アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

  • 光文社
3.37
  • (18)
  • (73)
  • (77)
  • (18)
  • (9)
本棚登録 : 995
感想 : 100
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334962272

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【感想】
    「スマホひとつで、いつでもどこでも、ずっとお安く、すぐに届く」
    アマゾンやウーバーが成功を収めた戦略だが、それを可能にしたカラクリはローテク資本主義によるごり押しである。大量の人員を法外ギリギリの値段で雇い、分刻みで監視し働かせることで、生産性を底上げしていただけの代物だったのだ。

    本書は英国人ジャーナリストのジェームズ・ブラッドワースが、アマゾンの倉庫や訪問介護といった最低賃金ギリギリの現場に潜入し、労働実態を暴くノンフィクションである。アマゾンやウーバーといった大企業がグローバル化を進める裏で、従来の労働のあり方が変容し、労働者は産業革命時代のような一方的な主従契約を余儀なくされている。この背景には、労働市場の規制緩和による「ゼロ時間契約」や、緊縮財政による民間企業への福祉のアウトソーシング、といったイギリスの複雑な政治事情がある。そうした意味ではアメリカの抱える問題と非常に似ているのだが、日本も他人事ではいられないのは間違いないだろう。

    アマゾンやウーバーが手厚すぎるほどのサービスを展開できる秘密は、
    ・労働者の分単位での監視及び制御
    ・懲罰制による行動強制
    の2つにある。

    例えばアマゾン。アマゾンの倉庫で働くピッカーには、30分休憩1回と10分休憩2回が与えられる。10分休憩の実際の長さは15分で、倉庫のいちばん奥から食堂まで歩くための時間として5分(無給)が追加されているが、サッカー場ほどの広さの倉庫を端から端まで歩き、かつ商品を外部に持ち出させないためのセキュリティ・ゲートを抜けて休憩エリアにたどり着くには7分ほどかかる。もちろんだが、このセキュリティ・ゲートでブザーが鳴れば休憩はおじゃんだ。休憩終わりにピッカー・デスクに戻るのに2分かかることを勘案すると、「15分休憩」のあいだに実際に休めるのはおよそ6分だけだ。これは30分休憩(なんとこれが昼食休憩だ)においても同様であり、従業員は移動を除く20分程度の間に食堂でご飯を受け取り、全てお腹に詰めなければならない。少しでも遅れると冷めた食事が出て来るため、歩きながらの団欒などもってのほかだ。おまけに、働いているときにはすべての動きを追跡できるハンドヘルド端末の携帯を義務付けられている。

    こうした厳格すぎるほどの労働規定の中に、ずいぶんいい加減なポイント制の懲罰制度が加わり、労働者たちは身体と神経をすり減らして行く。それでもノルマを懸命にクリアし続けてきた優秀なピッカーも、「頑張れば正社員になれる」という謳い文句が嘘であることを知ると、立て続けに辞めていく。ただし、辞めていく人間がどれだけいようともアマゾンは困らない。アマゾンで働きたいという人間は――特に東欧系の移民が――ごまんといるのだから。

    筆者は、このような労働環境が構築されたのは行き過ぎた資本主義に原因があると結論付けているが、それには私も強く同感してしまう。
    中流階級に届く荷物を5日後から1日後に短縮するために、多くの貧困層が犠牲になっている。もちろん資本主義は国全体の幸福を底上げしたかもしれないが、それと同時に持てる者と持たざる者の間の確執を浮き彫りにし、次第に覆せないほどの壁を作った。最初は国家間で、次に自国民の間で。責められるべきは「我々から仕事を奪っているかもしれない移民」でもなければ、「いくら働いても貯金ができない怠け者の労働者」ではない。格差を正当化し、負債を「努力が足りない」という言葉で弱い側に押し付けてきたグローバル企業にあるのだ。

