ディア・ペイシェント 絆のカルテ (幻冬舎文庫 み 34-2)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344429376

作品紹介・あらすじ

病院を「サービス業」と捉える佐々木記念病院で内科医を務める千晶は、日々、押し寄せる患者の診察に追われていた。そんな千晶の前に、嫌がらせを繰り返す患者・座間が現れた。座間はじめ、様々な患者たちのクレームに疲弊していく千晶の心の拠り所は先輩医師の陽子。しかし彼女は、大きな医療訴訟を抱えていて。現役医師による感動長編。

感想・レビュー・書評

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  • 2024.2.26 読了 ☆9.2/10.0



    「病院という閉塞的で悲痛な医療現場からの心の叫び」
    「綺麗事では済まされない医療のリアル」
    「小説というフィクションに乗せた医療従事者からの切実なメッセージ」



    読み終えて、自分なりに受け取った本書からの“伝言”です。


    南杏子さんの本は『いのちの停車場』、そして最近読んだ『サイレントブレス』に引き続き3作目です。


    本作は、民間病院の医師である主人公の真野千晶が、自身の務める病院が掲げる患者様プライオリティな経営方針と、理不尽な要求や悪態をつく患者の狭間で疲弊しながらも理不尽に立ち向かい、もがき、時に反発しながらも受け入れて邁進していく、医者としての成長譚と、その舞台であるリアルな医療現場が描かれた物語です。



    以前読んだ『サイレント・ブレス』は、患者の緩和ケアがテーマで、とても穏やかな気持ちで読めましたが、本作は一味違います。

    モンスターペイシェント、医療訴訟、コンビニ受診問題など、医療現場の限界が目を疑うほどリアルに、そして辛いほど描かれていて、読み進めるほどに怒りや絶望、哀しみ、そして最後には勇気と励まし……さまざまな感情が湧き出して、とても疲れを伴う重厚感のある作品でした。


    出てくる数々の事例を脚色が濃いフィクションと願いたい一方で、南さんがが現職医師であり、解説の中山裕次郎さん(泣くな研修医シリーズで有名。彼の作品も読んでます)も描写はリアルであると述べられていたことからも、本作を医療従事者からのSOSメッセージと受け取りました。


    私も定期的に通院している患者の身です。
    医療に救われ、お医者さんに励まされ、医療現場に支えられている側だからこそ、患者としてのモラルの大切さを、登場するさまざまな患者・患者家族を反面教師として実感しました。

    確かに、診察の待ち時間にイライラしたり、短過ぎる診療時間に不誠実さを感じたこともあります。


    ただ、本作を読み終えた時はそんな自分を一蹴してくれた本作に感謝するとともに、自戒の念が芽生えました。
    それこそがこの本の価値であり、読書というものの産物なんんだと痛感しました。




    〜〜〜〜〜印象に残った言葉・フレーズ〜〜〜〜〜




    “「病院がデパート化したからね・・・昔は、『治療さえ受けられればいい』というのが世間の空気だった。けれどデパートみたいに綺麗なインテリアに囲まれて、『病院はサービス業』というイメージが強くなったからクレームが増えたって聞いたわ」
    「サービス業だから、サービスに不満があれば苦情を言うのは当然、ということですか」
    「簡単に言えば、そうね。黒者さんに悪気がある訳じゃない。医者が歩み寄らなければ」”


    “スタックも知らぬ間に乳井患者が院外へ出てしまう「離院」は、病院が最も嫌う事態だ。
    それは、医療事故に近い状況と言ってもいい。
     もし患者が外に出て事故にあったりすれば、病院の責任になる。かといって、安易に患者の部屋に鍵をかけるのは「拘束」であり人道的に許されない。鎮静薬を使うのも同様だ。
    物理的か精神的かの違いがあるだけで、どちらも患者に対する「拘束」になる。急増している認知症患者の安全管理は、病院にとって難しい問題のひとつだった。”


