ユーロの正体 通貨がわかれば、世界が読める (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344982864

感想・レビュー・書評

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  • 細かいデータについては別個に調べる必要があるが「財政問題はユーロ危機の原因ではなく、結果である」という立場の冷静な評論は一読しておくべきと思う。財政の基礎についての説明が長いが、わかる人は読み飛ばせば良いかと。

  • まるで今の金融緩和政策を予見していたかのような本。
    為替相場の固定と変動の違いは何なのか。ニクソンショックとは何だったのか。ヨーロッパがユーロといういうなればヨーロッパ限定の固定相場制をとったということが何を意味するのか。
    つまり、ユーロはEU内の固定相場制をとったことによって、各国独自の金融緩和といった金融政策を打てなくなった。そして、そのことによってギリシャ危機などが起こっても効果的な措置がとれないでいるという。
    翻って、日本の状況をみてみると、金融緩和政策を打つことができる。だから日本がギリシャになることはない。金融緩和すればいい、というお話。そして、今の金融緩和に伴う円安・株高である。
    ユーロのこともよくわかるし、ギリシャ危機もわかるし、日本の金融緩和政策のこともわかる。

  • 「アベノミクス」、それから先日の「異次元緩和」により、少しづつ経済成長が戻りつつあると報道されてます。

     これが、いつまで続くのか、続いたとしても「消費税率アップ」で、また景気が萎まない?「財政再建」はできるのか?というのが、現在の状況だと各種メディアを見ての自分の認識です。税率アップはイヤだけど、このまま借金が膨らめば未来の日本が危ない。

     税収が増えても「無駄遣い」にならないようにしてほしいですね。



    ☆「為替」「貿易収支」「債券」「バブル」「政治」など色々な要素が組み合わさって起こった「ユーロ危機」。

    そのメカニズムが、わかりやすく理解できる1冊です。そしてそれを解決するための策も!

  • インフレターゲットを積極的に実施して、デフレから脱却するという自分の考えに近い主張で、さらっと読めた。昔からクルーグマンはそう言っていたのに中々実施されず、今日に至ってようやく安倍政権が始めてやっとかよという気がする今日この頃。
    肝心のユーロの話については、あまり詳しくなかったのでいろいろ勉強になった。ユーロはデフレとユーロ高の二重苦に直面するだろうという著者の予想は当たるような気がする。

  • 1〜3章は比較的初歩的な解説が続く。キモは4章。「ギリシャやスペインの財政赤字はユーロ危機の原因ではなく、結果である」という主張はなるほどと思わされた。
    エピローグの章にて、日本がユーロ危機から学ぶこととして、クルーグマンの名前を引き合いに出したりしつつ、金融緩和を挙げている。個人的にはこの手の金融緩和論はあまりしっくりきていなかったんだけど、この4章をふまえてのこの結論には、今まで感じられなかった納得感が少しだけ持てた気がする。

  • ユーロ危機の本質はEMS時代に埋め込まれていた
    EMSでは参加国の為替相場ごとに中心相場を決め、為替介入を行い変動幅を2.25%以内に押さえていた。
    しかし固定相場を維持するためには各国の経済状態に合わせた独自の金融政策を実施できず、1979-1992の間に中心レートの変更や離脱が発生している。

    ユーロ危機の本質はユーロ導入にもかかわらず、不均衡がいっこうに是正されなかったこと。

    ユーロ導入により、1)貿易収支と財政収支の収斂は起きなかった、2)経済格差は改善されなかった、しかし、3)長期金利は低下し収斂した。ユーロ導入の理念である1)、2)の格差改善がなされると考え、経済発展の遅れている南欧に投資が集まった。しかし、産業の乏しい南欧は不動産バブルが発生し、収めるための金融引き締めで不況になった。南欧諸国は独自の金融政策を実施出来ず、不況が長引いている。経済状況のよい国からの補助金で成り立っているが、ドイツの発展のために使われるべき資金が回らないのだから早晩発展が遅くなる。

    金融引き締めはデフレを誘発し、一時的な通貨高になる。金融引き締めは通貨量の現象であり、希少性により通貨高になる、実効金利が下がることにより通貨が相対的に強くなる等の理由である。バブル後の日本、リーマンショック後のアメリカで発生している。
    欧州での金融引き締めは通貨高、輸出産業の低迷を誘発する可能性が高い。
    ユーロ圏は単一の財政政策しかとることが出来ない。南欧の放漫財政に対する懲罰的な考え方から、積極財政に舵を切るに現状の理解と政治判断が必要。しばらく時間がかかるだろう。

    ユーロ圏の景気を占うにはECBの金利を見る。

    ユーロ圏の危機は銀行の融資先である南米やアジアに波及する可能性が高い。

    日本は緩やかなインフレ状態を作り出し、円安を誘導し、税収を確保してから財政改革に取り組むべき。いんふれに関しては、オイルショックの収入増加なしのものを念頭に反対者が多いが、金を回して緩やかなインフレを作るのは別。

    ーーー
    メモ

    財政危機は財政赤字の残高がその国の経済力の規模を大きく越えて返済可能性が疑問視され、長期金利が上昇することにより起こる

    不均衡の是正には雇用制度や社会保障制度の統一まで必要。労働規制の強さと経済力は反比例の関係にある。

    EMSの頃は各国の財政政策があったが、ユーロ導入後は長年なにもないので対応が出来ない。

  • 本書は2012年に顕著となった「ユーロ危機」を歴史的史実と経済学的なロジックによって明解に分析したものである。

    そもそもなぜユーロ危機が発生したのか。それを説明するにはEU成立以前の歴史を踏まえる必要があると筆者は主張する。まずはEUの土台となった欧州経済共同体(EEC)である。EECにはEMSという加盟国間の為替レート変動を一定に抑えることで、これらの国同士の取引における為替変動によるロスを最小限に抑えるために作られた制度があった。言うまでもないが、この発想は現在のユーロ貨幣と欧州中央銀行という「一つの中央銀行、一つの貨幣」という考えの土台になっているものである。