    ――「炭鉱にも発電所にも熟練した男たちがいて、見習い労働者がいた」とジェフ(労働党の地方議員)は言った。「この町には60年代からそういうものがあった。発電所、いい仕事、いい給料。で、2016年の町はどうなった?実際問題として、町全体が40、50年前より貧しくなった……。アマゾンとやらは何を与えてくれた?今日、誰かが私にこう言ったよ。資本主義は借金の上に成り立っているってね。アマゾンの倉庫のような場所で仕事をしたくないから、若者は奨学金をもらって大学に行き、卒業と同時に3万ポンドの借金を抱えるようになる。これも資本主義への燃料供給だ。分割払いで車を買うのも、資本主義への燃料供給。そうやって社会は生き残っていく。(略)当時は毎晩、クラブはどこも客でいっぱいで、パブもいつも4年前、この町にはいい仕事があって、町全体が活き活きとしていた。町じゅうに人があふれ、どこも活気に満ちていた。いまはまったく別世界になってしまった。若者たちはむかしの町の姿をまったく知らない。経験したことがないんだから、仕方のない話さ。だからといって、それが正しいということにはならない。この状態が正しいはずがない。
    ―――――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 アマゾンでの「オーダー・ピッカー」の仕事
    筆者はアマゾンの巨大な倉庫で商品をピックアップする「オーダー・ピッカー」の仕事に採用された。時給は7ポンド(約1150円)。

    ピッカーには、通常の意味でのマネージャーはいなかった。代わりに従業員は、自宅監禁の罪を言い渡された犯罪者のごとく、すべての動きを追跡できるハンドヘルド端末の携帯を義務づけられた。そして、十数人の従業員ごとにひとりいるライン・マネージャーが倉庫内のどこかにあるデスクに坐り、コンピューターの画面にさまざまな指示を打ち込んだ。これらの指示の多くはスピードアップをうながすもので、私たちが携帯する端末にリアルタイムで送られてきた。 「いますぐピッカ・デスクに来てください」「ここ1時間のペースが落ちています。スピードアップしてください」。それぞれのピッカーは、商品を棚から集めてトートに入れる速さによって、最上位から最下位までランク付けされた。

    ピッカーが人材派遣会社のトランスラインと結んだのは、週当たりの労働時間の取り決めがないゼロ時間契約で、かつ短期のものだった。数回にわたって要請したものの、雇用契約書のコピーが手渡されることはなかった。また、ピッカーで優秀な成績を収めたものは正社員になるチャンスがあると告げられたものの、それは餌をぶら下げて都合のいいように働かせるための嘘であった。

    アマゾン従業員に対してGMB労働組合が行なった最近の調査では、次のような結果が出た。
    ・9%がアマゾンで働くことを友人に勧めたいと思っていない。
    ・70%が不当に懲罰ポイントを与えられたと感じている。
    ・89%が自分は利用されていると感じている。
    ・78%が休憩は短すぎると感じている。
    ・7%が1日に16キロ以上歩いたと証言。

    アマゾンの社員たちは恐ろしいほど気まぐれだった。とくに、ポイント制の懲罰制度に関しては気まぐれ度が増した。この制度では、病気で休んだり、ピッキングの目標を下まわったり、遅刻したりした従業員に懲罰ポイントが与えられた。
    「6ポイントになると、リリース(解雇)です。友だちのひとりは、4ポイントまで溜まったことがありました。はじめは、規定よりも早く退勤したという理由でポイントが与えられましたが、彼女は実際にはそんなことはしていませんでした。次は、アマゾンのバスが故障して遅れたのに、それでまた1点。病院にいる子どものために早退したら、また1点」
    アマゾンで働き出して2週目、筆者は体調を崩して1日欠勤してしまった。病気になるということは恥ずべき罪なので、筆者には〝ポイント "が与えられた。