    入院中の患者自身の安全に配慮し、周囲への迷惑行為を抑制しつつ、家族の納得がいく治療をするのは、本当に難しいと感じざるを得ませんでした…




    “患者の説明要求に付き合ってたら、診察時間が無くなる。
    主張はもっともだ。どんなに的外れなクレームであっても、患者が納得するまで説明しなければならないとしたら、いったいどのくらい時間が必要になるだろう。
     その間、他の患者の治療は放置してもよいのか。優先すべきは、より多くの患者を救うことではないのか。けれど、クレーマーを放置したために問題がこじれ、それが原因で通常の医療が脅かされるなら・・・・。
    何が正しくて、何が正しくないのか。ときにその境界があいまいになる。クレームには、いったいどこまで対応すればいいのだろう”



    まさに医療現場からの悲痛な声です……




    “待たされる患者のつらさを考えれば、誰もが何とかしてあげたいと思うものだ。けれど現実は手一杯でどうしようもない。
     よく「三分診療」と悪口を言われる。しかし、患者をひとりとして拒まず、全員を受け入れる方針である限り、待ち時間は長く、ひとり当たりの診療時間は短くなってしまう。待ち時間を抑え、かつ長く診察するためには、患者の数を制限するか、医師の数を増やすしかない。個人の力で解決できる問題ではなかった”



    “「病院や医師を悪く言うのは、患者の憂さ晴らしなのよ。世間的なイメージに乗っかって言っているだけ」
    「『憂さ晴らし』・・・ですか。感情のはけ口が医療従事者に向かうっていうのは寂しいですね」
    「寂しいし、ギスギスして嫌よねえ。ホントの話、私たちが一生懸命やるのはお金のためじゃない、使命感よ。深夜まで、それこそ命をかけてやっている。それでも患者は、金儲けだから当然だという顔をして、サービスが悪ければ容赦なく文句を言ってくる。ああ、本当に嫌よねえ。病院が赤字なら患者は満足するのかしら。おかしいわよねえ」

    「日本みたいに安く医療を提供している国はない。クレーマー患者の過剰な要求は、ファミレスの値段で三ツ星レストランのフルコースを要求するようなものだ。そんなんでシステムが成り立つ訳がない」”




    “「ここでたくさんの人々を看取ってきた。それで分かったのは、人はいつか必ず死ぬということだ。だから、治すための医療だけじゃなくて、幸せに生きるための医療を考えてきた。
    たとえ病気があっても、その病と共存して、最後まで心地よく生きられるような治療を誠実にやってきた。その先に死があっても、それは受け入れる」

    「死を納得するのは時間がかかるから、無理はしないでいい。でも、その死が運命だったんだって気づくと、自分が少し楽になれる」

    「誠実に患者を癒し続ける人でありなさい。その医療が、いかにささやかであろうが、愚純に見えようが、誤解を生もうが、力不足であろうが、それでいいんだ」

    「ささやかな医療であっても、誠実ならばその気持ちは必ず患者に伝わる。愚鈍に見えても、いつかそれが王道だと知ってもらえる。誤解を生んでも、時を超えて理解されるときがくる。力不足だったという経験を糧に、精進すればいい。最初から完璧な医師なんていないんだから」

    「どんなふうに思われようが、何があろうが、それでも患者に誠実な医師でいなさい」”



    この言葉には胸打たれました。
    人としての誠実さ、誠意ある行動、まごころ、やさしさ
    仕事をする上で、いやそれ以上に生きる上でとても大切な要素に感じます。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    感動で涙が止まらない医療ものではありませんが、医療現場を理解することの大切さ、将来抱えるであろう介護の現実、自らの患者としてのモラル、支える側の覚悟などなど、たくさんの気づきと学びがあります。おすすめです!

