明日の子供たち (幻冬舎文庫)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344427143

感想・レビュー・書評

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  • 児童養護施設の話。
    とても良かった。

    さすが有川氏。
    これはずっと大切にしたいし、是非みんなに読んでもらいたい一冊。

  • 児童養護施設で暮らす子と働く人達のお話。登場人物達全てが、本当に素晴らしい人達でした。この本を読んで少しは施設の事を知れたかな?“子供たちは明日の大人”という言葉に妙に納得させられた。

  • とにかく気持ちのいい物語だった。児童養護施設やその子供たちのシビアなところを描きつつも、一方で温かさと希望が胸に残る。最良のフィクションだと思います。

    前職を辞め、新たに「明日の家」という児童養護施設の職員に転職した三田村慎平。赴任早々から、先輩職員に注意を受けつつも、子供たちになじもうと積極的に努力する。
    しかし、生活態度や職員との関係も良い女子高生、奏子からはある会話をきっかけに壁を作られてしまい……。

    世間からの色眼鏡。学校での立ち位置。進学と就職。施設を出た後の居場所……。児童養護施設とそこに暮らす子供たちの現状の問題と課題が、物語について回る。

    印象的なのは高校受験の話。
    児童養護施設というのは、学校に属している状態でないと入所できないらしく、そのため子供たちは高校受験で落ちてしまうと、強制的に退所せざるを得なくなる。

    一方で私立や通信制の高校に通う余裕もないから、公立の高校受験で何が何でも合格しなければならない。合格できなければ、文字通り生活の場所を失ってしまう。

    こういう話を当たり前のように語る子供たちの姿が強く印象に残った。児童養護施設や、そこにいる子供たちの存在自体は知っていても、そうした環境については考えたこともなかったのだと感じます。

    他にも友達に施設にいることを話せない子や、かわいそうな子と世間からのラベリングを嫌がる子といった内面的な部分や、
    施設から大学に進学したものの、学費が払えず大学を中退し連絡が取れなくなった女の子、施設を出た後の子供たちのケアの不足、そして政治の理解や支援の不足など、環境面的な問題点など、リアルでシビアな話が続きます。

    そうした問題に挑むのは、当事者の子供たちと、そして職員たち。中心となる語り手の一人、三田村は有川さんらしい男性キャラ。考え足らずなところは多いものの、熱血でまっすぐで一生懸命。

    有川さんの若い男性キャラは、キャラが少女マンガチックというか、ストーリーは面白いものの、キャラに対しては正直冷めた思いで見てしまう場合も多かったです。

    『明日の子供たち』も序盤の三田村、特に奏子との会話の下りは、構成上必要なのだろうな、と思いつつも「ああ、これは受け付けないキャラかも」と思ったりもしました。そんな分かりやすい地雷を踏みに行くかと……

    でも物語にエンジンがかかってくると、マイナスだった熱さがプラスに転じてくる。奏子と正面から対話し、先輩職員の悩みや惑いに対しても首を突っ込む。単に熱いだけでなく、職員になる前に前職で営業をしていた経験を活かし、閉鎖しがちな施設に新たな風を吹き込む。

    単なる考え無しではなく、優秀なところもしっかりと残しつつ描かれているのも、キャラとして感情移入しやすかった。ともすれば、言動が可愛らしくも見えてくる。有川作品のキャラの魅力が、ようやく自分にも分かってきた気がします。

    三田村以外の職員、直属の先輩で、真面目な気質が印象的な和泉。一見陰気ながら、頼れるベテラン職員の猪俣。それぞれのキャリアが違うゆえの方針の違いや考えのすれ違い、そして内に抱えたもの。施設の限界や子供たちの内面を描いていく中で、生まれる彼らの悩み。

    子供たち、そして大人たち、それぞれの苦悩をフィーチャーしつつ、人格やキャラクターが立ち現れてくる。そして現実のシビアな問題に対し、小説は何ができるのか。有川さんの物語世界は、暖かさと希望を持って、読者に、そして社会に真っ直ぐに突き刺さる。

    作中の手紙、そして有川さんに「児童養護施設をテーマにした小説を書いてほしい」と手紙を出した、当事者の方の解説も印象に残る。

    フィクションだって現実に負けない、そして押し返す、創りかえる、そうした力があることを、この『明日の子供たち』の物語と合わせて実感させられました。

  •  児童養護施設で働く職員と子供たちを描いた物語。読み進めていく事に児童支援について考えさせる作品でした。
     当然のように親がいる僕と親と離れ離れな彼らと僕は何が違うのか。僕ら読者が考える彼らに対する印象を考えさせ、重たい話だと思われる話を微笑ましく、甘酸っぱい恋愛っぽさのある有川さんらしい作風でより楽しめました。
     この本を手に取り、児童支援受けている有無関係なく、今を生き抜く子供たちについて考えて欲しい。是非できるだけ多くの人に読んで頂きたい。