    通常の1日のシフトのあいだ、労働者には30分休憩1回10分休憩2回が与えられた。30分休憩のあいだは無給だったが、短いほうの休憩中は時給が発生した。10分休憩の実際の長さは15分で、倉庫のいちばん奥から食堂まで歩くための時間として5分(無給)が追加された。現実的には、サッカー場1面分の広さの倉庫の奥から歩き出し、空港と同じようなセキュリティ・ゲートを抜けて休憩エリアにたどり着くには7分ほどかかった。休憩終わりにピッカー・デスクに戻るのに2分かかることを勘案すると、「15分休憩」のあいだに実際に休めるのはおよそ6分だけだった。

    ロイヤル・ロンドン相互保険組合が2016年に発表した報告書によると、英国のいくつかの地域の労働者は、退職後に一定の生活水準を保つために80代まで働きつづけなければいけないという。1993年から2012年までのあいだに、年金支給年齢を超えても働く人の数は1.85倍に増えた。
    1980年代なかばにはイギリスの5人にひとりの労働者が製造業で働いていたが、2013年までにその数は12人にひとりに減った。そんな状況のなかアマゾンが2011年にルージリーに来たとき、地元は興奮に沸き、ついに栄光を取り戻すことができるという雰囲気に町は包まれた。しかし、新たに作り出されたすべての仕事は平等ではなかった。

    相対的に見れば、今日の英国は1970年代よりもはるかに豊かな国になった。ところがその豊かさの大部分は、ある特定の階級から抜け出せずにいる人々雇用主の気まぐれへの服従を強いられ、不安定で恐ろしい生活を送る人々に依存している。アマゾンの場合、その犠牲者のほとんどは東欧人だった。自国の仕事は給料が高くないため、出稼ぎ目当てにイギリスに訪れる。そうした人々に目をつけて悪徳大家がアパートの賃料をボッタクり、労働派遣の仲介業者が手数料を刈り取っている。

    もし望めば、スタッフォードシャーののどかな町の一角で何が起きているのかに眼を伏せたまま、クレジットカードの詳細をアマゾンのウェブサイトに打ち込んでショッピングを楽しむことはできる。匿名の外国人が、外の世界からは見えない場所にある巨大な倉庫のなかに押し込まれ、額から汗を滴らせながら走りまわって荷物を運ぶ。アマゾンの倉庫の中で働く人々は、外の世界では存在しないも同然なのだ。


    2 ウーバーの運転手
    現在のロンドンの住宅事情はイギリスのほかの地域よりもはるかに悪化していた。ここ20年のあいだにロンドンの人口は25パーセント増えたものの、住宅の増加率はわずか15パーセントで、2016年には新築物件数がさらに大きく減った。
    2005年から2016年にかけて、ロンドンの平均家賃は38パーセント増加したが、労働賃金の増加率は21パーセントにとどまった。2017年には、賃貸住宅に住む人の7人にひとりが収入の半分以上を家賃に費やしていた。高騰する住宅価格が給料の上昇率をはるかに上まわっていたため、賃貸物件での生活というトレッドミルから抜け出す将来的な望みはますます薄くなっていった。2016年8月時点のロンドンの平均住宅価格は48万9000ポンドで、市民の平均年収のおよそ13.5倍の額だった。
    その結果、恐るべき富を誇る住民の居住地のすぐそばで、多くの貧困者が狭苦しいぼろ家で生活するという状況が生まれた。そういった場所に住むことになるのは決まって、ウーバーのタクシー運転手やオフィスの清掃員たちだ。

    ウーバーの導入から2年間で、民間タクシー運転手の数は1万3000人増え、その増加率は25%を記録した。しかし、ドライバーの数はまだまだ足りないらしい。
    そのためウーバーは、より多くのドライバーを獲得しようとつねに躍起になっている。結局のところ、どんなにドライバーを増やしてもウーバー側にはほとんど埋没費用は生じず、税金関連の事務処理が増えるわけでもなかった。請負人であるドライバーとは出来高払いの契約を結んでいるため、仕事がなければ支払いは発生しない。最低賃金を定める法律も適用されないどころか、ドライバーたちは一連の雇用権法の権利を行使することもできなかった。なぜなら会社によれば、彼らは被雇用者には当たらなかったからだ。
    これこそ、インターネットを利用して資本家が儲けを上げる「プラットフォーム資本主義」と呼ばれるものだ。ウーバーが言うとおり、ドライバーたちは会社のパートナーとして「運転サービスを探している顧客」と、「運転サービスを提供できるドライバーを接続するツール」を使っているだけにすぎない。あくまでもウーバーはテクノロジー企業であり、たまたまタクシー業運営の権利をもっているだけだった。

