信長はなぜ葬られたのか 世界史の中の本能寺の変 (幻冬舎新書)

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  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344985056

感想・レビュー・書評

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  • ちょうどNHK大河ドラマ「麒麟が来る」では、これから信長が朝倉義景を討つための出陣前夜である。信長は帝から、天下を平定し平和な世を構築することを目的とした戦を認められ、戦の大義名分ができた。

    信長は朝倉を討つ戦いに、幕府の後ろ盾を求めたが、将軍足利義昭は朝倉を討つことに難色を示し、幕府の後ろ盾を得られないままの出陣というところで、前回の放映が終わっている。

    本書は、本能寺の変での信長暗殺に関する、著者の説が述べられたものである。本能寺の変まで、まだまだ幾つもの山場を控えた大河ドラマの倍楽しく観るための予習ということになる。ドラマは、安部氏の推理を採用しているのか否か、そういう楽しみ方もできる。

    著者の説は、いわゆる「朝廷黒幕説」である。当時、信長は朝廷を支配下に置こうという姿勢が露骨で、朝廷はそれに強い危機感を感じ、明智光秀を動かしたというもの。その朝廷黒幕の張本人を時の太政大臣・近衛前久と推理している。

    大河ドラマでは、本郷奏多が演じているが、なかなか上手く策士キャラを表現しているように思う。本書を読み出してから、ドラマの過去5回分くらいを思わず見直してしまった。

    これから、浅井長政の裏切りによる信長敗走、姉川の戦いでの再起、石山本願寺との抗争、焼き討ち、など信長も様々な紆余曲折を経て、最終的に天下統一に手が届くところまで行く。

    その時の「天下布武」のストーリーが、著者によれば鮮明に浮かび上がってくる。信長がどういう天下統一を考えていたのか。信長は、幕府のトップ将軍職に就くことや、朝廷の要職となって帝の権威で天下を動かすことに収まらず、その両方を成し遂げるストーリを描いていたという。しかもその布石を着々と打っていたというのだ。

    その裏付けを、例えば安土城の造りから分析していく。
    著者の分析や推理は、そういう古文書などの史料の解読などを積み上げていき、しかも辻褄のあう説を述べるので説得力がある。面白さと納得の両方が伴うのである。

    そうした信長の天下統一についての思想(=朝廷をもコントロールする)は、朝廷黒幕説へと結びついていく。
    果たして、明智光秀はドラマの中で、この朝廷による信長暗殺計画に巻き込まれていくのだろうか。果たしてまた、光秀は、その朝廷に利用されたのち、責任を押し付けられて一人死んでいくのだろうか。

    安部氏の推論が非常に現実的であるだけに、ドラマの展開との比較がとても楽しみである。

    もう一点、著者の視点で独創的なのは、信長暗殺にキリシタンの影響があったという点。信長のキリスト教禁止令に伴い、キリシタンの黒田官兵衛や細川藤孝らが反信長勢力に加わったという。

    本能寺後も、黒田官兵衛の関ヶ原の合戦における戦略、すなわち九州をまず平定し、中国地方を攻め、その上で関ヶ原の勝者と決着をつけて、最終的な勝利を獲得しようというストーリーは、キリスト教布教が前提となっていたという。

    あるいは関ヶ原での吉川広家(毛利方)の沈黙もキリシタンの連携(吉川は勘兵衛の指示がなかったから動かなかった)によるものだったという推理など、とても興味深かった。

    著者の他の著書に興味がわき、大河ドラマの今後に対する関心も増した。

    • ハイジさん
      こんばんは
      何故かフォローが外れておりましたので、再フォローさせて頂きました。
      失礼致しました!
      こんばんは
      何故かフォローが外れておりましたので、再フォローさせて頂きました。
      失礼致しました!
      2020/11/15
    • ハイジさん
      abba-rainbowさん

      こちら面白そうですね。
      残念ながら「麒麟が来る」は観ていませんが、明智光秀と信長は知られていないこと(謎)が...
      abba-rainbowさん

      こちら面白そうですね。
      残念ながら「麒麟が来る」は観ていませんが、明智光秀と信長は知られていないこと(謎)が多いので逆に、歴史学者たちも我々も永遠に楽しめますね。

      「樹木たちの知られざる生活」に恐れ多いコメントをいただきまして有難うございます。
      そうですよね。わかります!なかなか思うように読書時間を確保できませんよね…。
      悩ましい限りです。
      abba-rainbowさんのレビューは難しい本でも、わかりやすく(理解力が深いんですね)、また言葉の深さによく感銘をうけております。
      読まれている本で、こんな本があるんだ!と興味を持ったことも多々ございます。
      また厚かましいながら、少し読む本が似ているところもあり、大変参考にさせていただいております。
      これからもabba-rainbowさんのレビューを楽しみにしております。
      今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
      2020/11/16
  • 著者は、本能寺の変について朝廷による陰謀説を採っている。即ち、「本能寺の変は朝廷と室町幕府の復権を果たそうとする勢力が光秀を動かして起こしたもので、その黒幕は時の太政大臣近衛前久だと」。

