骸骨:ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336072061

作品紹介・あらすじ

残念ながら自分には
いささか陰鬱な傾向があるに違いない―― 

英国屈指のユーモア作家に隠された、もう一つの顔。

ユーモア小説『ボートの三人男』で知られるジェローム・K・ジェロームによる異色作品集。

西洋骨董のように古風な趣と気品をそなえた、知られざる逸品の数々。
心和ませる幽霊小説、冷たく怖い怪奇小説、優しく美しい幻想小説、不思議な現代ファンタジイ、数千年の時を跨ぐケルト・ファンタジイ等々、多彩な味わいの奇譚17篇を収録。
1篇ごとに異なる魅力の、世にも稀なる短篇小説集。

【目次】
食後の夜話 
ダンスのお相手 
骸骨 
ディック・ダンカーマンの猫 
蛇 
ウィブリイの霊 
新ユートピア 
人生の教え 
海の都 
チャールズとミヴァンウェイの話 
牧場小屋(セター)の女 
人影(シルエット)
二本杉の館 
四階に来た男 
ニコラス・スナイダーズの魂、あるいはザンダムの守銭奴 
奏でのフィドル 
ブルターニュのマルヴィーナ 
 訳者あとがき 

感想・レビュー・書評

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  • ジェローム・K・ジェロームと聞いたら「ボートの上の三人男〜♪」という歌(メロディは適当に)が頭を流れてしまう 笑
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4122053013#comment

    そんなジェローム・K・ジェロームがどんな幻想譚を書くのかと思ったら、それぞれのお話が不思議なお話としても良いし、昔からいる幽霊を現在の社会問題や人間心理と結びつけるが説教臭さがない語り方も良いし、ここに収録されている全ての話が良質なものばかりです。怖い話ではあっても、嫌〜な気持ちになるものはありません。
    イギリス人が、幽霊や妖精を極当たり前のものとして捉えていてる感覚が面白いです。

    『食後の夜話』
    クリスマスイブの客たちがそれぞれの体験した幽霊譚を語る。
     クリスマスイブっていったら幽霊だよね!
     クリスマスの客は、幽霊が出る部屋に泊まる権利を主張できるよね!
    …と、盛り上がる語り手 笑
    イギリスの古い屋敷や家具には当然幽霊がいるもので、コミュニケーション取りづらくて困った同居人扱い。
    イギリスの幽霊話で、こんな感じのお話ってありますよね。

    『ダンスのお相手』
     ダンスホールにいる殿方ってダンス下手よね〜
     これなら機械人形のほうがましじゃない〜?
    かしましいお嬢さん方のおしゃべりを聞いた機械職人は張り切った。それなら絶好のダンス人形を作ってみせる!
    ダンス人形は完璧だった。しかし機械が止まらなくなってしまったから大変なことに!!
    ==文体は無邪気なんだが、起きたことは阿鼻叫喚のスプラッターでは…

    『骸骨』
    自分に復讐しようとした男が死んだ。
    その数年後、手に入れた医学用の骸骨からあの男の声が…

    『ディック・ダンカーマンの猫』
    売れない戯曲家ディックの元には独特の目をした猫がいた。ディックが言うには、この猫は飼い主を成功するアドバイスをくれるらしい。ディックはその後戯曲家として大成功した。
    その後でもあの猫を色々な友人の家で見かけるんだ。

    『蛇』
    粗暴だった男がすっかり変わった。彼は語る。
     数年前に妻を連れてジャングルに赴任した。そして妻の臆病を治すと言って、妻が怖がる蛇の死体を部屋に仕込んでおいたのだが…
    その事件が彼の人格を変えた。それ以来、その時の情景が常に頭にあるという。

    『ヴィブリイの霊』
    ヴィブリイの家に幽霊が住むことになったらしい。ヴィブリイはすっかり幽霊との交流に夢中だ。だが周りにはヴィブリイが馬鹿なことをやり、友達を失い、仕事を失っているようにしか思えない。
    まあ結局ヴィブリイは目を覚ましたよ。大金は失ったけどね。