    「各運転手がそれぞれ自営業であり、社長」
    それがウーバーの掲げる自由な働き方だったが、実際には、仕事の多くの側面が厳しく "管理"されていた。いったん道路に出ると、受けた仕事の数、受けた仕事の種類、キャンセルの有無が、組織によって厳重に監視された。「ウーバーのあなた方に対する評価は、全体的な評価、受け容れに対する評価、そしてキャンセルに対する評価によって決まります。たとえば、あなたが何件の仕事を受けたのか、受けなかったのか。あなたが何件の仕事をキャンセルしたのか、しなかったのかについて、私たちは把握することができます。ですから、ウーバーPOOLやウーバーXなどのいずれかのプラットフォームでより頻繁にキャンセルをしているのがわかったら、なんらかの問題があることになります」

    「リクエストを受け容れずに、タイマーが期限切れになるケースが続くと、われわれは2分間あなたのアカウントを保留します」。講師は研修を受けているドライバーの卵たちに警告した。「それを繰り返すと、保留時間はどんどん長くなっていきます」結局のところ、ドライバーに与えられたのは特殊な種類の自由だった。

    ウーバーが目指したのは、「24時間いつでもどこでも瞬時にタクシーが配送されるシステム」だった。しかし、そのためにはピーク時の需要を満たしてなお多くのドライバーが路上にいなければならない。ウーバーのサービスの成功は、ロンドンじゅうを車で走りながら携帯電話の通知音を待つ余剰人員の一団の上に成り立っていた。しかし個々のドライバーは、街の至るところでただ車を走らせているときには事実上損をしていた。そのあいだ、ウーバーは何も失っていなかった。ウーバーはそのリスクを、どんどん数を増していく個人事業主の集団に、競争過多による実質賃金の低下という形で負わせたのだ。

    ウーバーで働くことの心理的な面での問題は、ウーバーのサービスに対して客が払おうと思う価格が下がりつつあることで、ドライバーへの敬意が欠如することだった。
    アマン「やっぱり料金と関係があると思う……。どんなサービスであれ、高い料金を支払うときには、客は相手により敬意を払うようになるものさ。たとえ同じ仕事であっても、同じサービスを受けているとしても、高いお金を払ったときのほうが客は相手に敬意を払う。残念ながら、それが現実だ」
    後部座席に坐る客がブチ切れたとしても、ドライバーにできることは多くない。依頼をキャンセルするか(何度もキャンセルを続けるとウーバーに目をつけられるかもしれない)、あとは警察に通報するくらいしかない。電話をかけて相談することもできないのだ。

    ギグ・エコノミーの労働者たちは柔軟さと自由をしばしば謳歌し、自分の好きな時間を選んで働くことができる。それが個人事業主の魅力であるし、事実多くの場面において、筆者にも当てはまることだった。当然だが、純粋に自営業者として個人で働く人には、自分がどの仕事を引き受け、どの仕事を収穫逓減の領域にとどめておくのかを決める権利が与えられるべきだ。くわえて、むずかしい案件の場合には、引き受けるに値する料金を自ら設定することができて当然だろう。それを実現できない場合には、企業の管轄、管理、監督下にある労働者が有する権利を与えられてしかるべきである。


