まだ人を殺していません (幻冬舎文庫 こ 47-1)

著者 :
  • 幻冬舎
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本棚登録 : 298
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344433229

作品紹介・あらすじ

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感想・レビュー・書評

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  • 小林由佳『まだ人を殺していません』幻冬舎文庫。

    殺人犯の子供の苦悩と受難を描きながら、様々な謎が渦巻いていくというサスペンスでありながら、人を信じることの難しさと尊さを伝える感動作である。

    テーマや雰囲気は薬丸岳の小説にも似ているのだが、度々挿入される日記に秘密の仕掛けが施されているなど、しっかりとした小林由佳のオリジナリティを感じる作品に仕上げられている。秘密の仕掛けは読んでみてのお楽しみ。


    交通事故で5歳の娘の美咲希を失った葉月翔子は夫と別れて、自宅で絵画教室を開いていた。そんな中、亡くなった翔子の姉の夫である南雲勝矢が猟奇殺人を犯し、警察に逮捕される。南雲勝矢には姉が遺した息子の良世が居たのだが、誰も引き取り手が無く、施設に預けられていた。

    翔子は天涯孤独となった小学4年生の良世を引き取り、2人での暮らしを始めるが、良世は口を閉ざし、何を考えているのか解らなかった。良世に寄り添い、何とか心を開いてもらおうと努力する翔子だったが、良世の同級生やその親に良世の父親が猟奇殺人犯であることを知られてしまう。

    誹謗中傷に晒される良世と翔子は止む無く、引っ越し、良世は新たな小学校に転校する。

    互いに傷付き、傷付け合いながら、少しずつ翔子に心を開いていく良世。

    やがて明らかになる全ての真実。

    本体価格830円
    ★★★★★

  • 途中苦しくてメンタル持っていかれそうになって
    早く最後まで読んでしまいたくなった
    物事の真実が見えずうやむやにしていることは
    自分を顧みてもきっと少なくないはず
    それでも人を信じて向き合うことが救いになる

  • 著者初読み。
    死んだ姉の子良世と同居することになった翔子。父親が猟奇殺人を犯している良世は、場面減黙症となって口を閉ざし、何を考えているかわからない。翔子は娘を事故で亡くしており、その過去が良世との関係にも影を落とす。
    彼との関係を良好にしたい翔子は、姉の親友の助けも借り、何とか良世が口を聞くようになる。
    しかし、翔子が良しと思った決断も、「翔子さんは神様じゃないのに責任がとれるのですか」との良世の言葉が暗示するがごとく、二人の環境が暗転する。
    現代を舞台にした場合、ISNなどネット関係を取り入れない小説はあり得ず、本書でもネット社会の負の側面が物語の展開に影響を及ぼす。
    不穏な状況の連続に、息苦しくなりながらも彼らの行く末を案じ、頁を捲らざるを得ない。
    関係を築こうとする親子(この小説の場合養母と養子だが)の成長物語の側面があり、子育て中の読者には、心に留めておきたい文言が綴られる。
    「人間は善と悪の両面を兼ね備えている。善だけで生きてゆけるほど人生は甘くないからだ。それでも人を大切にできるのは、過去に誰かから愛してもらえた経験があるからだ。どんなプレゼントよりも光り輝く記憶ー。悪に呑まれそうなとき、みんな輝く記憶を呼び起こし、プレゼントの包みをそっと開く」

  • 葉月翔子は、5歳だった娘を交通事故で亡くし、夫と離婚してから1人で暮らしている、元美術教師だ。
    ある日、亡くなった姉の夫である南雲勝矢が、自宅に2人の遺体をホルマリン漬けにしていたという事件が起きる。
    勝矢と亡き姉の息子である良世(りょうせい)は小学生であり、もし翔子の娘が生きていれば同じ年だ。
    翔子は、兄から頼まれて良世を引き取る決意をする。

    良世は場面緘黙症であり、当初言葉でのコミュニケーションをとることはできない。
    ただし、絵が抜群に上手い。
    少しづつ言葉を交わすことができるようになっても、良世が何を考えているのかは、よく分からない。
    良世の父親が老婆と幼女を殺害して首を切断し死体を保管していたという猟奇生の強い事件を起こしたことからも、翔子の良世への疑念は強くなっていく。前半は心理サスペンスさながらだ。
    良世が残酷な遊びや残酷な絵を描くことについて、私だったらどう声をかけられるだろう…と考えたが、的確なことを言えないだろうということしかわからなかった。
    特に亡き娘の部屋に入り娘の持ち物やアルバムを持ち去った上で、娘の首をはねる絵を描いてたときは、私ならここで養育をギブアップするだろうと思ったよ…。
    それでも良世の手を離さなかった翔子はえらいよ。