    『新ユートピア』
    全ての人間が、完全に平等であれば、世界は正しく平和で幸福でいられるだろう。
    私が眠りから寝覚めると千年経っていた。私の時代に願った、全ての平等は叶えられているのだろうか?
    ==いわゆるディストピア物のブラックユーモアなんだが、千年眠ってる男が「起きるの忘れちゃったんだね」と博物館に飾られてるというすっとぼもあって楽しい。

    『人生の教え』
    船旅で知り合った紳士に気に入られた私は、紳士の頼みを聞くことになる。紳士は言う。
     私は過去のことをすべて覚えている。数百年前、城に住んでいたこと。数十年前、学生同士で君と女性の愛を争っていたこと。私達はまた会えるかもしれない。だから私のことを覚えておいてほしい。
    ==魂は不死というか転生物というか。
    しかし生まれ変わりがテーマナノではなく、過去の人生(前世という呼び方をして良いのか)を覚えている男が人生の教えを受け取ったということが大事なんだろう。
    <成功が僕を弱くしていた。神は僕に弱さと失敗を与えて、強さを学ばせてくれた。P189>

    『海の都』
    海辺の都市で戦ったデーン人とサクソン人。
    だが邪悪な声がして、サクソン人はデーン人へ襲いかかる。
    海辺の都市には神の罰が下り、修道士たちは何年も祈った。
    これはただの寓話だろか?いや、かつての都市がなくなろうとも、そこに修道士の姿が見えるではないか。

    『チャールズとミヴァンウェイの話』
    チャールズとミヴァンウェイの若すぎる結婚は数年で破局に至った。
    故郷に帰るチャールズの船は沈み、人々は彼が死んだと思った。そしてチャールズも自分は死んだことにして人生をやり直すことにした。
    何年も経ち、チャールズはミヴァンウェイの住む村を訪れた。
    二人はお互いを亡霊だと思い、心からのお詫びを交わすのだった。
    ==幽霊が存在しない幽霊譚!しかもなかなかいい話。

    『牧場小屋の女』
    狩りの途中で避難した小屋には「牧場小屋の女」と呼ばれる霊がいるといわれていた。
    かつて、山小屋で暮らす夫婦と、近くの牧場小屋の番をする女の因縁は、彼らの死後も続き、小屋に泊まる男は死ぬという。
    ==この短編集には、ユーモラスだったり、なんかいい話だったりという幽霊譚が多いのですが、これは直接的に怖いというか容赦ない怨念話。

    『人影』
    語り手が幼い頃過ごした村の言い伝え。
    海には怪物がいると言われ、夜は人間でないものが訪ねてくるという。

    『二本杉の館』
    二本杉の館で出会った娘としばらくの逢瀬を楽しんだ若者は、自分の所属する階級に戻っていった。
    社会的にも成功し、結婚もしていたが、ある時自分が「二本杉の館」の町にいることに気がつく。
    ==置いてきた青春、ってやつですか。

    『四階に来た男』
    アパートの四階を借りに来た余所者。
    彼と会った人たちは、自分の真の姿を現さずにはいられなくなる。
    ==キリストを彷彿とさせると思ったら、解説でもそのように書いてあった。キリスト教圏の小説で、キリスト(を具現化する人物)が人間の間に存在していて、その存在にふと気がつく、というものってありますよね。

    『ニコラス・スナイダーズの魂、あるいはザンダムの守銭奴』
    真っ直ぐな若者と、老守銭奴が、記憶はそのまんまで、「善良な魂」と「意地悪な魂」とだけが入れ替わる話。
    善良な魂と、愛とが勝つということで、この作者はいい人だと思う。

    『奏でのフィドル』
    勝者は国王の娘と結婚できるというフィドル奏者の大会が行われる。
    貧しいフィドル弾きテラスは悪魔からフィドルを受け取る。だがこのフィドルはただただ音楽に捧げる心でしか奏でられないものだった。この世の栄光すべてを捨てて打ち込む真の芸術はあるのか。