    3 責められるべきは労働者なのか?
    20世紀の民主社会主義者たちは、すべての人間を働かせることが大切であり、仕事は人生に方向感覚と目的意識を与えてくれるものだと主張した。失業は社会悪であり、人々が強く望むのであれば、国家は強硬手段を使ってでも国民を働かせるべきだと考えられた。リベラル派はそれを進歩などとは考えなかった。心優しいエリートが突如として貧困層の存在に気がつき、良心の呵責を感じる――それがリベラル派の考える進歩だった。労働者階級は依然として、闘わなければ利益を手にすることなどできなかった。
    エブーベールの隣町トレデガー出身者のなかでもっとも強い影響力をもち、自らが地元の炭坑夫の息子でもある政治家のアナイリン・ベバンは、かつてこう言った - 「進歩とは、闘争を排除することではなく、闘争の条件を変えていくことである」。マーガレット・サッチャーはそれを理解していた。だからこそ彼女は、断固として労働組合の力を奪い、経営者に有利な状況を取り戻そうとした。「むかしはある仕事から別の仕事にすぐに乗り換えることができた」とジェフは物憂げに言ったが、サッチャーが目指したのはそれとは正反対で、ひとつの仕事を10人が奪い合うという状況であり、賃金を低く保って労働者に気を抜かせないためにはそれが最適のやり方だった。しかしサッチャリズム最大の成功はおそらく、階級の結束を少しずつ奪ったことにあった。

    「イングランドの文化的アイデンティティーが徐々に消えつつある」。その責任は決まって、新しくこの国にやってきた移民たちに押しつけられた。しかし、英国文化が少しずつ侵食されていくことへの怒りの矛先が、一方的に移民へと向けられるのは奇妙なことだ。むしろ、世界じゅうのすべての目抜き通りに単調で見かけの変わらない店を展開する企業に向けられるべきではないのか?
    おそらく問題は、人々にとってどちらがより身近な問題かということなのだろう。「移民」「ビールを買うために生活保護費を不正受給している疑いがある隣家の酔っ払い」のほうが、平凡で味気ない看板の下でガラクタを売る謎だらけの多国籍企業よりも、具体的で現実的なのだから。

  • 英国人ジャーナリストによる、新興業種の潜入体験談です。
    アマゾン、訪問介護、コールセンター、ウーバーでの見聞が収録されています。
    現代人の多くが享受している便利なサービスの裏には、どんな仕掛けがあるのか。
    脱線が多めですが、拝金主義に向かいつつある資本主義が一部の人々をどう扱うのかが綴られた一冊。

  • 【搾取沼】
    いまをときめく巨大企業は労働者から搾取行為をしてぼろ儲けをしています!
    ひどい会社です!
    と言いたいのでしょうが、資本主義とはもとからそういうものです。

    残念ながら、資本主義では「資本家側」か「資本家を儲けさせる側」かこの二種類の人しか存在しません。
    しかし、資本主義(資本第一主義)の世界で生まれたにも関わらず、資本家になるための教育はされません。りっぱな 「資本家を儲けさせる側」になるための教育が十数年もかけて行われます。

      「資本家側」と「資本家を儲けさせる側」には大きな(儲けるお金で1000倍以上)開きがありますが、 「資本家を儲けさせる側」 でも給料に2~3倍の開きはあります。
      「資本家を儲けさせる側」の上位でも裕福さはそこそこ程度ですので、その上位の1/3の稼ぎになると生活は苦しくなります。
      
    その名の通りそれが「資本」主義です。

  • イギリスの貧困層/労働者階層(両者の微妙なズレ自体も主題の一つだ)のルポ。原題は HIRED。邦題は煽りすぎのような気もするが、『雇用』では手に取られまい。

    アマゾンのピッカー、派遣介護、保険のコールセンター、ウーバーのドライバー、それらの仕事を実際にやってみて、なにが起きているのかを描き出す。
    「ギグ・エコノミー」と呼べば聞こえはいいが、何も保証されない「ゼロ時間契約」のことである。イノベーションに見えるビジネスも、どこから利益が生まれているのかといえば、最貧困層からの搾取によるものであったりする。
    厳しい冷酷な時代。
    労働組合が力を失う中、どのようにしてこの格差を糾していくことができるだろうか。

