人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ

著者 :
制作 : 小口 忠彦 
  • 産能大出版部
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  • Amazon.co.jp ・本 (551ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784382049246

感想・レビュー・書評

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  • マネジメントにおける、モチベーション理論の自己実現モデルで、最も著名で、しかも大きな影響を及ぼすことになったのが、マズロー(A.Maslow [1943])の欲求段階説である。

     マズローは、心理学者としての臨床経験から、人間の欲求を次のような5段階に分け、動機付け理論の完成には不可欠のものとしている 。

    動機付け理論の出発点として通常考えられている欲求は「生理的欲求」である。いわゆる食欲や睡眠欲など、あらゆる欲求の中で最も優勢のものである。生理的欲求が比較的満たされると、次いで「安全の欲求(安定の欲求)」が出現する。
    これは安全、安定、依存、保護、恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・法・制限を求める欲求も範疇に入れることが出来る。安全欲求についてさらに理解するためには、幼児や児童を観察するのがよいと思われる。子供では安全欲求がよりはっきりした形で現れるからである。なぜならば幼児はこの反応をまったく制御できないからである。

    生理的欲求と安全の欲求が満たされると、「社会的欲求(愛と愛情そして所属の欲求)」が現れる。これは、親密さ、接触、所属などを求め、疎外感、孤独感、違和感などを克服したいという欲求である。
    社会的欲求が満たされると「承認の欲求(尊厳の欲求)」が現れる。これは、すべての人々が、安定したしっかりした根拠を持つ事故に対する高い評価、自己尊厳、あるいは自尊心、他者からの承認などに対する欲求・願望のことである。承認の欲求を充足することは、自信、有用性、強さ、能力、適切さなどの感情や、世の中で役に立ち必要とされるなどの感情をもたらす。これらの欲求が妨害されると、劣等感、弱さ、無力感などの感情が生じる。

    これらの欲求がすべて満たされたとしても、人は、自分に適していることをしない限り、すぐに新しい不満が生じ、落ち着かなくなってくる。この欲求を「自己実現の欲求」という。この段階では、自己の持っている潜在的可能性を最大限に伸ばし、実現しようという欲求で、この自己実現の欲求の段階では、最も個人差が大きく現れる。
    マズローはさらに、最も高い段階にある自己実現欲求だけは、それが満たされても、さらにより深く知りたい、より成長したいといったように欲求がどんどん強くなっていき、自己実現の欲求は、自分の成長の可能性に応じて変化していくものとしている。

    上記にも述べたように、これらの欲求は低次から高次への階層をなしており、低次欲求が満たされてはじめてより高次の欲求が顕在化してくると仮定している。
    ただし、実際には、社会のほとんどの人はそれぞれの欲求について部分的に満足し、また同時に不満も持っており、満足度は優勢度のヒエラルキーを上昇するにつれて減少すると言える。
    また、マズローはこの欲求段階理論を一般的なものとし、どんなケースにも当てはまるとは考えていなかった。

    マズローの理論は近年における経営学に甚大なる影響を与えており、後述するマクレガー[D.McGregor]をはじめとする著名な経営学者の理論的背景を担っている。

    マクレガーは、マズローの欲求段階説に基づいて、人間の高次欲求に着目し、X理論に対するY理論を提示した。X理論は、大多数の人間が管理されることを好み、責任を負うことを好まず、何よりも安全・安定を望むものだと仮定する。
    したがって、人は金銭以外の形の手当て、及び罰への恐れによって行動を義務付けられるものだということになる。この理論は、経営学では「統制による管理」と呼ばれている。
    X理論の前提となる人間性に関する想定は、①仕事は元来大多数の人間にとって嫌なものである、②大多数の人は仕事に抱負もなければ、自ら責任を取ろうともしない、③大多数の人は組織上の問題点を解決するだけの想像力がない、④生理的欲求、安全欲求のレベルでのみ、人は動機付けられる、⑤大多数の人には厳格に統制し、時には組織目標の達成を強制する必要がある、としている 。