  • 民間病院の医師が、患者様プライオリティを掲げる経営方針と、理不尽な要求や悪態をつく患者の狭間で疲弊する医療現場が描かれた物語。

    第一作のサイレント・ブレスより連読。
    前作は緩和ケアがテーマで、私も穏やかな気持ちで読めたが、本作品はモンスターペイシェント・医療訴訟・コンビニ受診問題など、医療現場の限界が辛いほど描かれていて、読み進めるほどにとても疲れを伴う作品だった。

    脚色が濃いフィクションと願いたい一方で、著者が現職医師であり、解説の中山裕次郎氏も描写はリアルであると述べられていたことからも、本作を医療従事者からのSOSメッセージと受け取った。

    私も定期的に通院している患者の身。
    待ち時間にイライラしたり、短過ぎる診療時間に不誠実さを感じたこともある。
    本作品を通じて自戒の念が芽生えたことは、正に読書の産物であった。

    そして、本作の最後に綴られた主人公のメッセージが、キラキラと私のハアトを照らしてくれたので記しておく。

    ---
    治療の場を、争いや対立の場にしたくない。そのためには自分がまず受容する存在になることだ。患者の声を聞こう。誠実であり続けよう。あたたかい言葉で満たそう。ここがいつまでも癒しの場でありますように。
    ---

  • 病院をサービス業として位置付ける経営方針の中、クレーマー達の理不尽な要求に疲弊していく若い女性医師の物語。
    医療現場の崩壊を見ているようです。

    こういうのは嫌い(笑)
    現状の医療現場、その辛さを伝えたい物語なのだと思います。しかし、読んでいて辛く、いやーな気持ちになります。

    まずは、患者を患者様というサービス業にとらえる経営方針。なんだかな。
    今でもお客様は神様ですとか言って、理不尽な要求をするような風潮がありますが、それを医療の現場で振りかざすのはかなり嫌な気分になります。
    この経営方針そのものが気に入りません。

    患者への責任、さらに、経営への責任と医師にここまでの事を背負わせる考え方が気にりません。
    そんな中で、追い詰められていく女性医師の千晶。
    ある意味、彼女、弱すぎ..
    そして、彼女を支えていた先輩医師の陽子。しかし、その陽子も...

    最後明らかになるクレーマーの座間の正体。
    その背景にあったもの。
    もう、腐っているとしか言いようがありません。

    読んでて、とても辛い物語でした。

    病院の待ち時間、確かに長すぎ!
    それを長くしてしまっているのも自分たち、とくに老人たち。
    医師は消耗品ではありません。
    みんなで、医療の在り方、医師への接し方、スタッフへの接し方、考えましょう!

  • 病院での医師と患者とのお話です。
    面白くて一気に読み終えました。
    でも流石に小説だからオーバーに書いているのだろうなと思っていたら解説を読んで現実に起きていることだと書かれていて驚きました。
    病院もサービス業、患者は患者様となりより良くしていこうがそれに本当に救われた人もいるのかなと。
    病院に限らず、どの仕事もサービスが皆をかえって苦しめているのではと改めて考えさせられます。

  • わーーーーーさんの本棚から図書館予約

    病院はサービス業?
    病院がデパート化?

    貧しくても医療が受けられる日本は世界でも特異?

    医療従事者のSOSが詰まった本でした

    患者はわがままですよね、確かに
    自分の不調を何とかしてもらいたい
    そればかりに目が向いてしまって
    しかも、医療訴訟まで負ってしまいます

    でもお忙しそうな医師や看護師に言いたいことが言えないのも事実ではあります
    医師はパソコンの画面だけ見て患者を診ておられません
    ムムムむむ
    こんなことではダメなんだ

    そんなことこんなこと考えさせてくれる本でした
    流石現役医師の著作です

    ≪ モンスターペイシェントにも 向き合えば ≫

  • 解説は中山先生でした。
    「その労働環境もストレスも門外漢には理解できないから」
    とあります。そういった意味でも、この本は少しで門外漢の理解に繋がれば、というとこでしょうか。
    正直、私にはやはり異次元の世界であり、大変なんだな、とは思いました。
    ただが私の業界も年に1ー2割のうつ疾患者が出ます。
    ドクター並みのストレス社会なのかも??? ですよね?
    門外漢には理解できない世界、というのはどこにでもある、ということなんだと思います。ストレスはよくないです。ほんと。
    免疫革命を読みましょう!