  • イギリス最底辺の労働環境の実態をジャーナリストの著者自ら潜入し体験した内容を報告するという内容。

    アマゾンの倉庫、訪問介護、コールセンター、ウーバーのタクシーで働くが、そこから見えてきたのは資本主義が生み出した管理社会の極地。

    豊かな社会が実現したかのように見えるイギリスだが、その豊かさが覆い隠すのは最底辺の環境に苦しむ搾取された労働者の存在であった。

    生産性向上の必要性が叫ばれている日本においても、同じ島国であるイギリスで直面している労働環境に関する問題点は決して他人事ではなく現実として受け入れなければならない事だと感じた。


    以下、特に気になった点。

    ・生産性至上主義のもと、抑圧的な環境で日々監視の目にさらされながらの労働で過度のストレスを感じながらの労働が強いられている。

    ・古い産業にあった労働者同士の連帯感や熟練された技術による仕事の尊厳などが消滅し、高い技術を必要としないルーティーン化された単純労働の増加。

    ・お金に困った従順な移民労働者が雇用を独占し、賃金の低下や更なる労働環境の悪化に向かっている。

    ・“ギグエコノミー”が謳う自由で自律した柔軟な働き方という欺瞞。実情は個人事業主とされたドライバーの仕事への裁量権すらなく、サービスの提供元の責任逃れ、最低限の保証も不安定な労働環境。AI、アルゴリズムによる管理の仕方にルールを設けるなどの改善が必要だと感じる。

  • 当たり前のようにネットで買い物をする人間がいる一方、該当の商品を探して倉庫内を走り回り、そのスピードを常に監視されている人間がいる。アプリで手軽にタクシーを呼ぶ客がいる一方、アルゴリズムによって管理されるタクシー運転手がいる。社会の底辺とも呼ばれる職場に潜入し、その実態を暴くだけでなく、労働者階級の人々の本音を引き出す著者。現在、イギリスでは約20人に1人が最低賃金で生活していると言われる。移民問題、廃れた地域、ゼロ時間契約...。労働者階級の生活を、著者自らの眼で見て、真実を確かめたノンフィクション。

    p7
    現在、イギリスでは約20人に1人が最低賃金で生活している。

    p8
    世界金融危機のあと、自営業者が100万人以上も増えた。その多くが、インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う“ギグ・エコノミー”という働き方を選んだが、彼らに労働者の基本的な権利はほとんど与えられていない。

    p10
    ゼロ時間契約[訳注、zero-hours contract、週当たりの労働時間が決まっていない雇用契約のことで、特に近年のイギリスで大きな社会問題になっている]

    p22
    同僚たちの大半は東欧から来た人々で、そのほとんどがルーマニア人だった。私の存在に気づいたルーマニア人たちはしばしば、なぜイギリス人がこんな卑しい仕事をして自らを貶めているのかと不思議がった。

    p25
    それぞれのピッカーは、商品を棚から集めてトートに入れる速さによって、最上位から最下位までランク付けされた。

    p25
    このようなアルゴリズム管理システムが生み出されたという事実は、将来への警告であると同時に、フレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」への後退でもあった。1911年、フィラデルフィア在住の裕福な機械エンジニアだったテイラーは、無益な作業と人間の怠け癖をなくすことを目指し、労働活動の科学的な理想像を描いた研究論文を発表した。彼が編み出した科学的管理では、仕事場すべての作業が細かく監視さら、時間計測され、記録されるべきだとされた。労働者は製造のための構成単位であり、作業に使われる機械と同じように生産高が計測され、細部に至るまで指示が出されるべきだとテイラーは主張した。当時の著名な知識人たちと同じように彼は、労働者階級の人々を完全な人間だとはみなしておらず、利益を上げるために利用することのできるリソースだと都合よく考えていた。「(たとえば銑鉄運びは)洗練とはほど遠い、ごく初歩的な作業であるため、ゴリラを訓練すれば人間よりも効率よくこなすにちがいない」。テイラーは労働者のことを、自分たちを支配する原理に対する「理解が足りない」人々だと記した。“経営者階級”はテイラーの理論を嬉々として探り入れようとした。2001年に米国経営学会は、20世紀でもっとも大きな影響を与えた経営管理本にテイラーの『科学的管理法』を選んだ。

