- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336048417
感想・レビュー・書評
-
初期から中期にわたる短編集からのアンソロジーとあって、SF寄り、サスペンス風、幻想味の強い作品と少しずつ違っていて、楽しく読めた。どうしても既読作品の印象が強いので、表題作や「大空の陰謀」のような、こちらの予想を一段階軽く飛び越えた結末の話が面白かった。表題作は「モレルの発明」に雰囲気が似ているし、「大空の陰謀」は「脱獄計画」を読み終わった後みたいに頭の中がこんがらがるところが、うわっとなる。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
10編からなる短編集。
この作家の翻訳物では唯一の短編集になる。
「モレルの発明」がめちゃくちゃ面白かったので、本書も期待して読んだのだが、作品によっては期待以上、それ以外の作品も概ね期待通りの面白さだった。
「パウリーナの思い出に」
読み終った後、思わず「うーん……」と唸ってしまった。
そうか、そう来たか、といった感じ。
物悲しくも美しい愛の物語かと思わされたのもほんの一瞬で、そのすぐ後にこれ以上は無いくらいに残酷でおぞましい真相が明らかになる。
一か所だけ、強引、というか不自然に思える箇所があったのだが、それほどに気にはならなかった。
それにしても、よくもまぁこんな発想が出来るなと思うし、細かい伏線をあちらこちらに張って、その発想を最大限に生かしている手法は、もう「うーん」と唸るしかなかった。
僕にとっては、ここ数年で読んだ短篇の中でも出色の面白さがあった。
「二人の側から」
幽体離脱に関する似たような話は聞いたことがある。
この作品はそれと「永久の愛」と結びつけたような感じになるだろうか。
二人はあっちの世界で出会うことが出来たのだろうか。
それにしてもこの少女は現実的であり、あっちの世界の存在を認めていながらも、その世界への羨望も恐怖心もない。
「愛のからくり」
意味深なタイトル「からくり」が全てを表しているように思える。
摩訶不思議な事象が起こるのだけれど、それによって真実の、あるいは真実だと信じていたものに綻びが生じる。
はたして愛は「からくり」だったのだろうか……いずれにしても悲劇の結末しか残されてはいなかった。
「墓穴掘り」
割と簡単に殺人が達成されるので、前半は少しコミカルな雰囲気もある。
相手の意図と自分の意図の錯綜、夫婦間の心理の差異、そして変則的な因果応報。
最後は第三の殺人をほのめかしている。
「大空の陰謀」
パラレル・ワールドを扱った作品。
二つの世界の存在を認識している人物に届けられた手紙と、その人物自身による多重の語り口がどことなく「モレルの発明」を思い出させる。
「影の下」
一人の女性に絡む、すれ違いと転落の人生、といったところだろうか。
似たような出来事が繰り返されることから「永劫回帰的」とビオイ・カサーレルが自身の作品をそう表現したのかも知れない。
「偶像」
一種のホラーのような作品。
夢と現実の区別がつかないままに、主人公は自分自身に「大丈夫」と言い聞かせたまま終わる。
それにしても「パウリーナの思い出に」や「墓穴掘り」と同じように、怖い女性が登場するケースが多いように思える。
また、「パウリーナの思い出に」や「愛のからくり」では、その幻想的な事象にある程度論理的な説明がされていたけれど(けっして科学的ではないが)この「偶像」では幻想的な事象は幻想的なままに放置されている。
「大熾天使」
世界が終ろうとしている状況で、そんな状況から顔を背けようとしている人々と、その真実をきちんと受け入れ、どんな行為も無意味だと思いながらも、最後は自己犠牲の精神を発揮する主人公。
仮に自分がそんな状況に陥ったらどうなるのだろう。
「真実の顔」
輪廻転生の話。
確かに寓話的な意味合いがあるように思えたのだが、解説を読むまでそれがどういうことなのかは、判らなかった。
それにしてもそんな「真実の顔」が見えたら、気持ち悪いだろうな。
「雪の偽証」
推理小説的な味わいのある作品。
少しばかり強引なこじつけだな、と思える箇所もあるのだけれど、意表を突かれる面白さは充分にあると思う。
これも「モレルの発明」のようなメタ・フィクション的な構成になっている。
解説を読むと、当時の政治スキャンダル事件が暗にほのめかされているとのこと。 -
序文 木村榮一
パウリーナの思い出に
二人の側から
愛のからくり
墓穴掘り
大空の陰謀
影の下
偶像
大熾天使
真実の顔
雪の偽証
訳者あとがき