    『ブルターニュのマルヴィーナ』
    紀元前のフランスの妖精「白い貴婦人」のマルヴィーナは、ある行いを咎められて永遠に彷徨うことになる。
    1914年、イギリス人パイロットクリストファーは、フランスの森に眠る美女を気に入りイギリスに連れてゆく。マルヴィーナは、人間の性質を変えることができるという。だが同じ男性に三回キスされたら妖精ではなくなり、普通の女になるのだ。
    ==イギリスの人々がマルヴィーナをひと目見て「妖精じゃないですか!」とか、「マルヴィーナさんにお願いがあるんだけど」とか、イギリスには幽霊も妖精も当たり前の存在で人間と一緒医いる感じがいいですね。
    そして古代のフランス人妖精が、1914年のイギリスの男系社会を変えてみるという現代的なテーマも入っているのだが、非常に自然でユーモラス。



  • 著者 : ジェローム・K・ジェローム|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/sp/result.html?writer_id=20661

  • 短編集。おどろおどろしい装丁やタイトルのイメージと違って、中身は意外とコミカルというかユーモラスというか…。いわゆる怪奇幻想、という言葉からイメージする作品群とはちょっと違ってバラエティに富んでました。

    ストレートに怖かったのは「牧場小屋の女」、不気味な「人影」、何が起こったのかはっきりわからないがゆえになんか凄惨な感じのする「蛇」あたり。個人的に好きだったのは、機械仕掛けのダンス人形がスプラッタな事態をまきおこす「ダンスのお相手」と、ディストピアものの一種ともいえる「新ユートピア」など。

    ※収録
    食後の夜話/ダンスのお相手/骸骨/ディック・ダンカーマンの猫/蛇/ウィブリイの霊/新ユートピア/人生の教え/海の都/チャールズとミヴァンウェイの話/牧場小屋の女/人影/二本杉の館/四階に来た男/ニコラス・スナイダーズの魂、あるいはザンダムの守銭奴/奏でのフィドル/ブルターニュのマルヴィーナ

  • ジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男』が好きなので『骸骨』も読まずにはいられなかった。幽霊や骸骨が出てくる話やひやりとする話があるかと思うと心が温まる話もある。同じ人間が書いたとは思えないほどバラエティに富んだ短編集で、読んでいてまったく飽きがこなかった。『ボートの三人男』のほうがユーモラスだが、『骸骨』は短く読みやすい作品が多いので、寝る前にベッドの上で読むにはもってこいの短編集。暑くて出かけたくない日も、寒くて引きこもりたい日も、家で一日中楽しめるステキな娯楽小説。

  • 幻想短篇集。怪奇なものから奇妙な話、ファンタジーと読み心地はいろいろです。
    お気に入りは「チャールズとミヴァンウェイの話」。たしかにこれは幽霊譚といえる物語でしょう。だけど実は幽霊が出てこない、というところが面白い一作です。
    恐ろしいのは「ダンスのお相手」。どのような惨事になっていたかはまったく描写されていないのですが、その方が怖いのかも。ラストの一文が何もかもを表している印象で恐怖を引き立ててくれます。
    猫好きとしては「ディック・ダンカーマンの猫」が実に素敵で惹かれます。この猫には来てほしいかも。

  • 『ボートの三人男』で有名なジェローム・K・ジェロームの短篇集。怪奇、幻想、ケルト妖精もの、SFと、この一冊の中にいろんなテイストの短篇が勢揃い。どれも甲乙つけがたい面白さでした。

  • ハードカバーで買うほどの興味は無い作家だったけど、
    少し待ってれば文庫版でちょいとお安く買える事も無さそだしでポチった

    最近は国書刊行会とかのじゃなくても、電子版が出ても文庫版が出ないのあるよな…
    (/_;)

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著者プロフィール

Jerome Klapka Jerome。1859年、スタッフォードシャー生まれ。ユーモア小説『ボートの三人男』で知られるイギリスの作家。ロンドンの貧しい地区イースト・エンドで貧困に苦しむ幼少時代を送った後、13歳から15歳のときに両親を相次いで亡くし、学業を諦めて働き始める。18歳のときに移動劇団に加わるが3年で役者の道を諦め無一文でロンドンに戻り、弁護士事務所の事務員などをしながらエッセイや短篇小説を発表するようになる。新婚旅行のあと発表した『ボートの三人男』(1889年)が評判になったのを機に専業作家となり、小説、エッセイ、戯曲を書き、また雑誌の編集にも携わる。しかし『ボートの三人男』を超える評価を得ないまま、1927年、自動車旅行中に脳出血で逝去。

「2021年 『骸骨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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