    p37
    2016年4月の時点で、ルーマニア国内に住むルーマニア人の手取り月給の平均は413ポンドで、地方での額はさらに低かった。

    p44
    強大かつ不可解な資本主義の力に圧倒された社会では、何故か移民だけが標的にされる。実際にイギリス文化が踏みにじられているのだとすれば、より大きな責を負うべきなのは、東欧から来た果物収穫作業員ではなく、ドナルド・マクドナルドのほうだろう。

    p259
    ギグ・エコノミーとは、フリーランスの単発の仕事によって成り立つ急成長中の労働市場だった。依頼されるのは出来高払いのフレキシブルな業務で、携帯電話のアプリを通して割り振られることが多い。

  • イギリスにおける現在の労働環境の問題点、会社がどのようにして労働者を搾取するかを、筆者が実際に潜入してレポートしている。

    大きく4社を取り上げているが、大別して2つの問題に分かれる。

    1つはアマゾンやウーバーに見られる、徹底した組織によるテクノロジーを駆使した、労働者の監視。アマゾンの倉庫システムは知っていたが、ウーバーの監視システムに驚いた。従業員ではなく個人事業主として雇い、働く自由さと引き換えに被雇用者に対するセーフティネットを放棄している。ゼロ時間雇用など、その最たる制度だ。

    もう1つは、労働者に考える隙を与え無いことで単純労働者化させ、一定の効率を出せない者は、部品のごとく容赦なく切り捨てる企業姿勢だ。これは、労働者は蛇口をひねれば出てくる水道の水のように、無限にあることを前提にしている。そこには決して労働者に対する尊敬の念などない。生産性が低い労働者については間引きして、新しいものを入れるという、現代における合法的な奴隷制度を写し出している。

    この書籍は、ユニクロ潜入一年の著者横田増生氏推薦という帯に惹かれた。まだ日本はましな方なのかもしれない、という絶望感に読後襲われた。衝撃の書である。

  • 現代イギリスの自動車絶望工場。こんな事をいうと不謹慎かもしれないが、読み物として普通に面白い。ディケインズとまではゆかないものの表現がなかなかこなれている。

    とくに、路上生活者ギャリーのくだりは情緒が揺さぶられた。彼はまだ生きているのだろうか?取材時から少なくとも6年はたっている。亡くなってる可能性の方が高いと思うと悲しい。

    ギャリーの哀愁エピソードをのぞくと、思っていたよりイギリスと日本の状況は似ているな、というのが1番の感想ではあった。目抜き通りのチェーン店化、1ポンドショップの乱立(イギリスにも百均があるのは驚いた)、移民労働者の非人道的搾取(技能実習生制度)、伝統文化消滅の不安、貧富の差の不透明化。どれもこれも見慣れた風景ではないか。

    日本にしか住んだことがないものだから、日本ばかりが敵対的な経済至上主義によって踏み荒らされてるような謎の被害妄想の中にいたが、ジェームズ・ブラッドワースのおかげでちょっと目が覚めた。これは世界的な流れだったのか。そりゃそうか、国境なき医師団ならぬ国境なき「多国籍」企業がやっているのだから。

    自分も日々愛用しているアマゾンが、移民を奴隷か機械のように酷使している倉庫に「フルフィルメントセンター」と名づけているのがディストピアSFまんまで感心した。どこかのマルチやネズミ講の勧誘を思い出す。世の中、思ってた以上にディストピアSFを実現してた。

