- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336074652
作品紹介・あらすじ
寝煙草の火で老婆が焼け死ぬ臭いで目覚める夜更け、
庭から現れどこまでも付き纏う腐った赤ん坊の幽霊、
愛するロック・スターの屍肉を貪る少女たち、
死んだはずの虚ろな子供が大量に溢れ返る街……
〈文学界のロック・スター〉〈ホラー・プリンセス〉エンリケスによる、12篇のゴシカルな恐怖の祭典がついに開幕!!!
カズオ・イシグロ(ノーベル文学賞作家)絶賛!
「美しく、怖ろしい……近ごろ私が発見した最高に面白い小説」
――ガーディアン紙「今年のベスト・ブック(2021)」
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉とは
エルビラ・ナバロ、ピラール・キンタナ、サマンタ・シュウェブリン、フェルナンダ・メルチョール、グアダルーペ・ネッテル――今、スペイン語圏の女性作家が目覚ましい躍進を遂げている。作家によっては三十か国以上で翻訳され、世界中で好評を博すなど、現代文芸シーンにおける一大ブームとなっている。中でも、社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品群である〈スパニッシュ・ホラー文芸〉は、特に高く評価され、全米図書賞などの著名な賞の候補にも作品が上がるなど、今、最も注目すべき熱い文芸ジャンルの一つである。本書の著者マリアーナ・エンリケスは、〈文学界のロック・スター〉〈ホラー・プリンセス〉と称され数々の賛辞を受ける、現代アルゼンチン文学の頂点に君臨する作家である。
【2021年度国際ブッカー賞最終候補作】
【目次】
ちっちゃな天使を掘り返す
湧水池の聖母
ショッピングカート
井戸
哀しみの大通り
展望塔
どこにあるの、心臓
肉
誕生会でも洗礼式でもなく
戻ってくる子供たち
寝煙草の危険
わたしたちが死者と話していたとき
訳者あとがき
感想・レビュー・書評
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★5 弱者の現実と奈落の底からの叫び声が聞こえる… アルゼンチン作家のホラー短編集 #寝煙草の危険
■きっと読みたくなるレビュー
アルゼンチンの作家、掌編・短編からなるホラー作品集。良い作品なので、しっかりと読みましょう。
テイストとしては文芸作品ですが、痛烈で狂気な描写が多く、アルゼンチンの歴史や現実も克明に記された内容。正直、治安と経済状況がいい日本に生まれたことを安堵してしまいました。
本作はあからさまな表現で豊富で、めっちゃメッセージ性が強い。そして気がついたら読み切ってしまうほど、熱中度が半端ないです。読めば読むほど味わい深く、すっかりエンリケスの沼にはまってしまいました。
〇ちっちゃな天使を掘り返す
可愛いんだけど怖いという矛盾に包まれる。哀愁も漂う美しい作品。
〇湧水池の聖母
惜しげもなく表現された女の嫉妬と業。冷酷さが怖すぎ。
〇ショッピングカート
まさに絶望への階段…薄暗く不安定な恐怖を体験できる。
〇井戸【おススメ】
魂と狂気、井戸の底に見えたものは… 不安に包まれる少女の精神描写が力強く、心臓がつぶされる感覚になる。
〇悲しみの大通り
書かれている一文一文、何もかもが受け入れがたい。唯一救われるのは、友人の思いやりだけ。
〇展望塔
いわゆるこんな症状に侵されている人間の深淵を垣間見る。絶望すら生ぬるく、生気が全く感じられない。
〇どこにあるの、心臓【おススメ】
変態。あまりにも純粋すぎる変態。すべての描写がストレートで潔く、ラストも大好きな作品。
〇肉
アルゼンチンの推し燃ゆ+狂気。彼女たちがこうならないための手段はなかったのだろうか。
〇誕生会でも洗礼式でもなく
小児性愛の変態性すら霞む異常性、1ミリも理解できない。穢らわしい表現が読者の精神を蝕んでいく。
〇戻ってくる子供たち【おススメ】
本書の中では比較的長めの短編。全編にわたって現実から目をそむけたくなる。アルゼンチンの非業な歴史、辛辣な社会を感じさせる。意外な展開から結局どういうことなのか混乱するが、作者の言いたいことは最後の一文に現れている。
〇寝煙草の危険
弱弱しい生命の灯、それでも吸い寄せられてしまう光。虫けら同然の無為の人生に包まれる。
〇わたしたちが死者と話していたとき
交霊術の恐ろしい顛末。ウィジャボードからのメッセージが怖すぎる。これもアルゼンチンの悲しい歴史を感じさせる作品。
■きっと共感できる書評
本作各編の主人公は、子ども、経済的に恵まれない人、病気の患っている人々など社会的弱者が多い。彼らの現実と奈落の底から聞こえる叫び声が、読者を追い込んでいくのです。
ある程度恵まれた国で生活している私たち。保身のために、彼らから目を背けてしまうますが、我々は手を差し伸べる勇気を持たければなりませんね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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【今週はこれを読め! SF編】人間精神の深奥と現代アルゼンチンの暗澹を剔出する十二篇 - 牧眞司|WEB本の雑誌