    また、信長に要求を拒否されたキリシタン勢力(スペインの植民地戦略のため暗躍してきた宣教師たち)も、キリシタン大名たちを動かして朝廷の反信長計画に加担させたのだという。そしてこの計画に重要な役割を果たしたのが、黒田官兵衛と細川藤孝だと。

    更には、「事前に本能寺の変が起こることを知っていなければ、中国大返しなどという奇跡を演じることはできなかったろうし、前久らの秘密を握っていたからこそ、変の後に朝廷を脅しつけていいように利用できた」として、秀吉も信長暗殺計画を知っていて、途中まで計画に加担するふりをして土壇場でその裏をかいたのではないかと。そして、哀れ光秀は、一人責任を取らされる形で前久から切り捨てられたのではないかと。

    (若干腑に落ちないところもあるが)ストーリー的には一応辻褄は合っている。ただ、充分な裏付けはなく、断片情報を著者の想像力(推理力?)で膨らませたもののようだ。まあ、史料第一の歴史学者の説が正しいとも言えないから(というか本当のところは分かりっこないから)、朝廷陰謀説もありなんだろうな。

    本書の後半は、戦国時代~江戸時代初期にかけてのキリシタンの歴史を綴ったエッセーになっている。

  • 分かりやすい。

  • 信長が天下統一目前で、本能寺に散った理由を公家の近衛前久やキリスト教の観点から分析。

    信長という存在が当時の誰よりも進んだ存在だったからこそ、不安視されていたんだなと感じました。キリスト教を通じてヨーロッパから莫大な利益を得られる一方で、神の前では平等とする理念のために距離を取らざる得なかったこと。豊臣と江戸時代には70万人に及ぶキリスト教徒の危険性のために布教を中止したこと。キリスト教が如何に日本の歴史に影響を及ぼしてきたかがよくわかりました。

  • 話題になり、人からもおすすめされたので手に取りました。

    本能寺の変の謎を解く、といった作品は、おそらくこれまで多数あったと思いますが、国内の政治状況に加え、大航海時代という世界の歴史の中でとらえたこの作品は、かなり興味をそそる一冊となりました。
    その観点からとらえ、その後の秀吉の天下統一、朝鮮出兵、関ケ原の戦い、大坂の陣まで長期を対象としているため、従来の歴史で習ったことの裏付けのなるかもしれない、という視点で読むとかなり面白い。
    歴史は、その時代にとって不都合な部分は見えないようにするということがあるものですが、著者が指摘した、江戸史観4つの誤り(鎖国史観、身分差別史観、農本主義史観、儒教史観)があることを踏まえて、この当時の歴史を見ると、違う発見があるかもしれない。そんな歴史の面白さ、わくわく感を思い起こさせてくれる内容でした。


    <目次>
    第1章 消えた信長の骨(秀吉は信長を見殺しにしたのか
    富士山麓に埋められた信長の首 ほか)
    第2章 信長の真の敵は誰か?(正親町天皇の勅命が、織田信長を滅亡の危機から救った
    織田信長の覇業を陰から支えた元関白 ほか)
    第3章 大航海時代から本能寺の変を考える(隠された信長
    キリスト教禁教、イエズス会との断交)
    第4章 戦国大名とキリシタン(黒田官兵衛の実力とは
    加藤清正の経済力 ほか)
    おわりに 「リスボンへの旅」

  • 桶狭間の戦い・本能寺の変・関ヶ原の戦いは、私にとってずっと追いかけていきたい歴史上の興味ある事件です。どの事件も、最終的な勝者の検閲(意見)が反映されたと思われる歴史書による解説は多くなされていますが、本当のところはどうたったのか、を同じ人間として興味を持っています。

    最近の研究によれば、勇ましい武士の姿とは別に、それを聞いて私も少し安心できるような「本当かもしれなかった姿」が明らかにされてきているように思います。今回のテーマの、本能寺の変、では信長の生きた時代、日本だけでなく世界(特に、ポルトガルとスペイン)がどのように動いていたかを把握したうえで、信長暗殺にどのように絡んでいたのかという考え方が示されています。

    従来言われてきた、明智光秀の単なる怨恨説はあまりにも単純であるような気がします。原因の一つとしてそれがあったかもしれませんが、この本で示されている様に、日本史の事件を、世界史の中の出来事としてとらえる見方は、今後、世界史を掘り下げていきたいと思っている私にとっては、絶好の指南書となったと思います。

    以下は気になったポイントです。

    ・イエズス会とスペインを敵に回したために、信長政権はとたんに不安定化した、キリシタン大名(高山右近、中川清秀、黒田官兵衛)や南蛮貿易で巨万の富を得ていた豪商たちが、信長を見限り始めたから(p17)

    ・キリシタン大名は、イエズス会と協力し、信長が光秀に打たれた直後に決起、光秀を討つことで羽柴秀吉に天下を取らせる計略を立てた、秀吉の中国大返しは、こうして実現した(p19)

    ・江戸時代の史観によって戦国時代史を語っているために、本当のことがわからなくなっている、その中核を成しているのは、鎖国史観・士農工商の身分差別史観・農本主義史観・儒教史観である(p20)