    とはいえもちろん、ジェームズブラッドワースが潜入取材してから6年もたっているので、もう哀れな移民のかわりにAIロボが倉庫を縦横無尽に走り回ってるのかもしれない。SFドラマと勘違いしている可能性もあるが、そんなニュースを読んだような気もする。

    人間を機械のように扱う企業にとっては人間よりも機械の方が使い勝手も良いから、当たり前のように移行するだろう。日本アマゾンは有名宅配企業ではなくギグ・エコノミーの配達員をこき使うようになった。これも将来的にはあのラジコンみたいなホバリングする機械にやらせたいのだろうなと思う。ウィリアム・シャトナーを宇宙に飛ばしたジェフベゾスなら当たり前に実現しそうだ。

    客として主体性をもってアマゾンを利用しているつもりでも、事実上、アマゾンでしか購入できない電子書籍リーダーやら配信動画やらによって囲われてるわけで、自由と利便性の名のもとに機械扱いされてるのは、無駄にデカいダンボールにお買い得品を詰め込む「アソシエイト」も、それを指定時間に運ぶギグ・エコノミー配達員も、それを受け取る「お客様」も同じなのだ。

    アマゾン経済圏の囲われ人間だけでなく、それこそ広げればSNS依存やサブスク地獄にハマっている人間も、週末に巨大なショッピングモールで賃金をとかす幸せな家族も、多国籍企業にとってしょせんは金を産む機械の部品でしかない。

    これが本当にみんなが望んだ自由なのかと思う。ワンクリックで無料配送かつ短時間で届くお買い得品。テレビの代わりにたのしむ特典動画。確かにディケインズが生きていた頃にタイムトリップしても幸せにはなれない。それでも結局はフルフィルメントセンターの名がしめす通り、大多数の人間が幻覚剤をきめたモーロック(『タイムマシン』に出て来る下層階級)として沈みつつある世界に見える。そしてここでも個別化、孤独化というのがキーワードなんだなと改めて思う。

    本書の終わりあたりにあった、貧乏人は進歩の車輪を回すための潤滑油という表現がすべてを物語るような内容だった。

    エピローグの結論も救いがないが読みごたえのある作品だった。原題「Hired」をラノベのような分かりやすい邦題にしたのも良かったと思う。

  • どこの国でもブラックな労働環境があるのはよくわかった。嫌だねえ…
    経営者が畜生なのは前提として雰囲気もクソ。

    あと、労働環境があまりにも悪いとその職場がある地域も環境が悪くなるんだよね。
    大企業の工場(賃金がかなり高めの)が建ってるだけで、その地域にあるコンビニの給料が上がるなんて事よくあるし。(一見関係なさそうだけど。)
    イノベーションがよく起きる場所は、その付近の地域の金回りが良くなるって事だね。

    この本ではイギリスにおいてのクソ以下の仕事を体験して紹介するルポルタージュなんだけど、一番キツそうなのはアマゾンの倉庫での仕事。
    トイレに行く暇がないから自家製尿瓶を持ち歩いてそこら辺で済ませるなど、地獄のような環境を垣間見ることができる。

    こんな職場に就職してしまった場合は一週間以内に後先考えずに辞めるべきです。
    ブラック企業に就職するイメージを持ちたい方にこの本オススメです。

  • いわゆる潜入ルポというジャンルの作品です。
    アマゾン(1章)、ウーバー(4章)のほかに、訪問介護サービスの会社(2章)とコールセンター(3章)が登場します。
    これらはイギリスでも底辺職とみなされているようで、ポーランド移民の就業率が高いらしい。
    この辺りの状況は、日本でいうと、ファストフードやコンビニの店員に外国人が多いこととパラレルなのかもしれません。
    読後の印象に残ったのは、ウーバーの強欲ぶり。
    経営者が世界的に批判されたのも記憶に新しいところです。
    ちなみに、著者は、イギリス社会や政治家を批判的な目で描写していますが、絶望も発狂もしません。

全100件中 1 - 10件を表示

ジェームズ・ブラッドワースの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×