https://www.w...【今週はこれを読め! SF編】人間精神の深奥と現代アルゼンチンの暗澹を剔出する十二篇 - 牧眞司|WEB本の雑誌
https://www.webdoku.jp/newshz/maki/2023/06/06/114401.html2023/06/08
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アルゼンチンのホラー・プリンセスの異名を持つマリアーナ・エンリケスの第一短篇集。
沈黙に与しない。忘れてはならない死者や行方不明者たちの存在。現代アルゼンチンの社会問題を浮き彫りにする。
強烈だった。救いがない話ばかりなんだけど、打ちひしがれていない底知れぬエネルギーみたいなものを感じる。長篇も読んでみたい。 -
「アルゼンチンのホラープリンセス」「文学界のロックスター」といわれる著者の短編集。これがちょっとビックリするくらいどのお話も良かった…!同じ著者の『わたしたちが火の中で失くしたもの』も数年前に読んで、それもなかなか興味深かったのだけれど、それよりもずっと好みでピタッと胸にすいつく感じ(?)。でもこっちのほうが先に書かれているんだよね…。きっかけはある短編(『戻ってくる子供たち』)の一節が黒沢監督の『回路』から来ているのではないか、というツイートを見かけたこと。たしかに『回路』そのものだったし、他にも『叫』の葉月里緒奈を思わせる化け物目線のお話もあって(「展望塔」)、主人公はどれも女性で、この世の残酷さに触れはじめる少女だったり、どこか満たされない若い女の子だったり、人生に倦んだたぶん初老の女(「寝煙草の危険」)だったり。性欲や自慰も当然そこにあるものとして描かれ、それらが当然そこにあるのと同じように怪異な現象も何食わぬ顔で生活の中に入り込み、彼女たちの足をすくう。
一番好きなのは「展望塔」かなと思うけど、憧れの男子と付き合いはじめた、なんでモテるんだかよくわからない女に対する女の子たちの嫉妬を描いた「湧水池の聖母」、この世の終わりに浸食されていく不穏さがこれまた黒沢監督っぽい「悲しみの大通り」、ロックスターに憧れる少女たちの狂気を描いた「肉」あたりもすごく良かった。登場人物の名前からしてエキゾチックだし、もちろん南米だからこその温度や空気感?はあるんだけど、読んでいて思い出したのは米国の作家クリステン・ルーペニアンの短編集『キャット・パーソン』。ホラーとしても読ませるうえに、女性たちが抱える鬱屈やいらだちが生々しく&意地悪く書かれているところが切実かつ痛快でもあるのだ。宮崎真紀さんの翻訳も痒いところに手が届く感じで、十二分に魅力を伝えてくれて素晴らしい。宮崎さんの訳で他の作品ももっと読みたいです。 -
ホラー短編集、といっても怖さより悲しみややるせなさで心が湿る。
アルゼンチンの辛い歴史も根底にあって。
文章がまた良かったなぁ、原文もyいいにだろうし、訳も良かった。
「井戸」と「戻ってくる子供たち」が特に好き。 -
ものすごく大好きな短篇集だった。
マリアーナ・エンリケス女史の小説は初めてで、どういうものを書くのか知らない状態で読んだらホラー短篇集で、ホラー大好きな私は大歓喜。しかもマジックリアリズムを強く感じる作品が多くてより楽しく読んだ。
最初の短篇「ちっちゃな天使を掘り返す」は、祖母と一緒に住む家の庭を掘り返していたら骨がでてきた。祖母が言うには幼くして亡くなった妹だという。妹は寂しがりやだから家族の近くにと庭に埋めたのだという。時は流れて主人公が大人になり一人暮らしをしていたある雨の日、体が不廃した幼子が目の前にあらわれた。最初は怖がり気味悪かったが慣れてきて外出もするようになる。それでも鬱陶しいのでどうにかいなくなって欲しいのだが何してもいなくならない。という話。見た目のグロテスクさにぎょっとするが、何も悪さをしない幼子にイライラしつつ慣れる主人公のあまりにも現実的な思考と行動に、実際にそうなったらそう考えるよなあという妙な納得感があってとても素敵な短篇だった。
他にも「湧水池の聖母」「肉」のティーンのもつ危うい凶暴性や「どこにあるの、心臓」の依存、執着、「ショッピングカート」の運命をわける分岐点と「井戸」にもつながる信仰や生活に溶け込んだ呪といったものを感じた。どの短篇も不条理な出来事が日常に溶け込み、日常に溶け込んだ不条理さが言葉に発せず空気で人々の間に広がっていくのがリアルで理解できるからこそ怖くなる。想像する余地が多分にあるからこそ、タイトルで想像して怖くなって、物語のオチを読んで想像して怖くなる。連鎖していくことにたいして何もできない無力感も読んでいて感じる。
また女性のもつ強い思いや快楽といった部分、いまだにおおっぴらに言えない性についての描写などを読んでいて70年代に起こったウーマンリブの脈を私は感じて感慨深くなった。
また私が好きな映画がいくつか出てきてちょっとテンションが上がった。