    南雲勝矢が事件を起こした背景と良世の生育歴が明らかになり、姉の過去が明らかになり、色々と頭の中で解決するものの、色々と疑問はのこった。
    姉は南雲にとって神様みたいな人なのだろうが、それならばなぜ命と引き換えに産み落とした良世を愛せなかったのだろう…。
    姉も、南雲が良世を大切に育ててくれると信じて死んだだろうに。自分が死んだ後の世の中について、何も手出しすることはできない。姉の無念を思うとともに、自分はこの世からお別れしてしまおうという南雲の自分勝手さ、南雲が起こした事件の影響が残る世界で生きていかなければならない良世への頓着のなさに、腹が立った。
    最後まで読んでみれば、身体的虐待をしていなかったしても、あんな事件を起こす南雲が適切な養育をできていたはずもなく、良世に事件の悪影響があったんだとわかるはずなのに、私も良世が生まれながらの危険な人物、サイコパスなのではないかという疑念にかられてしまった。
    前半の心理サスペンスは、それくらい真に迫っていたと思う。

    犯罪者の子として生きていかなければいけない良世は、これからの人生もつらいことがあるんだろう。
    良世は小学生、中学生という子どもでありながら、身近にいる人を無条件で信用することができないことのつらさが、身に染みた。
    それでも、生きていかなければならない。
    できるだけ良い人生を、信頼できる人とともに生きていく。それは簡単なことではないんだ。愛された記憶、経験が人の土台になるし悪にながれないための抑止力になるのだと、私も思う。すべての子どもに、それがありますように。
    子どもにとっての心のホームグラウンドとしての家族、大人の存在について、深く考えさせられた本だった。

  • タイトルだけで手に取った本ですがその内容は衝撃的でした。読む前と読んだ後でタイトルの意味がぜんぜん違います。
    前半は不気味で不穏な雰囲気。後半は心を強く打たれて涙無しには読めなかったり心が暖かくなる様な場面がありました。
    前半の不気味さの謎が解けた時、子供の感情って繊細で複雑なのだと子を持つ親として考えさせられました。
    最近読んだ本では1番おすすめの本です。

  • 義兄が殺人犯となり義兄夫婦の息子である良世を、亡くなった姉に代わり育てていく翔子。
    良世に向き合おうと頑張るが、そんな翔子にも悲しい過去があり、、
    翔子と一緒になって良世に翻弄されてしまった。
    良世のこの先の幸せを願うと共に我が子を抱きしめたくなる1冊でした。

  • 解説と被る感想になってしまうが、本を手に取った時になんとなく思い浮かべるストーリーに類似している訳でも、全く異なる事もない、圧巻される内容だった。作者の意のままに感情を振り回されてしまった。

    人の感情はいとも簡単に流されてしまい、固定観念に縛られて向き合うことを放棄してしまうものだなと感じた。
    そもそも自分の感情や考えは相手に伝わらない、理解できない事は当たり前とわかっているつもりでも、実際自身が対面すると全く役に立たないことの方が多いと思う。
    それだけ感情や考えは揺れ動くものだから答えのないものこそ、常に相手を、自身を疑い、考え続けなければいけないと感じた。

  • 本のタイトルを見て、まず衝撃を受け、裏の紹介文を読んだら”なぜか妙に惹かれて“手に取ってた1冊。

    「僕のこと…‥嫌いになったら捨ててもいいよ」

    最初の方は掴みどころの無い男の子という印象だったけど、最後まで読んだら、よりこの言葉が胸に刺さった。

  • 二転三転しながら深さを増していくストーリー展開。
    子を持つ母にはなかなか辛い内容もあるが、サスペンス要素を持ちながらラストは涙。
    最後まで一気に読みました。

  • 良い意味で裏切られました。子育ての難しさ、人との向き合い方など。

    自分の子供であっても、当たり前だけれど一人の人間で、今の私には必要な言葉の数々でした。言葉を話して紡いでくれる子供の話を、忙殺されながら向き合えずにいました。時間がないのはいいわけですね。一生懸命に聞こうと思わせてくれました。

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著者プロフィール

1976年長野県生まれ。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。2016年、同作で単行本デビュー。他の著書に『罪人が祈るとき』『救いの森』がある。

「2020年 『イノセンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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