    このように、為替変動の影響を抑え込むために作られたEMSは期待しうる効果を発揮したかといえば、そうではなかった。それどころか、EMSは欧州の経済に大きなダメージを与えたのである。本来変動相場制によって作られる為替レートに対して、EMSによる為替レートが他国通貨に対して高い場合、これは円高となり、輸出産業に大きなダメージを与えるとともに、貿易赤字が拡大する。この影響による自国産業の衰退を防ぐために、ケインズ的な公共事業政策によって需要を創出する必要があるが、これは即ち財政赤時を拡大することに繋がる。つまり、EMSの為替レートが本来的に間違っている場合、財政赤字と貿易赤字が両立する「双子の赤字」が成立する。筆者によれば、このようなEMSの為替レートの本来的な間違いにより、やがて通貨高にある国は頻繁に為替レートを変更せざるをえなくなり、このような国は通貨危機に見舞われたのであった。

    EMSの失敗を踏まえて成立したのがユーロの経済制度である。既に述べたようにこの制度は「一つの通貨、一つの中央銀行」という言葉に集約されるものだが、これはEMSが加盟国間の通貨高・安によって崩壊したことを踏まえたものであった。つまり、通貨が一つであれば通貨問題はないということである。一方で重要なことは、中央銀行が一つになったことで、加盟国が独自に金融政策による通貨安を作ることができなくなったということであった。

    では、ユーロは成功したのか。その答えは現状を見ると分かるだろう。加盟国の思惑は、経済システムの統一により所得が高い国と低い国が平準化され、最適な経済水準に収斂するということであった。しかし、実際に変動したのはギリシャ・スペインなどの慢性的財政赤時国における国債の金利低下であった。これは財政赤時を減少させ、国内経済を活発化させた。加えて、それらの国では過剰資本が不動産などに向かい、資産バブルを形成させた。

    過剰に加熱した経済を冷ますためには資本の引き上げを行う必要がある。中央銀行であるECBは金融引き締め政策を行い、バブルは崩壊した。バブルが崩壊した国々は不良債券を抱えることになり、それによって財政赤字はどんどん拡大していくが、ユーロ経済制度の縛りによって、独自の金融政策をとることができない。各国は財政政策を推進することはできるが、外貨準備高がなくなり、国債の償還ができなくなれば、当然その国はデフォルトするしかない。筆者によればこれがユーロ危機の本質である。つまり、ユーロ経済制度という強力な縛りをかけたがゆえに財政赤字という問題が表面化しているのであり、財政赤字をユーロ危機の原因とするのは適切ではない。

    このような一連の流れをわかりやすく解説しており、本書の価値は非常に高いと考える。

  • で、ここでユーロの正体をサマリーする事が出来ない自分が情けない気はします。
    でも、話を極端に単純化して解説してくれているので大変わかりやすい解説だと思います。覚えてないから、かけないだけです。

    もう一回読むといいんだろうな。

    ・ユーロの通貨による欧州統一は、雇用システムや福祉レベルでの統一がないため、経済活動が統一化されない
    ・国内は消費税増税による財政改革よりも通貨の量的緩和による経済の好景気化が先決

  • ユーロの話から最後は日本経済の話にうまくスライドさせてるところが面白い。不況に対して金融政策が有効であることがわかる。

    ただ、残念なことに日本人のほとんどは日銀理論やそれを拡散する連中にだまされ、金融政策の有効性を知らない。

  • ユーロの歴史とギリシャが債務危機に陥った経緯が語られる。ユーロは欧州内の統合通貨であるがゆえ融通が効かないことがある。例えば、日本の場合不況に陥ったときに国が金融緩和(蓄えている外貨を売って日本円を買う)などの対策を講じることができる。一方、仮にギリシャが不況となった場合、ギリシャは自由に金融緩和政策を行うことはできない。もともとユーロはドイツ・イタリアなどの貿易収支に優れた国とスペインギリシャなどの国の格差を縮めることを目標として導入された。しかしながら結局スペインなどの不動産ブーム等に乗ったのはドイツなどの強国であり自国(スペイン)の成長には繋がらなかった。結果として、格差はますます拡がってしまった。最終章ではユーロ危機から日本は何を学ぶのかについて述べられる。興味深かったのは消費税増税は結果として税収を引き下げることになるという事実だ。一方でサブプライム後のアメリカで金融緩和を実行したところ税収は増大し、景気も回復傾向にあるようだ。税収=名目GDP成長率*税率、と計算できる。筆者はゆるやかなインフレ傾向(名目GDP成長の増加)が効力を発揮すると主張している。全体を通して難しい内容も多かったが、興味深かった。また知識を増やしてから再読したい。

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著者プロフィール

エコノミスト、丸三証券経済調査部長
1965年生まれ。東京大学経済学部卒業。大和総研経済調査部、富士投信投資顧問、クレディ・スイスファーストボストン証券会社経済調査部、ドイツ証券経済調査部シニアエコノミストを経て、丸三証券経済調査部長。『脱デフレの歴史分析』で第1回河上肇賞、『恐慌脱出』で第1回政策分析ネットワーク賞受賞。

「2018年 『デフレと戦う――金融政策の有効性』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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