  • 病院を「サービス業」と捉え、「患者様プライオリティー」を唱える佐々井記念病院の医師たち。
    そこに半年前に赴任してきた内科医の真野千晶。

    ある日、執ように嫌がらせを繰り返す“モンスター・ペイシェント” 座間という男に付きまとわれることになります。

    モンスター以外にも、日々の過剰労働、深夜の当直勤務、医療訴訟への恐れ…
    毎日これらの問題と闘わなければならない医療の世界は、本当に厳しいものだと思いました。

    自分は絶対にモンスターにはなるまいと思います。

    • かりうささん
      ゆうママさん
      お久しぶりです♪
      ゆうママさんの本棚、随分本が増えていてとても素敵です(*^^*)
      私も試験まであと2ヶ月半、引き続き頑張りま...
      ゆうママさん
      お久しぶりです♪
      ゆうママさんの本棚、随分本が増えていてとても素敵です(*^^*)
      私も試験まであと2ヶ月半、引き続き頑張ります!
      2021/07/15
    • アールグレイさん
      かりうささん!
      コメント嬉しい~
      ( ´∀`)☆!!
      実は病み上がり。月曜38、7℃、火曜夜37、8℃、水曜に37度台に。
      頭痛があんなに凄...
      かりうささん!
      コメント嬉しい~
      ( ´∀`)☆!!
      実は病み上がり。月曜38、7℃、火曜夜37、8℃、水曜に37度台に。
      頭痛があんなに凄いのは、何年ぶりだろ?
      やっと落ち着いてきた。
      本だけど、さてさてさんに薦めて頂いた「私にふさわしいホテル」面白いよ。リラックスできるのではと思います。
      最近、何人かのフォロワーさんが本棚に並べている。
      今私が読んでいるハズだった本、今日から読めるかな?
      2021/07/15
    • アールグレイさん
      これからの本は、「雨夜の星たち」寺地はるなさんです。
      これからの本は、「雨夜の星たち」寺地はるなさんです。
      2021/07/15
  • 10年程前「患者様」という言葉をとある大学病院で聞いた時は衝撃を受けた。何か世の中変わってしまったんだなぁと、つくづく思う今日この頃です。自分自身がモンスターにならない様に気をつけなければと肝に銘じながら読みました。これからのドラマも楽しみです。

  • 読み始めた途端、テレビドラマで観た作品であることを思いだした。主人公役が誰だか忘れたが、陽子役と座間役が印象深く、記憶に残っている。
    現役の医師による、過酷な医療現場の実態を小説化し、現代の医療を告発した作品と言えようか。
    主人公千晶の先輩医師陽子が語る「良心に従って仕事するだけで精一杯です」に、先に読んだ夏川草介『神様のカルテ』の「良心に恥じぬということだけが、確かな報酬か」を連想した。
    『神様・・・』が、過酷な医療の実態をオブラートに包んだ手法に対し、本書は肉体の限界を超える過酷な勤務や患者からの暴力、訴訟リスク等々をストレートに描き出している。
    訴訟問題で命を絶った医師を惜しむ患者たちが語る場面では、涙腺を刺激されずにはいられない。
    診療所に医者でもある千晶の父が語る言葉は、著者の思いでもあるだろう。
    「ここでたくさんの人びとを看取ってきた。それでわかったのは、人はいつか必ず死ぬということだ。だから、治すための医療だけじゃなくて、幸せに生きるための医療を考えてきた。たとえ病気があっても、その病と共存して、最後まで心地よく生きられるような治療を誠実にやってきた。その先に死があっても、それは受け入れる」

  • 医師の過酷さをひしひしと感じました。
    患者の座間が、先日読んだホラー小説より余程怖かった。
    中盤辺りから、物語が急速に進みだして、ハラハラ、ドキドキの連続でした。
    これはドラマにしたら面白いんじゃないかな?と思ったら、もうドラマになってたんですね。
    面白かったです。

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著者プロフィール

1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶応大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー。『いのちの停車場』は吉永小百合主演で映画化され話題となった。他の著書に『ヴァイタル・サイン』『ディア・ペイシェント』などがある。


「2022年 『アルツ村』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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