー・書評
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何冊か遠田潤子さんの作品を拝読してきましたが、今まで読んだ中で一番好きでした。こんなお話も書かれるのだと思いました。
時は1970年代、大阪万博のあった頃。
明石という30歳の女性のビルオーナーの周りにいた、山崎和昭、源田三郎、鵜川繁守、和久井閑、という年代の違う四人の男。
そして、明石の娘の5歳の白墨(いつも白いチョークで絵を描いていたからそう呼ばれていました)。
50年後、パン屋を営んでいたけれど、病床にあった閑の息子のミモザが、閑の替わりに廃墟となったビルを訪れ、集まっていた3人の男たちから皆があの子と呼ぶ、白墨の話を聞きます。
ミモザは、白墨は自分が10歳の時にいなくなった母親であると確信します。
よく考えれば、とてつもなく酷い話かもしれないのに、なんだかとてつもないロマンを感じました。
そして、最後にはとある殺人事件の真相が解明します。
以下ネタバレになるかもしれませんが、終章の結びの文章です。
ミモザの黄色い花がテーブルの上にあって
音楽が一日中流れて、
明石と寝て、
酒を飲んで
白墨の描いた薔薇の絵を眺めていた。
酒は明石
薔薇は白墨
酒とバラの日々。
王国はまだありました。
みんな幸せに暮らしていました。
あの子は幸せになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今作の遠田ワールドは「王国」
「四月二十日。零時。王国にて。」
病床の父に届いた一通の封筒…
ミモザは余命短い父にかわり「明石ビル」に向かう
廃墟となったビルには三人の男達が待っていた。
序章・母に始まり、廃墟、白墨で描かれた薔薇…
謎、謎、謎に引き込まれて一気読み( ̄▽ ̄)
また遠田ワールドで迷子ですよ笑
三人の男達、ミモザ、呼び出した謎の人物
このビルでかつて何があったのか?
なぜ廃墟であるビルが王国なのか?
普通ではないビルに普通ではない人々が暮らす…
「このビルの連中はみんなここしか居場所がなかった
彼女は淫乱で尻軽でだらしなくて最低の女だった…
あの頃ここはたしかに王国で楽園だった」
普通をバカにするのは恵まれた連中や。自分たちが普通であることで、どれだけ幸福か気づかない…
愚かで切ない話だったけど、やっぱり最後はひとすじの光がさすようなラストでした(u_u)
まだまだ読むよ遠田ワールド‼︎
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ファンタジックでミステリーチック。
どこかふわふわと遠い異国のファンタジーを思わせながらミステリ要素を絡ませた、一気読みの遠田ワールドだった。
あの時代、あの時を刻んだ、外界から閉ざされたかのような王国。
そこではきっと誰もが地に足がついていなかった。誰もがいつもやり場のない心を束の間でも預けられる、そんな場所を求めていたに違いない。
狂わす、狂わされる人生。
それを思えば思うほど憤りと哀しみで心が押しつぶされそうになる。
ミモザの前へと歩き出す姿に微かな眩しさを感じつつも、なんとも言えない余韻に包まれた。-
2020/10/18
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くるたんさん♪
確かに、主人公不幸のどん底に落とされてばっかりいます(^^;
他の方のレビューをちらっと拝見したら、落ち込み度がナンバー...くるたんさん♪
確かに、主人公不幸のどん底に落とされてばっかりいます(^^;
他の方のレビューをちらっと拝見したら、落ち込み度がナンバーワンだとか書かれていらっしゃる方がいてちょっと面白かったです。2020/10/18 -
2020/10/18
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おもしろくて一気読みしてしまった~
パン屋を営む父親の元に届いた謎の手紙
白いバラの絵と日時と場所
場所は王国
病床の父親に内緒で指定された場所に向かった息子のミモザはそこで謎の男たちに出会い父親が隠してきた過去を知ることに…
さらにそこで明らかになる新たな真実
優しとウソと過去
ラストは…
3人の男たちが語る一人の女性・明石
そして明石の娘・白墨
普通に生きることができなかった王国での暮らし
そして優しい嘘でウソを固めた4人の男たち
読み始めたら続きが気になって読みとめられなくなる
一人の人が語るごとに明らかになる真実と過去
あ~この小説、映画にしたら面白そう!
映像が目に浮かぶ~!
