- Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
- / ISBN・EAN: 9784344984813
作品紹介・あらすじ
「シャーデンフロイデ」とは、他人を引きずり下ろしたときに生まれる快感のこと。成功者のちょっとした失敗をネット上で糾弾し、喜びに浸る。実はこの行動の根幹には、脳内物質「オキシトシン」が深く関わっている。オキシトシンは、母子間など、人と人との愛着を形成するために欠かせない脳内ホルモンだが、最新の研究では「妬み」感情も高めてしまうことがわかってきた。なぜ人間は一見、非生産的に思える「妬み」という感情を他人に覚え、その不幸を喜ぶのか。現代社会が抱える病理の象徴「シャーデンフロイデ」の正体を解き明かす。
感想・レビュー・書評
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この本を読もうと思ったのは、心理学に興味があるからです。中でもマイナス感情の仕組みを知っていれば、客観的に捉える事が出来るのではないかと。とは言え、当事者になれば感情的にはなってしまうと思います。だって、人間だもの。
読了してからというもの、様々な場面で「ああ、自分の中ではこう言う仕組みが働いているんだな」とマイナス感情が湧いてきそうな時に思い返しています。 -
童話・桃太郎。
川で洗濯していたおばあさんが、大きな桃を拾ったところで、批判の嵐に晒される。
「窃盗だろw」
「懲役何年?」
「ていうか、川で洗濯するなよ」
「謝罪会見マダー?」
びっくりしたおばあさんは、どうしていいかわからずに泣き出してしまう。
ACジャパンのCMでのパロディだが、全く笑えない。
それどころか、「言論圧殺だ。適切な批判を封殺しかねない」との意見まで寄せられたという。
批判も反対意見も許さない無限ループ。
そこには、「正しいことを言っている」という「正義感」に酔うことが、脳にとっての快楽だそうなのだ。
その正義感が人間の所属するコミュニティを守る倫理感となってきたのだと。
本書のタイトル「シャーデンフロイデ」とはドイツ語で「損害(もしくは毒)の喜び」と言う意味。
まさに「他人を引きずり下ろす快感」とのこと。
自分には関係ない、と思いたいがそんなことはない。
著者は、それが人間の脳に備わる本質なのだ、と緻密なデータや実験結果を持って実証していく。
匿名の暴力的言論、指先一つで裁判官になれる正義が横行する現代には、人間の本質を知っていこうという姿勢。自分を大切にして相手も大切にするコミュニケーションが大事なのだと。 -
「シャーデンフロイデ」とは、他者が自分より優遇されることに対する妬みから、その他者に不幸や凋落が訪れることを切望したり、実際そうなった時に喜んだりする感情のことだ。
そして、この「シャーデンフロイデ」には、本来人と人を繋げる役割を持つ「オキシトシン」が関わっているという。
つまり、社会的に律された真面目な人ほど、その社会の枠外に出ようとする人物(自身を含めた普通の人々よりも優秀な人物)への懲罰感情が強くなるということのようだ。
具体例や実験も豊富に取り上げられており、なかでも、いじめはダメだという規律を強固にし、一致団結や一丸を謳うクラスほど「危険だ」という。
「攻撃が起こるもともとの素因は、対象の逸脱状態を解消しようとする力です。しかし、そのためには『逸脱者』に対してそれを指摘し、時には攻撃を加えることが求められます」
そして、この社会的排除は脳内の「快楽」と、同じグループに所属する者を守るという「正しさ」や「承認欲求」を伴う。
では、このしがらみからどう抜け出すかと言うと、本書ではあまり深く触れられていないのだが、他者の目を必要とすること、なのかなと思う。
この本に入っている実験が、懲罰的な方向に加速度的に進んでいく時、その実験を中止しているのは実験の当事者ではない。
企画者の家族や、それを遠くから見て冷静に判断している人が、当事者に中止を申し出るのだ。
そういうパターンが幾つかあったので、なかなか自分ではコントロール出来ないものなのかなと思う。
自分が抱えている攻撃的な気持ち、懲罰的な気持ちを相談するだけでも、それは代替的な承認となって落ち着けるかもしれない。かなり推測だが。
自分の中にある他者と比較した個人的感情と思っていた所から、社会の中にいる自分としての目も与えられて、参考になった。 -
愛や正義などという大義名分があれば、
その時に集団であればある程
他人を傷つけることに抵抗がなくなる。
それって本当に怖い事だ。
世のため人のため、悪いやつをやっつけるとか。
よく考えてから行動しなきゃなと思った。
最後通牒ゲーム(他の本で読んだ事ある)や、
スタンフォード監獄実験、ミルグラムの実験、恐ろしい、戦争孤児を使った実験など
興味深く読んだ。 -
中野信子の本が読みたくて。
面白かった、けど、企画本な匂いを少し感じた。
まあ本なんて多かれ少なかれ企画本なんだろうけど、
そういう匂いを感じさせない本というが世の中にはあるのだ。
どんなところがそういう匂いかって言うと、
タイトル。
「シャーデンフロイデ(=他人を引きずり下ろす快感)」って言いたいだけなのでは?