    ・二条御所で信忠が討死したのを聞いた、清玉上人は、光秀に申し出て信忠と家臣たちの遺体を引き取った、清玉上人は正親町天皇の勅願僧に任ぜられたほどの高僧なので、光秀も無下に断れなかった、また清玉上人は信長の遺骨を引き取り、本能寺から逃れる僧たちにまぎれて脱出した(p29)

    ・信長は三好三人衆を討つべく、将軍義昭を総大将とした負けるはずのない戦であったが、9月12日に突然、石山本願寺が反旗を翻して、一向一揆の軍勢が信長軍に襲い掛かった、このとき浅井・朝倉三万も南近江へ乱入して、宇佐山城を守る織田信治・森可成を血祭りにあげた(p82)

    ・比叡山延暦寺までも半信長となり、絶体絶命のピンチにたった信長は、正親町天皇の勅命により、浅井朝倉、比叡山に和睦を承諾させた、この9か月後には、比叡山を焼き討ちにした、勅命・聖書も反故にした(p84)


    ・朝廷を支配下におくためには、猶子としていた五の宮を皇位につける方法があった、そうすれば信長は名目的には天皇の父となり、太上天皇となって院政を行うことができる。こうした地位に挑戦しようとしたのが日本国王と称した足利義満である、義満は37歳で将軍位を嫡男義持にゆずり、次男義嗣を親王に準じて内裏で元服させて、やがては皇位につけようとしたが、急死した(p100)

    ・武田討伐事には、信忠を大将とする5万の軍勢(伊奈口)、徳川家康3万(駿河)、北条氏政3万(関東から甲斐・信濃)、信長本隊は7万の、総兵力は18万余(p105)

    ・戦国大名にとってもっとも重要なことは、劉通路を押さえることであった、川・海の港を押さえ、関銭(関税)や津料(港湾利用税)を徴収した、この収入はコメの売買から上がる収益よりもはるかに大きい(p119)

    ・普通は、先にお茶、次にお菓子と思うが、お茶の作法を、ミサの作法にならったとすれば納得がいく(p124)

    ・信長はイエズス会の仲介によってポルトガルと親交を結び、南蛮貿易によって硝石や鉛などの軍事物質を得ていたが、ポルトガルがスペインに併合されたために、スペインと親交を結ばなければ南蛮貿易を円滑に続けられない状況に陥っていた、スペインの要求は、1)民国征服の軍勢を出すこと、2)イギリス・オランダと絶交すること、であった、これを拒否して、イエズス会と絶交し、キリスト教を禁じた(p134、140)」

    ・秀吉が明国征服を明言した天正14年(1588)には、スペインと同盟すれば勝てる見込みがあったが、その時には前提が崩れ去っていた、イギリスとドーバー海峡で戦い、無敵艦隊の3分の2を失っていたから(p147)

    ・一般には足利幕府は義昭が都を追われた元亀4年(1573)に滅亡とされているが、最近では彼が出家した天正16年(1588)で終焉とする説が主流となった、鞆の浦を拠点とすることで、瀬戸内海の流通経路を押さえ、西日本の経済掌握により、大名達を味方に引き入れることもできた(p186)

    ・戦国時代に来日したイエズス会の宣教師達は、一向宗(浄土真宗)の教義があまりにもカトリックの教えに似ていることに驚いた、そして一向宗を潰さなければ、この国で布教を成功させることはできないと思った、なので信長を支援して一向宗の弾圧をおこなわせたという説がある(p204)

    ・戦国時代にキリスト教があれほど多くの信者を獲得し、江戸幕府の弾圧にも屈することなく命脈を保ったのは、キリスト教的な信仰が「景教」という形で日本に深く浸透してからかもしれない(p204)

    2018年8月15日作成

  • 私も、この新書を読んで涙が止まらなかった。

  • 戦国時代の作品を多数書いている著者の歴史ものエッセイ。信長がなぜ本能寺の変で殺されたのか、背後にどのような真相が隠されているのか、という点を様々な資料を基に論じていく。キリシタン大名が暗躍していた等既存の歴史観では語られていなかった話が多く紹介され、非常に興味深かった。

  • 私には難しかった。
    歴史が好きな方は面白いんだと思う。
    歴史について無知なのを痛感した。
    しかし日本の歴史、当時の政治とキリシタンの関係性については面白く感じた。

  • まあまあかなぁ

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著者プロフィール

作家。1955年福岡県生まれ。久留米工業高等専門学校卒。東京の図書館司書を経て本格的な執筆活動に入る。1990年、『血の日本史』(新潮社)で単行本デビュー。『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『下天を謀る』(いずれも新潮社)、『信長燃ゆ』(日本経済新聞社)、『レオン氏郷』(PHP研究所)、『おんなの城』(文藝春秋)等、歴史小説の大作を次々に発表。2015年から徳川家康の一代記となる長編『家康』を連載開始。2005年に『天馬、翔ける』(新潮社)で中山義秀文学賞、2013年に『等伯』(日本経済新聞社)で直木賞を受賞。

「2023年 『司馬遼太郎『覇王の家』 2023年8月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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