過怠

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334914943

感想・レビュー・書評

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  • プロローグで、どうなるのか⁇という不穏な思いを心の隅に残して読む。
    ラストには、淡々とした普通の親子の会話…なのに涙した。
    これが家族なんだと。


    これは、日本と韓国のふたつの家族が、子を欲しいと願い飛びついた医療の結末である。


    医大生の菜々子は、自分の血液型が両親からは生まれてくるはずのないことに気づく。
    母は、当たり前のように家族全員O型であることを信じていた。
    法医学教授に頼み家族全員のDNA型親子判定をする。
    その結果、二人ともが親ではなく、日本人としても稀な結果が出ていた。
    母子手帳を持って当時の医院へ行く。そこは、昔はまだ未承認だった凍結卵子による顕微授精もしていたとブログやツイッターで書かれてあった。

    母に可愛がってもらった記憶もなく、弟が生まれてからは邪険にされることもあった菜々子は、おばのサーちゃんに母が不妊治療をしていたことを聞く。

    一方で、勝手に産婦人科へ行ったことで、弁護士から今回の事の顛末と二十三年前の説明をしたいと言われ家族で赴く。
    当時のカルテで凍結授精卵の胚移植で不妊治療を受けて、妊娠したとの記載。
    そして、ふた組分の受精卵を二人の患者に移植し、そのときに取り違えが生じた可能性があり、ほぼ同時期に妊娠、出産されている。
    もうひと組は、韓国籍の患者であり、連絡先もわからず未確定であると。

    菜々子は、韓国の友人であるジヒョンの協力で、密かに韓国へ行き、取り違えのあった家族に会う。
    だが、何も話せないでいた。
    もう、自分たちは、日本には、行かないです。
    いつもここにいる。ナナコさんは、いつでもきていいですよ。
    こう言ったことばから、もしかしたらすべてを知っていて、自分たちの育てた娘を守ろうとして、日本へは行かないと決めたのだと感じた。

    韓国の旅を終え、出発前に抱えていた悲劇の感覚が消えたあと、思春期に入ってからずっと、明滅していた得体の知れない拠り所のなさにも、一つの決着がついたのかもしれない。
    とあったが、菜々子本来の真っ直ぐさや強さ、そして内に宿る本物の優しさを改めて感じた。

    レビューを書くにはとても難しくて、ほとんど内容になってしまった…。

    かつて子どもの取り違えは現実にあったと記憶しているが、授精卵の胚移植となればお腹の中ですでに育んでいるわけで、すでに我が子であろうと思う。
    遺伝子だけの繋がりよりも育てるということのほうが、親子であり家族だと感じるのではと思う。
    だが、国籍が変わってもそうなのか…と。
    やはりそれもそうなのだろう。
    それは、もはや愛情なのだろうから。




  • 我が子が異国人だと知ったら…人気小説家・谷村志穂が最先端「生殖医療」を入り口に問いかける! 新連載小説『過怠』が6月12日(金)スタート&本人コメントを特別公開!|株式会社光文社のプレスリリース(2020年6月12日)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000418.000021468.html

    プロローグ 一九九六年 夏 培養室(1) 谷村志穂『過怠』| 本がすき。
    https://honsuki.jp/series/tanimura/35421/

    「不妊治療を書けたのは今だから」作家・谷村志穂が語る理由。〜望みどおりでなくとも道はある〜 | インタビュー 人生、おしゃれ、そしてこれから | mi-mollet(ミモレ) | 明日の私へ、小さな一歩!(2022.12.14)
    https://mi-mollet.com/articles/-/39748

    POOL(@_________pool) • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/_________pool/

    過怠 谷村志穂 | フィクション、文芸 | 光文社
    https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334914943

  • 読み応えありました。

    少しずつ分かっていく真実と、それを受け止めながら成長していく菜々子。
    それを支えるジヒョンの素直な優しさと、謙太の健気な優しさがすごく良い。

    血の繋がりって やはり強いけれど、
    それだけではない家族の信頼関係もある。

    家族の形について考えさせられる1冊。

  • 序盤から取り違えが透けて見え、少し鼻白んだのは確か。しかし想像とは違う展開に、気付くと夢中になっていった。

    親子とはなんであろうか、
    誕生とはどの瞬間をさすのか、
    なぜ実子に拘るのか、
    養子ではいけないのか。
    卵子と精子が受精卵となり、子宮で育まれ、母体から酸素と栄養を得、自分の肺で呼吸をした瞬間に肺を開き産声を上げる。この世の灯りを求めてそこまでを生き抜いてきた。
    それだけで奇跡。

    菜々子が韓国を訪れた一つひとつの出来事が美しく、これ以上ない落としどころにホッとした。
    初の谷村志穂さん。
    次何読もう。

  • あれれ、谷村さん初読みかもしれない(・・;)。
    プロローグで描かれる1996年夏の情景から、本書の行方がわかったつもりで読んでいた。まあ、大筋では想像通りだったのだが、そこまで安易な作品ではないのでご安心を。
    というか、こんなバレバレなプロットだけで引っ張るはずもなく(もちろん菜々子が真相を探る過程はドキドキなんだが)、むしろ真相がわかってからの主人公たちの行動が主眼なんだと思う。それまでの友情物語や家族関係も読みどころだ。
    1点だけ、非常に大きな疑問があるのだが、医療監修者もおられることだし、たぶんぼくの無知ゆえなのだろう。

  • しっかりと丁寧に書いてある。人物描写が、優れている。最後まで、読んで良かった。

  • 厚いけれど読みやすい文章で夢中になって読みました。読み終わったときはかなり疲労感も感じましたが。

    血液型から親子関係を疑う話は少なくないけれど、医学生らしくDNA鑑定まで行う。
    その法医学の准教の話も現実味を感じました。

    ALSにかかっていた、韓国からの留学生のイジョンが想い続けたタケル。

    「自分の病気がわかったとき、線路から外れたみたいな気持ちになった」
    「でも、その先にも別の線路がちゃんと延びてた」

    「自分の病気がわかったとき、何を知ったかわかる?」
    「多くの人が、その答えは絶望だと、想像するかもしれない。
    でも違ったよ。
    僕が知ったのは、自分の強さだった。むろん、散々挫け続けたあとにだけど」

    こちらのストーリーも、深く考えさせられました。

  • 読み応えがあった。

  • 赤ちゃんの取り違え事件の小説は呼んだことあるけど、この本はまさかの仲良くしている韓国人と関係しているとは。

  • 人工授精卵の取り違えという医療過誤に直面していく主人公菜々子の葛藤や成長が伝わる重く苦しいテーマの一作。そこに集う菜々子を取り囲む仲間たちがとても素敵に描かれていて、輝きも満ちている。ただし、どこかスッキリしない後味感も・・・。

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著者プロフィール

1962年北海道生まれ。北海道大学農学部卒。’90年『結婚しないかもしれない症候群』で鮮烈なデビュー後、’91年に処女小説『アクアリウムの鯨』を刊行する。自然、旅、性などの題材をモチーフに数々の長編・短編小説を執筆。紀行、エッセイ、訳書なども手掛ける。2003年『海猫』で第十回島清恋愛文学賞を受賞。

「2021年 『半逆光』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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