アイキャッチなタイトルであるのは確かなので。
シャーデンフロイデに関して書いているのは最初だけで、
本全体に流れるテーマは人が持つ倫理の危うさや正義の危険性ではないかと。
あるいは、人間がいかに残虐になりえるか。
そうは言っても中野信子の文章はとても読みやすく、
中身もしっかりしていて、
素直になるほどーと思うところが多い。
タイトルありきの本の不自然さは感じられるものの、
他はさすがといった感じ。
まああれだ。
★は3なんだけど、
昨今の自分の正義感に確信を持っているネット警察等の方々には読んでいただきたい。
人間って脆い。 -
独善とは善意の服を着てやってきて、嫉妬はいつも正義の服を着てやってくる。タモリ語録
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"安らぎと癒しの幸せホルモン"と呼ばれるオキシトシン。人と人のつながりを強め、愛着を形成する働きがある。オキシトシンは触れ合うことで分泌が増えるため、男女の性行為によってもお互いの愛着が深まる。男性の場合は射精の瞬間に、女性の場合は子宮頸部を刺激されることで、オキシトシンが分泌される。そのため、女性は性行為を持った相手に対して愛情を深めやすい。
一般的に女性はセックスをした相手に執着を持つ傾向があるが、そういうことか、と膝を打った。ホストの枕営業は脳科学的に正しい行いだったんだな。
タイトルの「シャーデンフロイデ」だが、まず自分よりも上位の何かを持っている人に対して、その差異を解消したいというネガティブ感情「妬み」がある。この「妬み」はさらに「憧れ」と「良性妬み」と「悪性妬み」とにカテゴライズされ、「シャーデンフロイデ」は「悪性妬み」を指す。
「憧れ」は、尊敬と相まってもはや相手に対するネガティブ感情ではないものに変化したものであり、「良性妬み」は、自分を鼓舞し成長する原動力となるプラス感情であるのに対し、「悪性妬み」は、相手を引きずり下ろして自分と同じか、自分以下の状態にしたいというネガティブ感情である。この「悪性妬み」は、攻撃者の匿名性が保たれる場合は特に有効となり、近年問題視されるネットリンチがこれに当たる。
妬まれてしまったと感じたときには、こうした妬みのサブカテゴリを念頭に置いて、自分の振る舞いをうまく演出すると攻撃を回避できる可能性が高くなる。
シャーデンフロイデには、既存の集団や社会を守る働きがある。既存の社会を壊そう・変えようとする人の台頭を許さないというのは、生物種としてのヒトに仕組まれた特性なのだ。自然災害の多い国で暮らす日本人は特に遺伝子的にこの傾向が強い。
興味深かったのが、決めごとの多い夫婦ほど離婚しやすい傾向にあるということ。二人で決めた「こうあるべき」からひとたび相手が逸脱すると、そうした相手を許してはならないという利他的懲罰の感情から逃れられなくなるという。
自分の意志だと思って取った行動の大部分が、実はただ脳内物質によって突き動かされた結果なのかもしれない。これは頭の片隅に置いておこう。