  • 久しぶりの有川さん。児童養護施設のお話しです。著者らしい話し言葉の間に入る絶妙で機微な心情表現が楽しい。そして暗い内容になることもなく、テンポ良く進んでいきます。あっという間に読んでしまいました。

  • 新幹線乗車中に猪俣先生のエピソードを読み、40を超えたおじさんが涙をボロボロ流して泣いてしまった・・・

    また、読者からの手紙にすぐ反応し、このような素晴らしい物語を生み出す著者の熱量・力量に感嘆・・・

  • この作品が生まれたいきさつなど
    まるっきり知らず 大好きな作家さんの
    文庫が出たから買ったわけですが。

    まさかそれがこの本が出版された理由だとは!
    まさに私は策にはまり 「砕かれ」ました。

    自衛隊シリーズと図書館戦争に共通する
    内側からの視点が この作品にもあります。
    児童養護施設をモチーフとすることの難しさは
    自衛隊と同じですよね。世間の人は知っていても
    正しくは知らない。それを真面目に、正しく
    描こうとする姿勢に 掛け値無しに共感します。

    児童養護施設を「家」だといい
    職員を「家族」だなどという誤解は
    何も知らない方が施設にそんな幻想を抱き
    社会が薄っぺらな理想論に
    染まっているからでしょう。

    職員は親でも兄姉でもなく
    子供たちの幸せな暮らしと将来の自立を支える
    児童福祉のプロフェッショナルなのだということを
    こうしてあらためて真っ直ぐ提示されたことに
    清々しさを感じます。

    自衛隊も図書館も児童養護施設も
    その本来の機能と存在意義 そして
    信念を持ってそれを支え続ける
    多くのプロフェッショナルたちがいる。

    内側の視点を的確に自分のものとし
    誰の立ち位置から見ても正しいと思える
    ありのままの真実として伝えることができる
    唯一の作家。

    それが我らの有川浩さんだと私は思うのです。

    解説も含めて最後まで読んでようやく
    「そうだったのか!」と制作事情に
    気づくわけですが
    やたらと出てくる「ハヤブサタロウ」なる
    奇妙な作品名は長い長い伏線だったんですね。

    最も胸を刺したのは 児童養護政策が
    エアポケットであるという事実でした。

    老人介護や障がい者は多くが選挙権を持ち
    持たない方でもそれを持つ保護者がいる。
    でも児童擁護施設の当事者たちは選挙権を持たず
    保護者であるはずの家族との関係は
    必ずしも良好ではない。

    政治に対して声をあげる立場にないこと。
    それが政策的に後回しにされ 社会の偏見にも
    さらされる大きな要因であること。

    このことは この作品を読むまで うかつにも
    気づいていませんでした。でももう 気づきました。

    これからは私も支援者として行動することが
    自分に対して恥ずかしくない。
    きちんと知り 正しく支援できます。

    この作品は 多くの人に読んでほしい。
    自衛隊シリーズや図書館戦争シリーズと
    同じ意味と 同じ強さでそう思いました。

  • 「児童養護施設にいることは可哀想なことじゃない」

    当事者の子が有川先生に手紙を書いたことで生まれた小説。
    「子供たちを傷つけるのは親と一緒に暮らせないことよりも、親と一緒に暮らせないことを欠損と見なす風潮だ。」
    偏見の壁を明るく突き破り、元気ももらえる小説でした!

  • この本のお陰で児童養護施設に随分と興味を持つことができた。 

    奏子が発した「可哀想と言われるのが嫌」にはドキッとさせられた。
    勝手な思い込みで人を簡単に傷つけてしまう。つくづく人の価値観を理解することは難しいと再認識。

    自分の知らない世界と考え方を改めることが少しは出来たと思う。勉強になった一冊

  • 久々の☆5つ。県庁おもてなし課や空飛ぶ広報室とかこの手の有川浩のシリーズ、ホント好き。
    今回はいわゆる「施設」の子供たちと、そこの職員たちのお話し。全く知らない世界だったのに、本当に勉強になった。作者(と手紙を出した女の子)の思う壺ということです。にしても何事も先入観なく、ゼロベースで物事を見るということのなんと難しいことか。
    そして勉強になった系なのに、ここまで引き込まれるのはなぜだろう。何回かジーンときました。
    やはり自分は数多くの取材に裏付けられたノンフィクションが好きなんだなぁと改めて。
    それと話の本筋とは違うけど、読書をすることで「色んな人の人生が体験できる」というのは、これまでなかった視点だった。読書が趣味で良かったと今回かなり思った。

著者プロフィール

高知県生まれ。2004年『塩の街』で「電撃小説大賞」大賞を受賞し、デビュー。同作と『空の中』『海の底』の「自衛隊』3部作、その他、「図書館戦争」シリーズをはじめ、『阪急電車』『旅猫リポート』『明日の子供たち』『アンマーとぼくら』等がある。

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