見たい~ -
余命わずかな父のもとに届いた手紙の意味を知るために、主人公が向かったのは大阪のとある廃墟のビル。そこで出会った三人の老人から、主人公は思いもよらない父の過去を知ることになる…
という出だしから始まる、一人の女と複数の男たちの閉塞した空間での過去を語る物語。この空間は世間から隔絶されているから、堕落と退廃しなくても安寧が保証されていた。堕落の象徴のような女性の存在こそが彼らにとっては平和をもたらしていた、ということそのものがいびつだ。だからこそ、彼らがあの事件を機に起こした行動もいびつとしか言えないものだけれども、彼らにとっては「普通」の生活のためには当たり前のことだったのだろうと、そう素直に納得できてしまいました。
普通、とはなんだろうということは、普通に暮らしている人は考えないことかもしれない。普通に、平和に生きたいという望みを持つことが、そうではないことに気づくということだというなら、残酷だな、と感じました。
白墨は、普通を求められて、そうしてそうはなり得ないことに気づかされて、絶望したまま生きていたのかな、と。そうして救われることすらなく、真実を知ることすらなく。その彼女の一生がたまらなくむごい。小説の展開として、最後に「真実」を添えることは「驚き」をもたらしてくれるけれど、この真実は、彼女をより悲惨へともたらすばかりのように感じられて、少し、きついな、と感じました。
作者はいつも登場人物に厳しい状況を与えるほうだし、その酷さの中から必死に生きる姿を描くのが上手く引きつけられるので、いくつも作品を読ませていただいています。ただ白墨は、その中でもあまりにも彼女に理由なく辛い生き様ではなかったか、と思えてしまったのです。
廃墟のビルの描写は、後から考えると、異常さの極致です。けれど。広い中庭を囲むビル、最上階から繰り返されるレコードからはたった二曲の音楽だけが流れ、住人は行き場を喪った男ばかり、そして中庭にはミモザの木が植えられていて、どこにも行けない車がなぜか一台と、そして――。と、光景を思い出しながらひとつひとつあげていくと、確かに退廃しきっているけれども、それはそれで調和のとれた閉じた世界がそこにあり、どこにも行くところのない人々にとっては楽園であり、「王国」であったということが感じ取れもするのです。それほどに、普通から離れてしまった人々の物語だったな、と改めて思い返すのでした。 -
奇妙なビルに住む人たちが囚われた悲劇の物語。どうにも「普通じゃない」生活の中で育った少女とそれを見守る人たち。一見温かい物語に思えたものの、そこかしこに見える歪みの数々がどうしようもなく膨らんで、やがて破壊されてしまう日常。そして翻弄されてしまう人たちの姿が悲しくてしかたのない物語でした。
奔放で淫蕩な明石と店子たちの関係は当然異常なのだけれど、それでも汚らわしさはあまり感じなくて。明石と白墨の親子関係もこれまた異常だけれど、世間でいう虐待のようには思えないのが不思議です。彼らの生活はまるきりおとぎ話の世界のように感じられ、楽園のように思えたので。あの事件からの展開がひたすらつらく感じられました。そして幸せを望まれたがゆえの白墨の苦しみがもうやりきれなくって。最終的には後味の悪い話ではないのですが、良い意味で重い読後感が残ります。
彼ら彼女らは幸せだったのか。それはきっと答えの出ない問題なのだろうけれど。幸せだったのだと思わなければこれはあまりにつらいかも。 -
悲惨な人生ばっかり描いているのでそのうち鬱になっちゃうんじゃないかと心配になる作家さん第一位です。
これもなかなか鬱展開なのですが、既に結果が出ている所を皆が語るので痛々しさは少ないです。
基本的にみんな頭おかしいというのがテーマなので全然共感の心が湧きませんが、共感ばかり強要してくる物語になれてしまったのではないかと自分を見つめ直しました。
エマニエル夫人みたいな女性と男たちが爛れた共同生活をしていて、その女性の幼い娘がその後どういう人生を送ったのか。そのビルで過去いどんな呪われた事があったのか・・・。という話であります。
鬱パワー全開でぐいぐい来ていた遠田さんの名作群の中では若干弱い気がするのですが、個人的な好みの問題かもしれません。 -
瞬く間に読み終えた。引きずり込ませる傑作。前半は。「異常」な世界で新鮮であったが、後半だんだんと説明っぽくなり、最後には「普通」のありがちな小説になってしまったのが残念。