    マクレガーはX理論を述べた後で、果たしてこのような人間観が正しいかと問いかけている。教育及び生活レベルが向上した民主社会では、人間はもっと自立的に行動できるのではないかと考え、マクレガーはマズローの欲求段階説を引用して、生理的欲求、安定の欲求をかなり満たされ、社会的欲求、尊厳の欲求、自己実現の欲求が芽生えてきている今日の人々を動機付けるには、「統制による管理」では疑問であり、Y理論と呼ばれるもうひとつの理論を提唱した 。
    それは、①仕事は条件次第で遊びと同じく、自然なものになる、②自治もしくは自立が、組織目標の達成には不可欠である、③組織問題解決に必要な想像力を多くの人が持っている、④人は生理的欲求、安全欲求レベルだけでなく、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現の欲求レベルでも動機付けられる、⑤人は正しく動機付けられれば、仕事の上でも自立的であり創造的である、と仮定するものである 。
    この理論を「統合の管理」と呼び、これに基づいた管理方法としてマクレガーは「目標による管理」を提案した。

    以上述べてきたマズローの欲求段階説と、マクレガーのX-Y理論を、実際のマネジメントの現場における妥当性について、経営者(管理者)と従業員という関係の中で、どう機能しているのかを検討してみたい。
    マズローのいう段階説のもとでは、種々の階層の欲求を内在している多くの人間が、職場という同一の場所で共同作業、あるいは、自分より上位の職務にある管理者の指揮命令を受けながら作業を行なっているのであるから、考え方の相違による協調性の乱れ、反目、感情のもつれ、管理監督者との価値観の違いなどが生ずることは当然である。しかし、職場でこれを背景要因を放置したまま作業を行なわせることは、生産性の低下、作業意欲の沈滞、作業手順の乱れを招くほか、不完全な行動が発現する可能性が高い。

    そのマズローの段階説をもとにしたマクレガーのY理論は、今日、企業において最も有効な管理手法の一つに挙げられているが、P.F.ドラッカー[P.F.Drucker]は、著書の中でY理論の弱点を指摘している。

    ドラッカーによれば、統合による管理を仮説とするY理論は「寛大」ではないとし、Y理論は労働者に責任を持たせ、達成を目指させることによって、労働者と労働を管理することになり、そのことは、労働者と経営者にとって大きな要求をすることになるという。つまり、Y理論は制約からの解放ではなく、むしろ、厳格な課題割当人(task master)で、それにとって変わられたX理論よりも多くの面で厳格である、と述べている。  
    また、マクレガーはこのことを知っていて指摘しなかったとも述べている。

    現実の経営の場面ではどうであろうか。X理論とY理論のどちらが正しいかという議論は科学的に証明をするのが困難であろう。
    なぜならば、職場における事例や、対象となる従業員の性質によって異なるからである。ある人は「統制された管理」を好み、自立的な労働を好まない一方で、また、ある人は、金銭が最も大きな価値基準である場合も少なくない 。 また、同一組織・人物であっても、状況に応じて統制による管理が有効な場合もあれば 、目標による管理(統合管理)が有効である場合も非常に多い。

    X理論における統制の管理を、人間性の否定とみなすのではなく、Y理論とともに状況の変化に応じて使い分ける必要がある。
    マクレガーの時代の伝統的な「鞭」(飢えによる恐怖や、解雇による失業など)だけでは、経営者は、もはや物質的に豊かになった人間を動かすことができず、また、「飴」(責任と自己規律)だけでも動かすのは困難である。
    これまでの、実際の作業現場においては、従来のX理論による大量生産方式(少品種大量生産)が有効に機能していたかもしれないが、近年多く見られるようになってきた多品種少量生産のタイプや、ITをはじめとする比較的新しい産業においては、Y理論のほうが、むしろ創造的な発想をしやすいのではないだろうか。

