暗闇の中で―マーリオン・ザームエルの短い生涯1931‐1943

  • 三修社
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  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784384040739

作品紹介・あらすじ

ドイツの著名なホロコースト研究家ゲッツ・アリーが、自身の受賞した「マーリオン・ザームエル賞」の名前の由来となる、ひとりの無名なユダヤ人少女が辿った運命の調査を開始した。ナチ体制についての豊富な知識と資料に基づき、彼女とその家族のことを少しずつ明らかにしていく。ユダヤ人迫害・虐殺のシステムを、抽象的なものとしてでなく、ひとりひとりの具体的な生と死として考えさせる一冊。

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  • ユダヤ人迫害は所有欲と官僚的正確さとが結びついていたため、移送されたドイツ・ユダヤ人はみな、徴集収容所で財産を申告しなければならなかった。ベルリンのユダヤ人については、これを記録した財産没収書類が残されている。書類には賃貸住居の封印から始まり、いかに少額であれ未回収金の徴収、上級裁判所執行官による全財産の評価、決算にいたるまで書き込まれていた。残った金額はドイツ帝国の国庫に払い込まれた。つまり多数派であるドイツ人の利益のために公共の物とされたのである 。例えば、家具、食器、シーツや布団カバー、タオル、衣類は特別に認可された古物商の手に渡った。そうした古物商では、空襲で焼き出されたベルリンの住民たちがクーポンを使って新たに家具を揃えることができた。ナチス民族福祉隊もアウシュビッツに移送された者たちが残していったもので自ら在庫を満たし、困窮したドイツ人同胞、年金生活者、生活保護受給者への物質供給の水準を高めた。財務省の職員は地方行政当局に「品々、特に繊維製品と家具調度が、確実にしかるべき手に渡るように」、ユダヤ人の家財道具を買い占めるよう示唆した。そのしかるべき手とされたのは、とりわけ「空襲の被災に遭った者、若い夫婦、戦死者の遺族など」だった。移送されたユダヤ人の所有していた家財道具が十分に整ったブルジョアらしいものである場合には、その売買に骨董商人や古本屋も参加した。こうしてドイツ国家は収入を増やし、同時に政治指導者は戦争のためにもはやほとんど作られなくなっていた商品を市場に出すことができた。戦争が長引くにつ入れて、ますます不愉快な形で目につくようになり、潜在的な不満を引き起こしていた物不足を、こうして部分的に解消することができたのだ。それどころか、西ヨーロッパのユダヤ人の何十万もの家具調度が、空襲で焼き出された家庭のために組織的にドイツに輸送されることまで行われた 。

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