    また、マクレガーのX-Y理論のほかに、何かよい管理方法があるのだろうか。現実にはY理論における管理が現在では主流となっているが、もはや「鞭」「飴」だけでは困難になっている以上、経営者は従業員に対して、高い労働意欲を持たせ続けることが必要な条件である。そして、経営者と従業員が共通の課題を達成するためには、経営者(管理者)がそれぞれの状況に対応した、心理学的な洞察力、援助、相談をもとに状況に応じた管理をすることが、現在とり得る最も有効な方法となるのではないだろうか。その方法は、上司と部下の関係性を破壊することなく、職務上の権限を持って好意的に課題達成に向けて取り組んでいくことが何よりも必要になり、それが経営者にとって、最も困難かつ必要な職務の一つになってくる

  • 10代のときは、これが僕のバイブルだった。
    自己実現的な人間になりたくて、何度も何度も読みふけり、その度に絶望したり、希望を見出したりした。
    今では、人間の成長過程というものは、もっと複雑で抽象的なのではないか、と考えるようになった。
    考えるようになったが、逆説的に、この本の本当の素晴らしさも見えてきた。いつだって人は、自分以外の何者かへと変化し続けるものなのだ。

  • これほど心から感動した心理学の本は今までに読んだことがなかった。

  • 半分くらいまで読んでかなり間が空いちゃってまた始めから読み直す羽目に。長かったー。

    世の中の多くの人は正常=理想的健康じゃないんだって。ならそういう人を見て人間の本質を語るのは誤りかも。

    人間には動物的意味での完全な本能はなくて、非常に弱い本能の遺物があるだけ。これは邪悪なものではなく望ましい健康なもので、また非常に弱く、文化や学習によって簡単に破壊されてしまう。だから教育・文明・宗教・法律・政治などは本能を制止、沈静するものではなく、安全・愛・自尊心・自己実現を求める本能的欲求の表出と満足を擁護し、育成し、奨励するものでなきゃいけない。特に生後2~3年の間の欲求満足度は成人の性格特性への影響大。その時期に基本的欲求が満たされていた人は強い健康な性格構造を持ち、欲求が妨げられることがあってもよく耐える力を持つようになる。これは「慣れ」と矛盾するようだけどそうじゃなくて、両者は共に平行して作用しているらしい。そのバランスはよくわからん。あと正しく基本的欲求を満たすことと過保護や全般的容認の違いにも深く言及していない。心理学の領域だけで説明するのは難しいのかも。

    基本的欲求が満足されても、自分に適したことをしていない限り不満が生じ、そこから自己実現の欲求(その人が潜在的に持っているものを実現しようとする傾向)が生じる。この欲求まで含め全て本能的で、人間の普遍的な傾向と言える。
    多くの人にとって有意義な人生の定義は「本質的に欠乏しているものがありそれを求めて努力すること」だけど、自己実現してる人は基本的欲求全てを既に充足していても生活をより豊かに有意義にしようとする。既に有機体の内部にあるもの、有機体それ自体であるところのものの本質的な成長。動機づけられたものでなく(或いは欠乏に動機付けられたものではなく成長に動機づけられたものであるとも言える)、努力して得るものでもなく、純粋に表出的。何かに向かって努力することが結果として努力しないことにつながるんだって。ひえー。

    基本的欲求は他者によってのみもたらされるもので、この満足を欠いている人は他者に対して依存的で、自律性や自己決定が少ない。一方自己実現者は環境から独立しているから強い。欲求不満や剥奪に直面しても比較的安定していられる。自己実現者の特徴は他にもハンパない集中力とか自立的な倫理基準とか全人類に対する同情・愛情・憐れみとかいろいろあるけど、おもしろいのは
     社会的に最も同一化していると同時に最も個性的であり、
     最も成熟していると同時に最も子供っぽく、
     最も倫理的で道徳的であると同時に最も欲望に満ち最も動物的である。
    なんて感じで、普通は対比される性格が同居していること(自己愛と他者に対する愛は共働する!)。何かもういろいろ極めてますね。
    ほんとは対立しないんだよー、っていう誤った二分法に対する指摘がこの本にはいっぱい出てくる。その大本は本能的欲求を善と認めるところか。
    健康な人には理性-本能の対立は当てはまらない。健康な理性と健康な本能的衝動は同じ方向を指している。

    50年以上前のだから今では疑問視されてる部分もあるかもしれんし、例外も結構認められてたし、納得いかないとこもあった(芸術家を持ち上げすぎなとことか)けど時間かけて読んで損したとは思わない。とりあえず今は経験値上げます。

  • ヘビー級且つ難解な本で、読んでいて本当に疲れます。あなたが心理学を志していない限り、読むべきではありません。ただし、いろいろな本に参照されているだけあって内容は奥深い。特に本題の前に、「問題解決型アプローチ」対「手法中心アプローチ」の対比により、それまでの心理学が測定しやすい(定量化可能)手法にのみ偏っていたため誤った結果を導き出したことを痛烈に批判しているのは、実に爽快。定量化手法にこだわっている馬鹿どもに読ませてやりたい。といっても、きっとこの手の輩はくだらない指標を他人に押し付けることを自己実現欲求(この意味は、この本を読めば分かります)と同化しているだろうから、読んでも無駄な気もするが。

  •  7割近く読み終えた。人間の欲求の構造、人間の目指すべきあり方、その実現方法等について書かれている。個人的に面白いと感じたのは、第4章、第11章、第12章、第15章だ。本書は全体的に、文章や言い回しが難しくて読みにくい部分が多いが、これらの章は比較的読み易かった。
     マズローについては欲求5段階があまりに有名だが、彼にとってそれは自らの理論を証明するための手段でしかなかったようだ。彼が本文で繰り返し強調したのは、自己実現状態が完全なる(精神的に最も健康な)人間の姿であるということだ。本書の主な内容は、自己実現者の特徴はいかなるものか、どうすればその状態に到達できるのかということである。それに関連して精神病患者(自己実現者とは相反する者)の特徴と、彼らを治療するのに必要な要素が述べられている。
     マズローが主張する私たちの目指すべき自己実現状態というのは、ざっくりと言えば、無邪気で、何の偏見も持たずに物事をありのまま捉えられることができ、そして創造的であるということだ。これは誰しもが幼少期にはそうであったはずである。
     確かに、マズローが本文において嘆いているように、本書の研究は科学的に望ましい方法で行われたものではない。しかし、彼の説明には非常に説得力があり、ほとんどの事項は現代においても役立つだろう。
     欲求5段階以外の内容が現代社会においてあまり知られていない(ように感じられる)ことは、非常に勿体無いことだと思う。アドラー心理学の流行や近年の傾聴ブームのように、彼の思想が一般社会に広く普及していくことを願う。
    私は授業の一環としてたまたま本書を手に取った。こんなに素晴らしい心理学者と出会えた事を幸せに思う。

  • 141

  • 人間の見方が変わります。※別にあやしい本ではありません。

    *図書館の所蔵状況はこちらから確認できます*
    http://opac.lib.kitami-it.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB50074795&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  • 名著だが。大変ぼりゅーミー。全部は読むことはおそらくないだろう。

  • <図書館で借りた>

    「型付け」のところが丁寧に説明されており、いろいろ考えてしまった。

    ▼ 解釈したこと

    習慣化や構造化は、習得した知識や技能を扱うことを可能にするし、効率よくエネルギーを使うために必要。人間はそうした「型にはまった」ものを優先的に知覚するから。しかしそれは同時に創造性や発明力のための「思考」を妨げ、成長によって動機づけられる人々にとっては致命傷となる。

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